第3話 女子中学生その2 “尻”

 駅には学生達の姿が多く見えた。ごった返す構内では、学生達を見て過去を思い馳せるような余裕はない。確定する満員電車に、ただうんざりするだけだ。

 まあ、この時間帯は仕方がない。

 小さくため息を付く俺の視界内では、学生達が仲の良い者同士集まって、楽しそうにお喋りをしている。

 ここら辺、くたびれた中年と、溌剌とした若者の違いだろうかと、俺は苦笑した。

 ホームに電車が着くと、人は波になってなだれ込む。俺も何とか、満員の車両に身体を捩じり込んだ。

 ふう……

 一息付き、視線を上げると、俺のすぐ前に女子中学生が立っていた。小柄で、おさげ髪の愛らしい子。もしかしたら、駅に向かっている時前を歩いていた少女かもしれない。

 こちらに背を向けているので、顔は斜めから横顔が見える程度だが、なかなかの美少女のようだ。

 この位の年齢の女子は、美醜の高低差が大きい。女性らしさを身に着けてゆく過渡期だからか。この子は、恐らく同世代では出色だろう。

 俺の心をざわつかせる。

 だが、それはまずい。

 この心情を少しでも悟られる訳にはいかない。俺は努めて、この少女を意識の外へ出そうとした。

 その時、俺の左腕が少女に触れた。

 ギクリとした。だが、少女は特段気にしている様子はない。

 少女は友人との会話の最中、よく笑い、よくリアクションを取るのだが、それが少々オーバーで、狭い車内の事、俺とぶつかってしまうようだ。

 そして、少女にとってはそれが普通であり、気にするほどの事ではないのだろう。もしかすると、男性に対して、未だ何らかの意識を持ってはいないのかもしれない。

 まあ、過剰反応して、まるで痴漢のような変態のように思われても癪だが。


 そういえば、俺は過去、痴漢をした事がある。

 丁度、この少女と同じくらいの年齢の事だ。若かりし頃の過ちだった。

 通学に毎日電車を利用していたのだが、同じ時間帯、同じ車両で一緒になる高校生の女の子がいた。

 眉目秀麗という言葉の似あう、優しさと強さを併せ持ったような美人。何でもこなせそうな才女という印象を持たせる人だった。

 実際、凡人には持ち得ないオーラのようなものが漂っていた。

 俺はその女性に憧れていた。中坊の頃の淡い恋心という奴だ。

 毎日同じ車両に乗るものだから、隣り合わせになる事もあった。そんな時、俺の体温は上昇し、心臓がバクバクいったものだ。

 恋愛とは、どういうものか、どうすればいいかなど、まったく分からなかった頃。性の芽生えと言えばいいか、初めて経験する、恋心と欲情の入り混じった切ない感情。今でも鮮明に覚えている。

 ある日、彼女が俺の前に背中を向けて位置した時、手の平を裏返して彼女の方に向けた。つまり、痴漢するフリをした。

 いやらしい背徳感に俺の胸は早鐘を突き、体温は一気に上昇し、勃起した。

 童貞のガキだけが持てる幸福な時間。俺はそれで十分だった。

 無論、痴漢は犯罪であり、やってはいけない事だというのはガキでも知っている。だが、それ以上に俺は彼女に憧れていた。それは尊敬し、畏敬する気持ちに似ていた。彼女は高尚な存在であり、触れるなど恐れ多い。

 ただ、少しだけ、彼女によって目覚めた男の性を、向けてみたかっただけだ。

 そんな時、電車は駅に停車し、また多くの人が乗り込んでくる。すると、彼女は後退して間を詰めてきた。

 ほとんど俺と密着する事になってしまうのだが、俺の手の平は彼女の尻に向けてある。

 つまり、俺の手の平に、彼女の尻が触れた。

 その柔らかな感触に、俺は驚愕し、これ以上ないくらいに興奮していた。上を向いていた股間のモノが、さらに膨張し、自分でも信じられないくらい硬化した。

 それは、手の平で尻を触っているだけではなく、男性器で彼女の尻を圧迫しているという事だった。

 もう、どうしようもない。

 俺は身じろぎもせず、ただ彼女の感触を心に刻み込んだ。もう、いい。この状況で我慢など出来ない。

 尻に触れている手の平から、彼女の体温が不自然に上昇している事に気づく。彼女も興奮しているのだと思い至った時、俺の股間のモノはさらに肥大しようとその身を震わせた。

 ぴくり、と彼女の身体が一つ震えた。

 やがて、各駅に着くたび乗客は減り、彼女は俺と距離をとった。

 何事も無かったかのように、彼女は俺に背を向けている。

 それで、この事は終わった。

 これが、俺の人生で一度だけやってしまった痴漢の顛末である。


 フウ……

 一つ、俺は小さく息を付いた。そして、目の前の女子中学生を見た。

 あの、小振りな尻に触れたい。しかし、そうしたとして、あの時のような感動はあるだろうか?

 ある訳がない。あの感情を抱くには、俺は歳を取り過ぎた。

 俺は腕を上げて、手の平を見つめた。そして、ぎゅっと握りしめた。

 目的の駅に着くまでの間、このオーバーリアクションの少女と、また何度か身体が触れた。


 帰宅した後、俺はブログを付けながら缶ビールを呷る。

 俺はそんなに毎日飲む習慣は無いが、今日は酔いたかった。

 あの溌剌とした女子中学生。そして、過去俺に愛欲を教えてくれた女子高生。

 彼女らに、乾杯。

 俺は自慰をした後、そのまま床に就いた。

 夢の中、俺はあの女子中学生の小ぶりな尻を鷲掴みにしていた。

 それはあの女子高生の尻のように柔らかく、そして、あの頃のような感動と興奮を覚えていた。


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