1-4 狼谷拓也
・・・何がどうなった!?
俺、
何故筈だ、という曖昧な表現かというと、TMVは起動後すぐにゲーム内で使用するアバターの作成画面に入る。
そしてそのアバター作成時に同時に所属する種族(人、魔物、獣人、天使、悪魔)を決め、それによってスタート位置、ストーリーが変わるという仕様だと聞いていた。
なのに今のこの状況、俺は今、大勢の毛深い大男たちに囲まれていた。
男たちは興味深そうにこちらを伺っている。
これはもうTMVの中なのか?
まだアバター選択も済んでいないのに?
それにそうだったとしてこの状況は何だ?
普通のゲームならここで選択肢とか出るんだろうがTMVは非常にプレイヤーの自由度が高く、プレイヤー自身でセリフ、行動を決められる。
しかも周りのストーリーはそれに会わせて細かく変更される。
この自由度の高さがTMVの入手の困難さに拍車をかけていた。
今のこの状況は恐らくこの自由度の高さ故のバグであろうと結論付ける。
俺は取り敢えず立ち上がろうと足に力を込めるがどうにも上手くいかない。
どうなっているんだと足元に目を向けるとそこにはミニマムおみ足。
ついでに手を見るとそこにもミニマムお手て。
ここから導き出される答え、それは・・・
「あうあーー!(なんで始めから赤ん坊なんだよーー!)」
俺、
コウジ、リョウヘイ、ユウスケ、ジン。
お前たちも赤ん坊としてこの恥辱を経験していることを心から願うよ。
俺はゲームだからと割りきり、そこで全てを諦めた・・・
あれから3日。
このバグは流石に開始後数年間赤ちゃんプレイを強要させるレベルのものではなかったらしく翌日にはハイハイで移動が可能になり、更にその翌日には自力で立ち走り回れるようになっていた。
しかも一度寝ようと目を閉じると次に目を開けたときには朝になっているという親切仕様。
いや、開始早々赤ちゃんから始める時点で親切ではないか。
そして3日目である今日、大人たちに連れられて初めての狩りに出掛けることになっていた。
だが俺の中には不安が募っていた。
別に狩りに行くこと自体に不安があるわけではない。
俺の不安はまだ姿が見えない4人についてだ。
このTMVの世界ではプレイヤー同士のメッセージ機能というものがある。
これは別行動している仲間と集合するために使ったりバカな話で時間を潰すために使ったりするものである。
他のゲームではこの機能を使用するには、そのプレイヤーとお互いに友達登録する必要がある。
だがTMVは同じ端末からログインすると始めから友達登録された状態となる。
現に俺の友だちリストにはコウジ、リョウヘイ、ユウスケ、ジンの4人の名前があり、白く光っている。(白く光っているのはログインしていることを示している。)
しかしいくらメッセージを送っても誰からも返信がない。
送信履歴が残っているため送れていないということはないと思うが、もしかすると皆はメニューの見方を知らないのかもしれない。
この3日間俺はそう信じていた。
こう思う人もいるだろう。
返事がないなら一度ログアウトして皆に現実世界で色々決めてからもう一度やればいいのでは?と。
それはできなかった。
何故ならそこに存在するはずのログアウトボタンが
その事に気づいてから俺の不安は日に日に増していく。
ゲームでは既に3日目だが現実ではまだ2時間ほどしか経過していないだろう。
となると恐らくまだ12時過ぎ。
20時から学校の事務員が各教室に見回りにいく筈だからあと8時間ほど耐えれば不審に思った事務員の手によって、強制的に本体の電源を落とされて戻れる筈だ。
普通に考えればなにも心配しなくていい。
8時間後、TMVから強制的にログアウトさせられたあと、ゲーム会社にクレームの電話をいれれば万事解決だ。
でも俺の心の中にはこの世界から永遠に出られないんじゃないかという不安もある。
「おーい、タクヤ!そろそろ出るぞー!」
「いまいく!!」
俺は大男の言葉で我に返り、嫌な予感を払拭するかのように声を出す。
どうかこの予感が杞憂でありますように、と。
バウバウッ
ガサッ、ガサガサッ
「タクヤ、ボアが出たぞ!やり方はさっき言った通りだからよく狙えよ?」
狼に追いかけられるように、茂みから勢いよく飛び出してきたのは小学生サイズの猪だった。
因みに猪の後を追うように飛び出してきた狼、こいつは仲間らしく襲ってこないし攻撃もするなと大男たちに先に注意された。
俺は手に持った槍を構え、投擲するタイミングを待つ。
そこは弓じゃないのかって?
よぉーく考えてくれ。
矢なんて精々50cm位しかないだろ?
そんな短さで子供の俺が小学生サイズの猪に致命傷を与えられると思うか?
答えは否だ。
それに近接戦闘で倒すことも筋力不足で出来ないだろう。
その結果、初めての狩りのはこの槍を投擲することで仕留めさせるそうだ。
それにこの方法で一度でも猪を倒せるのならレベルが上がり、次からはもっと楽に倒すことができるようになるしな。
運が良ければそのまま進化するものもいるそうだ。
因みに俺のステータスはこうだ。
タクヤ
人狼(未熟)Lv1
HP 35/35 MP 15/15 ST 18/18
腕力 7
体力 5
知力 1
魔力 1
速力 12
器力 3
スキルなし
称号
捨て子
すまん、黙ってたが俺、人じゃなく魔物なんだわ。
しかも人狼。
周りの大男たちのほとんどが変身できるらしい。
しかも猪を追いかけていた狼も元は人型だったそうだ。
いまだっ!
ビュォン
ズシュッ
「プギィィ!」
俺の投げた槍は猪の脇腹に深々と突き刺さる。
ピコンッ
投擲Lv.1を覚えました。
だが猪は倒れることなく少し速度を落としながらもこちらに向かってくる。
俺はそれを槍が刺さっている側に避け、槍を抜く。
ピコンッ
入門見切りLv.1を覚えました。
入門機動Lv.1を覚えました。
称号、マタドールを手にいれました。
「ブギィッ。」
槍を抜かれた痛みで猪は短く鳴く。
大人たちは何してるのかって?
少し離れたところで薬草片手に見物してるよ。
大人たちが少しでも猪にダメージを与えてしまうと猪を倒したときに子供に経験値がほとんど入らなくなるそうだ。
レベル差が幾つからかは分からないけどTMVのも寄生防止の措置がとられているようだ。
なので俺はこの猪をなんとしてでも一人で倒さなければならない。
毎回子供は3,4人掛かりがセオリーなのだが如何せん俺は捨て子らしく同世代の子供が居らず悲しく一人狩りに興じている。
まぁ猪くらいならゲーマーの俺からしたら余裕だけどな。
そんなことを考えつつ猪の突進を避け、すれ違い様に槍を横腹に突き刺すという作業を続けること3回。
ついに猪の体力が尽き息絶える。
ピコンッ
人狼(未熟)はLv.10になりました。
人狼(未熟)は人狼になりました。
人狼Lv.1は人狼Lv.3になりました。
人狼化Lv.1を覚えました。
入門見切りはLv.2になりました。
入門機動はLv.2になりました。
脳内に響くアナウンスを聞きながら俺は意識を失った。
「逃げろっ!長がやられた!」
「誰かっ!うちの子を探してぇー!」
「うぇーん、ママぁー。」
「森へ行くんだッ!奴らに追い付かれるなっ!!」
グルァァァ!
「やめろーっ!」
バチッバチッ
目を開けると目の前には燃え上がった天井が広がっていた。
「って、あぶねっ!」
俺は寝起きの体に鞭打って落下してきた燃え盛る天井の破片を避け、小屋から転がるように飛び出る。
「なんだっ!?俺は猪を狩ってたはずだが、あぁ気絶したの、か・・・」
俺はどうして燃えた小屋の中に寝ていたのか分からず、取り敢えず辺りを見回すと小屋だけでなく集落全体から火の手が上がっていた。
それどころか辺りに漂う異様なまでの血の臭いに顔をしかめる。
「なんだ?何が起こってる?」
俺は状況を把握するため誰か残っていないか集落を見て回ることにした。
「ゲギャギャ!」
「ゲギャッ!」
「フゴォーッ!!」
「ギャギャ!」
集落の中心部に近づくにつれ、何かの声が聞こえてくる。
俺は音を出さないように近づきそーっと中心部の広場を覗きこむ。
そこには集落にいた人狼や狼の死体に火を付け、それを取り囲むようにして宴会の真似事をしている小学生サイズの醜い
「なんだ?見たところ騒ぎに集まってきた感じじゃなく仲間みたいな雰囲気だが。」
俺は同族が焼かれていることを気にせず様子をうかがう。
だってゲームだしね。
様子を眺めること数分。
どうやら特に事態が動くことはなさそうだ。
恐らくここでプレイヤーがどういう行動をとるかで流れが変わるのだろう。
今の俺のとれる行動は・・・
広場に出ていって魔物たちと戦闘
バレる前に立ち去る
ここでなにかが起こるまで待つ
くらいかな?
「どうしたものかな。魔物たちのレベルはたぶん今の俺と同じくらいだろうしな。ゲームの流れ的に。あー、いや、もしかすると敗北イベントかもしれないのか。」
そんなことを考えつつどの行動をとるか悩んでいると、突然言いようもない恐怖に襲われる。
「!?」
全身から吹き出る冷や汗。
唯一動かすことのできる視線で謎の恐怖を放つ方向を見るとそこには周りの魔物たちより遥かに大きい浅黒い肌を持つ
俺は逃げることも忘れてオーガを見続ける。
幸い向こうの魔物は俺の存在に気づいていない。
ピコンッ
入門鑑定Lv.1を覚えました。
「うぉっ!」
突然脳内に鳴り響いたアナウンスにうっかり声を漏らす。
俺は慌てて口を手で抑え、物陰に身を潜める。
物陰に身を潜めて周囲の気配に気を配るがどうやらほんの僅かな呟きは広場には届いていなかったようだ。
俺はほっと安堵の息を吐き逃亡を決意する。
流石にオーガは今の俺では手に負えないと本能で察したからだ。
ただ最後にオーガのステータスを確認しようと物陰から頭を出し入門鑑定を発動させる。
HP 385/500 MP 115/115 ST 42/130
腕力 66
体力 80
知力 3
魔力 3
速力 12
器力 28
スキル
初級剛腕Lv.3
初級堅固Lv.2
入門小規模指揮Lv.2
こん棒使い
称号
魔物の天敵
黒鬼
集落落とし
「あ、これ確実に負けイベントやん。」
そういって俺は踵を返そうと振り返るとそこには醜い小学生くらいの
「うおっ!」
バキィッ、ドゴッ
俺は咄嗟にゴブリンたちに殴りかかり仲間を呼ばれる前に倒す。
「ふぅ、ビビった。さて、じゃあさっさとここから立ち去るか。」
俺は気を取り直して再び足を進めようとする。
「ゴガァァァーッ!!」
ビクッ
突然の咆哮に俺は恐る恐る振り返ると立ち上がった黒鬼が視界に完璧に俺を捉えていた。
たたかう
かくれる
にげる
ピッ
たたかう
>かくれる
にげる
だめだ!近くには燃え盛る小屋しかない!
ピッ
たたかう
かくれる
>にげる
だめだ!黒鬼が手に持った岩を振りかぶっていて背を向けられない!
ピッ
>たたかう
かくれる
にげる
テレレテレレテー
黒鬼の先制攻撃
振りかぶった岩を投げつける。
ブォン!
「って危なっ!」
俺は飛んできた岩を減速した世界で横に飛ぶことで避けるが岩は脇腹を掠めていく。
「ぐっ、これってゲームの痛みじゃないだろ!ホントにここはゲームなのか?ここで死んでも復活するよな?」
俺はそう言いうが、ここは現実なのでは?という嫌な予感が頭から離れない。
もしこれがゲームなら俺はここで黒鬼に突撃し、己の技術をぶつけようとするだろう。
そう、これはゲームだ。
だがその考えはズキズキと痛む脇腹から確信へと変わらない。
「なら、・・・三十八計逃げるに如かず!」
俺はそう決めると黒鬼が投擲用の岩を持っていないことを確認し即座に逃げる。
方角は後方ではなく集落の焼け落ちた小屋が集まっている方向へ。
そちらに逃げればいくらか岩が飛んでこようと即死は免れるはずだ。
俺はそう思い即座に横に逃げる。
「グゴォァ!」
黒鬼は直ぐに反応できず少し遅れて取り巻きたちに指示らしきものを出すが本気を出した人狼にゴブリンやオーク、コボルトが追い付けるはずもなく俺は何とか逃げ仰せる。
がむしゃらに走ること数時間。
ようやく息が切れてきたので休憩と周囲の警戒を兼ねて一休みする。
「はぁ、はぁ、ふぅ。ここまで来たら当分追ってこないだろ。ゴブリンもオークもコボルトも鼻が利くとか聞いたことないしここまで離れたら見つからないだろ。せめて後10レベルが上がってたらな。」
俺はそういいつつ赤く染まった空を見上げる。
「・・・あいつらもこの世界に来てるのかな。」
俺はここにきて何度も見ているフレンドページを開きみんなの名前が白字になっていることを確認しもう一度メッセージを送る。
「コウジ、リョウヘイ、ユウスケ、ジン。死ぬなよ。」
俺はすでにここがゲームの世界であるという認識は捨て、生き抜くためにあらゆるすべを学ぶことを決意する。
まずは情報だ。
この世界の地理、勢力、そしてどこかギルドのようなものがあればそこにみんなへのメッセージも。
俺は次に取る行動とこれからのことを考えながら眠りについた。
チローン
眠りに付く中、聞きなれた音が頭になり響いた。
タクヤ
人狼Lv.3
HP 135/215 MP 120/120 ST 40/120
腕力 18
体力 23
知力 8
魔力 4
速力 30
器力 10
スキル
投擲Lv.1(new)
入門見切りLv.1->入門見切りLv.2
入門機動Lv.1->入門機動Lv.2
人狼化Lv.1(new)
入門鑑定Lv.1
称号
捨て子
マタドール
逃げきるもの
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