疾風迅雷
インデックス。
これはHGOの運営会社が作った専用の情報サイトだ。HGO内のありとあらゆる情報がこのインデックスに掲載されている。インデックスは一週間毎に自動更新されゲーム内情報を追加していく。多くのプレイヤーがこのインデックスの情報を見ており、攻略に糸口になったりゲーム内でアイテムを売買するための基準になったりと結構役に立つのだ。
そのインデックスの情報には当然ながら魔法や装備などの情報も載っている。プレイヤーメイドのものも合わせてだ。そこによく載る名前が二つ。カケルと織音だ。
装備の欄にはカケルの名前が、魔法の欄には織音の名前がよく並ぶのだ。オーダーメイキングシステムは装備や道具を自由に作れる。そして、スキル《複合魔法》を持っていれば既存の魔法同士を使って新たな魔法を創り出すこともできる。つまり、織音の作ったオリジナルスペルが魔法の欄によく掲載されるのだ。
「うぉおおおおおおおっ!?」
「ほらほら、避けないとイタイイタイだよ」
無数のボール系魔法が白い毛並みを持つ虎に襲い掛かる。
白虎。本来西の大樹オーヴェストアルベロの最奥にて挑戦者を打倒する霊獣なのだが、現状は挑戦者の方が明らかに遊んでいた。
全属性複合オリジナルスペル《エトワール・フィラント・プリュイ》。全属性Lv1で使えるボール系魔法を魔力のある限り撃ち続ける織音のオリジナルスペルだ。ボール系魔法は消費MPが5であり、それが十秒で六十発放たれる。織音にはMP自動回復のスキルがあり、レベルもカンストしているため、十秒毎にMPが500回復する。要するに、無限に撃ち続けられるということだ。
「ねぇ。反撃しないとホントにやられちゃうよ?」
「やかましい! だったらこの弾幕を止めやがれ!」
「いやいやいや。この程度の弾幕を往なしながら反撃するっていうことができないなら私に勝つのは無理だと思うよ?」
「そのセリフって絶対俺が言うべきものじゃね!?」
「相手が悪かったってことだよね?」
そこで織音が開いていた本、幻神聖典サントゥアーリオのページを捲る。そのページに記されている魔法陣が輝きだす。
「“トネルドラゴン”」
前に突き出していた右手の平に魔法陣が展開され、紺碧の雷が迸り、龍の形になっていく。その様はまさにバ〇ウ・ザ〇ルガ。色違いではあるが。ちなみにエトワール・フィラント・プリュイは絶賛継続中。つまり、並列展開を使っているのだ。オリジナルスペルの並列展開。これができるのは織音だけであった。まあサントゥアーリオがあるからこそだが。
ガァアアアアアアアアアアアアアッ!!
織音の放ったトネルドラゴンが白虎に向かっていく。
「ほぎゃああああああああああっ!?」
「そのまま黒焦げになっちゃえ♡」
「可愛いウィンクしながら物騒なこと言うなぁあああああああああああああ!」
追い詰められているにもかかわらずこんなことを言えるとは白虎も中々余裕があるようだ。
爆音。トネルドラゴンが白虎に直撃する。凄まじい衝撃波が広場を突き抜け、壁の一部に罅を入れた。織音はその衝撃波を風魔法Lv2で使えるウィンドウォールを自身の目の前に壁のように展開して防ぐ。
爆発によって立ち込めた煙が晴れる。
「ズルいなぁ。人の雷を自分の力にするんだ」
「あれが雷でなければ仕留められたかもしれないな」
無傷の白虎がいた。
白虎 Lv150
種族:霊獣
職業:‐‐‐
HP:4735/4735
MP:4109/4109
AP:1053/1853
STR:3658
VIT:3463
INT:2491
MEN:2207
AGI:5158
LUK:100
スキル:《魔力操作Lv6》《颶風魔法Lv1》《雷霆魔法Lv5》《HP自動回復Lv10》《MP自動回復Lv10》《剛力Lv7》《神速Lv10》
アーツ:《チャージ》《ライトニングファスト》《ボルトシャワー》
称号:《神霊》《守護者》《疾風迅雷》
BP 20478pt
「チャージか。面倒なアーツだね」
「さあ。これでお前の雷は封じられたぞ?」
「封じられた?」
今の今まで飛び交っていた織音のボール系魔法が途切れる。いや、織音が魔法の行使を止めた。
「どれだけ放っても俺の前では雷の魔法は無意味だぞ?」
「じゃあやってみよっか?」
「なに?」
サントゥアーリオのページを何枚も捲っていく。そこに描かれた魔法陣に魔力を注ぎつつ右手を白虎に向ける。HGOではこれをすると命中率に若干の上昇補正が掛かるため織音はかなり癖付いているのだ。
白虎の遥か頭上に魔法陣が展開され、そこから紺碧の雷が迸り始める。
「“ドルル・エテルネル・エクレール”」
そして、魔法のトリガーが引かれた。
「ぐぁあああああああああああああああっ!!?」
轟音と共に天より落ちる極大の雷。
《ドルル・エテルネル・エクレール》。織音のオリジナルスペル。HGO内では織音本人を叩くか織音のMPが空になる以外は止まることがなく、HPがゼロになるまで続く鬼の一撃である。
白虎の《チャージ》は雷属性を持つアーツや魔法を自分の身に取り込むことによってHPとMPを回復させるアーツである。ただし、取り込める量には限界があり、その限界を超えるとそれはダメージになる。つまり、この極大の雷は許容量を突破しているということだ。
「どうしたの? 雷は無意味じゃなかった?」
「なぜだぁあああああああああああああああっ!?」
「私ね。自分の力が無意味だとか無力だとか言われて否定されるの嫌いなんだ」
要するに負けず嫌いってことですね。そして、最強クラスのオリジナルスペルを大量に持っている。何だこの理不尽の権化。
極大の雷が続くこと十分。織音のMPが空になり雷が止まる。
「まさかここまで耐えるなんて」
「ぐぅ……」
「私の最強クラスの雷属性スペルの一つだったのに。さすが雷の化身だね☆」
「お前…何で…朗らかな…笑顔なんだよ……」
「ん~? だって、初めて耐える人が現れたんだもん。楽しくならない?」
「同意求めんな……」
「それじゃ、貴方に敬意を表して――“トネル・ラム・ロタシオン”!」
織音の周りに十二の複雑に絡み合った立体魔法陣が浮かび上がる。そこから白銀の円盤が生成され、その円盤の縁から紺碧雷の刃が作り出され回転を始めた。
《トネル・ラム・ロタシオン》。土魔法の最上位、大地魔法の応用で作り出す鉄製の円盤に雷の刃を発生・回転させて念話スキルの応用で指示し操作する織音のオリジナルスペルだ。円盤に意思を組み込むためかなり高度な魔法になるが、このスペルを創り上げた際にできた魔法陣はサントゥアーリオに記憶させているため、発動は比較的楽だ。
まあ操作に関しては技術や慣れ、何より高速思考と並列展開のスキルがカンスト状態で必須なため、普通は扱いきれない魔法だ。これもまた織音だからということである。リアルハイスペックはここでも活きる。
「お前はなぜ相性の悪い雷の魔法で対抗してくる。舐めプか?」
「何でその単語を知ってるの? まあいいけど。理由だっけ? 単純に雷属性の魔法で貴方に勝ちたいからかな。別に舐めてかかってるつもりはないよ」
「相手の土俵に上ると、そういうことか?」
「それが私なりの正々堂々だよ。これをどう判断するかは貴方の勝手だけどね」
どんなゲームをしていてもプレイスタイルが否定されることは珍しくない。それは人それぞれのやり方があるからであり、それがその人にとって最良だと思っているからだ。
世の中には人それぞれの考え方があり、やり方があり、矜持があり、そして正義がある。それは人それぞれの自由だ。それを否定することも肯定することもまた、人の自由。
織音という女は、自分の意思を肯定してほしいなどと思わない。肯定されることもあるなら否定されることもあるのが当たり前だからだ。それをわかった上で自分がしたいようにしている。ただそれだけである。
「さて、減ったHPは回復できたかな?」
「おっと、時間稼ぎだとわかってたのか」
「うん。まあ私もこの魔法を操作するためにMPが必要だったから便乗させてもらったの」
「そういうことか」
雷円盤が白虎に殺到する。
白虎はそれを横に移動することで躱す。二つの雷円盤が地面と激突し砕ける。
「おぉおおおおおっ!」
白虎が吠えると上空から白き雷球が次々と放たれ織音に襲い掛かる。白虎の持つアーツ《ボルトシャワー》だ。
「“エトワール・フィラント・トネル”!」
織音の魔法陣が足下に展開される。そこから紺碧の雷球が数多撃ち出されていく。
紺碧と真白の雷球が互いに相殺し合い、白虎と織音の魔法がその中を縦横無尽に駆ける。白虎は紺碧の雷光を纏い接近してきた雷円盤を、足で、尻尾で打ち砕いていき、時には牙で噛み砕く。十二あった雷円盤は今や三つしかなくなっている。
「“トネルドラゴン・カトル”!」
織音が魔力結晶からストックしていた魔力を取り出して回復したMPを使い、新たに四頭の雷龍を放つ。そして、稼働している雷円盤を操作し全て白虎に突撃させる。白虎はその雷円盤を尻尾の一振りで全て打ち砕く。さらにそこに迫る二頭の雷龍。
「ぬぐぅあああああああああっ!」
二頭の雷龍の挟撃を受けた白虎。ある程度まではチャージで緩和したようだが、それを上回る雷龍の攻撃力にチャージで回復したHPは相殺される。そこを狙って織音が残り二頭の雷龍を白虎に差し向ける。先程と同じように挟撃しようと顎門を開く。
ドンッ!!
空間を揺るがす程の重低音が響き渡り、その瞬間に白虎の姿が掻き消える。標的を失った雷龍は挟撃しようとした勢いを殺しきれずにお互いに衝突、爆散する。
「何……?」
衝撃波が織音に襲い掛かる。サントゥアーリオを前にかざして衝撃波を押さえつつも、殺しきることは叶わずバランスを崩す。そして、
「かはぁっ!?」
後方から凄まじい衝撃と斬撃を受ける。それにより吹き飛ばされる。壁に激突する直前に辛うじて身を捻り、背中から壁に突っ込む。破砕音、そして織音の叩き付けられた場所を中心にして放射状の罅が走る。それが今の一撃の重さを表現していた。
「ぐ…こふっ……」
内臓がやられたのか吐血する織音。体の至る所を負傷し、何とか頭だけが動かせる状態だ。その頭を上げ自分が元々いた場所を見ると、霞む視界の中に右前足を振り抜き、残心した状態の白虎がいた。
《ライトニングファスト》。白虎の使うアーツだ。敏捷パラメータを一定時間爆発的に引き上げる。代償にAPは全損する。元々の速さも折り紙つきであるが故にこのアーツを使った白虎の動きは肉眼で捉えることができない。
先程の重低音は音速を突破した時に発生するソニックブームだ。織音がバランスを崩したのは、音速を超えて発生したソニックブームの衝撃波が彼女を襲ったからである。
また重低音と共に白虎の姿が掻き消える。
「“ダークホール”……」
織音を中心に広がる漆黒の防御圏。白虎はそこに頭から突っ込む。それでも罅すら入れられなかった。漆黒の防御圏は物理攻撃に対しても最強なのだ。
「ガァアアアアアアアアアアアアアッ!!」
何度も何度も何度も殴る、引っ掻くと繰り返す。漆黒の防御圏はビクともしない。だが、それでも限界はある。
(MPが…もうすぐ切れる……)
ダークホールは最強の防御を誇ると共に大きな制約がついている。その一つである減少し続けるMP。それが今の織音が立たされているギリギリの状況である。
(けど……いける)
チュインッ!
そんな短い音がした直後、白虎の左半身に紺碧雷が走る。
「がぁあっ!?」
「ふふ……」
「なにがっ!?」
白虎を横から襲ったのはトネル・ラム・ロタシオンで放った雷円盤の
「なぜだ! 全て打ち砕いたはず!」
「そうだね…」
満身創痍の織音。だが、次の瞬間にはしてやったりという顔で白虎を見据える。
「正確には…
「なん、だと?」
織音は最初に雷円盤を突撃させる時、一つだけ適当な場所に移動させて魔力ラインから流れる魔力を一時的に止めたのだ。その雷円盤はその場に転がっていた。勿論、最低限気付かれないレベルの魔力壁は張っていた。壊されたら元も子もないのだから。
白虎は織音や織音の放った魔法に対処するので精一杯で転がした雷円盤には気付かず、魔力壁もしっかりと仕事をしてくれたのだ。白虎の使った無差別攻撃アーツ《ボルトシャワー》は織音の方に殺到していた上、流れ弾が行っても全て防いだ。カケル達に魔法のエキスパートと言わしめるだけのことはある。
「だが、“ダークホール”展開中は……」
「行動不能になるね」
「なら――」
「行動不能っていうのは、ただ動けなくなるだけ。知ってた? 《並列展開》は魔法やスキルを同時使用できるんだよ?」
「なっ…まさか……」
そう。ダークホールの行動不可という制約はその場から動くことが叶わないというだけで、魔法という括りで見るならば《並列展開》の適用範囲内。即ち、《並列展開》があればダークホールを張りながら別の魔法を使用できるということだ。カケルの場合は魔法の同時使用を銃という媒体を通して行っていたため、完全な行動不能になっただけである。カケルは直接の魔法使用が不得手なのだ。
「“グレートヒール”」
全ての負傷を癒す神癒魔法Lv5《グレートヒール》。カケルがリバイバルバレットに使っているのもほとんどはこの魔法である。
「しまっ――」
「いけぇっ!」
「ぐぁあああっ!?」
さらに雷円盤が両後脚を斬り付ける。鮮血が飛び散り、強い痛手を負う白虎。
「ぐ……さっきより攻撃力が高い?」
「うん。操作対象が一つなら硬くすることも攻撃力を上げることも魔力の匙加減一つだからね」
「このっ」
「“フォルト・トネル・ユイット”!」
頭上より八筋の雷が一定範囲を覆いつつ白虎を襲う。
「これくらいなら――」
「自分の状態はしっかり把握しなきゃね」
「しまっ……」
白虎のライトニングファストは効果切れ、そのアーツの使用によりAPは全損しており、APの自動回復スキルは持っていない。アーツの使用は既にできず、加えて先程負わされた裂傷によって飛び出す際に最も力を使う後脚は使い物にならなかった。
「あぁああああっ!」
「戦闘中の状況判断は迅速に、だよ?」
「ぐがぁあああああああああああああああああああっ!!」
強化された雷が白虎に直撃、その直後には他の雷も軌道を変えて白虎に次々と落ちていく。
魔法の連続攻撃が終わった後、煙が晴れて白虎はその場に蹲っていた。辛うじてHPは残ったらしい。
「凄いね。まさか私の強化した雷を八つも受けてまだHPが残ってるなんて」
「ぐぅ……」
「でも、もう動けないみたいだし、パラライズの状態異常になってるみたいだからね」
止めを刺さんと右手を突き出し魔力を溜め始める。
「……一つ、聞かせて欲しい」
「何?」
「雷円盤は偶然か?」
「気付かれずに打ってこその布石だよ?」
「そうか……」
「“フォルト・トネル”」
雷が白虎を打ち、そのまま白虎は光の粒子となって消える。その場にペンダントのようなドロップアイテムが現れる。
名称:白虎の雷速飾
レア:超伝説級
効果:AGIを1000上昇させる。
説明:神速を司る霊獣・白虎からドロップするアイテム。装備するだけでAGIパラメータを爆発的に上昇させる。
「ふぅん。敏捷パラメータがかなり上昇するんだね。結構凄い」
死闘を繰り広げた白虎のドロップアイテム。織音は熱い戦いを繰り広げた白虎の落としたアイテムを装備――
「カケルくんにあげよっと。喜ぶかなぁ?」
しないようです。ほら、虚空に浮かんだ白虎の顔に涙の筋が。
「きゃっ!」
突然輝きだす空間。これぞまさに強制転移! 白虎さんが慟哭する。とっとと出てけばぁろー!
「う……」
輝きが収まり目を開けると、
「お疲れ織音」
「夕姫ちゃんこそ」
夕姫が出迎えてくれた。その向こう側には未だ生成に熱中するカケルの姿。
「カケルくん」
「アイツああなったら周り全然見えなくなるでしょ? だからしばらく放置してたのよ」
「そっか。カケルくんらしいなぁ」
「ホントよ全く」
そういう夕姫の顔は結構不満気だった。それを見た織音はニヤケ顔になる。
「ふふ。カケルくんにお疲れさまって言ってもらえなくて不機嫌さん?」
「な……そ、そんなわけないでしょ!?」
「隠さなくていいのにぃ」
「違うったらぁ~っ!」
「え~?」
これがいつもの二人です。織音は毎日夕姫を弄ります。カケルネタで。
「だからぁっ! 違うんだってぇ~~~っ!」
「はいはいわかったから」
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