2-2 Whare am I?

「・・・ふぅ。

よしっ、落ち着いた。

大丈夫だ。

俺はクールだ。」


タクヤは荒れた。

どの転生神が悪いとは言わないが、荒れた。

何しろ11も単位を犠牲にしてまで手に入れたTMVなのだ。

それが始めてみればチュートリアルもキャラメイクも糞もない異世界。

転生神バカのうっかりで楽しいはずのゲームが命を懸けた人生(人狼生?)に。


何より転生神。

Pentagonのプロフィールを見たが、無駄に可愛かった・・・・・・・・のだ。

これが可愛さあまって憎さ百倍というやつだろうか。


タクヤは一通り荒ぶる心を落ち着かせるために無心で暴れた。

そしてようやく今、一息吐いたところだった。




「ふぅ、ふぅ。

よし、おち、つ、い、た・・・?」


タクヤの言葉は尻すぼみになる。

それもそのはず。

タクヤはようやく自分が作り出した惨状・・に気がつく。


「えっ!?

何っこの荒れ地。

俺さっきまで綺麗な森の中だったよね?

黒鬼ブラックオーガでも暴れた?

それで俺だけ見逃した?

・・・うん、そうに違いない。

黒鬼ブラックオーガが少し前に暴れた場所に偶々俺が迷い混んだだけだ。

辺り十数メートルくらいのバキバキに折られた木も、所々抉れた地面も黒鬼ブラックオーガのせいだ。」


「グ、グキャ。」


「敵か!?」


俺は背後から聞こえたゴブリンらしき魔物の声に振り向くと、そこには腕を失いつつも、こちらを怯えた眼で見ているゴブリンがいた。


「違う。

ゴブリンは決して俺を見て怯えてる訳じゃない。

そうだな、さっきまでここにいた黒鬼ブラックオーガを幻視して怯えているに違いない。

いやー、恐ろしい魔物もいたもんだ。」


そういって俺は何となくその場から少し横に離れる。


ススッ


ジーッ、ガクガク


スススッ


ジーッ、ガクガクガクガク


・・・スッ


ビクッ、ブルブルガチガチ


「あれ?なんだろう。

このゴブリン、どうやら黒鬼ブラックオーガのことがとても怖かったみたいだな。

そりゃそうだ。

俺も怖かったもん。」


そう言いつつタクヤは集落で黒鬼ブラックオーガに頭の大きさ程の岩を投げられ、脇腹を掠めたことを思い出す。

その時に感じた恐怖。

あの浅黒い肌、鋭い瞳、頭から生えた一本欠けた三本の角。

今思い出しただけでもあの姿が眼に浮かぶ。


「そうそう、あんな感じだったな。」


タクヤはゴブリンの視線から逃げようとして動き回っていたお陰で、倒れた木の下敷きになっている魔物を見つける。


木の下敷きになっている魔物。

木の間から見える人の胴体ほどある浅黒い肌を持つ腕・・・・・・・・

変な方向に曲がった頭に付いている一本が欠けた三本の角。

もう光を視ることの出来ない、見開かれた鋭い瞳。


まさに集落で見た黒鬼ブラックオーガそのものだった。


「いやー、怖いな。

黒鬼ブラックオーガ同士の縄張り争いかな?

それとも上位の魔物でも出たのかな?

何にしろここに居るのは危ないかな。


・・・・・・・


・・・・・


・・・


って惚けきれるかぁっ!!


無理だわ!

ここまで頑張って現実から眼を逸らしてたけど限度があるわ!

そんなにタイミングよく黒鬼ブラックオーガが死んでて、その犯人が居なくなったタイミングで俺がここに辿り着くわけないだろっ!!!」


「グギャッァァァァ!!」


バタンッ、ビクンッビクンッ


タクヤの絶叫に恐怖の臨界点を越えた哀れなゴブリンは遂に気を失ってしまう。

その腰を申し訳程度に覆っている毛皮が濡れているのは気のせいだ。

ゴブリンの失禁など需要がないのだから・・・


「取り敢えず丸腰は怖いから、嫌だけど、認めたくないけど、ほんっとーに認めたくないけど、俺の倒したであろう黒鬼ブラックオーガの角を貰ってナイフ代わりにするか。」


タクヤは黒鬼ブラックオーガの額の角をナイフの代替品として剥ぎ取ろうとしてふと、ある可能性に思い至る。


「・・・あれ?

もし本当に俺がこれをっていうか、この辺に転がってる魔物を全部一人で倒したなら大分レベル上がってたりするんじゃ・・・。」






タクヤ

人狼Lv.3->人狼Lv.29


HP 135/215-> 1815/1815 MP 120/120-> 235/235 ST 25/120-> 182/397

腕力 18->283

体力 23->343

知力 8->32

魔力 4->27

速力 30->483

器力 10->211


スキル

投擲Lv.1->無差別投擲Lv.-

入門見切りLv.2->中級鷹の目Lv.1

入門機動Lv.2->中級立体起動Lv.3

人狼化Lv.1->魔狼化Lv.-

入門鑑定Lv.1->中級鑑定Lv.3

初級剛腕Lv.2(new)

初級堅固Lv.4(new)

威圧(new)


称号

捨て子 マタドール 逃げきるもの 虐殺者 魔物の天敵 魔物の脅威 鬼狩り 魔狼 魔王に見初められたもの






「・・・うん。

黒鬼ブラックオーガ倒したの絶対俺だわ。

だって、レベルの上がりかたすごいし、何より称号に鬼狩りとかあるじゃん。

この惨状を作り出したの絶対俺だよー。

魔王に見初められてるよー。

俺魔王狩る側のつもりでTMV買いに行ったのになんで魔王側なんだよー。

それもこれもあのバカ転生神のせいだ。

くそっ。」


俺はステータスを閉じ、Pentagonを開く。

勿論見るのはユウスケの現在地だ。

この世界がゲームの世界ではなく、現実であるのならばチュートリアルなんて無く、プレイヤータクヤたちが辿らなければならないストーリーもない。

つまり、全て自分で考えて動かなければならない。


タクヤは手始めに情報収集がてら、さっきのトークで助けを求めていたユウスケの現在地を探る。

そう、返事をしなかったのは、気が付かなかったのでも無視してたのでもない。

そういうノリであっただけなのだ。

トークが終われば良き隣人。

すぐに助けに向かう。

これこそゼミ室の掟なのだ!


「ってアホらし。

何が掟なのだ!だよ。

はぁ、何とか落ち着いてきたな。

んで、ユウスケはどこかなーっと。」


俺はGPS検索対象をユウスケにする。


ピコん


するとPentagonがこの世界の地図の上に、一つのピンを落とす。

場所はここから北に数センチ。

この地図の縮尺は・・・


「10憶倍!?

ってことは、・・・10億センチって何キロメートルだ?

まぁ、センチを10憶倍したところで何日間歩けば辿り着くだろ。

よしっ、歩くか。」


タクヤは知らなかった。

この世界が地球より遥に大きいことを・・・


1.000.000.000 cm = 100,000,000 m = 100,000km


地球一周で40.000kmなので、タクヤとユウスケの現在の距離は軽く地球二周半。

人より高い身体能力を持つタクヤであってもこの距離を歩いて踏破するには一年は必要だろう。


タクヤにとっての不幸。

それはツッコミという貴重な存在が隣に居なかったことである・・・
















タクヤが森で黒鬼ブラックオーガを虐殺している頃、ユウスケは命の危機に瀕していた。


いや、命の危機にはこの世界に来て数分後からこれまでの間、ずっと陥っている。

何しろ彼が今いる場所は鳥の口の中。

歯の隙間に触手を伸ばし、喉の奥に落ちていかないよう、堪えていた。


カモメやペリカンを知っているだろうか。

鳥の中でも特に魚を好む種類で、よく、水の中に飛び込み魚を捕らえる。

勿論鳥であるため長くは水の中に居られない。

なので奴等は口を開けたまま水に飛び込み、口に入る魚を食べる。


魚を捕ること自体はこの際置いておこう。

重要なのは魚を捕る方法。


口を開け水に飛び込む・・・・・・・・・・、だ。

つまり、喉が詰まったときにお茶を飲むの要領で、口に含まれる異物は喉の奥へと流される危険が大きい行為だ。


この場合の異物とはまさにユウスケの事であった。


幾度となくユウスケを襲う強烈な水流。

同時に必死にしがみつくユウスケにぶち当たる哀れな魚たち。


ユウスケにとっての不幸は、"殻にこもる"を使用すると触手が使えないこと、飛び込んでくる魚たちとの接触も攻撃としてカウントされ体力が削られること、・・・そして何よりこの鳥が狩りの名人ならぬ、名鳥であったことだろう。


ユウスケは何度もぶつかってくる魚たちにゴリゴリと削られる体力をステータス上で確認しながらも、必死で歯の隙間に触手を食い込ませる。


字にすると間抜けだが、ユウスケは必死なのだ。

たまに来る静寂。

その間に鳥の口に残る水分を吸収し、体力の回復に勤める。

貝に成ったお陰か水を触手で吸収すると体力が回復するのだ。


そしてある程度回復すると再び襲い来る暴威食事に備える。




来たっ!

ユウスケは開いた口から見える僅かな光景を元に衝撃に備える。


ドボンッ


豪々となだれ込む海水。

次々と鳥の口に捕らわれ、ユウスケの体力を削りながら奥へと誘われて行く魚たち。


ズズッ


数多の魚たちとの衝突により徐々に歯の隙間に差し込んだ触手が弛む。


ゴォォォ


ビシッ、バシッ


ズ、ズズッ


ズボッ


そして遂に、その時が訪れる。

鳥の口に飛び込んできた魚が最後の抵抗とばかりに体を反転させ、他の魚が食われないよう進路を塞ぐ。

その英断は若干の仲間の命を救う。

だが、鳥は即座に首を左右に振り、魚の最後の抵抗を防ぐ。


魚は抵抗虚しく奥へと流れ、その衝撃でユウスケも巻き込まれ、胃袋という名の墓場へと落ちていく。


ドボンッ


ジュァァァァ


喉を抜けるとそこは地獄だった。

多数の英雄たちの亡骸が浮かぶ胃液は仄暗く、全てを溶かし尽くす強酸だ。


だが不思議なことに、大量に入り込んできていたはずの水は一滴も落ちてこない。

落ちてくるのは招待された魚のみ。

その地獄胃液もおかしい。

百歩譲って水が落ちて来ず、魚のみが落ちてくるのはよしとしよう。

エラから水だけ排出するのはジンベイザメにも見られるから、ファンタジー世界の鳥が同じことを出来ても不思議はない。

だがこの、胃袋の容積。

これは明らかにおかしい。

魚の大きさと亡骸の数を考慮すると、この胃袋の容積は軽く一軒家を越える。

しかし、ユウスケが少しの間留まっていた口内。

このサイズを考えると精々この鳥はペリカン位の大きさのはずだ。


ジュァァァァと音を立てて魚たちが溶かされる光景を見ながらユウスケはそんな下らないことを考える。

みるみる内に溶かされ骨になる魚。

それを補うかのように次々と飛び込んでくる魚。


数分立つが一向にこの脅威胃液がユウスケの体を侵食消化する気配はない。


「あれ?

溶け、ない?」


鳥の口内に収まってからPentagon以外で発言しなかったユウスケがようやく口を開く。

その言葉に答える者は居ない。

この場に居るのは溶けかけの魚たちと溶けた魚たちのみだから。

ユウスケは自分もそのうちあぁなるのか。と諦め、瞳を閉じた。









それから数日。

明らかにおかしいことが起こっている。

魚は次々と溶けていくのにユウスケの体は全く溶ける気配がない。

何故か。


ユウスケはこの数日、いつ侵食消化が始まるのか気が気ではなかった。

一時間を越えた頃、その心配は杞憂に変わった。

ユウスケは見たのだ。




ステータスを。





ユウスケ

法螺貝Lv.1

HP15/15 MP15/15 ST11/11

腕力1

体力1

知力1

魔力1

速力1

器力1


スキル

殻にこもるLv.-

吸命Lv.-(new)

吸気Lv.-(new)


称号

餌 踏ん張り名人 吸血貝 吸気貝 ど根性貝



吸命

触手を伸ばし、相手のHPを吸い取る。


吸気

触手を伸ばし、相手のSTを吸い取る。


魔物の餌となった者に与えられる。


踏ん張り名人

衝撃に強くなる。


吸血貝

HPが0にならない。


吸気貝

STが0にならない。


ど根性貝

逆境に屈しなかった者に与えられる。






どうやらユウスケは死ぬことはなくなったようだ。

その事を知ってからはユウスケは落ちてくる魚を次々と吸命することにした。

全てはここから胃袋から脱出するために!




結果は惨敗。

魚は魔物でなかったため何匹殺してもレベルが上がることはなかった。

その事に気がつくまでさらに数日。


「レベルってもしかして魚殺すだけじゃ上がらない?

・・・そりゃそうか。

そんことで上がったら漁師とかパワーレベリングし放題だもんな。

はぁ、じゃあ、やるか・・・。」


胃袋に来てから十数日。

ユウスケはようやくその触手を胃壁へと突き刺す。






その鳥はすぐに異変に気づいた。

いや、元からやけに口に張り付く貝が居ることは分かっていた。

だからこそ"空間胃袋"を使ってまで魚を乱獲しまくったのだ。

そして数時間に及ぶ激闘の末、貝を胃袋に押し込むことに成功した。

だが悲劇はそこで終わらなかった。

この鳥の持つ"空間胃袋"。

これは内容物の在庫状況を見ることができ、強力な酸にて内容物を消化出来るという利点がある。


それがどういうことかあの貝は何日経っても消えない。

同じく"空間胃袋"に捕らえた魚たちは問題なく消える。

なのに貝は消えない。

でも所詮は貝。

何も出来ないであろうと放置していた。


結果が体の違和感。

胃袋に穴が開き、そこから力が、命が吸いとられるような感覚。

その鳥はそこから狂ったかのように次々と魚を捕っては体力の回復に勤める。

元々魚の漁には自信があり、減った分の体力回復には問題なかった。

なのに体力の減少は止まらない。

それもそのはず。

この鳥は睡眠を必要とするが、貝は睡眠を必要としない。

そのせいで鳥は睡眠不足でパフォーマンスが落ち、魚の漁獲量がどんどん減り、回復が追い付かなくなる。

そんな鳥の様子を見た仲間の鳥はすぐに異常事態に気がつき、知恵を求めて長老・・の元へ、魔鳥・ヘイズルーン・・・・・・・・の元へ。




だが、その鳥は仲間を救うことができず、この世界に新たな天敵を産み出すことになる。

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