第7話 射精

 前回と同じように、俺の別荘で飯を食いながら雑談する。違うのは、この日は金曜の夜だという事と、トモの服装が、身体のラインを見せるシャツに、ミニスカという、扇動的なものだという事。

 俺は極力意識しないようにしながら、会話に臨んだ。トモも特段前回と変わった様子はない。この日も楽しく会話が出来た。どうも、俺とトモはウマが合うようだ。

 宴の後、俺は後片付けをするために、皿を流しへ運んだ。

 そこに、トモが背後から抱きついてきた。

「こないだのブログを見るまで、私に興味が無かったのかと思っていました」

「そんな事はないさ。トモちゃんは優しくて可愛い子だよ」

 トモは少し間を置いて、言う。

「セックス、して下さい」

「またそんな事を言う」

 皿を置いて振り向く。俺は一瞬、硬直した。

 トモの、思いつめたような、深刻な表情に。

 俺が何か言う前に、トモは今度は正面から俺に抱きついてきた。そして、キスをしようと背伸びしてくる。が、まだ中学生のトモの身長では届かない。

 俺は少しかがんで、トモと唇を重ねた。

 唇を離した後も、トモは抱きついたまま腰を擦り付けてくる。俺は勃起していて、トモの下腹部を圧迫していた。その欲情を全て受け入れると言わんばかりのトモの態度だった。

 俺は心を落ち着かせ、

「何で、セックスしたいんだ?」

「帰りたくないから……

 お金とかは要りませんから、今日はここに泊めて下さい」

 そうか。プチ家出という奴か。

「そんな事、遠慮せずにいつでも泊まっていけばいい。見返りは要らない。

 もう、トモちゃんとは友達だろ? 友達に見返りなんて要求しないさ」

「でも、タクさん、私の身体に興味あるんでしょ?」

「無いとは言わないよ。でも、それより優先する感情がある。友達の友情を壊してまで、そんな事はしたくないさ」

 トモの身体から力が抜けた。

「タクさんは、本当に……変わった人ですね」

 そう言って、トモは肩を震わせた。

 俺はトモが落ち着くまで、そっと彼女を抱きしめていた。


 夜は更けていたが、俺とトモは遅くまで語り合った。

 トモは言った。

 同級生に友人と呼べるものはいない。むしろ虐められている。頼れる者は皆無。母親の職業から『売春婦』と呼ばれている。実際、似たような事をやっているので何も言えない。

 家出した時に会った男共には二度と頼りたくない。優しいのは初回だけ。奴らは弱みに付け込んで、つけ上がる。暴力を振るう奴もいたし、監禁されそうになった事もある。逆に、「可哀想、可哀想」と哀れんだ振りをして、チ〇ポ突っ込んできた奴もいた。本当に気持ち悪かった。

 吐き捨てるように言うトモに、俺は口を挟んだ。

「その最後の奴と、俺とどう違う? 俺も似たようなものじゃないか」

 トモは首を横に振った。

「全然違います。タクさんは私を人として扱ってくれました。友達だって言ってくれた。

 奴らは、まず私を見下すんです。私をまともな人間じゃないと設定して、哀れみの感情に浸っているんです。

 そのくせ、汚い欲望は必ず吐き出してきて、しっかり私を汚すんです」

 トモは少し涙目になった。続けて、

「お金が欲しい訳じゃないんです。お金なら、ご飯代を少しずつ貯めたものがあるし、別にそんなに欲しい物もない。

 ただ、家に居るのが辛いだけ。そんなに、逃げようとするのが駄目なのかなあ……」

 ああ、そうか。

トモは居場所が欲しいだけなんだ。ただ、穏やかな、心安らげる場所があればそれでいいんだ。この子は決して『売春婦』なんかじゃない。

「一応聞くが、学校の先生や警察に相談する気はないのかい?」

「そんな事をしたら、本当マジで母親に殺されるから」

トモは即座に答える。

嘘だ。

俺は瞬時に見破った。この子は、母親を庇っている。

「なら、好きな時に好きなだけ、ここに避難すればいい」

そう、俺は返答した。

「はい。

タクさんは、初めてメールした時、『エッチな事をしたくなるのは、“業”のようなものだ』って言いましたよね。私、その言葉に救われたんです。私が売りをしたら、奴らが私を犯すのは、仕方のない事なんだなあって。

 タクさんのブログを観た時、エッチなのは他の人と同じだと思った。でも、その事とちゃんと向き合っているって思った。だから、会ってみたいと思ったんです。

 少なくとも、傷つけるだけの事はしないだろうって」

「俺は何も分かっちゃいないよ。今も昔も、いつだってそうさ」

「そういう所が、好きなんです」

 ドキリとした。

 トモの『好き』という言葉に。

 狼狽して二の句が継げない俺に、トモは言った。

「私、もう汚れていますから、気を使わなくていいですよ。タクさんなら、私嫌じゃないし、きっとタクさんの優しい所は変わらないと思いますから」

「友達を傷つける奴もいないだろ」

 そう言って、俺はトモの頭を軽く叩いた。

「あーっ、子供扱いしないでくださいよ。

野本朋子。私の名前です。タクさんの名前を教えて下さい」

「俺は紀本卓郎。でも、どうして?」

「ハンドルネームしか知らない友達も、どうかと思いますから」

 そう答えて、朋子はにっこりと笑った。


    *


 翌日、朋子は漫画が好きだというので、デパートで食材を買うついでに書店に寄った。土曜日も一日中朋子と一緒にいた。

 長い時間一緒にいる訳だから、会話も途切れる事もある。そんな時、朋子は漫画を読み耽っていた。

 朋子はあまり外に出たがらない。「知っている人に会ったら嫌だから」と言う。

 これは、俺のようなオッサンと居るのが恥ずかしいという意味ではなく、虐めてきた同級生や、身体を売った男と顔を合わせたくないという事だ。

 朋子は今夜も泊めて欲しいと言ってきた。もちろん了承した。

 朋子は夜になると、「セックス、しませんか?」と、訪ねてきた。

 ただで好意を受けるのが嫌なのだろうか。だが、朋子の境遇を知ってしまった以上、手を出せる訳がない。

 だから、こう返す。

「朋子……中学生でしょ? まずいよそれは」

「ハタチなんですけど!

 ふくしの……大学?に通ってるんですけど!」

「それ、さっき読んでいた漫画の台詞じゃないか」

「卓郎さんもノリノリじゃないですか」

 そうやって、冗談で済ましたのだが、その晩、朋子は俺の布団の中に侵入してきた。

 朋子は無言で俺の性器を触り始めた。瞬間的に俺は勃起する。

 朋子はその棒を、スリスリと愛おしそうに擦ってきた。

 俺も、朋子の股間に手を伸ばした。

 そこはしっとり汗ばんでいた。

 しばらくすると、朋子は興奮した様子で服を脱ぎ始めた。俺もそうする。

 全裸になった俺たちは、再びペッティングを再開した。

 淡い繁みを掻き分け、割れ目に指を入れると、狭い穴の壁はきゅうっと俺の指を締め付けてきた。

 瞬間、俺の興奮は最高潮に達し、勃起している性器は、もっと膨張しようと身を震わせる。

 朋子は息を荒げながら、擦る手をさらに忙しく動かしてきた。

 やがて、熱いモノが込み上げてくると、俺は朋子の手を取って、自分でしごき始めた。

 数回で頂に登り詰めた俺は、朋子の手の平に思い切り射精した。

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