超越者

 レベル上限。おそらく結構な数のゲームに存在するであろうものだ。


 レベル無制限で無限に強くなれるシステム。それはそれで魅力があるのだろうが、HGOはそれを採用しなかった。


 HGOのレベル上限は150。つまり、カケル達はカンストしているのだ。


 ――にもかかわらず。


《レベルが上がりました》


 カケル達の脳内に直接響いてくる機械のような無機質な声。HGOで百四十九回聞いたものと同じだった。カケルにはその声が二十六回聞こえた。そして、


《職業《魔法師》がレベル上限に達したため、上位職業《魔術師》を解放します》


 という声も聞こえた。


「なあ。お前達はどうだ?」

「レベル上がったわ」


 カケルの「どうって何がどうなのよ」という質問に的確に答える夕姫。


「レベルの上限って150じゃなかったかぁ?」

「そこは間違いないはずだけど……」


 ダイキのそんな疑問に自信なさげに同意する織音。上限を突破してレベルが上がってしまっている以上、自信を持って同意できないのだ。ひょっとしたら自分達が知らないだけで上限じゃなかったんじゃないかとか。条件付きで上限解放できたんじゃないかとか。


「とりあえずステータスを確認しましょ」


 夕姫の言葉に首肯して確認作業を始める三人。



諸星カケル Lv176(26up)


種族:ヒューマン

職業:《匠Lv15》《魔銃士Lv15》《魔法師Lv15(3up)》

HP:3283/4240(957up)

MP:1473/6780(1545up)

AP:869/3445(786up)

STR:2537(579up)

VIT:2261(515up)

INT:3817(1072up)

MEN:3334(1020up)

AGI:2327(730up)

LUK:500


スキル:《言語理解》《看破Lv10》《隠蔽Lv10》《実力偽装Lv10》《感知妨害LV10》《魔力操作Lv10》《生成Lv10》《魔法付与Lv10》《火炎魔法Lv8》《石化魔法Lv3》《破壊魔法Lv10》《深淵魔法Lv10》《神癒魔法Lv10》《HP自動回復Lv10》《MP自動回復Lv10》《AP自動回復Lv10》《高速思考Lv10》《並列展開Lv10》《無詠唱》《生命感知Lv10》《魔力感知Lv10》《空歩Lv10》《身体強化Lv10》《剛力Lv5》《金剛Lv9》《神速Lv10》《念話Lv10》《限界突破》


アーツ:《マジックバレット》《ラピッドファイア》《バレットオブカタストロフィ》《ウェポンチェンジ》


称号:《異世界からの来訪者》《超越者》《一人軍隊》《竜殺し》《一騎当千》


BP 3827pt


所持金:78,453,978ガゼル



 ステータス上昇がドエライことになっていた。


 HGOでは二桁分のレベルアップを果たしたところで、よっぽどBPを偏らせて注ぎ込まない限り三桁上昇はほぼあり得ない。


「どうしてこうなった?」

「アンタも一気に上昇したみたいね」


 カケルの呟きに確認が終わったのであろう夕姫が声を掛けた。この分だと夕姫も同じなのだろうと予測するカケル。大当たりだ。


「なんでだろうね?」

「おっかしいよなぁ」


 織音とダイキも確認が終わったのであろう。カケルと夕姫の会話に入ってくる。勿論二人も同じ状態だ。


「この世界に来て仕様が変わったみたいな感じかしら?」

「もしくは私達が特別とか」

「いい響きだけどよぉ。なんか釈然としねぇ」

「…………」


 夕姫、織音、ダイキと発言するがカケルは黙りこくって何かを考えていた。


「どうしたぁカケル?」

「やっぱり」

「何がだ?」

「何かわかったの?」

「教えてよカケルくん」

「急かすなって。まあ今看破して原因がわかったわ」

「何よ?」

「この世界に召喚されてから称号が二つ増えたろ?」


 カケルはその可能性を考えて看破をしていたら、案の定だった。


「《超越者》っていう称号だな。原因は」



《超越者》

取得条件:《ガゼットルシア》に魂が定着した際、LUKを除く全てのステータスが1000を超えていた場合に取得

効果:レベル上限解放。ステータス上昇率増大。必要経験値10分の1。必要熟練値10分の1。同じ称号を持つ者以外にステータスが見えない。

習得:なし

説明:この世界の知識を持ち、かつこの世界のどの人間よりも強い者に贈られる称号



 何とまあ、結構チートなスキルでした。


「要するに無限に強くなれる上にこれまでよりもレベル系が上がりやすくなるってことよね」


 まあそういうことですね。


「うん! 何かいよいよもってチートっぽくなってきたね!」


 嬉しそうに言いますね織音さん。訂正すれば「ぽい」じゃなくてチートです。


 かなり興奮してきた織音を全員で宥める。


「ていうか、ステータスがあの女に見えなかったのはこれのせいなんだな」

「みてぇだなぁ」


 あの女というのは例の王女様でござい。仮にも一国の王女を堂々とあの女呼ばわりとは、恐れというものを知らない男である。


「で? これからどうすっか?」

「まずは出口を探すの優先だろ」

「そうね。確かに最優先」

「さすがに彷徨い続けるのもね」

「まぁ、そりゃそうだわなぁ」


 カケルの意見に全員が賛同する。


 とりあえずは探索を進めてマッピングをすることにしたカケル達。


 余談だが、カケル達は時蝕の森には何度も来ている。来ているのだが、このダンジョンを突破したことはない。レベリング重視でダンジョン踏破ということをしようとしてなかったからだ。故に、マッピングを一からしないといけない。しかも自分達で覚えて。マップ機能はこの世界にありません。


 というわけで、カケル達の探索が始まるのだった。




 ダァン!


《レベルが上がりました》


 一発の銃声。脳内に響く声。


 カケルが今しがた頭部を撃って爆ぜさせたタンシャティグレ(時間系の固有スキルを持つ虎猫)のドロップアイテムが出現する。


 ちなみにタンシャティグレの持つ固有スキルは相手の動きを遅くする《時間長化》というものだ。まあカケル達くらいのステータスなら受けたところで大して変わりない。どの道カケルの銃弾一発で屠れる。


 時折出てくる魔物を全て殺して(復讐狐は除)行きながら歩いていると、かなり開けた場所に出る。


 その中央にはバカでかい大樹があった。まるでどこぞの世界樹だ。


「すっげ……」

「マジかぁ……」

「見上げてたら首痛くなりそう」

「すごく…大きい…」


 大樹を見てそれぞれの感想を言う四人。ていうか織音さん。今ワザと言ったよね。


「うん」


 地の文に答えないでください。


「織音。いきなり頷いてどうしたのよ?」

「ううん。何でもないよ?」

「? まあいいけど」


 織音のいきなりの謎行動に訝しむ夕姫。


 そんなことはさておき、目の前の大樹を見上げる四人。HGOでエテルノアルベロと呼ばれている樹だ。


 エテルノアルベロ。通称エテルノ。時蝕の森の中心にある大樹。これの他にディレツィオーネアルベロと呼ばれる四大樹があり、エテルノを中心に四方角それぞれを司る大樹だ。この五つの大樹は内部がダンジョンになっていて、難攻不落のダンジョンと言われている。


「カケル」

「何だ夕姫」


 カケルに話しかける夕姫。


「これってエテルノでしょ?」

「多分な。実物は初めて見るが」

「確かエテルノってダンジョンになってるって」

「聞いたことはあるな」

「これクリアしないと出られないとかの可能性は?」

「無きにしも非ずだろ。時蝕の森はダンジョンだ。踏破するためにこの大樹をクリアするっていうのはあり得る」

「じゃあ、入ってみる?」

「どうやって?」


 実際、カケルと夕姫がこんな会話をしながらも大樹の周りをぐるっと回って元の位置に戻っている。一周したが、ダンジョンの入口らしきものは見当たらなかった。


「おーいカケルー!」


 どうしようかとカケル、夕姫、織音の三人が唸っているとダイキが大樹の根元でカケルを呼んでいた。そこはかとなく嫌な予感がしつつもカケル達はダイキのもとへ歩いていく。


 カケル達がダイキのところに辿り着くと、ダイキがこれこれと指をさしていた。そこには淡く青色に光る鉱石があった。


「オリハルコン?」

「あぁ。ビックリだよなぁこんなところにあるなんてよ」


 オリハルコン。様々なファンタジーの創作物で登場するであろう幻の金属だ。HGOでは鉱石としてアイテム化されている。加工すれば非常に硬く、それでいて伸縮性に優れた金属になる。カケル達の武器にも高い割合で使用されている鉱石の一つ。HGO内ではレベル制限の掛けられているフィールドにある貴重鉱石だ。


 そんなものがなんで木の根元にあるのかって? すぐわかるさ。


 ダイキが「ラッキーだな」と言いつつ手を伸ばす。


「おいダイキ。あんま不用意なことす――」

「待ちなさいダイキ! それはトラップよ!」


 そういうことである。


 しかし夕姫の制止は一歩遅かった。ダイキは既に鉱石に手を付けてしまい、そして爆発したかのような凄絶な輝きが辺りを包み込む。


「「「このバカダイキィィィィィィィィィィィッ!!」」」

「すまねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」




 数秒続いた凄絶な輝きが収まった時、そこには誰もいなかった。

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