出発

 ぐっすりと寝た翌日。運ばれてきた朝食を食べ終えたカケルとダイキは出発の準備をする。


 と言っても、ただ装備を整えるだけだ。夕姫と織音もそうしてくることはわかっているので特に念話で伝えるとかはしない。


 カケルの装備は漆黒のロングコートに黒の襟付きシャツ。ズボンも黒、靴も黒だ。見事に黒だらけ、唯一は髪と目の色と白いネクタイくらいだろう。ここまで見たら明らかに中二病。ここに義手と眼帯が入ればフルコンプだ。両太腿にはホルスター。それぞれ一丁ずつ銃が入れられている。留め具は銃を引くだけで簡単に外れるためいつでも抜き打ち可能。戦闘中の機動性を重視して軽装にしている。


 対するダイキの装備はこれまた軽装だ。というかカケルパーティに軽装じゃない奴はいない。


 カケルは黒だがダイキは青だ。青いアウターにところどころ白いラインが入っている。インナーは襟付きで色は白。ズボンは青。靴は黒だ。カケルとはデザインが違うが。太めのベルトを腰に巻き、左側に両手剣が帯剣されている。


 これがカケルとダイキの標準装備だ。全てカケルのお手製。しかも全てが幻神級魔法装備《ファンタジックアーティファクト》だ。


 HGOの装備レア度は七段階でわけられている。上から幻神級《ファンタジック》、神級《ゴッズ》、超伝説級《スーパーレジェンダリー》、伝説級《レジェンダリー》、超希少級《スーパーレア》、希少級《レア》、一般級《ノーマル》だ。


 HGO始めたてなら希少級の装備でゴリ押しできる。超希少級になればある程度はやり方次第で何とかなり、伝説級になると結構引っ張りだこだ。超伝説級になればやり手のプレイヤーならドラゴンの単騎撃破も可能になり、神級になるとドラゴン相手でさえ無双状態になる。そして最上位の幻神級。これはもうHGO内で確認できたのはカケル製の装備だけだ。純粋ドロップで手に入る装備に幻神級は見つかっていなかったため性能の高さは完全に推測だった。カケルが創るまでは。


 幻神級の装備はまず純粋ドロップでは手に入らないことがわかった。何故なら神級の素材を使って作る装備しか幻神級にならないから。要は人の手が加わらないと手に入るレア度じゃないということだ。


 よしんば作ったとしても性能やデザインなどあらゆる情報をシステムが総合的に判断してレア度を付けるため、カケルのように生産系のジョブを最上位まで取得し、かつデザインセンスがないと作れないという何ともまあ鬼畜な仕様である。HGOは何を考えてそんな風にしたのか。製作難易度はルナティック級だ。


 そんな鬼畜仕様だからか、幻神級として認められた装備は破格すぎる性能になる。一つ持つだけでパワーバランスを崩しかねないトンデモ装備なのだ。破格な分、ものによって違いはあれど装備可能条件がかなり厳しくなっているが。


 HGO内では装備は二種類にわかれている。普通装備と魔法装備だ。バフしかついていないものは普通装備。そこに魔法的な追加効果があれば魔法装備となる。断然魔法装備の方が性能は良い。普通装備は魔法装備を手に入れるまでの繋ぎ的な意味合いがある。まあ入手は困難だが。


 それを踏まえた上で二人の武器を紹介しよう。まずカケルから。


 両太腿のホルスターに収まっている拳銃。幻神拳銃アルタイルと幻神魔銃ヴェガ。

 アルタイルは実弾銃で装弾数六発のリヴォルバー式拳銃だ。ダブルアクションのため連続射撃が可能になっている上、銃口初速が毎秒千メートルを軽く超える。こんなものは拳銃と言わない。

 ヴェガはその名の通り魔銃だ。アーツ「マジックバレット」を使う銃であり、戦闘中の使い方は多岐にわたる。魔弾の射手。格好いい響きである。なぜ称号にしなかったのか。


 カケルの武器はまだまだある。次は幻神機関砲ステラカデンテ。カケルの持つ武器の中では最高の連射速度を誇る銃だ。毎分一万八千発という通常あり得ない連射速度を持ち、八砲身から射出される五十口径の銃弾には破壊魔法の下位である爆裂魔法を付与しており、着弾した先から炸裂していくという手数と破壊力を兼ね備えている化け物銃だ。


 次に幻神狙撃銃ガラシア。使い回し、連射速度ときたら勿論射程だ。三メートル近い銃身長を持っている。スコープは織音との合作で最大二十キロ先まで見通すことができ、最大射程は二十キロにも及ぶ。リアルに忠実じゃねぇのかよとツッコミたい衝動に駆られるが、そこはファンタジーの六文字で全てを押し通す。


 カケルの主武器はこんな感じである。もっと増やすつもりだったが、そうする前に異世界転移に巻き込まれ、武器の製造は追いついていない。カケルとしてはこれから作っていけばいいだろという考えだ。


 次にダイキの両手剣。名は幻神聖剣インフェルノ。名前がおっかなすぎる上に聖剣と銘打ちながら地獄というネーミングはいかがなものか。ただ悲しいかなアイテム名は武器を含めてシステムに決められるため、責めるならカケルではなくHGOの制作会社だ。


 幻神聖剣インフェルノ。HGOの刀剣類の中では最高の攻撃力を誇る両手剣だ。光魔法の威力が増大するという効果があり、ギミックもいくつか備えられている。強化された光魔法は万単位の魔物の大群すら蹂躙し阿鼻叫喚の地獄絵図を創り出す程の威力になる。そこに関しては確かにインフェルノだ。


 これがカケルとダイキの武器だ。どちらも単騎で恐ろしい力を発揮する武器を備えている。ただ、カケル的には満足しきれるものじゃなかった。まだまだ改良の余地があるとはカケルの言葉だ。


「装備忘れはないよな?」

「ねぇな。行くか?」

「だな。一秒でも早くこの国から出たいし準備できたら即行退散だ」

「おうよ」


 そこで扉をノックする音がカケル達の耳に聞こえてきた。カケルが「入っていいぞ」と言うと、すぐに扉が開き、夕姫と織音の二人が入ってくる。朝からこんな美少女が自分の部屋に尋ねてくるとはなんと幸せなことか。クラスの男子共が聞いたら嫉妬と殺意が濃密に込められた視線を頂戴するだろう。


「準備できた?」

「おう。夕姫と織音もできてるみたいだな」

「えぇもちろん」

「問題ないよ」


 織音はそう言って「どう?」という感じでクルリと回りながら装備を靡かせる。夕姫はうんざりした顔だ。おそらく起きてから何度も同じことをされたのだろう。ぶっちゃけ二日前にはその姿を見てるため、「どう?」と聞かれても「いんじゃない?」としか答えられないだろう


 夕姫の装備は黒を基調としている。七分袖のロングコートとフィンガーレスグローブ。襟付きシャツにネクタイ。短パンにハイソックスとショートブーツだ。見事に黒だらけでところどころに水色のラインが入っている。


 装いはほぼカケルと同じ。これに関しては夕姫本人の希望とカケルの個人的感情によるところが大きい。武器はまだ装備していない。夕姫の武器に関しては持ち運びがかなりしにくい上、邪魔になるので戦闘行動に本格的に移行しない限りは魔法を使って後方支援をしている。


 そんな夕姫の武器はカケルと同じで銃器だが、リアルに近い(近いだけで同じとは言えない)機能を持つカケルの武器と違いファンタジーにかなり傾いた装備になっている。


 幻神銃剣クロチェデルスッド。遠近両用の武器だ。切れ味抜群、遠距離火力充分という万能武器だ。斬ったり撃ったり割と便利ですよねこの武器。銃弾に関しては装填数が十発。どの弾も着弾と同時に炸裂する。剣部分も全属性を纏わせることができ、切れ味上昇や属性効果が付く。高性能だが扱いに慣れと知識と才能を要する。


 そして織音。まず装備はカケルや夕姫とは反対に白を基調としている。腰元まで届く白いケープ。その下は三人と同様襟付きの白いシャツ。下は白いラインの入った水色のプリーツスカート。そして白のオーバーニーソックスにハーフブーツだ。三人のような武器は持っていない。その代わり、魔術本をチェーンのようなもので肩掛けにしてある。


 幻神聖典サントゥアーリオ。普通、魔法はスキルを使用し魔力を消費するだけで発動できる。ただ、この魔術本は装備しているだけで魔法の威力を上昇させる。更に魔法を一ページごとに刻み込み術式記憶ができる。


 複合魔法というスキルがある。既存の魔法同士を組み合わせることで、全く別の魔法を創り出すというスキルだ。このスキルで創られた魔法は、唯一魔法《オリジナルスペル》と呼ばれる。しかし、使えるのがその場だけである。だが、カケル製のこの魔術本がそのシステムをぶち抜いた。元々そういうシステムだったのかもしれないが。


 オリジナルスペルを創ったらその場でサントゥアーリオに魔法陣を記録することによって何度でも同じ魔法が使えるようになる。しかも威力が底上げされた状態で。そのためサントゥアーリオは織音の創り出したオリジナルスペルでエライことになっている。


 そして最後に魔力結晶。魔力結晶は魔力をストックしておくための装飾品で色々な形をしている。


 ネックレスやピアス、指輪など本当に様々な形をしており、これを全員が着けている。魔力は余分にあっても困るものではない。スキルにも魔法にも使うのだから。


 以上がカケル達四人の装備だ。この状態で一階に下り、そのままウマシカ亭を後にする。


 昨日制服だったカケル達が装備品を身に着けて下りたため、昨日とはまた違う視線を集めたのは言うまでもない。

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