第2話 先生
「はぁ……はぁ……」
「メガ・ヴィラン5体との連戦は流石に堪えるぜ……」
「しかもヒーローもヒロインも制限されてたものね……」
息絶え絶えになりつつ辛勝した青の髪をした少年剣士エクスと白髪の青年タオはそう言いつつヨリンゲルを宿した調律の巫女レイナから手当てを受ける。その近くでは遠距離攻撃を担当していた黒髪の少女シェインが戦闘に参加せずに現状分析に勤めていたファムにどういうことか尋ねていた。
「それで魔女さん、何か分かったんですか?」
「んー……あっちの方から何か来てそうって感じかな~」
「なるほど。少し休憩したら行ってみますか。姉御たちは大丈夫ですか?」
ファムが示す方向に何かがあると判断し、何も行動の指針がないよりかはあった方が良いかと少し休憩を挟み、ついでに軽食を摂ってから調律の巫女御一行は移動を開始した。
町はずれの丘。小高い場所の中心にある一軒家にまで移動した一行はその家から漂う謎の威圧感を感じ取っていた。
「……こういう場所ってやっぱり幽霊屋敷だったりするんですかね?」
「なっ、バカ、そういうんじゃねぇだろ。ほら明るいし、まず屋敷じゃないな!」
シェインが軽口を叩くとタオが少し驚きつつそう返す。あまり近付きたくない雰囲気を醸し出す家だったが、そんな中でレイナがしきりに首をひねっていた。
「どうしたの?」
そんなレイナを心配してエクスが声をかけるがレイナは歯切れの悪い返事を返すことしかしない。
「いえ、何か見覚えがあるような……」
「取り敢えず開けるね。ほいさ」
「おい! こういう時は礼儀正しくしないと相手が怒って……」
「タオ兄ぃにそういうことを言われるとは……」
「開いてない」
ファムがノックもせずに扉を開こうとするが流石に鍵がかかっていて開かなかった。今度はノックしてみると柱からカメラが出て来てアームが伸びてくる。その人工の瞳が一行を見据える中で付属のスピーカーから声が掛けられた。
『あー……初めまして、と言うべきか……まぁその辺はいいか。ちょっと待ってくれるかな。今開けるから』
男性の声と思われる割と低い声が聞こえた瞬間、レイナは鋭い頭の痛みに襲われて頭を抱える。
「っ!」
「大丈夫!?」
「え、えぇ……少し、記憶が……」
「……記憶?」
エクスが首を傾げる中で扉は開く。しかし、そこには誰もいなかった。タオは少しだけ顔を引き攣らせて呟く。
「おいおい、気味が悪いじゃねぇか……お嬢の調子も悪くなるしよ……」
「いや~別に珍しい物じゃないよ? お邪魔しまーす」
タオが嫌にまじめくさった顔で独りごちる中、ファムは何の緊張感もない状態で家の中へと足を踏み入れた。
「タオ兄、行きますよ」
「お嬢は大丈夫なのか? 何なら俺が……」
「……もう大丈夫よ。思い出してきたから……」
無事だったというのに何故か残念そうにするタオを連れ渋々ながら全員が家の中へと入っていった。
家の奥に入ると重厚な椅子に腰かけ、ティータイムだったらしい家の主が悠然とこちらを見ていた。闇を束ねたかのような黒い髪をし、虚無を思わせるかのような黒い目をした男は先頭を切って歩いて来ていたファムを見た後続いていたエクスを見て口を開く。
「お、こんにちは。無個性モブ剣士君御一行。君たちの噂は……」
「あの……無個性モブ剣士って僕のことですか?」
どこかで聞いたことのある暴言にエクスは思わず男の言葉を遮って突っ込みを入れる。それに対する男の返事は端的なものだ。
「そうだが?」
何か不味かったかな? と言わんばかりの顔をされてエクスの方も困惑する。それに対してタオが部屋に出て来て相手を見ると元気を取り戻して口火を切った。
「あんた、一体誰なんだ?」
「……ふむ。まぁ邪魔臭い秩序の番人どもの一角を追い払ったんだ。答えてやってもいいか……」
「その必要はないですよ、先生」
タオの質問に何かを思案していた黒い男だったが、タオと男の間にレイナが入って来てそれを遮り説明を開始した。
「この人は空白の書を持つ旅人で、私に調律の力の扱い方を教えた人……そして、この【導きの栞】や【箱庭の王国】というシステムを作り上げた人よ」
「マジかよ!」
「これはこれは……え? 姉御、マジで言ってるんですか? 何かもっと凄い秘密でもあるのかと……」
にわかに騒ぎ始める調律の巫女一行。それに対して黒い男は少しだけ目を細めてレイナを見た後、誰にも聞こえない声量で呟く。
「……調律したはずだが……忘れてない、みたいだな? まぁいい……」
騒いでいる面々には聞き取れなかったらしく、誰も彼のことを見なかったが一人静かに全体を見ていたファムだけが訝しげに彼のことを見ていた。しかし、次のタオの声でファムの意識は場に戻される。
「その先生とかいう人がこんな所で何をしてるんだ!?」
「……じゃ、君の質問はそれということにしようか。私が何をしているのか……それは簡単に言ったらやって欲しいと言われた役が嫌だったからオフにした」
「……は?」
意味が分からずに呆けるタオに彼は言った。
「まぁ、簡単に言ったら私は基本的に【導く者】という役を請け負う形でスターシステムをやって各地で活動しているわけだが……今回呼ばれて行った場所では何か教え子に手を出す教師の役だと言われ、やってられないから拒否して家に帰って来たというわけだ」
特に自慢も呆れも見せない普通の口調でそう言い切った彼にシェインが追撃とばかりに質問する。
「それって大丈夫なんですか?」
「まぁこれから想像から創造へと向かう物語の根幹を破壊することになるから想区の番人はかんかんだね。さっきからメガ・ヴィランどもがやたらめったら来てるだろう? さぁ私は質問に答えた。これ以後の質問は西の方角から来る邪魔者を倒してからにしてもらおうか」
男はそう言って紅茶を飲み、外を指し示した。その直後に地響きが聞こえて見慣れた敵が出現する。
「おいおい、勘弁してくれよ……」
ここから見える範囲に既に6体ものメガ・ヴィランと通常種よりも大きなヴィランが徒党を成してこちらに攻め入る準備を整える姿を見てタオが嘆く。正直戦いたくもないし、目の前の男の自業自得な感じがしているので戦う気は失せているがレイナが頼むように口を開く。
「……ごめんなさい。訊きたいことがあるの。手伝ってくれるかしら……?」
「任せて! 【導きの栞】を作った人と聞いて僕も聞きたいことがあるんだ……」
「珍しく新入りさんが好戦的ですね……ぶっとばしていきますか」
新たに現れた敵の内、先陣を切ってこちらに向かってきたゴーレム型のメガ・ヴィランたちに向けて調律の巫女一行は戦闘準備を整えて廊下へ戻ろうとする。その背後に男から声がかけられた。
「あー……家が壊れると困るから、君ら初期ヒーローとヒロインで戦ってね。もしくはそれと同格の英霊」
「はぁ!?」
「マジで言ってるんですか? あの敵を見て?」
「……君ら自体に調律をかけていいならどんな英霊を宿して貰っても構わないが」
男の言葉と共に出された魔法陣に一行は息を呑み、視線が調律の巫女レイナに集められる。
「……だから言ったでしょう? この人が私に調律の力の使い方を教えたって……要求を呑まないと前には進めないみたいだから皆、協力してくれる?」
「仕方ねぇ、おっぱじめるとするか! タオ・ファミリー喧嘩祭り「そういうの良いから早く行ってくれないかな?」……あぁ!」
「あちゃー……タオ兄、拗ねますよこれ……でもシェインのテンションは急上昇です!」
口上を遮られ気分を害したタオと家の一部が機械音と共に開いて外へと続く道が出来たのを見てはしゃぐシェイン。
一行は再びヴィランたちとのパーティ会場へと出撃していくのだった。
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