第1話 バッタはお好き?

 ”新生大陸パシフィクス”東部、アメリカから多くの人間が流れてくる港町。この大陸で一山当ててやろうと夢見た開拓者や、腕に覚えのあるガンマンなどで溢れかえるこの町に俺”ジョン・ウエスト”はやってきた。せま苦しい船から開放され思いっきり体を伸ばす。


 ジョン「ぅーーーーーーんっ!やっぱ陸はいいねぇ。」


 俺は元々実家の牧場でカウボーイをしていたが経営が悪化し口減らしもかねて出稼ぎ来たのだ。


 ジョン「うし!さて、どうしたもんかな」


 仕事の張り紙がはってある巨大な掲示板は人で埋め尽くされ近づけそうにない。適当に町をまわっていい稼ぎ口がないかさがすことにする。


 ジョン「あー・・・重い、欲張りすぎた」


 背中にライフルと腰には護身用に切り詰めたショットガン、ベルトには弾薬がめいっぱい敷き詰められ、袋{ボンサック}には生活用品ets・・・体力には自身があったが初めての長旅でもうへとへとである。仕事も見つからない。


 ジョン「いっそ銃を売って金にするか・・・。とっ!」


 突然目の前を馬が走り去る。


 農夫のじいさん「誰かその馬を捕まえてくれぃ!」


 走り去った馬は巨大掲示板の人だかりへ向かい驚いた何人かが馬に威嚇射撃し、驚いた馬がUターンしてこっちに猛スピードで突っ込んでくる。


 ジョン「おいおい!マジかよ!」


 とっさにボンサックを放り投げ、腰のロープを取り馬の首に投げつける。


 馬「ヒィィィィィン」


 馬の首に引っかかった勢いでジョンの身体が宙に浮くが、空中でロープを手繰り寄せそのまま馬の尻にしがみ付き背中に乗る。


 ジョン「わっと、おいコラ暴れんな!」


 馬「ヒヒィーン」


 ジョンを振り落とさんとばかりに馬が暴れる

 

 ジョン「どう!どうどう!」


 暴れる馬をどうにかなだめ下のボンサックとりに降り、馬を農夫の所まで連れて歩いて行く。


 ジョン「はぁ、なんで街中でロデオやらなきゃなんねぇんだ」


 農夫のじいさん「おお、おお!助かったよ!おめぇさんあんな曲芸どこでおぼえたんだい?」


 ジョン「ん?昔馬でよく遊んでな。」


 じいさん「ほほぅ・・・駅馬車強盗か馬泥棒か・・・」

 

 髭を撫でながら何か物騒な誤解をしているようなので訂正する。


 ジョン「違う!カウボーイ{牧童}だ、元!」


じいさん「カウボーイっ!どう見ても銃商売(ガンマン)やってるようにしかみえんぞ」


 リボルバーは持っていないがそう見えるらしい。やはりもう少し装備を減らすべきか?


 ジョン「今銃売って金にしようか悩んでたとこだ、重ぇし」


 じいさん「ははっ、まあ銃売るのはちとまってくれ。飾りじゃないんいじゃろ?」


 ジョン「ああ、実家の牧場で狼や牛泥棒を何度もコイツで蹴散らしてきたもんさ」


 じいさん「なら家で働いてみんか?、わしの町から離れていて物騒でな馬車の護衛が必要なんじゃよ。あまり多くは払えんが」


 この大陸は怪物がわんさかいてその手の仕事が多いらしい。護衛というのも怪物相手の話だろう。


 ジョン「OK、まかせてくれ」


 じいさん「決まりじゃな、ついてきてくれ」


 馬車に逃げた馬を馬車に繋いぎ馬車にのるじいさん


 じいさん「おまえさん名前は」


 質問に答えながら助手席にすわる


 ジョン「ジョン・ウェスト」


 じいさん「わしゃベン・オークランドじゃ、じゃあ行くぞ、ヤァ!」


 景気よく馬車を発進させるじいさん


 町の外に出てると荒野が広がっていた。見晴らしがいい、しばらくはのんびりしてもよさそうだ。


 じいさん「お前さんこの大陸は初めてか?」

 

 ジョン「ああ、今日着たばかりだ」


 じいさん「ここへは何しに?」


 ジョン「実家の牧場が厳しくなって出稼ぎにな。親父に’テメェなら砂漠だろうが雪山だろうが生きていけるだろうが!土産に恐竜の卵でも獲ってこい!ガハハ!’てな」

 

 じいさん「ははっ、たいした親父さんじゃわい」


 ジョン「で、本当にいるのか?恐竜・・・」


 じいさん「そういう大物はもっと西の未開拓地しかおらんよ、ここいらはみんな軍や猟師にあらかた狩られとる。まあ小さいトカゲみたいなやつならおるじゃろうが」


 ジョン「まじでいるのかよ・・・」


 だんだん道が狭く緑が見え始め地形が複雑になってきた。危険が無いかあたりを警戒する。


 じいさん「ここをぬければ家の農場じゃ、日が暮れる前にはつくぞ」


 ジョン「ああ、わかったよっと!」


 「タン!」


 茂みにかくれたコヨーテにライフルを撃ち追い払う


 ジョン「結構普通だな」


?「クエ」


 今、ヤモリ?の様な鳴き声がしたような・・・・


 じいさん「またあの鳥じゃな、荷物を狙って飛んでくるぞ」


 ジョン「へ?」


 茂みからトカゲの頭をした鳥が飛んできた


 ジョン「やばっ」


 距離が近い、ライフルから素早くショットガンに持ち替え2連射


 「ババン!」

 

 鳥?「ギャ!」


 1羽仕留めたが、まだ気配がする。銃に鳥撃用の散弾を装填し次ぎに備える

鳥?たち「クァーッ」


 3羽飛んできやがった。2羽をショットガンで仕留め


 「バンバン」


 鳥?1,2「カッ!ア・・・」


 近づいた3羽目をライフルで叩き落し。


 「ガッ!」


 念を押してライフルで一発撃つ。


 鳥?3「ギャ!」


じいさん「器用じゃのぉ~」


 ジョン「随分のんきだな」


 じいさん「わはは、食料目当てに荷物を襲う事はあるが、人を襲う事はめったにないからの。お、ついたぞ」


 豆とトウモロコシ畑しかないような小さな農場だった。馬車から荷物を降ろすのを手伝っていると向こうからライフルを持った少女が歩いて来た


 女の子「おじいちゃん、おかえりまさい」


じいさん「おお、アリーただいま。狩にでもいっとたんか?」


 アリー「この鳥が家のブタを狙ってたからこらしめてやったの」


 ジョン「げ、なんじゃこりゃ」


 アリーの指差す方向に大きなワシが縛られていた。体長は1メートルを超えていて翼を広げたら俺よりでかいのではなかろうか。


 アリー「あら、お客さん?」


じいさん「馬車の護衛に雇った用心棒じゃ」


 ジョン「ジョンだ、よろしくな」


 アリー「私アリー。よろしくね、ジョンお兄ちゃん」


 じいさん「さて飯の準備でもするか。久しぶりの大物じゃわい」


 アリー「まっておじいちゃん私がやるから」


 じいさん「まぁまぁ、わしにまかせとくれ。とびっきりのローストコンドルご馳走してやるからの」


 アリー「もーぉ、張り切っちゃって。お兄ちゃん待っててね、私も手伝ってくるから」


 あのワシを食う?たしかに七面鳥に見えない事もないが・・・美味いのか?


 ジョン「ああ、俺は少し休む」


 何か家に着いてからかドッと疲れが出てきた、イスに座り夕飯を待つ。


 アリー「お兄ちゃん、ご飯できたよー」


 料理の献立は焼いたタカの肉とコーンブレッドにコーンスープだった。モロコシだらけのメニューだが疲れて腹が減っていたので口に勢いよく放り込んでいく


 ジョン「ガツガツ、ムグッなかなかイケるな」


 うむ、缶詰や乾燥させたヤツじゃない生のスープは甘味がきいてるし、肉もまあパサパサしてるがまあいける


 じいさん「よく食うのぉ」


 ジョン「そういえばこの肉、撃たれた痕が見やたら無いが、どこ撃ったんだ?モグモグ」


 アリー「飛びかかって来た所を頭に1発よ」


ジョン「んグ!?」


 じいさん「そういえば頭に小さな穴が開いてたのぉ」


 ジョン「ゴクッ、いや、いくらデカイからって動きまわる鳥の頭に当てるなんて無理だろ!」


 じいさん「アリーは射撃の天才じゃからの」


 アリー「今度町の射撃大会に出るんだ。優勝して賞金であたらしい服を買うの」


 自信満々に言うアリー、本気で優勝する気らしい


 ジョン「はは、そりゃすげぇな・・・もぐもぐ」


 アリー「こんどコツ教えてあげようか」


 ジョン「遠慮しとくよ、ごちそうさん!」


 アリー「早っ」


ジョン「外でタバコ吸ってくる」


 じいさん「火の始末はちゃんとするんじゃぞ」


 ジョン「あいよ」


 外に出てイスに座りタバコを巻き口にくわえる。夜の空気が心地いい、なんだか今日はトラブル続きだったがどうにか職も見つかりなかなかの出だしではなかろうか。


 ジョン「ふぅ、この大陸ではじめて吸うタバコか」


 感傷に浸りながらマッチに火をつけようとしてると、目の前の影が動き手が止まる。


バッタ「ガサガサ」


 ジョン「・・・・・・」


 バッタだった、体長60smはある巨大なバッタ。そういえば土産物屋でコイツの写真を見た気がする。


 ジョン「食えるって話だがホントか?」


 改めてマッチを擦りタバコに火をつける。


 「ブーン・・・ガサゴソ」


 どうやらバッタは一匹だけじゃないらしい、羽音やガサガサ動く音がする。なんとなく目で追いバッタを数える。1,2,3,4・・・・


 「ガサガサ」


 5,6,7,8,9・・・段々数が増えていく。えーと15,16,17・・・・


 「バサバサバサバサ」


 ジョン「てっ!さすがにこれはまずいんじゃないか!?」


 タバコをブーツでもみ消し、じいさんの所へ走る


ジョン「ベンじいさん!外にバッタが!」


 じいさん「ああ、適当に撃ってくれ、畑を荒らされてこまっとるんじゃ。まったくあの害虫どもにはいつもいつも・・・・」


 ジョン「20匹や30匹じゃないぞ!」


 じいさん「なんじゃと!」


 アリー「ええ!?」


 銃を持ち全員外へ出るとバッタの大軍が飛び回っていた。


「バシャバシャバシャ」


 アリー「うわぁ」


 ジョン「さらに増えてやがる」


 じいさん「このぉぉ」


 じいさんがショットガンを乱射し、ジョンとアリーもライフルで応戦する


 「ダンッダンッダンッ」


 俺はすぐにライフルを撃ちつくしショットガンに持ち替え応戦


 「ババン」


 ジョン「小回りが効く分こっちの方がいいか」


 ショットガンメインの戦法に切り替えるジョン。一方アリーはイライラしながら銃と格闘している。アリーの銃はスポーツ用のレバーアクションで弾の装填に時間がかかるようだ。銃から抜いたであろう長いロッドを口に咥え銃口の近くにある装填用の穴から22口径の小さな弾丸を一発づつ入れている


 アリー「ああもう!お兄ちゃんライフル使わないなら貸して!あと弾も!」

 

 ジョン「おう!」


 銃を弾帯ベルトごと渡すとライフルに素早く弾を込め応戦するアリー


 「タン、タン、タン」


 アリー「ッ!重っ、レバーも大き過ぎ!」


 そう言いながらも1発1発正確に飛び回るバッタに当てるアリー。彼女の射撃の才能は本物のようだ、思わず見ていて楽しくなる。まるでサーカスだ


 ジョン「ははは!すげぇすげぇ!」


アリー「お兄ちゃん真面目にやって!」


 「バンバンバン」


 ジョン「大分数が減ってきたか?・・・」


 いつの間にかじいさんは散弾を撃ちつくしライフルで応戦していた。


 「タンタンタンカッ・・・」


 じいさん「ちぃ」


ライフルの弾も撃ちつくし古いパーカッションリボルバーを2丁取り出す


 じいさん「ワシの畑から出て行けこの害虫どもぐわわぁぁぁ!」


 火を噴くじいさんの二丁拳銃、だがバッタの数が減る事は無い・・・。いや、そもそも1発も当たっていない。

 

 ジョン「じいさん!枯れ草かなんか燃やして煙で追い払え!」


 じいさん「おお、そうじゃった!援護してくれ!」


 馬小屋から干草を集め燃やし煙を出す


 じいさん「おまえさん、タバコは!?」


ジョン「タバコ?左ポケットに入ってるが・・・」


 煙が足らないと判断したのか、ジョンのタバコを引っ手繰り焚き火にくべるじいさん


 ジョン「オイ!ジジイ!」


 じいさん「後でワシのパイプをやるから我慢せい!」


 風に乗った煙がバッタを追い払っていく


 じいさん「畑に残った害虫どもを始末するぞ!ついてこい!」


 ジョン「・・・あいよ」


 アリー「おじいちゃん、私もう動けない、ヘトヘト・・・」


じいさん「アリーは火を見ててくれぃ、寝るんじゃないぞ」


 アリー「はぁーい・・・」


 この後じいさんと2時間半畑を駈けずり回った・・・。疲れて家にもどるとアリーが眠そうに焚き火をじーーと見ていた。


 アリー「あ、オカエリナサい・・・火消すね」


 バケツの水を焚き火にかけるアリー


 アリー「・・・わたし、寝るね」


 じいさん「おお、お疲れさん、おやすみ」


 アリー「うん・・・ぉゃすみなさ・・・ふぁ~~~・・・」


 アリーは、のそのそと家に入っていった。


 ジョン「じいさん」


じいさん「なんじゃ」


 ジョン「タバコ」


 じいさん「家の中じゃ、ついてこい」


 家に入りじいさんからコーンパイプをもらいひと息つく。じいさんも疲れていたらしく寝室に行った。


 ジョン「そういや、ギブソンもパイプ吸ってたな」


 知り合いがどう吸っていたか思い出し真似てみる


 ジョン「スー、ふぅー、あ、火が消えた」


 思ったより難しい、タンパーで葉っぱを整え吸い直す


 ジョン「スーッふぅ・・・はぁ、今日は最悪の一日だったな」


END

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