瑞獣


 織音がカケル・夕姫・ダイキ(+おまけ)を気絶させるという暴挙を行った翌日の朝。


 カケルと夕姫と織音の三人は既に目を覚ましていたがダイキはまだ獣のようなイビキをかいて寝ていた。


「で、コレどうする?」

「ソレはいてもいなくても変わらないし、三人で先に行こ。後から追いかけてくると思うよ」

「お前らさ。幼馴染なんだからコレとかソレとかの指示語を使うなよ」


 夕姫と織音の酷い遣り取りにツッコミを入れるカケル。ただ、この言い方だとそれ以外の人はどうでもいいということになる。まあカケルにとってはその通りだが。


「だってもう九時よ? いくらなんでも起きるの遅すぎでしょ」

「もう無理やり起こしちゃおうよ」

「その方が良さそうね」

「それじゃ――」

「おい待て。お前ら何する――」

「電気ショックえいっ!」


 カケルが「つもりだ!?」まで続ける前に織音が可愛い掛け声とともに魔法の電気ショックを決行した。


「あばばばばばばばばばばばばばばば!」


 ダイキの丸焼きが完成だ。見事に黒焦げである。 ※寝起きでいきなりの電気ショックは命に拘るので良い子は真似しない様にしましょう。


「ダイキくん。起きた?」

「あぁ。キツイ起こし方をサンキューな」


 頭をボリボリ掻いて言うダイキ。焦げた部分は綺麗になっている。さすがファンタジー。修復が早い。


「さて、起きたところでダイキよ。俺達に対して何か言うことは?」

「なんかあったか?」

「おりゃああ!」

「タコス!」


 カケルの回し蹴りが炸裂。ダイキは織音に向かって吹っ飛んでいく。


「えいっ」

「ごぺっ」


 織音の重力操作が発動。通常の三十倍の重力がダイキを地面に叩き付ける。精神と〇の部屋も真っ青の重力だ。それでもダイキはぺっちゃんこにならない。頑丈だね。


「“ウォーターフォール”」

「ぶぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」


 最後は夕姫の水魔法。空中から降り注ぐ大量の水。その名の通り、滝である。


「な…何で…夕姫と、織音まで……」

「「「現状を作り出した元凶への罰」」」


 確かにダイキが罠を発動させなければ今こんな状態になっていようはずがない。元凶と言えば確かに元凶だろう。罰にしては重すぎる気はする。一般人にこんなことすれば必死だろう。


 ダイキへの制裁も終わり、四人はとりあえずご飯にする。ストレージに保存している食材を夕姫と織音が調理する。カケルお手製の丸テーブルが置かれ、四つの座布団が並ぶ。食卓には豪勢な朝食が並んで行く。ダンジョンの真っ只中とは思えない。そして、美少女二人の手作りご飯。間違いなく嫉妬と殺意の嵐が吹き荒れるだろう。


「「「「いただきます」」」」


 四人が食べ始める。食べ終わる。かのフードファイターも真っ青の早食いっぷりだ。


「「「「ごちそうさまでした」」」」


 手際よく後片付けをして向き合う四人。これまでのことを報告し合うためだ。


「そうか。やっぱりお前達も四神とやり合ったのか」

「えぇ。結構厄介だったわ」

「私の方もだよ。あれ、普通の人達じゃクリアできないんじゃないかな?」

「あぁ。単騎であいつらとやり合えんのは俺らぐらいだろうよ」


 カケル達の戦った四神。常人がクリアできないのは確実だろう。しかし、それにしてもステータスが高過ぎる。通常の魔物の方はHGOでも倒したことがある。ステータスも知っており、カケル達の知るステータスと大差のない魔物だったが、大樹迷宮に入った途端にそれが跳ね上がった。カケル的にはそれが不思議でならなかったのだ。そして、一つの可能性に思い至った。


「これはあくまで俺の予想なんだが。これはギフトダンジョンなんじゃないか?」


 ギフトダンジョン。クリアした際に特別なスキルや魔法が手に入るダンジョンのことである。織音の持つ重力操作のスキル。これはギフトダンジョンで入手したスキルだ。ただし、他三人が寝落ちした後に一人でダンジョンに行ったため、持っているのが織音だけなのだ。それを知った他三人が苦笑したのは言うまでもない。


「可能性はあるよ。もしそうだとしたらこの難易度も納得できるから」

「アタシもそう思う。ちょっと強すぎ。ギフトダンジョンだって仮定して進んだ方がいいと思う」

「だな」


 話がまとまり、四人は立ち上がる。


 広場の中央に向けて歩き出し、そこにあった転移魔法陣の上に四人で乗る。魔法陣が輝きだし、四人を包む。


 転移したのは白塗りの広場だった。正確には木肌が白い。そして、


『よく来たな。挑戦者よ』


 一体のデカい魔物がいた。

 鹿に似た姿。大きく背丈が三メートル程はあり、顔は龍に似て、牛の尾と馬の蹄を持っている。背毛は五色に彩られ、毛は黄色く、身体に鱗がある一角獣がそこにいた。



麒麟 Lv150


種族:霊獣

職業:‐‐‐

HP:13920/13920

MP:12840/12840

AP:10320/10320

STR:12821

VIT:12478

INT:10239

MEN:11046

AGI:9857

LUK:100


スキル:《魔力操作Lv10》《蒼炎魔法Lv6》《海流魔法Lv4》《颶風魔法Lv7》《大地魔法Lv4》《雷霆魔法Lv7》《氷結魔法Lv4》《神聖魔法Lv5》《深淵魔法Lv3》《HP自動回復Lv10》《MP自動回復Lv10》《AP自動回復Lv10》《剛力Lv6》《金剛Lv5》《神速Lv7》


アーツ:《インプレグナブル》《イモータル》《ライトニングファスト》《オールシャワー》


称号:《神霊》《守護者》《統率者》


BP 22965pt



 クリアさせる気ないよね? 四人の気持ちはこれで統一されるだろう。


『我は全ての霊獣をまとめ、中央を司る瑞獣、麒麟。我を打倒せし者に力を与えん』


 カケルはアルタイルとヴェガを構え、ダイキは神魔纏を発動し神雷を纏う。夕姫と織音は後ろから魔法でのサポートだ。


『いざ!』


 ダァ―――――――ンッ!


 カケルお得意の初っ端速射だ。だが、麒麟はそれを横に跳ぶことで躱す。着地、その場所に夕姫が発動した魔法陣が展開される。


「“ピアースロック”!」


 土魔法の一段上の岩石魔法。Lv5で使えるようになる魔法で、指定した場所から鋭く尖った岩石を突き出すものだ。ただし、場所指定は使用者の魔力に依存し、遠ければ遠い程消費MPは増えていく。


 岩が地面から突き出て麒麟を串刺しにしようと迫る。それをまたしても避ける麒麟。


『こちらからも行かせてもらおう』


 上空に魔法陣が展開される。そこから火球、水球、風球、土球、雷球、氷球、光球、闇球と全属性のボール系魔法が降ってくる。これがアーツ《オールシャワー》だ。


「こっちは私が対応するよ。“エトワール・フィラント・プリュイ”!」


 魔法名(ワード)を唱えサントゥアーリオが輝く。織音の足元に魔法陣が浮かび上がり、オールシャワーに対抗するように全属性のボール系魔法が射出され、全てが相殺・爆散していく。


「がら空きだぞ」

『ぬっ!?』


 麒麟の懐に入ったカケルがアルタイルの銃口を向け引き金を引く。


 ダァ―――――――ンッ!


 六発の致死弾が麒麟を襲う。金属同士がぶつかり合ったかのような甲高い音が響き、弾丸は麒麟の皮膚に若干めり込んだだけで終わる。少しだけ罅も入っているようだ。


「チッ。《インプレグナブル》か」


 インプレグナブル。指定の部位の硬度を増大させるアーツだ。カケルの戦った玄武がステラカデンテの大爆撃を受けてほぼ無傷だったのもこのアーツのせいである。麒麟は自らの鱗を対象に指定してこのアーツを発動させているのだ。玄武の場合は甲羅を指定したために蛇の方が無残に散ったが。


『それでも、我の鱗に罅を入れるだけお主も大した奴だ』

「ありがとよ。ただ、四対一だってこと忘れんなよ?」

『忘れているわけがない』


 夕姫が右手を突き出す。手首には白金の腕輪を着けている。織音の創ったオリジナルスペルを記憶させているこの腕輪、メモーリア。記憶可能数は十で、織音のサントゥアーリオと違って応用させられない。つまり、記憶したらそのままの魔法しか使えない。


「“ファンダマンタルドラゴン”!」


 メモーリアが光り、夕姫の周りに八つの魔法陣が展開される。そこから各属性の龍が生み出される。そして、炎龍と水龍が顎門を開きながら強襲する。


『おぉおおおおおっ!!』


 麒麟の立つ場所が輝き、白い稲妻が走る。それは強襲する炎龍と水龍を迎撃し、霧散させる。さらに稲妻は広がり四人をも襲う。


 カケルは盾をストレージから取り出して構え、稲妻を無効化する。夕姫はヴォルペ・ヒューマンとしての瞬発力とステータス譲りの敏捷力と動体視力で躱していく。織音は流星群を放ち続けながらダークホールを展開して防ぐ。ダイキは稲妻を食いまくっている。


 麒麟の放電が終わると同時にダイキが上体を反らせ、たっぷり息を吸い込む。


「“極雷息吹”!!」


 大口を開けて麒麟に向けて雷のブレスが放たれる。凝縮された雷はまるでザケ◯ガだ。それと同じように貫通力が高い。


『うぐぁああああああああああっ!?』


 その貫通力は確かに活きた。カケルの銃弾で罅を入れるのがやっとだった麒麟の鱗を貫き、直接ダメージを与える。


「うっしゃああああっ!」


 ブレスが直撃した部分の鱗は砕け散り、その下の皮膚が露になる。


『ダイキの攻撃を基点にする。夕姫は俺とダイキの攻撃で露になった部分を狙え』

『分かったわ』

『織音は引き続き麒麟のアーツや魔法への対応だ』

『任せて!』

『ダイキは暴れ回れ』

『俺の指示適当じゃねぇか!?』

『行くぞ!』

『『了解!』』

『行っちゃうのかよ!?』


 ダァーーーーーーーンッ!


 アルタイルの速射。麒麟から魔力が発され岩石の壁が出来る。弾丸はその壁に当たり、貫通すること叶わず陥没させるだけで終わってしまう。


「硬すぎだな」

「“極雷息吹”!」


 ダイキの雷のブレスが壁を破壊する。それだけでなく、そのまま麒麟まで一直線に進む。しかし、そこには既に麒麟はおらず、雷竜の息吹の攻撃範囲外に移動していた。


 麒麟は魔法を使ってオールシャワー以外にも魔法攻撃を加えてくる。麒麟が光の矢を放つ。ダークホールを解除した織音がオールシャワーと同様に光の矢を同じ光の矢で打ち落としていく。そして、夕姫が鉄龍を操って麒麟を狙う。


『そんなもの我ならば避けられる!』

「まあそう慌てんなって」


 カケルのアルタイルとヴェガ。二つの銃口が火を吹く。速射で放たれた合計三十四発の弾丸が麒麟の鱗にめり込み、二十八回の爆発が起こる。勿論、ヴェガのマジックバレットだ。《バーストバレット》。爆裂魔法を使った榴弾である。まあ普通の榴弾に比べたら威力は段違いだが。


『がぁああああああああっ!?』


 そこでダイキの雷ブレスが当たる。そして、夕姫の鉄龍が麒麟に巻き付いて拘束する。そこに殺到する嵐龍と光龍。


 嵐龍と光龍が麒麟に食らい付き爆発。轟音が響き、辺りは爆煙に包まれる。


 数十秒間立ち込めていた煙も消え、そこにいたのは満身創痍の麒麟だった。カケル達はここぞとばかりに攻勢に出る。カケルはガラシアを持って射撃体勢に入り、チャージを始める。夕姫は残り全ての龍、雷龍、氷龍、闇龍を一気に殺到させる。織音はオールシャワーを相殺しながらフォルト・トネルを発動。ダイキは魔力を込めに込め、全力の極雷息吹を放つ。


 次々と魔法が当たり、HPを削っていく。最後にガラシアの射撃が麒麟を撃ち抜く。


『ぐぁあああああああああああっ!!?』


 麒麟はそのまま倒れる。オールシャワーは止まり、その場が静寂に包まれる。カケル達が麒麟を視れば、HPは0になっている。スキル表示は全て灰色に染まり、発動してないことは明らかだ。というより、生命活動は完全に止まっている。


 警戒をしながらもカケル達は一か所に集まる。


「やったと思うか?」

「まだね。アイツはイモータルを持ってるから、その内起きると思う」

「不意打ちを受けないためにも警戒は怠っちゃダメだよね」

「だなぁ。俺もなんつぅか、やってやったって感じはしねぇんだよな」

「やっぱそうだよな。警戒するに越したことはないか」


 数秒、数十秒と時間が経っていき状況が動く。麒麟のHPが0から全快し、同時にカケル達の足元に魔法陣が展開されて火柱が昇る。四人は危なげなくそれを躱し、またしても戦闘態勢に入る。


『不意打ちが通用しないとはな』


 麒麟は悠然と佇んでいた。これがあと一回あるのかとカケルはうんざりした。


「不意打ちなんて卑怯で汚いことは神獣のやることじゃないと思うけどな」

『はっはっは。こんな言葉を知っているか?』

「あん?」

『卑怯・汚いは敗者の戯言だ!』

「お前最低過ぎんだろ!」


 カケル達と麒麟の戦いはまだ続く。

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