時蝕の森、踏破

 麒麟を見事撃破し、一段落したところで、カケル達の頭の中に無機質な声が響く。


《ギフトダンジョン『エテルノアルベロ』をクリアしました。条件を満たしたため、特殊スキル《時間操作》を習得しました》


「やっぱギフトダンジョンだったな」

「そうね。《時間操作》か。使えるかしら?」

「鍛錬は必要になると思うけど、使いきれないってことはないと思うよ?」

「俺も使えっかなぁ?」

「男勢は微妙ね。カケルはマジックバレットがあるから大丈夫だと思うけど、ダイキはきついんじゃない?」

「ダイキくんは神魔纏なんて反則技があるんだから時間操作使えなくてもいいと思うよ?」


 カケルは直接の魔法発動というのが感覚的にただ苦手なだけで使えないというわけじゃないが、ダイキの場合は《神魔纏》という公式チートなユニークスキルを持っている。その代償として通常の魔法を発動する時に十倍のMP消費が必要という制約がある。故に、ダイキは魔法を使わないで近接戦闘をしている。


 神魔纏は時間経過と共にMPが減っていくが、普通に魔法を使うよりはかなり燃費がいい。攻撃する時、その攻撃次第では一気にMPが減ることもあるが、それでもボール系の魔法を使うよりは強力な攻撃になる。十倍の消費でボール系を撃つくらいならそっちの方が遥かにマシである。


 要するに、ダイキは魔法の使用を諦めろということだ。


「ま、しゃーねぇな。確かに、魔法使うよりかは神魔纏で一気に攻撃する方が好きだわ」

「運営側もこういう脳筋の為に、よくこんなスキルを作った物だ」

「おいカケル。そりゃどういう意味だぁ?」

「そのまんまの意味だ」


 いつも通りのカケルとダイキの言い争い。夕姫達は肩を竦めて苦笑している。


 そこで異変が起こる。というか、四人が既に体験している事。転移魔法陣が部屋全体に広がり強烈な光を放つ。そして、気付いた時には森の真っ只中にいた。というか、ダイキがトラップを発動させてしまった場所だった。


「終わりってことかしら?」

「そうだね。私達の時も終わったらすぐにダンジョンの外に転移させられたし、これでギフトダンジョンは終わりだよ」

「さて、ならとっとこの森抜けようぜ」

「だなぁ。さすがにもううんざりだぜ? こんな樹海の真っ只中にいるっていうのは」

「「「誰のせいで時間喰ったと思ってんだ(のよ、るの)!!」」」

「すみましぇん……」


 そこでカケル達がメニューを開いて時間を確認すると昼時だった。ストレージの中にある適当な食料を食べて、探索を再開する。カケルと夕姫を前にし、その後ろにダイキと織音が続く。索敵や罠察知はカケルと夕姫の得意分野なため、探索はいつもこの並びだ。そして、マッピングをするのは織音の仕事。


「にしたって無駄に広いなこの森」

「ホントだよね。もう疲れてきた」

「アタシも……」

「楽すんなっつぅことじゃねぇか?」

「マッピングなんてそう楽な物じゃないけどな」

「それがわかってるなら手伝ってよぉ!」

「織音。駄々っ子みたいな言葉遣いはやめて。ちょっとイラッとする」

「はうっ!? 夕姫ちゃんが怖い……」

「怖いかぁ?」


 愚痴りながらも歩は進め続ける四人。途中出てくる魔物はカケルが銃弾一発で沈めていくため、余計暇な道程になってしまっている。最初こそ愚痴やらバカ話やらしていた四人も、二時間程経過した頃にはほとんど口を聞いていなかった。険悪な雰囲気というわけではなく、単純に怠いだけだ。


 そして遂に空が藍色に染まり始めたところでようやく森の出口を見つけた。というより、森を抜けていた。ゲームみたく画面が切り替わるとかそんな演出があるわけじゃないため、四人はしばらくの間森を抜けたことに気付いていなかった。


 森を抜けたとわかった時、四人は精神的な疲労からその場に座り込んだ。日は地平線の向こうに消え、辺りはすっかり暗くなっていた。今日はここで野宿だろう。


 野営の準備をする。完全に気力が失せている四人は料理を作るということもせず、ただテントを張って寝ただけだ。見張りとかつけなくて大丈夫かい?


 はい。大丈夫です。


 何故ならこれは、カケル作魔物除けテントだからです。この中に入っていれば魔物に気付かれずに寝ることができます。効果はHGOで実証済みだ。


 というわけで、おやすみなさい四人共。時蝕の森の踏破、お疲れ様でした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る