盗賊テンプレキタコレ

 翌朝。早速SSランク特権を利用して高額好待遇の宿に泊まったカケル達。


 九の刻まではかなり余裕があるが、早いに越したことはないと、準備を整えて待ち合わせ場所であるカンビオの南門前に行く。


 四人が到着すると、そこには既にフェレイラがいた。何故かセトも一緒にいるが。


「おっはよー。ラクテウス・オルビスの皆」

「おはようございます。皆さん」

「おはよう。で、何でセトがいるわけ?」

「今日は仕事が休みですので、皆さんのお見送りをと思いまして」

「わざわざありがとね。セトちゃん」

「いえ、私がお見送りするのはカケルさん達ですが? フェレイラさんはついでです」

「おまけ扱い!? しどいよセトちゃん!!」

「酷いよ、の間違いでは?」

「意味が通じれば問題なーあし!」


 結構下らない漫才が繰り広げられる。カケル達は我関せずだ。


「さてと。カケルっち、もう出発できるよ」

「そうか。なら、行くか。待て、今呼び方おかしくなかったか?」

「それじゃ、馬車に乗って乗って」

「スルーかよ。いいけど。で、御者は?」

「ふっ。一流の商人とは、御者を雇わずに自分の力で馬を操る術を心得た人だと思うフェイちゃんだよ」

「じゃ、短い間だったけど世話になったなセト」

「いえいえこちらこそ、久しぶりに楽しい一日を過ごさせて頂き、ありがとうございました」

「ナチュラルに無視!?」


 フェレイラがブツブツと何か言っているが全く気にしないカケル達。順番にセトと別れを済ませる四人。馬車に乗り込み、カンビオを発つカケル達。


「どうかお元気で~!」


 セトのその言葉を背にカケル達は、フルール皇国へ本格的に入国する。


 カケル達は持っている書状を出そうとしたが、雇い主ということでフェレイラが身元責任者になるため必要ないようだ。書状に関してはフェレイラが破っちゃえというので、織音の魔法で燃やした。意味のない天邪鬼である。




 馬車に揺られて二半時程だろうか。そのくらいの時間が経っていた。


「フェレイラ」

「どうしたのカケルっち?」

「その呼び方には異議があるが、まあいい。良くないけどいい。で、オリュゾンには寄るんだよな?」

「うん。あそこはカンビオ・カトレア間の中継地点みたいなものだからね。何より、お米も仕入れていきたいし」

「米の価格ってどのくらいだ?」

「お米によるよ。まあオリュゾンのお米は最高品質だからね。確か、五キロで八千ガゼルくらいだと思うけど」

「たっけ……」

「まあ高級米として有名だからね。オリュゾン米は」


 カケル達の元の世界であれば、安く済ませようと思えば五キロ千円半ばくらいで買えるものもある。それを考えるとかなり高い。その分、味は保障されるようだ。


「売れるのかよ高級米なんて?」

「貴族とかならバンバン売れるよ。まあフェイの商会はカトレア皇城に直接卸す商会だから。基本的にフェイの御得意様は女皇様ってことだよ」

「女皇?」

「フルール皇国の皇帝だよ。実力だけでのし上がった凄い女皇様なんだ」

「へぇ~。強いのか?」

「そりゃもう強いのなんのって。フェイは女皇様の戦闘を見たことがあるんだけどね。あれはもう化け物とかそんなレベルじゃないかな?」

「カケル以外にも化け物っているのね」

「だから人を化け物扱いすんなっての」

「カケルくん。そろそろ現実を見ようよ」

「織音まで言うか」


 化け物ネタはカケル弄りのタネである。HGOでもカケルは色んなプレイヤーに恐れられていた。一人軍隊ワンマンアーミーの称号は予想以上に広がるのが早く。カケルのアバター容姿付きで噂が広まったため、カケルに攻撃を仕掛ける命知らずはいなかった。通り名は白髪に準えて白き災厄ホワイトカラミティ


 これを知ったカケルがリアルでガッツリ落ち込んだのは言うまでもないだろう。


 現在進行形で凹んでいるカケルが急に顔を上げる。険しい表情になっており、すぐにその目を閉じる。その様子に異常を感じた夕姫が辺りの匂いを嗅ぎ始める。夕姫の《危機察知》は発動していない。それは、異常が発生したとて対応できる範囲だという証明でもある。それでも、一応索敵はするが。


「どうかしたのかな?」

「多分、何かがいるんだと思うよ。カケルくんも夕姫ちゃんも索敵能力が高いから」

「へぇ~」


 しばらくすると、カケルは目を開け、夕姫も索敵を終える。


「人と血の匂い」

「数は三十二。おそらく、盗賊団か何かだろう」

「三十二の盗賊。“紅の餓狼”かな?」

「紅の餓狼?」

「うん。この辺りで主に活動している盗賊団。規模もそれなりに大きいし、被害も多いから近々討伐命令が国から出される予定だったんだよ」

「なら殲滅しても問題はねぇな」


 少しすると、馬が危機を感じたのか停止する。そして、前後左右から黒ずんだ皮鎧を装備した盗賊っぽい男達が現れた。


「よう。積み荷と女を全部置いていけ、男はいらねぇから適当に消えてくれて良いぜ」

「兄貴ぃ。今回の女は上玉ばかりですよぉ! 俺達、超ツイてますねぇ!」

「俺は獣人の娘な!」

「なら俺はエルフの娘だ!」

「俺は人間の女でいいや」

「ちゃんと全員で輪姦まわせよお前ら!」

「「「「へい!」」」」


 お陀仏コースですね。カケルの目の前でそんなこと言っちゃダメだって。


「テメェら。全員ブチ殺す」

「あぁん!? 兄ちゃん、折角見逃してやろうって思ったのによぉ」

「頭に風穴空けてやる」

「やっちまえぇっ!!」


 盗賊が突撃しようとしたその瞬間、銃声が響き、頭目と思しき男の頭が爆ぜる。他の盗賊達は何が起こったかわからず、呆けている間に次々とカケルが頭を吹き飛ばしていく。


 時間にして五分も経っていないだろう。それだけで、カケル達の目の前には屍の山が築かれる。首から上が無い状態で。

 風穴空けるどころか、頭部爆ぜ散らしてるじゃんというツッコミは受け付けない。


「うひゃ~、カケルっち強いね。一人でこの規模の盗賊団を殲滅できる人なんて初めて見たよ」

「で、こいつ等どうすればいいんだ?」

「死体は燃やさないといけない。アンデッドになっちゃうからね」

「了解。頼む織音」

「はいは~い」


 織音がファイアボールを屍山にぶち込む。すぐに燃え出し、燃え尽きる。後処理も終わり、再びカケルが馬車に乗り込んで移動再開。


「で、あれは紅の餓狼って奴だったのか?」

「うん。頭目が指名手配されてて、顔知ってたんだけど。紅の餓狼で間違いないよ」

「そうか。ならいいや。つぅか、報奨金貰えるなら先に言ってくれよな」

「ごめんごめん。でも、カケルっちだって最初に頭目殺っちゃったじゃん」

「それもそうか」


 指名手配されてる盗賊は、生け捕りにして然るべき所に連れて行けば、報奨金が貰えるのだが、キレた時のカケルはそれを知らなかったため、問答無用で頭を吹っ飛ばしてしまったのだ。まあ知っていても夕姫と織音を害する発言をされた時点で殺す気しかなかっただろうが。


「ところでさ。カケルっち」

「んぁ?」

「カケルっちが使った武器だけどさ」

「売らねぇし、作り方も教えん」

「おっと、先取りされちゃったか。一応理由だけ聞いていいかな?」

「仲間と俺の命を守る為の物だ。売らないのは当然だ」

「作り方すら教えてくれないのは?」

「単純に機構が複雑だからだ」

「きこー?」

「簡単に言えば武器の内部構造の事だ。武器一つ作るのに何十とある部品を作るなんて面倒だろうし、俺だってそんな細々としたところまで根気強く教える程優しくない」


 HGOで銃系統の武器を作る時は、《生成》スキルを使って、項目から作れる物を選ぶというシステムだったが、この世界ではそれができない。言ってしまえば、細かい部品等を正確にイメージして《生成》しなければ作れないのだ。


 銃機構の知識が豊富だったからこそスーペルノーヴァが作れただけであり、それを一から教えなければいけない以上、面倒なことこの上ない。


 ちなみに、HGO内では実弾銃を使うプレイヤーがカケルしかいなかった。ガンナー系のジョブは不人気だったのだ。理由は単純に装備やアイテムが嵩張るから。初期プレイヤーのストレージは十種十キロ。実弾銃を使う場合、弾丸をストレージに入れておく必要がある。


 弾丸には幾つも種類がある。今でこそ、魔法付与や《マジックバレット》でしれっと榴弾やら属性弾やらを使っているカケルだが、最初はホントにきつかったのだ。討伐する魔物に合わせた属性弾や予備で使用する通常の弾丸。それらをストレージに入れると、一気に容量が無くなっていく。主に種類的な意味合いで。BPでもストレージ容量は増やせたが、他の使い道が多い為、カケルはそれをしなかった。


 条件報酬というものがあり、ある特定の行動・称号の獲得等をすることによって、依頼クリアや物の売買とはまた違ったサポート報酬を入手できる。その中に、ストレージ容量を増やすものが幾つもあり、それを地道にクリアして、漸くカケルは多くの弾丸を持ち歩く事ができるようになったのだ。


 そして、ガンナー不人気の理由はもう一つ。単純に経費が掛かり過ぎること。


 当たり前だが、弾丸だって只ではない。多種に亘る属性弾、特殊な効果を生み出す弾丸。それらを集めるとしたらかなりの金額が掛かるのは明白だ。一回の戦闘で相当な数の弾丸を使う為、依頼の報酬よりも準備に掛かった金額の方が高いなんて事はザラにあったのだ。カケルはこれに関しても悩んでいた。


 悩んだ末に出した答えは、「自分で作っちゃえ」だ。それが理由で生産系のジョブを取得。最初は材料集めやスキルのレベル上げ、その後、試行錯誤を繰り返し、弾丸を自作するようになる。そこから更に、NPCが売っている銃では攻撃力・耐久値が低く、満足がいかなくなり、武器すら自作し始めたのだ。


 カケルとしては、その頃の事は情けなさ過ぎて思い出したくない。弾丸が余り持てず、使用できる数も少数の為、近接戦はダイキに任せ、夕姫と織音は魔法のサポート。カケルは、外から最小限の援護射撃。魔物ドロップや採掘・採取等で得た素材は多くがカケルに回るようになっていた。ほぼヒモ状態だ。尤も、気にしてるのはカケルだけで、三人は何とも思ってなかったが。


「了解したよ。残念だけど、諦める」

「やけに諦めるのが早いな」

「カケルっちみたいな人はいっぱい見たことがあるからね。そういう人って基本的にお金を幾ら積んでも首を縦に振ってくれないんだよ。だから、余り無茶なことは言わないようにしてる」

「ふぅん」

「嫌われたくもないしね。カケルっち達には今後も指名依頼する可能性あるし。良好な関係を築いて行きたいと思うわけだよ」

「そいつは助かる。割もいいし、よっぽど余裕がない限りは依頼受けることにしよう」

「ありがと。でも、毎回この護衛依頼程の報酬があるかって言ったらそうじゃないからね?」

「重々承知だよ」


 またしばらくのんびり旅が続く。


 カンビオからオリュゾンまでは馬車で丸一日程。時間も割とあるため、のらりくらりと談笑しながらの旅路となる。


 日も暮れ始め、そろそろ野営の準備をしなければいけない時間になる。野営に必要な物はほとんどフェレイラが用意していたため、野営地点を決めるだけで済む。カケルお手製の結界を張るアーティファクトもあり、全員がゆっくりと眠りにつくのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~


 深夜のカンビオ。


 昼とは違いとても静かだ。その静けさは、人によっては恐怖心を煽られるものかもしれない。そんな静寂に沈んだ街中を歩く一人の人間がいた。フード付きのローブを羽織っており、顔は目深に被ったフードで隠れている。胸部の膨らみから辛うじて女だとわかるくらいだ。


 女は東西のメインストリートから一本外れた道を歩いている。向かっているのは西側だ。城壁の傍まで辿り着くと、壁に手を付け、呪文のような何かを唱える。


 それに反応した魔法陣が現れ、壁の一部が横にスライドする。奥には階段があった。地獄へと続いているかのように暗く底が知れない。女は躊躇なくそこに踏み込んでいく。


 しばらく降りると、石畳のある狭い空間に出る。その中央には水晶玉が置かれた台座があり、女はそれに近付き手を翳し、またしても呪文を唱える。水晶玉が反応し淡く輝き出すと、女はフードを外す。


 隠れていた兎耳が待ち焦がれていたかのようにぴょんと立ち上がる。色素の抜けきった白髪と鮮血が顕になっている瞳に整った顔立ちの兎人。間違いなくギルド受付嬢のセトだった。


『何だ?』

「お父様。セトです」

『セトか。どうした?』

「報告したいことが御座います」

『聞こうじゃないか』

「昨日、私と同じ白髪赤目の者を見つけました」

『何!? それは本当か!?』

「はい」

『種族は!?』

「普通のヒューマンです」

『そうか。なるほど、よく報告してくれたな』

「いえ、報告は私の義務ですので」

『これで、あの御方を合わせて三人だ』

「後一人ですね」

『うむ。早く残りの一人を探さねばな』

「それから、もう一つ報告が」

『何だ?』

「先に報告した白髪赤目の者ですが、少々不審な点が」

『不審な点?』

「はい。その者は冒険者登録をするのと同時に、一緒にいた仲間の方々とパーティ登録をしたのですが、その登録時のパーティ名に問題が……」

『続けろ』

「登録したパーティ名は“ラクテウス・オルビス”です」

『何だと!? まさか、メルラークの!?』

「本人達は肯定も否定もしませんでした。その時の様子から、本物の“ラクテウス・オルビス”ではないかと。ですが、少なくともメルラーク王国に関係する者と思われます」

『何という事だ。英雄・・を見つけたと思ったら、懸念材料のおまけ付きか』

「いかがいたしましょう?」

『うぅむ……』

「……」

『可能な範囲でその者の素性を調べてくれ』

「畏まりました」

『こちら側に引き込みたくもある。実力は見たのだろう?』

「はい。実力は申し分ありません。仲間の方々も、かなり高い実力を持っています。おそらく、の皇国五星魔導に匹敵するでしょう」

『あの五星魔導にか? それを聞いた以上、是が非でもこちら側に引き込まねばならん。急ぎ、素性を調べるのだ。セト』

「畏まりました。報告は以上です」

『うむ。これからも期待している』

「ご期待に応えられるよう最善を尽くします」


 そのまま水晶玉は輝きを失う。


 セトはまたフードを被って耳と顔を隠し、その小さな空間から出ていく。

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