パーティ登録と指名依頼

 SSランク冒険者として、史上最高の出出しとなったカケル達。既にカンビオの街全体にこの話が広まり始めている。カケル達からすれば、迷惑以外の何物でもないが。


「それからもう一つ」

「「「「?」」」」

「パーティ登録はなさいますか?」

「それによる利点は何だ?」

「まず、パーティ登録をすれば、依頼を受け成功した場合に平等に依頼達成値が溜まります」

「依頼達成値?」

「依頼達成値とは、依頼を成功させた際に加算されるポイントです。これが溜まると、パーティランクの昇格試験を受けたり、ポイントを利用してお買い物ができたりと色々な使い道があります。ポイントが利用できるのは、ギルドが経営、若しくは後援している施設のみとなります。後、ギルドが所有する魔物の素材をポイントで引き換える等、様々な使い方ができます。勿論、購入して頂く事もできます」


((((フロンティア?))))


 言っちゃいけません。


 他にも、ギルド側から金庫が貸し与えられ、パーティ全員分のお金の管理ができるということだ。尤も、カケル達はメニューという、この世界では通常存在しないものを使えるために、金庫やら保管庫やらの使用は余りメリットにはならないが。


 そして、パーティ登録は冒険者登録とは違い、スキップ登録という制度はない。一律でFランクスタートだ。確かに、強い冒険者の寄せ集めなパーティが、しっかり機能するかと言うと絶対にないと言える。それを考えれば、妥当な判断だろう。


 カケル達は相談の結果。パーティ登録をすることに決めたようだ。


「はい。それでは、こちらに必要事項を記入してください」


 必要事項と言っても、書くのはパーティ名とメンバー名だけである。他には何もない。


「パーティ名どうする?」

「HGOで使ってたヤツで良いんじゃない?」

「私もあの名前気に入ってるから、あれがいいな」

「皆がそれがいいっつぅんなら、俺もそれでいいぜ」

「んじゃ、それで」


 パーティ名とカケル達の名前を記入してセトに渡す。


「はい。ありがとうございます…………え?」

「? どうした?」

「い、いえ。その…パーティ名は…これで?」

「あぁ」


 さっきまでは頼もし気な表情だったセトが、今は訝し気な表情になっている。


「その名前がなんかおかしいのか?」

「はい。実は」


 そこから先、セトがカケル達に説明した事は、さすがにカケル達をして驚く話だった。それを聞いたカケル達は、


「まあいいんじゃね?」


 結構あっさりと言った。


「いいんですか?」

「いいっていいって、そのパーティ名で登録するよ」

「わかりました。それでは、皆さんのギルドカードをお預かりしますね」


 またしてもセトが奥へ行き、少ししてから戻ってくる。


「はい。Fランクパーティ“ラクテウス・オルビス”。冒険者ギルドへの正式登録が完了しました。頑張って下さいね」

「おう」


 ギルドカードを受け取る。真ん中に魔法陣があり、そこに触れると、登録内容が確認できる。しっかりと、カケル達個人のギルドランクとパーティ名・ランクが書かれている。


 依頼達成時には、このギルドカードを提示して依頼を達成した事を確認する。アーティファクトになっているこのカードはそういう情報が全て記憶される。それをこれまた専用のアーティファクトで読み込み、依頼の成功・不成功の処理をし、討伐した魔物の名前や討伐数等をギルド側が記録するということだ。


 一通りの説明が終わり、カケル達は掲示板の前に陣取って依頼を眺め始める。


「討伐系の依頼が少ないわね」

「仕方ねぇだろ。国境の街だ。糞王国はどうか知らねぇけど、フルール皇国側は割と常に厳戒態勢っぽいからな。それもあって魔物の間引きも普通にしてんだろ」

「ナチュラルに糞王国って言ったわね。ま、同感だけど」

「それよりも、討伐系の依頼が無いなら他の依頼はどうかな?」

「織音。アンタ、こんな時に納品依頼やら雑用依頼をやる気なわけ?」

「うげぇ。絶対にヤダ」

「でしょ?」


 現在カケル達は護衛依頼を探している。その合間の雑談である。


 カンビオは国境の街である分、護衛依頼はかなり多い。物資の持ち運びが頻繁なため、護衛は必須の存在だ。そうでなくとも、貴族の護衛等でかなり多くの依頼がある。それが、カンビオに冒険者が集まり難い理由の一つだ。カケル達の会話にもあった討伐依頼の少なさもそれに拍車を掛けている。


 どういうわけか。今は護衛依頼が無いようだが。


「カケルさん。少しよろしいでしょうか?」

「俺?」

「はい。リーダーですので。他の皆さんも来て頂きたくはありますが」

「じゃ、アタシ達も行くわ」

「気になるもんね」

「セトちゃん直々に呼び出したぁな」


 三十分程あれでもないこれでもないと掲示板の前を右往左往していたカケル達。その四人にセトが話し掛け、用があるらしくこのギルド内で応接室になっている部屋までカケル達を連れて行く。


 応接室には一人の少女がいた。見た目年齢は完全にカケル達と同じくらいだ。肩口で切り揃えられた茶髪、ぱっちりと開いたライトブラウンの瞳。全体的に小柄で童顔。雰囲気的には天真爛漫という言葉が似合うだろう少女であった。


「フェレイラさん。こちらが本日登録されたSSランク冒険者。“ラクテウス・オルビス”の方々です」


 セトの紹介で軽く会釈をするカケル達。フェレイラと呼ばれたその少女は立ち上がり、カケル達を見詰める。何かを見透かすかのように。


「うん。悪い人達じゃないみたいだね」

「どうやって判断してんだよ」

「ダイキ、余計なこと言うな」

「フェイは商人。人を見る目は鍛えてるんだから」

「「「「フェイ?」」」」

「フェレイラさんの一人称です。ああ見えてもカケルさん達よりは年上ですよ」

「ちょいちょいセトちゃん。何気に失礼なこと言うね。表でお話でもする? しちゃう?」

「はいはい。冗談はそこまでにして、カケルさん達が困ってらっしゃるので本題に入って下さい」

「おっと。完全に失念してたね」


 中々にクセが強い娘のようだ。


 フェレイラに促され、カケル達はフェレイラと向き合う形でソファーに座る。セトは両者の間にある机の脇に立つ。


「さてと。それじゃあまずは自己紹介から。フェレイラ・エアル・プリマヴェーラ。プリマヴェーラ商会の商会長を務めています」

「ラクテウス・オルビスのリーダー、カケルだ」

「夕姫よ」

「織音です」

「ダイキだ」

「よろしくお願いね」


 お互いにお辞儀をする。教育されたのかフェレイラのお辞儀は座っててもかなり綺麗だった。どこぞの王女に見せつけてやりたいくらいだ。見習え。


「それで、俺達に何の用だ?」

「うん。簡単なことだよ。フェイの指名で護衛依頼を受けて欲しいの」

「依頼内容を聞かせて貰おう」


 名前だけ聞いても中々の商家と思しき目の前の少女に結構上から行くカケル。せめて敬語使おうよ。丁寧語で良いから。


「言っちゃえば単純な話。ここカンビオから、フルール皇国の中心都市。皇都カトレアまでの護衛をしてもらいたいの。報酬は百万ガゼル、白金貨一枚。勿論、食事もこっちで用意するよ」


 かなり破格な条件の依頼。それはセトの表情が驚愕に彩られていることでも明らかだ。


「いくつか質問良いか?」

「うん、いいよ。聞きたいことは一杯あると思うから」

「まず一つ。何で俺達を指名する?」

「もう既に君達の名前はカンビオ中に知れてるからね。セトちゃんを下す程の実力者集団なら指名依頼は当たり前だと思うよ」

「そうか。なら二つ目だ。報酬が高過ぎる。その理由は?」


 カケルの言う通りである。掲示板に貼り出すような通常の護衛依頼の相場は大体が一万ガゼルから五万ガゼルだ。賄い付きであれば、もう少し安いかもしれない。その相場を大幅に超えた報酬だ。指名依頼をするにしても高過ぎる。


「それにはいくつか理由があってね。まずは、単純に依頼をより受けてもらいやすくするため。破格の条件なのは重々承知。ひょっとしたら、何か裏があるんじゃないかって思われるかもしれないけど、それも込みでこの報酬額にしてあるの」

「他の理由は?」

「今回フェイが皇都に持ち込む商品は希少価値が非常に高い。その分、守る際のリスクが高いから」

「他は?」

「フェイが臆病過ぎるだけなんだけどさ。セトちゃんは知ってるかな? “天災竜”の事」

「フェレイラさん。その情報をどこで知ったんですか?」


 セトの顔付きが険しくなる。まるで、何かを咎めるように。


「冒険者の人に教えて貰ったんだよ。“天災竜トゥルディオス”の事」

「トゥルディオスって何だ?」

「接近禁止種に分類される太古竜です」

「「「「太古竜?」」」」


 太古竜。現代では想像すらつかない程大昔から生きているとされる竜系魔物の総称。長命故に圧倒的な力を持っており、並の冒険者どころか、やり手のベテラン冒険者ですら討伐すること叶わないと言われている魔物。


 太古竜の持つ固有能力は未知数且強力であり、個体によっては国一つ丸ごとが存亡の危機に立たされる程のものもいる。多くが接近禁止種に分類され、遠目にその姿を見ただけで逃げなければいけないとギルド側から注意される個体すら存在する。


「“天災竜”の異名を持つトゥルディオス。それはその場にいるだけで、大嵐が発生すると言われています。気候変動がそれ程激しくない地域が唐突に悪天候になった場合、即時避難勧告がなされる程には恐れられている太古竜です」

「その力は無比とまで言われてるの。多くの騎士や冒険者が何度も討伐に向かったけど、帰ってきた人は一人もいない」

「“天災竜”たる所以ってことか」


 カケルの言葉にセトもフェレイラも神妙な顔で頷く。


「それでね。その“天災竜”の姿を見たって人がいるんだよ」

「それは本当か?」

「セトちゃんの方が詳しいんじゃないかな?」

「はい。確かに、“天災竜”を見たという報告はありました」

「討伐依頼とかは出さないのか?」

「出せないのです。その報告では、“天災竜”を遠目に見たとなっています。確かに“天災竜”は遠目に見ただけで逃げろとギルド側から言っている個体ですが。その分、それが本当に“天災竜”かどうかの確証がないのです」


 何より、本当に天災竜だったとしても、討伐依頼は出せない。先にフェレイラが言ったように、過去に何度も討伐に向かった騎士や冒険者は天災竜を討ち果たせず、むしろ全滅させられている。これもあり、討伐依頼は出さないことになったとのことだ。


「そうか。まあ依頼の報酬額が高い事に関しては了解した。で、後一つの質問。報酬額に変動はないか?」

「神に誓ってないと言い切るよ」


 カケルが夕姫達三人に目を向ける。「どうする?」という事だ。


「アタシは移動のついでに報酬が付くなら構わないわ。それに、カケルがやりたそうだし」

「私も夕姫ちゃんと同じだよ。カケルくんがやりたいならそれでいいと思うし」

「俺も賛成。飯もきっちり出るみたいだからな」

「そうか。というわけで。この依頼、俺達ラクテウス・オルビスが受けよう」

「ありがとう。高い実力を持ってる人に護衛して貰うこと程心強い事はないよ」


 カケルの返事を受けてフェレイラが笑い、そして場所を移動する。勿論、受付前だ。


「これが依頼書ね。セトちゃん、確認よろしく」

「畏まりました」


 一枚の紙を懐から取り出したフェレイラ。巻かれた紙を開いてから、カウンターに置き、セトがそれを手に取って奥に入っていく。


「依頼内容の精査ってヤツか」

「そうそう。冒険者が不利益を被るような依頼はギルド側としても受けられないからね」

「貴族対策か何かか?」

「理由の一つだね。昔、ギルドが依頼内容の確認を怠って、その依頼を受けた冒険者が大損害を受けたことがあるんだよ。それから、ギルドは依頼内容の確認は怠らないよう、職員の育成はしっかりするようになったって感じかな」

「今はどうなんだ?」

「見たでしょ? セトちゃんがしっかりと精査するから問題はないよ。そうじゃなくても、フェイは騙す気無いしね。不備があったらその都度付け加えるか内容の改変はすることになるから」

「権力や財力を使って強引に依頼を通すとかは?」

「ギルドは冒険者を保護する組織として絶対中立を宣言してるから、権力や財力には屈しないようにしてるんだよ。施設を建てる為の領地とかは国との契約だから貴族が横入りすることはできないからね。そういうのを盾に脅しを掛けられないようにしてる。何より、冒険者ギルドは世界組織だからね。何だったら自分達だけで国一つ立ち上げられるくらいは力があるんだよ」

「だから、どんな脅しにも屈しないってことか」

「そういうこと」


 一時間程すると精査が終わり、セトが奥から出てくる。


「精査が終わりました。問題はありません」

「ありがとセトちゃん。じゃあはい、依頼内容の確認よろしく」

「あぁ」


 渡された依頼書の内容を確認して、カケルが受注のサインをし、四人がギルドカードをセトに渡す。それをセトが確認し、特殊なアーティファクトに読み込ませる事で受注完了だ。


「出発は明朝。九の刻。依頼書に書いてある通り、一分でも遅れたら報酬は減額。異存は?」

「ないな。それで大丈夫だ」

「それじゃ、明日からしばらくよろしくね。後、ご飯に関しては携帯食料とかじゃないから安心してくれていいよ」

「それは助かる」

「うん。それじゃね」


 そのままフェレイラは踊るようにギルドから出ていく。最後まで砕けた口調は全く変わらず、フェレイラの人当たりの良さは結構いいようだ。


「セト」

「何でしょうかカケルさん」

「フェレイラって大商家か何かか?」

「そうです。フルール皇国の四大商家の一つ。プリマヴェーラ家の当主ですよ」

「そりゃすげぇ。そんな人からの指名依頼か」

「実際凄い事です。フェレイラさんは幼少の頃から人を見抜く目があります。彼女の周りに集まる人間はとても優秀な方が多く、冒険者やお抱えの騎士団もそれは同じです」

「ってことは」

「はい。彼女に指名されるという事は、本格的に一流の冒険者として認められるという事になります。カンビオにいる冒険者の多くは彼女に指名されたい冒険者でもあるんです」

「じゃあ、セトも何回か指名されたことがあるのか?」

「是非とお願いされた事はありますが、私は冒険者登録をしているだけの受付係ですのでお断りしていました。職務もありますし、有事の際以外は余り自由が利かないんですよ」

「大変だな」


 カケルのそんな言葉にセトは「自分でやりたいと思ってやってることですので」と言って微笑む。そして、何かを面白がるようにカケル達の後ろを指差す。カケル達が振り返れば、冒険者の人垣ができていた。


 その後、カケル達が質問攻めにされたのは言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る