実は……
私が彼の前に姿を現したのは、偶然ではない。
私が彼に興味を持ったのは、ずっと前。
私の住処に彼がやってきた時からだ。
理由はわからないか、ここに引っ越して来た頃の彼は、なんだかとても疲れた様子で、何もかもを諦めたような目をしていた。
家にいても毎日何をするでもなく、
誰かと繋がりがありそうにも見えない。
正直、ああなってまで、何で生きているのか、疑問に思うほどだった。
だが、
そんなある日、彼は傷だらけの子猫を抱えてうちに飛び込んできた。
雨に濡れて、びしょびしょになりながら抱えてきたのだろう、酷い有り様だった。
子猫は、寒さに震えていた。
ただでさえ、ダメージを受けている上、冷たい雨に打たれたのだ。
もう少し発見が遅ければ死んでしまっていただろう。
彼は、懸命に手当てをしていた。
ロクに知識もないだろうし、慣れない動物への治療など、到底できるものではない。
だが、彼は諦めなかった。
なんとか形にして、応急処置をして、寒さに震える子猫を夜通し抱えて暖を取らせてやっていた。
数日後には、その子猫は元気になって、走り回っていた。
彼は、その様子を見て幸せそうだった。
その時思ったのだ。
見ず知らずの動物相手にあそこまでできる人間がいるのか、と。
何もかもを諦めた人間が、何かに必死になっている。
それが不思議だった。
彼に懸命に手当てされてるあの子猫を見ていると、羨ましかった。
この事態は、別に狙ってやったことではない。
が、私が彼と同じ人間の姿になって、こうして彼と出会えたことは運命だと思っている。
だから……
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