麒麟
戦闘再開から十分が経過していた。
現在、ボス部屋は灰色の煙が濛々と立ち込め、何も見えない。唯一は空中にいる四人の男女だ。当然カケル達であり、この惨状はカケルのステラカデンテが作り出したものだ。
要するに面倒くさくなってステラカデンテをブッパしちゃったわけである。
戦闘を楽しむ余裕はない。ゲームなら楽しめる。しかし、何度も言うが、これは
ステラカデンテ超連射が終わり、すぐに織音が風を操って煙を掃う。煙が霧散すると、そこにいたのは無傷の麒麟だった。カケルが看破する。
麒麟 Lv150
種族:霊獣
職業:‐‐‐
HP:13920/13920
MP:12840/12840
AP:0/10320
STR:12821
VIT:12478
INT:10239
MEN:11046
AGI:9857
LUK:100
スキル:《魔力操作Lv10》《蒼炎魔法Lv6》《海流魔法Lv4》《颶風魔法Lv7》《大地魔法Lv4》《雷霆魔法Lv7》《氷結魔法Lv4》《神聖魔法Lv5》《深淵魔法Lv3》《HP自動回復Lv10》《MP自動回復Lv10》《AP自動回復Lv10》《剛力Lv6》《金剛Lv5》《神速Lv7》
アーツ:《インプレグナブル》《イモータル》《ライトニングファスト》《オールシャワー》
称号:《神霊》《守護者》《統率者》
BP 2965pt
否、完全に復活のアーツ《イモータル》を使っていた。証拠はAPとBPである。ようやく終わりが見えてきた。
『来い。人の子らよ』
そう言う麒麟にダイキは肉薄していた。その右拳は雷を帯び黄金の光を放っていた。
「“極雷拳”!」
雷拳が麒麟に炸裂する。強力な拳の一撃。しかし、麒麟の鱗は貫けなかった。インプレグナブルは使っていない。純粋な硬さでダイキの一撃を無効化した。
『ぬるいわ!』
「ぐぁあっ!?」
麒麟が魔力を爆発させる。衝撃波が発生しダイキを吹き飛ばす。その直後、麒麟に三十倍の重力が掛かる。織音の重力操作だ。
『重力を増したところで動かずに攻撃するなど容易いわ!!』
麒麟がその強靭な顎門を開く。魔力が収束していき、そのまま開いた顎門を夕姫と織音のいる場所に向ける。
『“ゲイルブラスト”!』
颶風魔法Lv4《ゲイルブラスト》。強大な破壊力を持つ竜巻を放つ魔法だ。最終進化まで遂げた颶風魔法で最も早く覚える大群戦用戦術魔法だ。人の意志で操れる分、猛威を振るう自然災害よりも恐ろしい。
殺戮の竜巻と夕姫達の間にカケルが滑り込む。
「“ダークホール”!」
漆黒の防御圏が夕姫と織音ごとカケルを守る。しかし、織音の集中が切れ、グラヴィテイションは解けてしまう。
「“カーレントストライク”!」
すかさず夕姫が魔法を発動。虚空より現れた強力な水流が麒麟を直撃する。
海流魔法Lv4《カーレントストライク》。ゲイルブラストと同じく大群戦用戦術魔法だ。任意の場所から対象へ向けて高水圧の海流を放つ。
『ふっ。効かぬ』
「なっ……」
だが、それを受けても麒麟は意に介していなかった。
『こちらから行くぞ』
ドンッ!!
空間を揺るがす程の重低音が響き、麒麟はその姿を消す。
「皆——」
「がぁああああああああっ!?」
気を付けて、と織音が忠告するより前に、カケルが夕姫と織音の傍から消える。そして、後方から爆音。夕姫と織音がそちらを見れば、麒麟の角に刺し貫かれながら壁に叩き付けられたカケルの姿があった。
「「カケル(くん)!!」」
角を抜かれたカケルは、そのまま重力に従って床に崩れ落ち、ピクリとも動かない。その死に体のカケルに止めを刺そうと顎門を開いて魔力を収束させる。
「っの野郎!」
ダイキが極雷拳を麒麟の頬へめり込ませる。急に力が加わり、強制的に顔を反らされる麒麟。収束された魔力は別の方向へ向けられた。
『こざかしい!』
麒麟が反らされた頭部をダイキに向けて振り抜く。麒麟の角がダイキの体を弾き飛ばし、ダイキは壁に叩き付けられる。放射状に走る罅がその威力の高さを物語っている。そして、ダイキもカケルと同じように地面に倒れて動かなくなる。
『鬱陶しい! これで最後だ!!』
麒麟が身を翻し跳躍。広場の中央、その上空へ至った時、これまで以上の魔力が麒麟へと集まっていく。それが終わると同時に放つ強力無比な魔法。
『“テンペストブレイク”!』
麒麟を中心に爆風が吹き起こる。
颶風魔法Lv7《テンペストブレイク》。込めた魔力に比例して威力が増す爆風を起こす戦略魔法。魔力次第では万単位の敵さえ一撃で戦闘不能にできる大魔法である。
夕姫と織音は吹き飛ばされ、カケルとダイキのように動かなくなる。
この場所で動けるものは麒麟以外にいなくなった。着地した麒麟は悠々と歩を進め、まずは固まっている夕姫と織音に近付く。
蹄のあるその足を振り上げる。そして、容赦なく振り下ろす。しかし、それは二人に届かなかった。
『まだ抵抗する力があるか』
「体…動かなくたって…魔法は使えるから……」
漆黒の防御圏が二人を守る。使っているのは織音だ。すぐにでも落ちてしまいそうな意識を強靭な意思で鞭打って保っている。
「……“トネル・ラム・ロタシオン”!」
防御圏の外に立体的な魔法陣が展開され、雷円盤が現れる。しかし、数は一つ。
『そんなもので何ができる?』
「喰らえば…わかるよ…」
紺碧の雷円盤が麒麟に襲い掛かる。紺碧雷の刃は鱗を砕き、さらにその下にある肉すら切る。
『ぐぉおおおおおおおおおっ!?』
「舐めてかかったらこうなるんだよ!」
『この小娘ぇええええええっ!!』
パァンッ!
乾いた銃声。そして、爆発。
『ぬがぁああああああああっ!?』
「同じく、俺らを舐めんなよ」
麒麟が銃声の元を見ると、血だらけになりながらもブレることなく真っ直ぐにヴェガの銃口を向けているカケルの姿があった。当然、しっかりと地に足裏をつけている。
『貴様、動けなくしたはず!』
「アホか。女が立ってる時に寝てるダサい男がいるわけねぇだろ!」
『この――』
「あぁカケルの言う通りだぜ! “極雷息吹”!!」
『ぬぐぉおおおおおおおおっ!?』
ダイキのザ◯ルガが鱗の砕けた部分に直撃する。その時には夕姫も起き上がり、既に魔法陣を展開していた。
「“タイダルウェーブ”!」
『なぁああああああああああっ!?』
海流魔法Lv1《タイダルウェーブ》。名前の通り大津波を発生させる魔法だ。攻撃力はほとんどなく、大きな魔物や大群との距離を強制的に作るための魔法として使われる。
激流によって壁に叩き付けられる麒麟。すぐに体勢を立て直し、前を見据える。既に四人は麒麟へ向かって走っている。
「魔力全開で攻撃だ! 最後の一撃に全て掛けろ!!」
「当然よ!」
「これで終わらせる!」
「任せとけぇっ!!」
一応カケルと夕姫と織音はMP自動回復を最大レベルで持っているため戦い続けようと思えばできるが、ダイキだけはMP自動回復を持ってない。ドラゴナイズに適応する属性を食べれば回復できるのに自動回復まであったら無敵すぎるからだ。運営はその辺シビアです。
カケルのアルタイルによる六連速射。それを麒麟は普通に避ける。君速いね。
「“メテオリット・オラージュ”!」
熱を帯びた岩石が無数に降り注ぐ。
《メテオリット・オラージュ》。織音のオリジナルスペル。土魔法の応用で生成した岩に蒼炎魔法で熱を付加し、重力魔法で一気に加速させ隕石のように落とす。織音の最初に作ったオリジナルスペルでもある。
圧倒的な破壊力を持つ隕石群を右に左にと避ける麒麟。しかし、この無数の隕石群だ。全て避けるには至らない。何発も喰らい大ダメージを受ける麒麟。そして、そこに追い打ちを掛けるためにダイキが懐に入り込む。
「喰らえっ! “雷獄螺旋刃”!!」
『ぐぉおおおおおおおっ!!』
雷を纏った両腕を弧を描くように振るい、そこから発生した螺旋の雷刃が麒麟を切り刻む。ダイキの滅◯奥義の勢いで麒麟は中空まで打ち上げられる。
打ち上げられた麒麟に向けて夕姫のクロチェデルスッドが向けられる。チャンバー部に魔力が収束していく。周りの魔力まで吸い込んでるんじゃないの? と思うくらいには魔力が溜まっていく。
「死ぬ程痛いわよ!」
その言葉と共にトリガーが引かれ、収束された魔力が一気に照射される。
『ぐぁあああああああああああっ!?』
必滅の高密度光線が麒麟を貫く。極光の魔力砲には一時的な治癒不可の追加効果がある。麒麟のHPはしばらくの間、全く回復しなくなる。
「後は任せたわよ――「「カケル(くん)!!」」」
「任せろ!!」
三人の強い言葉を受けたカケル。瞬間、爆発したかのように力が増幅する。パラメータが三倍になっているのだ。これこそスキル《限界突破》。深紅のオーラを纏いながら麒麟と全く同じ高度まで跳躍するカケル。その手には肩掛けにできる程長い砲身を持つ兵器が握られていた。
カケルが昨日作った新兵器。幻神砲スーペルノーヴァ。破壊魔法を付与した弾頭をぶっ放すロケットランチャーだ。その破壊力は折り紙付き。ただし、試射をしていないためどのくらいの破壊力を秘めているかは未知数である。そこに限界突破のパラメータ上昇が加わればさらにだ。
「木っ端微塵に爆ぜ散れ!」
その言葉と共に撃ち放たれる破壊弾頭。発射と同時に点火されたロケット弾が麒麟に向かってすっ飛んでいく。麒麟の頭部に命中して炸裂。そして、破壊魔法発動。ブァンッ! という音と共に黒球が麒麟を呑み込み、高威力の衝撃波を辺りに撒き散らす。つまり、
「「きゃああああああああああああっ!?」」
「「だぁああああああああああああっ!?」」
カケル自身を含めた四人まで吹っ飛ばすわけです。もうちょっと味方に優しい攻撃をしようよカケル君。
黒球の明滅。亀裂が入り、砕けていく床や壁。断末魔の悲鳴を上げる麒麟。ゴロゴロ転がるカケル達。
たっぷり三十秒間破壊を齎した権化は消え、後には瓦礫の山とそれに埋もれるカケル達がいた。カケルが瓦礫をどかして立ち上がり、しっかりと麒麟の討伐、ではなく消滅を確認し汗を拭う。
「ふぅ。死ぬかと思ったぜ」
「「「コッチのセリフだぁああああああああああああああっ!!」」」
カケルの言葉に瓦礫から飛び出し大声量でツッコミを入れる夕姫達。そのままカケルに詰め寄る。
「アンタねぇ! アタシ達まで殺す気なの!?」
「冗談抜きで死に掛けたんだよ今!?」
「お前俺達に加減しろとか色々言うくせに自分はそんなん度外視じゃねぇか!!」
「悪かったって。俺だってあそこまでとんでもない威力だと思わなかったんだよ」
「「「試射ぐらい済ませとけぇええええええええええっ!!!」」」
カケルが説教される。しかし、その途中で大怪我によるダメージが襲い倒れる。
「カケル? ちょっとどうしたのカケル!?」
「カケルくん!? しっかりしてよカケルくん!!」
「おい目を覚ませカケル! 寝たら死ぬぞ!!」
それは雪山で言う言葉だ。
「カケルの脈が少ない!」
「えぇっ!? カケルくんダメだよ! 冥府に旅立っちゃ!!」
「カケルぅっ! 気をしっかり持てぇっ!!」
「うわぁっ! もう看過しかねる出血量なんだけど!?」
「カケルくーーーーーんっ!!」
「カケルーーーーーッ!!」
「あ、脈が……」
「ザ、ザ◯リクーーーーーーー!」
「落ち着け! この世界に蘇生魔法はねぇぞ!」
カケルはリバイバルバレットなんて使ってなかったわけで。腹にぽっかり穴が開いた状態でロケランとかぶっ放すなよ。体に悪いぞ? そして、その代償がこれである。折角麒麟を倒せたというのにあっという間に緊張感のない日常に戻ってしまう辺り、この四人は大概だ。
この後、普通に神癒魔法でカケルの怪我を治し、織音の魔法電気ショックで何とかカケルは助かるのだった。
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