天地雷鳴

「おらあっ!!」


 裂帛の気合が空間に響く。直径百メートル程の半球状の部屋にて一人と一頭が戦っていた。


 一人は勿論ダイキだ。右手には抜身の両刃剣が握られていた。これこそ幻神聖剣インフェルノだ。黒と赤の刀身を持つそれは大分禍々しい。何でこれが聖剣なのかがわからない。その聖剣(?)が飛来していた蒼火球を一刀両断する。


「やるではないか」


 そしてこちらが一頭の方。緑の鱗がびっしりと並ぶ蛇のような姿、東洋の龍だ。勿論、ダイキが「神〇よーい! 出てきておくれ!」とか言ったわけじゃない。



青龍 Lv150


種族:霊獣

職業:‐‐‐

HP:4201/5732

MP:3568/5278

AP:1734/2194

STR:3981

VIT:4012

INT:4597

MEN:4898

AGI:3659

LUK:100


スキル:《魔力操作Lv6》《蒼炎魔法Lv1》《颶風魔法Lv3》《雷霆魔法Lv1》《HP自動回復Lv6》《MP自動回復Lv10》《金剛Lv6》《神速Lv4》


アーツ:《トルネードブレイク》《ユニバースサンダー》《フレイムコイル》


称号:《神霊》《守護者》《天地雷鳴》


BP 19416pt



 四神最後の一頭にして、東の大樹エストアルベロの最終試練、青龍。その青龍とダイキが闘い始めてかれこれ一時間近くが経っている。持ち前のステータスと、VRゲームでの戦闘経験を活かして敢闘しているが、青龍のHPやVITが中々高い上にHPの自動回復スキルで体力が回復していくため、斬撃のみでダメージを与えていってるダイキはかなり苦戦していた。カケルの作った装備を身に付けていなければとっくの昔に死んでいただろう。


 青龍が身を捻って力を溜め始めると、その長い胴に翡翠色の風が纏わりつく。力を籠める時間が長く、それが大技であろうことは容易に想像できる。


 アーツ《トルネードブレイク》。竜巻を身に纏い突進をかますアーツだ。纏う風は日本刀のような切れ味を持ち、掠るだけでも深い裂傷ができる。まともに喰らえば間違いなくミンチになるだろう。


「これで散るがいい!」

「来いやぁ!」


 ダイキは聖剣(?)を振り上げ、右上段に構える。刀身には魔力を通して耐久力を上げている。真正面から青龍の突進を受けるつもりなのだろう。


「おぉおおおおおっ!」

「らぁあああああっ!」


 青龍の突進に対して、全力で聖剣(?)を振り下ろすダイキ。翡翠の暴風と青服の男がぶつかり合う。相当な威力があるのか、その場所を中心として放射状に地面が罅割れていく。


 数秒、あるいは数十秒か。一人と一体の衝突が続くが、どちらにも軍配は上がらなかった。


「うおっ!?」

「ぬあっ!?」


 お互いの力によって弾かれる。ダイキは空中でバク宙かまして地面を滑りながら着地する。青龍も空中戦に慣れているのかあっという間に体勢を立て直す。


 ダイキは聖剣(?)を中段に構え直し、青龍を看破する。ダメージはほとんど入っておらず、むしろ自動回復の恩恵によって現在進行形でちょっとずつHPが回復していた。


「クッソ。こういう時はホントあの三人が羨ましいわ」


 四人の中では唯一自動回復系のスキルを持っていないダイキ。自動回復系スキルの取得条件を達成するのは、実はかなり簡単だ。なんせLV100になるだけで覚えられるスキルなのだから。では、なぜダイキがそんな簡単に覚えられるスキルを持っていないのかと言えば、ダイキのユニークスキルが原因である。


 そのスキルが強大なものであるからこそ、その代償に自動回復系スキルを取得できないという条件が付けられた。ダイキ自身、最初は嫌だったが、しばらくゲームを続けている内に全く気にならなくなった。有用なスキルだったからだ。そうじゃなければ間違いなくアバターの再々作成をしていただろう。


「しゃあねぇ。ダメージもあんま与えきれてねぇし、使うとすっか。めっちゃ疲れるけど」

「さっきから何をブツブツ言っている?」

「すぐわかるさ」


 聖剣(?)を納刀したダイキの足下に魔法陣が描かれ、輝きを放つ。


「む!? 何だこれは!?」


 凄絶な光が収まった時、そこにいたのは全身が紅色に染まったダイキだった。正確には全身が鮮血を思わせるような赤い炎に包まれている。


 《神魔纏》。これこそがダイキのユニークスキル。単なる魔纏とは一線を画す究極の魔纏スキル。付加属性:神は通常とは異なる性質を持つ。ステータス補正や属性付加が普通の魔纏だが、神魔纏は意のままに纏った属性を操るという力がある。加えて、纏ったのと同じ属性(焔なら火)を喰らうことで魔力を回復できる。


「来いよ青蛇」

「誰が蛇か!」


 青龍の顎門が開かれ、蒼炎の球が放たれる。ダイキはそれを受け止め、


「あぐ…あぐ…」

「はァ!!!?」


 食べた! 食べちゃった! 炎食べちゃったよ! サ〇マンダーか貴様!


「ふー。ごちそう様でした」

「な・・なな・・何だコイツは―――――っ!!!?」

「食ったら力が湧いてきた!!!」


 どう見てもパクリです。本当にありがとうございました。


 ダイキが腰を落とし右足を半歩引き、地面が爆ぜ、轟音が空間に響き渡る。


「むぐぉっ!?」


 青龍の懐に入り込んだダイキ。自らの膝を突き出した状態でジャンプし、青龍の顔面に膝を打ち付ける。ただし、青龍の頭はダイキの頭上三メートルの高さにある。ダイキの跳躍力は中々のものだ。加えてそこに纏った神炎の筋力アシストと炎属性の付加効果があるためダメージはかなりある。普通の人間が食らえば頭蓋ごと粉砕されて即焼死だ。今のダイキがプロレスに出場すれば死者続出だろう。


「これで終わりだ!」


 右拳を弧を描くように振り抜くと獄炎がダイキを中心に螺旋を描くように走り青龍を貫く。


「“煉獄螺旋槍”!」

「ぬぁあああああああああああっ!」


 身体を穿たれていく青龍。獄炎の槍が傷口を一瞬で焼き焦がす。その痛みは計り知れないだろう。私は喰らったことがないのでそれがどんだけのものかわかりません。


「喰らってみるか?」


 結構です。というかそんなメタ発言しないで。


 見事というべきか青龍は天に召されていた。光の粒子となって消えただけだが。いやちょっと待ってくれ。青龍回があっさり過ぎる。まだ《トルネードブレイク》しかしてないよ青龍。


「いいんじゃねぇか?」


 だから地の文と会話するなって。


 しかし、そんなのお構いなしに出現したドロップアイテムを回収するダイキ。その中に他の三人が拾ったような超レアアイテムは存在しなかった。素で運が悪いのだ、ダイキは。LUK値もそんなに高くない。


 ドロップアイテムを回収し終えると、他の三人と同様、魔法陣が部屋全体に描かれ強制転移される。


「「きゃあっ!?」」


 ダイキは転送先のエテルノアルベロ頂上で中空に転移し落ちる。何が起こったとキョロキョロ辺りを見渡せばカケルが武器製作に熱中してる姿があった。


「相変わらずだなカケルは」


 全くしょうがない奴め。そんな思いを込めてやれやれと首を振るダイキ。


「「いいから降りなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」」

「ん? うおぅっ!? だ、大丈夫か!?」


 転移して早々女の子二人を下敷きにするというとんでも行為を行ったダイキ。慌てて退くと、ゆらりと揺れながら立ち上がった夕姫と織音がダイキを見据える。表情はまさに修羅だった。


「わ、悪かったよ…すまねぇ……」

「「…………」」

「えっと……?」

「「……………………」」

「ま、待つんだ。俺は戦闘を終えたばっかりだから今は――」

「「死になさい!」」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 ここから先の描写はしません。とりあえず、直視したくない程の地獄と化した。それだけ言っておきます。ちなみに、このダイキの断末魔によってようやくカケルが武器製作を止め三人がいることに気付いた。どんだけ熱中してんだよ。もう夜ですよ?


「あれ? お前らいつの間に」

「やっと気付いたのね」

「ちょっと遅いよカケルくん」

「悪いな。熱中するといつもこうなっちまう」

「ま、いいけどね。アンタのそれは今に始まったことじゃないし」

「うんうん。らしいといえばらしいよね」


 カケルがようやく存在に気付いてくれたのが嬉しいのか笑顔になる二人。さっきまでの鬼の如き表情は完全に霧散していた。


「で、何でダイキはボロボロなんだ?」

「「気にしなくていい(よ)」」

「そ…そうか……」


 二人のこれ以上の追及を許さんと言わんばかりの満面の笑み。それを察しない程カケルは鈍感じゃない。どうせまたダイキがバカやってボッコボコにされたんだろうと当たりをつけた。


 それから一時間程するとダイキも復活し、四人でこれからの話が始まる。


「で、この後どうする?」

「どうするって?」


 小首を傾げる夕姫。そんな夕姫を可愛いと思うのはカケルだからだろう。それは表に出さない。織音もダイキも勘づいてるために苦笑しているが、夕姫はそんな二人の反応がわけわからないようだ。何気に夕姫は鈍感系らしい。


「単純な話だ。今から攻略に乗り出すか一休み入れるか」


 ダイキが気を失っている間に転移魔法陣が出現していたのだ。魔物はカケル達がいるこの場所には出現しないことも確信した。ここは安全地帯のため休もうと思えば休むこともできる。


「一休みじゃなくて普通に休息しようよ」

「アタシも織音に賛成。さすがに夜通し攻略はあまりしたくないわね」


 女子二人は休息希望のようだ。カケルは頷くとダイキに顔を向ける。ダイキも同意見のようで静かに首肯した。


「そうか。なら一晩寝ることにするか。ゲームと違って命の保証はないからな」

「それもあるわね。これがHGOならこのまま突撃しても良かったけど。さすがに現実じゃそんな強行軍はしたくないわ」

「私もだよ。それにちょっと眠いし」

「「「何っ!?」」」


 織音の言葉に三人が「嘘だろ!?」とでも言いそうな驚愕の表情になる。


「どうしてそこで三人とも驚くのかな? かな?」

「いやだってさ。織音が眠いって……」

「そうよね。織音が眠いなんて……」

「あぁ。織音が眠いとか矢の雨でも降るんじゃねぇのか?」


 織音は四人の中で一番のオタクだ。美少女オタク属性っていいよね。まあそれはともかく、一番のオタクである織音はゲームをやるがために睡眠時間すら削ってしまうことも多々ある。お肌にも健康にも良くないよそれ? よくそんなに艶々な肌を保っていられるね君。


 そして、織音は結構強がりな子でもある。眠くても眠くないと言うことが当たり前の織音が眠いなんて言い出すとは三人にとって驚愕に値するのだ。明日は天変地異でも起こるんじゃないかと思う程に。


 この素直じゃない織音が眠いだと!? 断じてあり得ぬ!! これがカケル達の思いだろう。


「ふぅん。そんな風に思ってたんだ? ちょっと、OHANASHIしよう?」

「「「地の文のバカ野郎! 何てこと言うんだ(のよ)!」」」


 私のせいですか? まさか聞こえてるなんて思わんでしょフツー。


 地獄絵図再び。三人の睡眠は決定だ。強制的に。


「貴方もおねんねだよ」


 待つんだ織音君。そんな物騒なことを言っちゃいけない。私は戦闘能力皆無なんだ。


「大丈夫だよ。ペンは剣よりも強し、だよね?」


 君が使うのは剣じゃなく魔法だ。それに「ペンは剣よりも強し」は作家が登場人物よりも強いという意味で使う言葉じゃない。ペンで意のままに操るとか無理なんですよ。特に君とかね。


「うん。タイピングだもんね」


 そういうことじゃない! 待つんだ。幻神聖典を開くんじゃない。やめろ、やめてくれ!


「おやすみなさい。“フォルト・トネル”」


 ギャーーーーーーーーーーッ!?

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