第3話 男の名乗り

「さぁ、倒してきたわよ。私たちの質問に答えてくれますよね?」


 西に居たメガ・ヴィラン。通常よりも大きく強い敵たちを倒してきた調律の巫女レイナはそう言いながら家の中に戻って来た。大きな道があった場所は既に閉じており扉からの再度の来訪だ。

 レイナに続いて青い髪の少年剣士エクス、白髪の槍術士タオ、黒髪の少女シェインも戻って来て最後にリビングに来た魔女ファムが扉を閉める。

 既に中で寛いでいた闇の化身と見紛う黒髪黒目の男はやる気なさそうに一行を見て紅茶で口を湿らせてから答えた。


「どうぞ? 答えられる範囲で答えましょうか。因みに質問は後二つの期間で答えられるまで。その期間についてはこれからやってくる北からのヴィラン。そして東のヴィランどもを倒すまでということでその後は君たちが来た南側の通りから帰って貰おうか」

「ケチですね。そこは気前よくいくらでも答えてやると言って欲しいものですが」


 ぞんざいな口調の男の答えにシェインがケチをつけると男は剣呑な目を向けてシェインを見据える。それだけで彼女は思わず武器に手をかけて飛び下がった。


「はいストップ。交戦の意思ありと見做されたら多分……殺されるよ?」


 飛び下がったシェインの手を抑えたのは一番後ろにいた魔女ファムだった。彼女がシェインを抑えたことで男は興味がなくなったのか、剣呑な視線を元に戻し、お茶菓子へと視線を移すとティータイムを続行する。対するシェインの武器に掛けられていた手は震えていた。


「で、質問は?」


 その言葉で空気が弛緩する。そこにシェインが割って戻った。彼女は何事もなかったかのように努めて振る舞う。


「えぇと、まずはあなたのことをもう少し紹介してくれませんか? 名前も伺っていないのですが」


 シェインの質問はごく簡単なものであるはずだった。しかし、男は少し顎に手を添えて考える。


「……ふむ。名前か……そういえばこの世界ではないなぁ……後で作るか。基本的には与えられた役名がその時の私の名前で一番多く呼ばれた名前は恐らく【先生】。やっていることはスターシステムにおけるスタープレイヤーなど。ついでに各世界で波長の合った英霊たちとコネクトを結んでこの想区に魂の一部をコピーして呼んで遊ぶことかな」


 男の言葉にレイナが少し補足する。


「因みに私がアリスを好きになった元凶よ……」

「あ、やば……ロリコンですか」


 シェインは身を引きながらそう言った。しかし、それにはレイナが首を振る。


「この人は成長したアリスとコネクトしてるの。私たちがコネクトしてるあのよりもうちょっとだけ大人びたアリスよ。その子から幼い私は直接小さい頃の冒険譚を聞いて憧れを……」

「……それは私への質問じゃないし、いつでも出来る話だと思うが? 君たちの質問時間が勝手に潰れるのは別にどうでもいいから好きにして貰って構わないが……確かにアリスと仲は良いからよく英霊に分化させたりするが、今はそんなに大事なことかな?」


 レイナがトリップしかけていたので男が呆れたように話を戻させようとしてふと思い出したことを告げる。


「そういえばこのクッキーはアリスがマッドティーパーティーのことを思い出して作ったらしいな」

「うそー! アリスお姉ちゃんの手作り? 食べていいですか!?」

「姉御……さっき軽食摂ったばかりでしょ……?」

「あはは……」


 真面目にしていた雰囲気が壊れてエクスからも苦笑が零れる。タオも微妙な顔をして忠告して来た。


「お嬢、前にカオス・桃太郎の時に黍団子食って……」

「あれは忘れなさい」


 レイナの鋭い視線を前にタオは黙った。過去、レイナが空腹で道行く人から黍団子を貰い、それがまさしく桃太郎印の黍団子で敵に洗脳され、正気に返すために吐かせたということは過去に葬り去られたのだ。

 一部が変に盛り上がってる中でシェインは咳払いして無理に真面目な雰囲気を作りだし、男に尋ねる。


「……姉御が持つ【箱庭の王国】や【導きの栞】を作った理由と、どうやって作ったのか……質問してもいいですかね?」

「作った理由……」


 シェインの問いによって美味しいとはしゃいでいたレイナに注がれていた視線が男に集まる。男は何か呟いてしばし考えたのちに溜息をついた。


「まぁ簡単に言うなら壮大な暇潰し……かな……」

「マジで言ってるんですか?」


 男の答えにシェインは半眼で間髪入れずにそう返した。せっかく作った真面目な雰囲気もぶち壊しだ。男は少々伏し目がちになり、クッキーを食べて紅茶を飲んでから答える。


「まぁこの生涯も暇潰しみたいなものだし……いや一応、目的はあるよ? 【箱庭の王国】は素材の一部を妖精にこっちに送らせてガメるとか。思いの外大量に送られてきて結構余ったから素材ショップを作って余分な分を打って儲けを直接的に出せるくらいになったりしたし」

「……もういいです」


 シェインは昔、ある施設を作るために大量に銀を集めることになり、何度も同じ作業を頑張っていた努力を思い出して少々イラッと来て拗ねた。対する男は平然としている。


「いや~君たち結構すごいよ? 世界を設定するのは私の関与する所じゃないけど思いの外勢いがあって世界のバランスを整えざるを得なくなったらしいし。本来は別の世界にリソースを割こうとしていたらしいんだけどね」

「知りません」

「元々は【GOLDの鶏舎】を最初に作らせてたけど今は恐ろしく素材を集めるから最初に素材倉庫を作らせるようになったくらい君たちは……」

「だから、そんなの知りません」


 にべもないシェインの返事に男は少し考える素振りを見せて表情を軽く真面目なものくらいに落として尋ねた。


「じゃあ素材ショップ無かった方が良いかな?」

「それとこれとは話が別です」


 ストレスが溜まり始めたシェインを宥めるタオ。タオもそんなに機嫌がいいわけではなかったがシェインの方が大変と自らのことは置いてシェインをとりなし、エクスもそれを手伝うがシェインはやり場のない怒りを呟き始める。


「大体進化オーブの出現率もころころ変えて……宝石が出やすくなったのは良いですが……あぁ何か釈然としません……!」


 その時、地響きが聞こえた。直後にファムが警戒を促す。


「はいちゅ~もく。北の方向に……」

「んふふ……ちょうどいいところに来ましたね……シェインにお任せです」


 怪しげな笑みと共にシェインは期待する顔でその方向の家の壁が開くのを待ち、それが叶い機械音と共に道と敵が見えると特攻していった。

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