難攻不落

 強烈な光に瞑っていた目を開くカケル。


「マジか。分断されちまった。ダイキのバカは後で説教だな」


 今にも舌打ちしそうな「チッ」あ、今した。そんなカケルが周りを見ると、さっきまで傍にいた夕姫達がいないことで状況を理解する。


 カケルがいたのは大きな円形の木のような床の上だった。周りは木の葉で囲われており、景色が一望できる。カケルは円形の端まで歩いていき、その光景を目にする。


「たっけ……落ちたら死ぬわ」


 最初に見るのが下かよ。


 恐ろしいくらいに高い場所だ。下を見れば森が広がっている。見える範囲だけで言えば、いっそ樹海と言っても差し支えないだろう。そしてカケルの見遣る先、かなり遠い場所に一際大きな虹色に輝く葉を持った大樹あった。その威容に見覚えのあるカケル。


「エテルノか?」


 正解だ。時蝕の森の中心にそびえ立つ大樹エテルノアルベロ。その特徴は見上げても全く天辺の見えない程の高さと虹色に輝く葉であった。そんなエテルノが見えるのだ。


 そして、そこで一つの可能性に思い至るカケル。


「おいおい。まさかディレツィオーネじゃねぇだろうな?」


 これもまた正解である。ディレツィオーネアルベロ。エテルノを中点として四方角にある四大樹。その一つ北の大樹ノルドアルベロだ。


 時蝕の森は区画分けがされている。中央、そして東西南北。その区画それぞれにその方位を司る大樹があり、カケルがいるのは北の区画の大樹だ。


 そこで辺りに響かんばかりの声が聞こえてくる。


『汝、試練に挑戦せし者。挑戦者よ。我が迷宮を越えてみせよ』

「うっさい」


 いや、うっさいって。


 そこで地響きがする。否、ノルドアルベロが揺れている。怒っちゃった?


「あぶねっ!?」


 ここはノルドアルベロの天辺だ。いきなりの揺れでバランスを取り遅れ、危うく落ちそうになるカケル。これは現実です。落下防止の安全機能はありません。


 揺れが収まると、カケルが立っていた広場の中央に穴が、というか下に続く階段が現れた。


「下りろってか? 強制イベントですか……」


 カケルはそこまで歩いていき、おいおい勘弁してくれよと言わんばかりに肩を竦めて首を横に振る。手の平を上に向けるのも忘れない。


 まあ何をしたところでどうなるものでもなく、ならばとカケルは大樹迷宮ノルドアルベロの中に踏み込むのだった。




 数十分経っただろうか。階段は人が十人くらい並んで行ける大きさで螺旋になっている。くるくると回るのだ。目が回る~ぅ。


 カケルが踏み込んだ中は薄暗い空間だった。足下以外は見えない。踏み外したら、さぁ大変。


 まあそんなドジを踏むような男じゃないため、階段の中央を静かに下りていた。


 段々と薄暗がりに目が慣れ、辺りが見えるようになった頃、階段が終わる。カケルが到着したのは先程の頂上よりも二回りは大きい円形の広場だった。


「なんだここ――って、おうっ!?」


 いきなり、火が灯る。カケルの背後に。


 狐火のようなそれは、円形広場の縁に沿うようにボッボッと音を立てながら次々に灯っていき、広場を照らしていく。そして、カケルと正反対の位置に火が灯ると共にその方向に魔物が数多出現する。


「全部倒せってか?」


 カケルの視線の先には白い体毛を持った熊のような魔物が千単位でいた。



ノルド・ガルディエーヌ Lv150


種族:魔物

職業:‐‐‐

HP:1897/1897

MP:1328/1328

AP:1049/1049

STR:1607

VIT:1563

INT:1151

MEN:1084

AGI:1335

LUK:100


スキル:《魔力操作Lv6》《暗黒魔法Lv4》


アーツ:《ウィンドクロー》


称号:《守護者》


BP 0pt



 カケルはクリアさせる気ねぇだろ、という気持ちだった。レベルカンストの上、全ステータス千オーバー。単体なら拮抗できる者もいるだろうが、千単位のこれに対処できるような例外はほぼいないだろう。尤も、カケルはその例外だが。


「お前らには悪いが正面から全うに戦う気はない。今は時間が惜しいからな。早く夕姫に会いたいんだ」


 はい。ようやくカケルの夕姫好きが出ましたね。


 勿論、織音やダイキにも早く会いたい気持ちはあるが、何よりも優先は夕姫なのがカケルである。普段四人でいる時はこれを隠している(つもり)が、一人の時なら本音が出る。織音とダイキはこのカケルの気持ちに気付いており、気付いてないのは張本人たる夕姫だけだ。


 閑話休題。


 そんなわけで、カケルはこのダンジョンの攻略に時間を掛けるつもりはない。


「一気に殲滅してやる」


 ステラカデンテを取り出し跳び上がるカケル。そして、ある程度高度を上げた後、そこに立つ・・


 《空歩》。魔力を消費することによって空中に足場を作ることができるスキルだ。立体機動力の向上と滞空砲火のために取得している。今回の使用理由は後者だ。


 ステラカデンテの銃口をノルド・ガルディエーヌの群れに向ける。


「悪く思うな、北の守護者様」


 そう言葉を放ち、トリガーを引く。


 ブワァーーーーーーーーーーーーーーッ!!


 繋がった銃声が響く。

 そして、ノルド・ガルディエーヌがいる場所が炸裂していく。冗談抜きで火の海だ。ここ木の中だぞ。

 カケルの放つ悪夢のような弾幕。

 弾幕?

 バカめ! これは絨毯爆撃だ!


 繋がった銃声と途切れないマズルフラッシュ。炸裂していく夥しい数の弾丸。たっぷり五分間の銃撃は終わりを迎える。


「おっと、赤熱化しちまったな」


 キンキンに熱を持って赤くなった銃身を見てそういうカケル。


「織音の氷結魔法使っても五分が限界か。ここまで撃ったの初めてだわ」


 ステラカデンテの銃身は織音の協力で氷結魔法を付与して即時冷却できるようになっている。それでも毎分一万八千発という超連射に耐え続けられるわけもなく、五分が稼働限界だった。


「しばらく使えねぇなこりゃ」


 ステラカデンテをストレージにしまい、空歩を解く。


「よっと。さて、アイテム回収すっか」


 辺りに散乱してるドロップアイテムをストレージに次々放り込んでいく。広場自体もかなり広いため結構面倒くさい。


 その作業が終わったところでズズズと重いものを移動させる時のような音が聞こえてきた。


 カケルの下りてきた階段と丁度反対側になる場所で二つの狐火が一際大きく燃え盛りだした。そのまま、ボッボッと火が灯る時独特の音が続き、道のように二列の狐火が並んでいた。それはどうにも下へ向かっているようだ。


「階段か?」


 カケルが下りてきたところとは反対側に歩いていくと、火に照らされた階段があった。


「もしかして各階層につき一戦闘か? 時間かかりそうだな」


 かったるそうにしながらも階段を下りていく。そして、またしても広い空間に出た。


 しかし、趣がかなり違った。


 まず、さっきノルド・ガルディエーヌと相対したのは薄暗い空間だったが、ここはまさに木の中という感じだ。壁はしっかりした木肌で、触ってみるとマジで木だった。


 ズズゥンッ!


「あん?」


 何が面白かったのか壁をペシペシ叩いていたカケルの背後から何か重量物が落ちたような、そんな音が聞こえてきた。


 カケルがそちらを向くと三メートルはあろうかという巨体を持った一つ目の魔物がいた。カケルも見たことのある魔物だ。その名はサイクロプス。それが二体いる。


「「グモォオオオオオオオオオッ!」」

「邪魔だ」


 ダァン! ダァン!


 二発の弾丸が二体のサイクロプスの目を撃ち抜いた。情け容赦の一切ない不意打ちであった。

 ゆっくりと後ろに倒れていき、そのまま光の粒子となって消える。そして、ドロップアイテムが出現する。


「ここは余裕だったな」


 一応言っておくが、サイクロプスはかなり高レベルな者が六人以上のパーティを組んで、万全の態勢を整えてようやく勝てる魔物だ。カケルのように不意打ちで目玉を撃ち抜いて余裕かます奴は普通いない。


「ったく、これじゃあいくら時間あっても足りねぇだろうがよ。ちょっち本気で行くか」


 そこからカケルの強行軍が始まった。


 三層目。タンシャティグレの群れ。総数いっぱい。

 ガン=カタにより十分で殲滅。時間が惜しくアイテムは拾わず。


 四層目。ルヴァンシュルナールの群れ。総数いっぱい×いっぱい。

 再び撃てるようになっていたステラカデンテで一蹴。こちらもアイテムは拾わず。


 ただ、そこから少し階段が変わった。というか螺旋の内側に壁のようなものが出来たのだ。落ちる心配が無くなった分、まあいいのだろうが。


 そして、五層に到達する。ここまでにかかった時間は移動時間含め一時間。間違いなくカケルだからこそできた芸当だろう。


 五層に到達すると今までとは違い階段を下りた先は広場ではなく扉の前だった。その扉には、わけのわからない文字が刻み込まれていた。カケルは言語理解があるため普通に読めるが。


「“挑戦者よ。我を打倒し道を開いてみせよ”か」


 上等じゃねぇか、と扉を開けていく。真っ暗だった。


 中に入り少し歩くと、大音量を上げながら扉が閉まる。


 そこでカケルが止まる。カケルの目の先には四つの光があった。規則的に二つずつ並び、あたかも目のようなそれはしっかりとカケルに向けられている。


「よくぞここまで辿り着いた。挑戦者よ」


 そんな声が聞こえるや否や、一気に明転する空間。


 カケルの見据える先にあった四つの光はまさしく眼光だったらしい。そこには、巨大な漆黒の亀とそれに巻き付くこれまた漆黒の蛇がいた。



玄武 Lv150


種族:霊獣

職業:‐‐‐

HP:4498/4498

MP:5937/5937

AP:1978/1978

STR:1593

VIT:3937

INT:2639

MEN:4738

AGI:981

LUK:100


スキル:《魔力操作Lv6》《氷結魔法Lv3》《深淵魔法Lv3》《HP自動回復Lv6》《MP自動回復Lv7》《AP自動回復Lv9》《金剛Lv10》


アーツ:《インプレグナブル》《ディストラクション・レイ》《アイスシャワー》


称号:《神霊》《守護者》《絶対防御》


BP 18398pt



(うそん……)


 ヤバかった。これまでに見たこともないようなステータスである。HGO時代でもここまでのものは見たことが無い。


 このダンジョンに挑戦してからカケルもかなりレベルアップを果たしている。そりゃ、あんだけ群れを屠りまくればそうなる。そのカケルと拮抗どころか、防御がカケルの攻撃力を上回っていた。


 完全に各上の相手。正直言ってカケルが勝てるかは五分五分だろう。


 だが、だからと言って戦わないようなたまではないのだカケルは。何より、カケルは三人に、特に夕姫に会いたいのだ。こんなところで尻尾巻いてるようじゃ、そんなことはなせない。


「汝、我を打倒すれば望む道が――」


 ダァン!


 遠慮なし。ラスボス戦前の味ある会話すら無視しての銃撃。この男、雰囲気作りとかお構いなしである。


 放たれた弾丸は甲羅に当たって弾かれる。別に外したわけではなく、咄嗟に頭や足を引っ込めたために本来当たるはずだった玄武の頭部ではなく甲羅に当たったのだ。少しして、二の矢がないと見たか頭や足を甲羅から出す。


 ダァーーーーーーーーンッ! ――キキキィィィィンッ!


 甲羅から出し始めた瞬間にカケルはラピッドファイアを発動。超速の速射がなされ、またしても甲羅の中に頭や足を引っ込める玄武。傍から見ればかなりシュールである。


 舌打ちをしつつ右手に持ったアルタイルをガンスピンさせてリロードする。そして、銃口を玄武に向けたところで。


「ちょっと待つのだ! 不意打ちが過ぎるのではないか!? まずは戦闘前の会話を楽しむものであろう!?」


 玄武(甲羅に籠ったまま)が話しかけてきた。あまりの出来事にキャラ崩壊をきたしていた。


「知らん。とっとと頭出せ。撃ち抜いてやる」

「それを聞いて頭を出すとでも思っておるのか小童!」

「そうか、なら蛇の方を狙うか」


 パァーーーーーーーーンッ!


 幾分柔らかそうだったため、こちらはヴェガの速射で狙う。一発分の音だが、射出された弾丸は十発だ。装填数はアルタイルより多いため、ラピッドファイアの手数の多さはヴェガに軍配が上がる。


「卑怯だぞ小童!」

「ギュインッ!?」


 蛇は射出された十発の弾丸を体をジグザグにすることによって全て避ける。相当無理をしたのかプルプル震えている。霊獣という格の高い種族であるのにもかかわらずカケルに翻弄されるというとんでもない逆転現象だった。


「ええいっ! 蛇よ!」

「ギュイィィィィィィィィッ!」


 虚空から数多の氷塊を射出しだす。勿論カケルに向けて。


 《アイスシャワー》。名前はポップだが殺傷能力は高い。拳大の氷塊が百発単位で絶え間なく襲ってくるのだ。当たれば間違いなく肉を持っていかれる。当たることの許されない弾幕だ。


「戦闘開始だな」


 高速思考と神速を発動し、右に左にと避けつつ玄武に突進するカケル。玄武がそれを許すはずもない。カケルが避けたり突進したりに注力すれば当然銃撃は来ないため今は既に頭と足を全て出している。


「覚悟しろ小童! 私に恥をかかせた罪は重いぞ!」

「何様だテメェ!」


 アルタイルの速射によって放たれた銃弾。氷塊の弾幕を掻い潜りつつ玄武の頭部に向かって飛んでいく。これだけの氷塊が襲ってきているにもかかわらず正確無比な射撃。だが、それは頭を振るだけで躱されてしまう。


 足を止めヴェガで向かってくる氷塊を撃ち砕きつつ、できた一瞬の隙にアルタイルをガンスピンさせる。その後にヴェガの弾倉を落とし、魔力倉庫にしまい新たな弾倉を任意の場所に取り出して、ヴェガをガンスピン。綺麗に弾倉が収まる。これを刹那の内にやってのけるカケル。高速思考を併用したにしても大分規格外である。


 そんな芸術的であり合理的な攻防を見せるカケルに、氷塊の合間を縫って漆黒の槍が飛んでくる。


「チィッ!」


 その場から飛び退くカケル。詰めていた距離も離され、動きを乱されたために想定外の氷塊がカケルを襲う。それをヴェガで撃ち砕いていく。


「ぐっ…!?」


 脇腹を抉られ鮮血が迸る。辛うじて身を捻ったとはいえ完全には避けきれなかった氷塊がカケルの左脇腹を掠めていった。それだけでこのダメージである。想定外の状況なため、全てに対処しきれるわけもなかった。


 そこでカケルはヴェガの銃口を自分のこめかみに当てて引き金を引く。


 一発の銃撃音が響き、直後に脇腹が再生していく。


 《マジックバレット》が一つ、《リバイバルバレットⅤ》。肉体的な欠損を回復することのできる魔弾である。ⅠからⅫまでの段階があり、段階によって修復速度や修復可能部位が変わってくる。Ⅻになれば心臓の欠損すら治せるが、自分に使うには無理がある弾丸だ。


 HP自動回復はHPの数字、つまり生命力が回復するだけであり、肉体的な欠損までは回復しない。そこに関しては治癒の上位快癒魔法もしくは再生魔法が必要になる。カケルの場合は戦闘中の肉体欠損を想定して治癒魔法を最上位の神癒魔法まで昇格させていた。


 回復こそするものの、重大な隙が出来てしまったことに変わりはない。そこを玄武が見逃すはずもなく。数十本の漆黒の槍が降ってくる。


「クソッ。“ダークホール”!」


 カケルを中心に半球状の漆黒の防御圏ができる。


 深淵魔法Lv2で使えるようになる最高の防御魔法だ。最高である反面、使用中は行動不可、張り続ける限りMPも減り続けるという制約がつく。しかも、一日一回しか使えない。


 全ての暗黒槍と間断なく襲い来る氷塊を凌ぎきるが、MPがごっそりと持っていかれたカケル。それを前提とした戦闘方法のカケルにとっては痛い事だった。


 そんなことは関係なく氷塊は次々とカケルを襲う。氷塊の飛んでくるパターンを見切り、時には氷塊を撃ち砕き、時にはアルタイルやヴェガで反撃するカケル。そんな戦闘が三十分以上も続いたその時、


 キュワァァァァァァァァ。


 そんな音がカケルの耳に届き、氷塊を往なしつつ玄武を見やると。開かれた亀の口が開き、そこに禍々しい光が集束していっていた。ヤバいと感じたカケルは《ウェポンチェンジ》を使ってガラシアをその手に持つ。アルタイルとヴェガはホルスターに戻っている。


 ガラシアの銃口を玄武に向ける。氷塊が襲い掛かってくるが、これもまた織音の協力により付与された自動展開の不可視の壁が全てを受けていく。破れる様子は微塵もない。織音の魔法は世界一ィィィ!


 何度も言うが織音との合作であるガラシア。この狙撃銃はレールガン化されており電磁加速が可能だ。紺碧のスパークが迸り、数瞬の後にチャージが完了し撃つ。


 同時に玄武からも禍々しい光の光線を放ってくる。これこそ《ディストラクション・レイ》だ。


 両者の中点でぶつかり合う。だが、相殺されることも拮抗することもなかった。


 貫通力の高いガラシアの弾丸が光線を貫いていく。そして、


 バキィィィィンッ!!


「っ!?」


 甲羅を撃ち砕く。まさかの出来事に動揺する玄武。


 玄武の甲羅はこの世界で最も硬い甲羅である。どれだけ耐久力のある武器でも容易く砕き、どんな魔法をも通さない。まさしく《絶対防御》。しかし、それはイコールで最終防壁でもある。逆にそれが砕かれるということは、自分の防御力すら貫いてダメージを与えてくるということ。


 カケルからすれば頭部を狙ったのにという思いだった。おそらくディストラクション・レイの威力も相当あり、貫通力があるとは言っても逸らされてしまったのだろう。


 しかし、その威力はほぼ衰えず玄武の甲羅を砕き、そして玄武が動揺している。


 当然、カケルはそれを見逃さない。戦いの中では隙を見せれば一瞬で攻守が入れ替わるし、最悪死に至る。それがわかっているカケルは仮想現実の世界でだって油断したことはない。虎視眈々と活路を見出すのだ。


 玄武は心を乱す。当然蛇もだ。アイスシャワーはいつの間にか止まり、カケルの動きを阻害するものは一切無くなっていた。カケルはすぐさま《ウェポンチェンジ》でステラカデンテを取り出しトリガーを引く。


 殺戮の嵐が玄武を襲う。破壊力も手数も十分だ。


 ここまで使わなかったのは、まず冷却が完了していなかったのが一つ。状況的に使えなかったのが一つだ。


 ステラカデンテの冷却時間は三十分。玄武のところに辿り着く前に完了していた冷却は十分程度であったため、撃ってる最中に自壊する可能性を考えれば使うわけにはいかなかった。よしんば使えたとしてもステラカデンテはトリガーを引いてから射撃まで数瞬とはいえラグが発生する。間断なく襲い掛かってくる氷の弾幕を前に使用が叶わなかったのだ。


 だが、その二つの障害がなくなった今、カケルは遠慮なくステラカデンテを使える。


 五分の超連射。ステラカデンテが稼働しなくなり、再びストレージにしまう。万単位の爆撃による煙が無くなった後、そこにいたのはほぼ無傷の玄武だった。


「マジか……」

「く……私にここまでの痛手を負わせたのは小童。貴様が初めてだ」

「そうかよ。嬉しくねぇけどな」


 だがしかし、ほぼ無傷のほぼ・・の中に蛇は含まれていない。というより見る影もなかった。


 そして、止めを刺すべくカケルは走り出す。


「がぁああああああああああっ!!」


 規則性も何もない無作為な氷の弾丸がカケルを襲う。アーツの制御は蛇に一任して、自分は要所要所で必殺の一撃を放つだけにとどめていた玄武。そのため制御が甘く、今のカケルには当たる要素が全くない。


 そして跳び上がり空中で《ウェポンチェンジ》。ガラシアの銃口を玄武に向けて構える。


「終わりだ」

「小童ぁああああああああああっ!!」


 空間全体に響く重低音。音を置き去りにしながら翔る紺碧の閃光は玄武の頭部と甲羅を撃ち抜く。


 数秒。まるで時間そのものが止まってしまったかのような静寂が辺りを包む。そして、玄武は光の粒子となって霧散しドロップアイテムが出現する。


「ふぅ。やっと終わったか」


 地面に着地したカケルがドロップアイテムに近づく。不思議な形のポーション瓶のようなそれを看破した。



名称:神水

レア:神級

効果:あらゆる負傷、欠損などを瞬時に回復する。HP、MP、AP全てを全快させる。

説明:神力の込められた聖水。世界に二つと無い伝説のアイテム。薄めて使わないと余りの莫大な神力に身を滅ぼしてしまう。ポーション瓶一本分の水に一滴で十分な量になる。効果は変わらない。



「すげぇ……」


 ゲームでも同じものが出るのかどうかわからないが、あるだけでもかなり命の危険が避けられる。これ一本でどれだけの数ができるかはわからないが、役に立つのは間違いない。


 カケルは、それはもう大事そうにストレージへとしまう。


「さて、こっからどうすればいいんだ?」


 考えるカケル。だが、その心配は数秒後に杞憂となった。部屋全体に魔法陣が走り、一瞬で辺り一面が光に呑まれる。


 それが収まった時にカケルが見たのは。ノルドアルベロの天辺と同じような円形の広場だった。


「なんでやねん」


 思わず似非関西弁で突っ込んでしまった彼は責められまい。ただし、ノルドアルベロとは違うところがある。


「葉が虹色?」


 ノルドアルベロの時には深緑だった木の葉が虹色だったのだ。つまり、


「エテルノか?」


 そういうことである。


 ディレツィオーネをクリアすると自動的にエテルノの頂上へと転移するのだ。この場に立っていることが攻略の証明ということである。


「はぁ。ここで三人を待つか」


 早く夕姫に会いたいという気持ちが強いが、ノルドアルベロの時のように声が聞こえて階段が現れるというわけでもなかったし、何よりここはエテルノの頂上だ。飛び降りるなんてこともできない。


 待つ以外に方法はなく、ならばとカケルは武器の製作に乗り出す。色々と作りたいものがあるのだ。


 そうして武器の製作に熱中しだすカケル。


 後から合流した三人がそんなカケルを見てやれやれと呆れるのである。

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