第10話 バラバラな奴ら

 地下の隠れバーから出るために階段を上っていくジョン・ウェスト。


飲んだくれ「う、うう・・・」


ウェイター「ほら、しっかりしてください。お連れさんは帰りましたよ」


飲んだくれ「うぅ。ああ・・・」


 その光景をオレは何となく眺めていた。変装してこのバーに潜入してたんだが思わぬ収穫だったな。こんな早く場所を特定できるたぁ。第64区か


調教師の女「次の試合を開始しますわ。今回戦うのはこの子たちです」


ラプトル1「ギャース」


ラプトル2「ギャワン」


 檻のリングの掃除が終わって新たな恐竜が用意され、次の賭け試合が始まろうとしていた


客1「おい、お前はどっちに賭けるんだ。ヴェロッキオさんよ。へへ」


 ヴェロッキオか、面白がってそう名乗ったちまったがオレの本名は”テッド・ギャロット”だ


テッド「パス。オレはもう帰る。ケチついちまったからな」


客2「悪かったって今度は別の名前にするから怒んなよ」


客1「名前つけるんじゃねえって言ってるだろうがボケナス」


テッド「さてと・・・」


飲んだくれ「うっうぷ」


ウェイター「ほら、あっちのソファーで休んでください」


テッド「手伝うぜ兄ちゃん」


ウェイター「ああ、すみません」


調教師「試合を開始しますわよ。さあお行きなさい!」


「パシン!」


 調教師の鞭が鳴り試合が始まった。歓声で一気に店の中が騒がしくなる


客達「ワーワー!!」


 歓声に紛れて飲んだくれを運ぶのを手伝いながらバレないようにガンベルトをスッって(盗って)自分の腰に巻く


テッド「どっこいしょっと。ほら大人しく寝てな」


飲んだくれ「くたばっちまえ・・・みんなよぉ・・・」


ウェイター「ありがとうございます。助かりました」


テッド「へへ、気にすんな。じゃあオレァ帰るぜ」


ウェイター「お気を付けてお帰りください」


 オレはバーの外に出て適当な物陰に隠れてガンベルトを確かめた


デッド「もう暗くなっちまったな。お、あったあった」


 ガンベルトにある隠しポケット。ガンマンは大事な物をここに入れてる奴が多い


テッド「えっと・・・これは指令書と・・・ん、領収書ぉ?7.7mm弾に・・・・ああ、オートマチック用の弾薬か」


領収書にあるのは弾だけ。銃本体は別ルートか


テッド「ふーん。ま、これでジョンやコックを釣るエサにはなるか。何だかんだで使える奴らだしなヘヘッ。指令書はっと・・・まあ大体は情報通り・・・」


「タン、タン、バダン」


 むこうで銃声がする。まったくやりにくいったら


保安官「銃をおさめなさい!何の騒ぎです」


ガンマン1「んだぁ?邪魔すんな丸腰のデクノ棒がよぉ!」


ガンマン2「すっこんでろや!」

 

ガンマン3「おう。コイツラと決着つけなきゃ気がすまんのじゃ」


?????「待ったぁ!!!」


ガンマン3「ん?なんじゃいワレ」


 物陰から聞き覚えのある声が響き。人影が暴漢たちへ歩み寄っていく


保安官「危険ですから下がっていただきませんかレディ」


????ス「ふっ。下がるのは貴方よマッチョな紳士さん。そこで見てなさい私が保安官補に相応しいかをね。」


テッド「この声は・・・もしかして」


???クス「いやー探したわよ。広告見て事務所に行ったんだけど誰も居ないんだもん」


ガンマン1「げぇ」


ガンマン2「テメェは」


??ックス「あら?見た顔ね。キャトルドライブの時一緒だったかしら」


保安官「貴女は一体」


?レックス「私は・・・」


「シュッ!クルクル」


 女は腰から銃を抜きガンプレイを始めた。二丁の銃が縦回転から横回転、リズムを崩さず肩の銃に瞬く間に入れ替わり。さらには空中に舞い二丁の銃でお手玉をし三丁、四丁と増やしてから一丁づつホルスターにもどし三丁、二丁と減っていく


「クルクル、クルル、クルル、クルクルクルタッタッタッタ、タッタッタ」


 そして残り一丁になりそれをこれ見よがしに派手に回してからホルススターに戻した


「クルクルルルルル、シュタ」


アレックス「流離いのコック、アレックス・ニコルソンよ」


保安官「おお、いやお見事ですなレディ。ハハハハ」


「パチパチパチ」


 呑気に保安官は拍手をしている


テッド「止める気はないのか、一度撃ち出したら止まんねぇぞそのバカ女。ええい!町中穴だらけなる前にオレ止めてやるか」


 すでに手に銃を持った相手にアレックスが早撃ちの体勢に入った


アレックス「ふふふ。抵抗しても無駄よ安心して撃たれなさい。死なないように私がちゃーんと治療してあげるから」


ガンマン1「なんっ!?」


ガンマン2「っやて!?」


アレックス「さあ、受けなさい。私の正義の裁きを!!」


ガンマン1.2「降参する」


アレックス「ちょっエエェ!?」


 暴漢二人が両手を上げる。暴漢の一人は状況を理解できずオロオロしている


ガンマン3「なんだ、何がおこったんだ?え?」


アレックス「ちょっとアンタたち!銃に命を賭けるガンマンが女相手に簡単に引き下がっていいの!?」


ガンマン1「そりゃあ死ぬのは怖くないがよ」


ガンマン2「アンさんに手当てされながら生き地獄を味わうのはかんにんや。いやマジで」


ガンマン3「ん?おぅ?え」


キャトルドライブの時大分暴れてたからな。オレも重傷のジョンが身代わりになってくれなかったらどうなっていたことか


保安官「ふむ。ですが街中で銃を発砲した者をこのまま返すわけにはいきませんぞ」


ガンマン1.2「撃ったのはコイツだけです」


 二人の目線は一人の男に集中してた


ガンマン3「って、おい!」


「ガチャ」


 降参した二人は手を上げたまま銃の蓋を開けシリンダーを回し始める。弾頭と火薬が詰まった弾は重力にしたがって地面に落ちていく。銃を撃ったばっかだったら薬莢は火薬と弾頭が無くなって軽くなってる上に発砲した時の熱と圧力でシリンダーから簡単に抜けないからすぐ解る


「ト、ト、ト、ト、ト、トッ」


保安官「ふむ」


ガンマン3「きたねぇどオノレら!・・・がっ」


 暴漢の一人が二人に向かって銃を向けると直ぐに保安官が反応し強烈なパンチをお見舞いする


「バタ・・・」


アレックス「はやい!何今の」


保安官「大学時代ボクシングをたしなんでましたので」


 アレックスにそう答えると降参した保安官は二人を見て


保安官「君たちも流れ者のようですね。事情は後で聞きますからご宿泊されてる宿を教えなさい」


ガンマン1「そこの安宿です」


ガンマン2「あ、ウチもそこや」


保安官「今日はこのまま真直ぐに帰ってください。ただし明日まで宿からは出ないように。いいですね」


ガンマン1.2「はい、ご迷惑おかけしました」


 暴漢たちはそのまま帰って行った


アレックス「あー・・・アタシの見せ場は無し?」


テッド「日頃の行いが最悪だからだクソコック」


アレックス「うわ!いつの間に私の後ろに・・・だれアンタ?」


テッド「テッドだよ」


 付け髭と帽子を取る


アレックス「便利屋、アンタ何してんの」


テッド「それはこっちが聞きてぇよ」


保安官「いやぁ、貴女のおかげで被害は最小限にすみました。保安官を代表してお礼を言います。」


アレックス「いえいえお安い御用ですよ。これからもこの町を守る保安官補として・・・」


テッド「そりゃ無理だと思うぞアレックス。この町じゃガンマンは保安官にはなれねぇ」


アレックス「え、どういうこと?」


テッド「ここの保安官はステゴロで有名なんだよ。そうなんだよなティム・ザ・アイアンフィスト」


保安官「ほお、私をご存知とは。挨拶が遅れましたなミス・ニコルソン。わたくしの名はティム・ステアーこの町の保安官を務めさせてもらっている者です」


テッド「怪物のための護身用の銃は認めるが、人間同士のドンパチは必要ねぇってことを証明するために、自ら銃相手に素手で挑んで治安維持に務めてる変わりもんだ」


ティム「ええ、おっしゃる通りです。ですからレディ、貴女の申し出は嬉しいのですが銃は私のポリシーに反する事。大変申し訳ないですが貴女を保安官補にする訳には」


アレックス「えぇー・・・」


「タン・・・・タン・・・」


 遠くから銃声がする。別の場所でまた騒ぎが起きたようだな


ティム「では私はこれで失礼します。この男を何時までも野ざらしには出来ませんからね。ごきげんよう」


 そう言うとノックアウトした暴漢をかついで保安官事務まで早足で帰って行ってしまった


テッド「相手が悪かったなコックさんよ」


アレックス「ああもう最悪。で、何の用なのよ便利屋」


テッド「ほれ、コイツを見な」


アレックス「なにコレ」


 小さな声で話しかける


テッド「ヴァンス組からかっぱらった領収書、機銃用の弾薬だな」


アレックス「よこしなさい!むぅ・・・肝心の銃の事は書いてないじゃない」


テッド「銃は別ルートから仕入れてるんだろう。今奴らは第64区の遺跡にむかってる。あそこはモンスターが多いからそのためだろうな」


アレックス「フフーン、じゃあ直ぐに出発の準備を・・・ちょっと待って何で私に教えたの」


テッド「今回はレッドウッドのバックアップが無いからな。悔しいが一人で行くほど馬鹿じゃないぜ」


アレックス「仲間は何人集まりそう?」


テッド「今の所オレとオマエだけ。下手に言いふらしちゃあ騒ぎになっちまう。ジョンも誘おうと思うんだがちょっとな」


アレックス「来るかしら、あの食いしん坊」


テッド「今頃別件でアイツも行く準備してるよ多分、なんでも人探しだとか。だからいざ現場に行っても探し人が居なかったらそのまま帰っちまうかも」


アレックス「その探し人がジョンの仲間だったら最悪ね。ああ見えて結構したたかだから仲間のままのフリして後ろから撃ってくるわ絶対」


テッド「ジョンの探し人は銀眼の黒人でジャックって名前だ。それらしいヤツを見かけたら警戒すればいい。適当な理由をつけて離れるとか」


アレックス「そうするしかないか。目的地が同じなら鉢合わせするし、味方になれば頼りになるもんね」


テッド「今ジョンはこの町のレッドウッドサルーンに泊まってる。奴の部屋に行こう、上手く誘えたらそこで作戦会議だ」


アレックス「疑ってる事を気づかせずに私たちはお友達ですよーって空気を作りながらジョンの反応を見るのね」


テッド「そうゆこと」


 へへ、今まさにオレがやってるようにな。この女とは獲物の取り合いになるだろうし邪魔者をなるべく増やさず戦力を増やさにゃ


アレックス「ふーん・・・のった」


デッド「決まりだな。サルーンに向かおう」


 アレックスと共にレッドウッドサルーンに行く


バーテン「お、なんだテッド。女連れでどうしたんだ」


アレックス「あ、港町のバーテン。ついて来てたの」


バーテン「別人だよそいつとは」


テッド「ホントに別人みたいだぜ。前に確認の電話した事があるが港町にちゃんと居たからなぁ」


アレックス「え、ホントに?」


バーテン「で、ようは何なんだテッド。まさか俺をからかいに来たんじゃあるまいな」


テッド「いやいや違うって。ジョン・ウェストって宿泊客がいただろ。アイツもう帰ってきてるかな」


バーテン「ん?ああ、あのガンマンね。急用ができたとかで宿をキャンセルして出て行っちまったよ」


テッド.アレックス「はぁ?」


バーテン「だからもう居ないって」


アレックス「ふぇ!もしかして先手をうたれた!?」


テッド「行先は何か聞いてないか」


バーテン「いや、急用が出来たとしか」


テッド「のんびりしたヤツだと思ってたがまさかこんなに行動が早いとは・・・・」


 どうする。ジョンが先に接触した場合、情報が洩れてると知ったヴァンスはガードを固めるだろう。攻めるタイミングがずれるほどこっちが不利になる。オレ達がたどり着いたころにはもぬけの殻なんてことも・・・


アレックス「でも向こうで鉢合わせるだろうし。まあいっか」


テッド「良くない!奴らが警戒して雲隠れしちまったらどうすんだ!?」


アレックス「また探せばいいじゃない。得意でしょそういうの」


テッド「お前オレがどんだけ苦労してると・・・」


アレックス「私は別に名が上がれば相手はヴァンス組じゃ無くてもいいもんね。それじゃあ私は今日の宿探すから準備できたら声かけてねー」


 宿を・・・探す?


テッド「ちょっと待て。宿はここでもいいだろう」


アレックス「何よ、どこに泊まろうと私の勝手でしょうに」


テッド「今日中古の馬車を買った女が居るらしいぜ。何でもそいつは自称コックだとか」


アレックス「あら、私の他に女性のコックが居るのね」


テッド「銃を4丁下げて武器弾薬を満載した棺桶風の箱を引きずって馬車買う女コックが他にもいるってのか!?だったら自慢のカスタムライフルを今どこに預けてるか言ってみろ!エェ!!」


アレックス「ちっ、棺桶を先に買ったのは失敗だったか・・・」


テッド「問題はそこじゃ・・・ええい!お前も直ぐ後を追う気か」


アレックス「出し抜かれるのは趣味じゃないのよ。言っとくけど私の馬車には乗せませんからね」


テッド「自分の馬がある。オレも直ぐ向かうからな」


バーテン「じゃあお前も部屋をキャンセルか。ちょっと待ってなキャンセル料を引いた釣りを渡すから。部屋にまだ荷物があるんなら取りに行ってこい」


アレックス「私は馬車の整備をしてから行くから。じゃあね」


テッド「抜け駆けするんじゃねぇぞ」




END

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