2-5 Opening

 「なぁ、これって俺達も行った方がいいよな?」

 

 「当たり前だろ。勇者の実力はお前が一番分かってるだろ?こいつらだけに魔族の相手を任せるのは危険過ぎる。」

 

 「流石に騎士団長クラスは大丈夫でしょうがそれ以下の兵士は死人が出そうですしね。」

 

 「うへぇ、折角街に戻ってきたのにまた街の外かよ。」

 

 「ちょうど良かったです。エリザベスも勇者程度では物足りないと言っていますし、少し暴れましょうか。」

 

 「待て、お前達。」

 

 ジン達が街の外へ向かおうとすると、国王が引き止める。

 

 「まずは、ドルグの扱きを良く堪えきったな。そして、勇者の鼻をへし折ってくれた事を感謝する。あれは過去、何度か騎士団育成に組み込んだが、ついぞ最後までやり切ることの出来る変人は出んかった。」

 

 「おい。」

 

 「はっは、冗談だ。まぁ、やり切った者が居ないことは本当だがな。間違いなくお前達がこの国最強の部隊だろう。」

 

 「王様、その最強の部隊を引き止めちゃ戦況は悪くなるんじゃないのか?」

 

 国王はベンダーの不躾な物言いを咎めたりしない。

 恐らくいつもの光景なのだろうと、ジンは頭を抱えたくなる気持ちを抑える。

 

 「その戦況を良くするために引き止めた。本当はお前達も騎士団の指揮の下に動いてもらおうと思ったんだが、お前達はジンの指揮で動け。いわば遊撃だ。戦況を見極め、兵達、勇者達の犠牲を減らすため、尽力してくれ。」

 

 「任せてください。聞いたな、お前ら。国王様から直々にお許しが出た。好きに暴れろっ!」

 

 「「「「おぉっ!!」」」」

 

 「あ、いや。暴れろって・・・」

 

 「王よ。ジン殿がいくら強くなろうと勇者と同じく戦の素人。戦術的な動きも教えずに好きに行動させるとあぁなるかと。まぁ、彼等ほどの力であればそれでも戦況の要となってくれるでしょう。一人一人が私たち騎士団長を凌ぐやも知れないレベルなのですから。」

 

 「願わくば誰も死なんでもらいたいがな。」

 

 「戦場では叶わぬ願いですが、今回に限れば勇者とジン殿が居ます。もしかすると・・・」

 

 国王とルイスは異世界の若者達の活躍に想いを馳せ、城壁の方へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 地平線を埋め尽くすかのような魔物の大群。

 寄せ集めなのかランクの低い魔物が殆どであるが、高ランクの魔物の姿もちらほらとみえる。

 そこに加えて数十匹の魔族達。以下に強力な力を持った勇者が居ても所詮は30名程度。

 国を守る立場にある兵士達は誰一人としてこの戦場の勝利を想像することが出来ないでいた。

 

 

 

 

 

 「ススメ、ガイチュウドモヲ、コロシツクセ。」

 

 「ゴルドサマ、ゴホウコクシマス。」

 

 「ナンダ?」

 

 「ツギノクニニ、サキホドノユウシャトオナジレベルノモノガ、タスウイマス。」

 

 「カズハ?」

 

 「50ニミタナイカト。」

 

 「サキホドトオナジク、ヒトリズツカコンデコロセ。ユダンスルナ。サキホドハユダンシタセイデ、コロシソコネタ。」

 

 「カシコマリマシタ。」

 

 進行中の魔物の背に跨がる魔族の指揮官がそう告げると、伝令の魔族はその指示を風魔法に乗せ、群全体へ伝播する。

 

 

 

 

 

 「これ、俺達勝てるのか?」

 

 あまりの数に兵士の誰かがそうつぶやくと、みんなの恐怖がわずかに加速する。

 だが、新兵以外は持ち場を逃げだそうとするものはいなかった。

 

 「へっ、こいつら魔物相手にビビってやがる。おい、たくみひろし!俺達が最強だと教えてやるぞ。俺達の存在が如何に有り難いかをな。涼太りょうた!バフ頼むぞ!」

 

 「仕方ねぇな。俺達の楽しみを邪魔してくれた筋肉ゴリラへの腹いせにはちょっと足りないが、暴れるか。」

 

 「祐也ゆうやは出たがりだな。ま、これだけ狩れば筋肉ゴリラを殺せるくらいまでレベル上がるだろ。ボーナスステージを用意してくれるとは、流石異世界だな。」

 

 「"風神の具足"、"雷神の甲冑"、"炎神の豪剣"!バフ揃ったぞ!回復は任せろ。」

 

 勇者の中でも取り分けて態度の悪い4人組が先陣を切って飛び出す。

 兵士は咄嗟のことに、飛び出す3人の背中を見送ることしか出来なかった。

 

 「おっ?おい、ジン。おもしれえもん見れるぞ。ほら。」

 

 勇者の行動に気付いたベンダーがいまだに気付いていないジンに飛び出した勇者の姿を示す。

 

 「あの馬鹿ども。まだこの世界がゲームとか思ってんのか!エミール、面倒だが勇者のサポートを頼む。怪我はさせてもいいが、出来るだけ死なないように見てやってくれ。アルベルトはエミールから余り離れず、エミールの邪魔をさせないよう護衛を。」


 「ジン、俺はどうする?」

 

 「私はエリザベスと共に踊って来よう。」

 

 「お前らは出来るだけ強そうな魔物や魔族を・・・って聞けお前ら!あぁ、もう。戦闘となると勇者より達が悪いな!」

 

 ジンに指示を仰いでおきながらベンダーとクラリスは魔物へと駆けていく。

 その姿にジンは思わず天を仰ぐ。

 

 「まぁまぁ、落ち着けよジン。あいつらはあれで頼りになるんだから。で、ジンはどうするんだ?まさか高みの見物なんて柄じゃないだろ?」 

 

 「あぁ。折角スキルを手に入れたんだから使わなきゃ損だろ?」

 

 「あー、唯一手に入ったって言ってた魔法か。結局森じゃ使わなかったから初お披露目だな。」

 

 「ジンさんの魔法。うぅー、僕だけでしょうか。嫌な予感が。危ないっ!」

 

 俺の魔法に不安を覚えつつも、エミールは飛び出した勇者の死角から迫る魔物を次々と射抜いていく。

 

 「お前も大概失礼だな!お前の方こそこのくそ遠い距離で魔物の眉間を寸分違わず射抜いてんじゃねぇよ。」

 

 「ひぇっ、だって、こうしないと一本の矢で死んでくれないからこっちに向かって来ちゃうじゃないですか。」

 

 「はぁ、エミールもこの調子じゃあ折角の俺の特技も霞むなぁ。」

 

 アルベルトは仲間の特異技とも呼べる技能を見て、人知れずため息をつく。

 

 

 

 ジン

 人間Lv.30


 HP 1510/1510 MP 1510/1510 ST 310/310


 腕力 300

 体力 300

 魔力 300

 知力 300

 速力 300

 器力 300


 スキル

 入門赤魔法(人)Lv.4

 入門青魔法(人)Lv.4

 入門黄魔法(人)Lv.4

 入門緑魔法(人)Lv.4

 入門魔法(逸般人)

 

 称号

 一般人   ->   逸般人

 器用    ->   器用貧乏

 巻き込まれた者

 苦労人(new)

 


 

 

 

 「ナンダ!ナニガオコッテイル!?」

 

 魔族はまっすぐ突き進んで来る勇者に未だ一匹も魔物が襲い掛からないことに怒りをぶつける。

 

 「ソレガ、チカヅクマモノドモガ、スベテドコカラトモナクトンデクルヤニウチオトサレ、ユウシャノモトヘトタドリツケナイノデス。」

 

 「クッ、ナラチマチマトセメズ、ケモノガタヲタスウムカワセルガ、」

 

 「ゴホウコクイタシマス。」

 

 「ツギハ、ナンダッ!」

 

 イラつく魔族のリーダーの元に各方面を担当している魔族から新たな問題が放り込まれる。

 

 「ワタシノヒキイルマモノニムカッテ、ヒトリノオトコガトビコンデキタノデスガ、」

 

 「ソンナコトヲイチイチホウコクシニクルナッ!イマハユウシャノタイオウガサキダ!」

 

 「イ、イエ!ソノオトコナノデスガ、イキオイガトマラズ、シキカノマモノガハンスウイジョウヤラレテ、ナオモゲンショウチュウデス!」

 

 「ナンダトッ!クソ!サユウノモノカラマモノヲヨコシテモラエ!」

 

 「ゴルドサマ!」

 

 「ツギハナンダ!」

 

 「コチラノマモノモヒトリノオンナニ・・・」

 

 「ソチラモオナジタイオウヲトレ!ユウシャニモマオノヲトツゲキサセロ。ゼンレツノザコスベテヲ、ダ!」

 

 魔族のリーダー、ゴルドは役に立たない下僕達に頭を抱え、自分も加勢すべく後方に待機してこちらを伺っている兵士達にむけて魔法を放つ。

 

 「ウシロガコンランスレバ、ヤモウテナイダロウ!"炎幕ヘルフレイム"」

 

 ゴルドは上空に生み出した巨大な火球を街の外壁近くへと投げる。

 火球は狙った場所にたどり着くと、大きく膨らみ、弾けて火の粉のシャワーを撒き散らす。

 

 「フハハハ、ナンダカンダトイッテモショセンハヒヨワナシュゾクヨ。コレデコウホウシエンハミコメマイ?」

 

 ゴルドは燃え行く兵士達を見て高らかと笑う。

 

 

 

 

  

 「ふぅ、あっぶねぇなぁ。流石魔族だな。魔法の威力が俺達人間と大違いだわ。なぁ?」

 

 隊列のかなり前方・・・・・に降る炎のシャワーを見て、青い顔をする兵士達を和ませようとドルグが笑う。

 実は魔族の狙った兵士達は実際の光景ではなく、ドルグの"惑う者"による蜃気楼であり、相手が思っているよりかなり後方に街があり、兵士達が待機していた。

 

 「単発の魔法なら幻覚だってばれたが、広範囲のこの魔法ならもう少し時間が稼げそうだな。おい!お前ら今のうちに隊列組み直しとけ!魔族が相手だ。レジスト出来る魔法士を優先で守れよ?」

 

 ドルグの叫びに戦場慣れした指揮官達が呆然と炎を見つめる兵士達に指示を出す。

 

 「さて、勇者とジン達の実力を見せてもらうとするか。」

 

 ドルグはすでに観戦モードに入っていた。

 

 

 

 

 

 「おいおい、魔族の魔法で兵士達全滅したんじゃね?」

 

 「マジか。涼太りょうたの奴、無事だろうな?」

 

 「平気だって。俺達勇者なんだぜ?死ぬ訳ねぇじゃん。それより、やっと魔物のお出ましだぜ?」

 

 「やっとか。魔族といっても所詮はボーナスキャラだな。対応が遅ぇぜ。」

 

 飛び出した勇者達は事実も知らず、三人は各々の武器を魔物に向けて振るう。

 

 低ランクの魔物程度では仮にも勇者である三人の攻撃を防ぐことが出来るはずもなく、バタバタと、それこそゲームのように倒されていく。

 

 「謙哉けんやも災難だよな。足手まといを守っていたばかりにこの程度魔物相手に大怪我したんだからさ。」

 

 「折角兵士を鍛えてやろうとしただけなのによぉ。脳筋の分際で邪魔しやがって。もう少しでマリーを部屋に連れ込めたのに。」

 

 「お前っ、ひろし!マリーともうそこまで進んだのかよ!」

 

 「仮にも勇者だからな。あの巨乳ちゃんは頂くぜ。」

 

 「くそっ!この気持ち、魔族共と筋肉ゴリラにぶつけてやる!!」

 

 勇者は余裕を持って魔物を殲滅していく。

 いや、正確には何度も背後に魔物が回り込んで来ているが、そのこと如くがエミールの矢に眉間を射抜かれて三人の倒した魔物の死骸の上に落ちていく。

 勇者達はまだ、自分の力を過信していた。

 

 

 

 

 

 「ユウシャハマダトマラナイノカ?」

 

 「モウシワケゴザイマセン。ゼンレツノザコデハユウシャノアシドメニモナチマセンデシタ。ナンドカウシロカラキシュウヲカケサセテモ、コウカハナイヨウデ。」

 

 「シカタナイ。チュウオウノブタイチョウヲユウシャセンメツニムカワセロ。ノコッタマモノハマチヘシンコウサセロ。」

 

 ゴルドの指示で戦場は再び動き出す。

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

トークアプリでつなぐ世界 舘伝斗 @tatitsuteto0305

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ