第2話 女子中学生

 暑い日だった。

 商談を終えた俺は、陽炎の立つアスファルトにげんなりしながら、脇の歩道を歩いていた。アーケードになっているこの街には、昭和の雰囲気を多分に残す店舗やビルがちらほら見かけられる。

 この景色、好きだな。

 金物屋をウインドウ越しに眺めながら通り過ぎると、次はいかにも年季の入った靴屋がある。そこを抜けると、小汚く外壁が煤けた飯屋があった。

 ガキの頃、こういう通りをワクワクしながら歩いていたものだ。

 ふと、立ち止まる。

 白いセーラー服の女学生を俺は見つめていた。

 友人と並んで歩く女学生たちは背が低く、濃紺のスカートは膝下。女子中学生か。

 古いアーケード街を歩く少女たちにノスタルジックを感じて、一瞬意識が飛んだ。

 よく見ると、他にも男女の学生姿がちらほら見られる。

 ああそうだ。アーケードを抜けて、隣の道を数百メートルほど行くと中学校があったな。

 アーケードを抜けて、反対側にある駅へ向かうと、そこには大勢の学生の姿が見えた。ふと、俺は腕時計に目をやる。丁度、下校時刻のようだ。

 彼らに混ざり歩くのを嫌い、俺は意識してゆっくりと歩いた。

 しばらくすると、学生たちはほとんどいなくなり、俺の前にはお喋りしながら歩く女子学生が数名いるだけだった。

 そこまでゆっくり歩いたつもりもなかったが……

 若者と中年の差を感じ、俺は思わず苦笑した。

 しかし……俺は前を歩く女子学生に目を向ける。

 女子学生の夏服ってのは、どうしてこうもそそるのだろうか。

 俺はおさげの、一際小さな女子学生に目をやった。何がそんなに楽しいのか、ケラケラ笑い声を上げ、オーバーなリアクションをして、横を向いたり前を向いたり、友人の背を叩いたり、もたれ掛かったり。明るく快活な少女のようだ。

 少女がリアクションを取るたび、細く白い腕がひらひらと動き、おさげ髪やプリーツスカートの裾がふわりと舞った。少女が身体の角度を変えるたび、白いセーラー服が夏の日差しを反射させて輝くかのようだ。

 そういえば、俺が中坊だった頃、教室の中、こうして女子生徒の背を見つめていたな。

 白いセーラー服から、ブラのラインが透けて見えるのを目に焼き付けていた。帰宅すると、それで自慰をした。

 今現在は、これだけ距離があると下着のラインまでは見えないし、見えたとしてもその程度で勃起する事はない。

 しかし、あの頃はたったそれだけで興奮したし、それに高揚した。

 持て余すほどの性欲を持ち始める年齢でもあったし、女性の身体というものに激しく興味を持つ頃でもあった。

 ほとんど全ての男が、等しく変態だった時期。

 だが、中坊の頃は女子と会話をするのが恥ずかしく、よほど気さくな子以外とは、滅多に話さなかったっけ。

 そして、そんな気のいい子を、俺は妄想の中で何度も汚した。

 あの頃は好き嫌いがはっきり分かれていて、本当に好きだったのは、クラスでもトップクラスの美少女だけだった。また、女子も大人びた美少女もいれば、まだまだ幼さを残した子もいた。

 まだまだ未成熟だった。

 しかし、俺は好きでもない女子で自慰をしたし、その事に何の疑問も持たなかった。

 性欲に翻弄されていた。

 まあ、“めばえ”の時期といえばそれまでだし、劣情に振り回されて誰かを傷つけた訳でもないし、別にいいのだが。

 ただ、愚かしく哀しい生き物だったなとは思う。

 しかし、だ。

 ならば、今の俺は何なのだろうか?

 一度は生物として衰えたのに、今こうして回春するに至った。

 だが、その欲求の先は、ともすれば自分の娘のような少女に向いている。

 そりゃあ、俺もいい歳、欲に任せて誰かを傷つけるような事はしない。そのくらいの自制心はある。こんなおっさんが歳がいも無い事はしないさ。

 子供は、割り切れない。

 美少年がいれば、美少年に恋をする。あえておっさんを選ぶ奴はいない。

 そうであるならば、俺の欲求は完遂する事は無い。俺の愛欲は満たされない。

 いい大人として、欲求を抑えるべきじゃないのか? 欲に振り回されるなど、愚かしい事ではないのか?

 だが、それこそそんな簡単に割り切れるものじゃない。

 そういう感情を、捨てられる人間がいる訳がない。

 今も、女子学生が小さな尻を揺らしながら歩く様を、舐めるようにじっと凝視していて、その目を離す事が出来ないのだ……


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