第5話 トモ

 トモとは、土曜日の朝九時に、○○町の中心街で待ち合わせする事になった。

 場所は俺が、待ち合わせ時間はトモが決めた。

 トモに時間を決めさせたのは、家族の目があり、いつでも自由に外出できる訳じゃないだろうと推測したからだ。

「だが、朝の九時っていうのも、やけに早いな」

 ビル前の噴水付近に突っ立っている俺は、ふと周囲を見回した。

 繁華街の中心部であるここで待ち合わせする者は多い。しかし、さすがにこの時間は人の姿もまばらだった。

 その時、不意に携帯が鳴った。

 トモからだった。もうビル前まで来ているという。

 ぐるりと見渡すと、携帯を耳に当てている少女がいた。

 俺が何か言う前に、トモからの通話が切れた。代わりに、視線の先の少女が小走りで俺に近づいてきた。

「タクさん(俺のハンドル)ですね?」

 少女はそう言って、俺を正面から見据えた。

「ああ。君はトモちゃんだね?」

「はい」

 トモはプリント柄の入ったTシャツに短パン、白いハイソックス、スニーカーといった、地味な服装だった。ボブカットの髪は黒髪だが、色素が薄いのか、光の加減で茶色く見える事もある。あどけない顔はスッピンで、一切化粧っ気が無い。それもそのはず。年齢を聞くと、トモは十五歳、中学三年生だと答えた。

 痩せ型なのか、細い身体をしている。しかし、バストは女性らしく育ってきているし、尻も丸く張っている。脚はスラリと細く、艶めかしい。

「行こうか」

 そう促して、俺はトモと歩き出した。

 トモは整った顔立ちで、なかなかの美少女だが、若干陰気な所があった。基本受け答えはハキハキとしているし、よく笑う可愛らしい子なのだが、会話が途切れた時、ふと暗い表情を見せる。切れ長の細い目で俯いているのを見ると、どこか厭世観すら漂っていた。

 変わった子だな。

 これが、俺がトモに持った第一印象だった。


 繁華街を外れ、裏路地の細い道に入る。

 俺は、この近くにセカンドハウスを持っていた。独り者になると、金は貯まっていく一方なので、投資用にワンルームマンションを購入した。

 だが、入居者は付かず、ただ管理費を払うのも馬鹿らしくなったので、自分で使用する事にした。主に街で一杯やった後、泊まっていくのに使っている。

 そこへ、トモを連れ込んだ。

 トモは部屋へ入ると、不思議そうな顔で中を見渡した。それはそうだろう。テレビや冷蔵庫など、一通り揃っているものの、まったく生活感の無い部屋なのだから。

「ここは俺の別荘なんだよ」

「そうなんですか! タクさんはお金持ちなんですね」

 トモは目を丸くした。

「そんな事もないけれどね。

 お茶かオレンジジュースか、アイスコーヒーがあるが」

「じゃあ、お茶を下さい」

 俺はお茶の入ったグラスをテーブルに置くと、トモと向かい合って座った。

 トモはくすくすと笑って、

「色んな飲み物が揃っているんですね」

「ああ、トモちゃんと会うって決まってから揃えたんだ。

 この近くにはデパートがあって、暮らすにも便利な環境なんだぜ」

「へえー」

「一応言っておくが、こうして部屋に連れ込んだけど、変な気持ちは持っていないから安心してくれ。外だと、他人の目が気になってね」

「はい、安心します」

 言って、トモは笑顔を見せた。

 よく笑う子だ。こうして見ると普通の子だ。何でこんな子が、俺の運営する下品なブログの読者なのだろうか。何で俺とオフ会をする気になったのだろうか。

 それはさておき、俺は葛藤していた。

 俺はさっき、『安心してくれ』と言ったものの、はっきり言って興奮している。目の前にいる少女の気、質感、声、匂い、挙動。俺は今、五感全てで少女を感じており、その俺の心を扇動する事、童貞だったガキに戻ったようである。

 トモと、セックスしたい。

 このときめきと肉欲の入り混じった感情を、トモにぶちまけたい。

 だが、トモがそういう意味で俺を受け入れるはずもない。

 だってそうだろう? 例えば俺が中学生だったとして、自分の母親のような、四十代のババアとセックス出来るか?

 おぞましい……

 多感な十代の子なら、そう思うだろう。

 ふと、そこへトモの声が掛かる。

「私がこんな十五歳の女の子だったって、驚きませんでした?」

 はっと意識を戻す。

「いや、想像していた通りだった。

 レスポンスやメールでやり取りしていて、若い女の子だっていうのは、何となく分かっていたよ」

「え、そうなんですか! そっかあ。

 タクさんもイメージ通りでした。優しくて落ち着いていて、渋いオジサマって感じ」

 ドキリとした。

「何を……大人をからかうものじゃない」

「本当ですよ」

 言って、トモは立ち上がる。そして俺の横に腰を下ろした。

「タクさん、結構カッコいいです」

 そして、トモは俺の手の甲に手の平を重ねた。

「タクさん、私みたいな歳の女の子が好きなんですよね」

 くらりとした。

 息を荒げ、トモの方を見ると、ダブついたTシャツの胸元から白いブラが覗いていた。短パンから剥き出しの脚の白さが、目に焼き付いて消えない。

 俺はそんな無邪気なエロスから、目を離す事が出来なかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る