ようやく救出し……マウス?
よく考えたら別に普通の話だった。
仮に、ここに挟まったのが昨晩として、
そのまま数時間もの間、このままでいればトイレだってしたくなる。
今までは寝起きのボーッとが続いて忘れていたにしても、それがさっき興奮して暴れて、下半身に刺激がいって一気に決壊し始めたら誰だってこうなるはずだ。
……下半身?
そこでエトはあることを思い出した。
そう、それは、
「……下も、何もはいてないよな?」
尻尾を見た時は無意識のうちに視界から外していたが、全裸なのだから当然下も履いてないことは容易に想像できた。
「はい、そうですが?」
「……そうか」
つまり、
「このまますれば?」
「ふざけないでください‼︎」
「ええぇ〜……」
今までおとなしかった女の子に本気で怒鳴られ、反応に困るエト。
万策は尽きたし、エトができることはもうない現状、どれだけ全力を出しても今すぐ女の子を救出することなどできそうにない。
ならもう温かい目で見守ってやることしかないかな思っての発言だった。
「我々にとって、自分の尿をかけるということは、それが自分のものだという証になるのです‼︎あなたの住処が私のものになってもいいのですか⁉︎」
しかし、どうやらこの状況は女の子にとっては、エトの考えていることとは別の意味で深刻だったらしい。
「じゃあ僕がバケツでも抱えといてやろうか?」
「ふざけないでください‼︎」
「はい……」
これはボケだった。
エト自身、女の子の下半身にバケツを抱えて受け止めるなんてしたら、泡を吹いてぶっ倒れる自覚くらいある。
軽い気持ちで言ったボケだったつもりだが、
間が悪かったらしい。
しかし最後の手段としてはそうするしかないかなと思うエト。
こういう時、女性の知り合いがいれば丸投げできるし、こんなに苦労しないでいいのにな、なんて思ったが、いないものは仕方ない。
「じゃあどうする?」
「それは……」
そこで女の子も口ごもる。
「言っとくが、僕にできることはもうないぞ?」
「……んんん」
言い返す言葉が見つからず、さらに表情を暗くする女の子。
引っ張り出すこともできないし、柵を曲げることもできない今、エトにできることはもうなかった。
そこで女の子も、諦めたように話し出す。
「なら、仮にこのまま漏らしたとして、そのあとはどうしてくれるんですか?」
その質問に対する、エトの答えは決まっていた。
「最中は離れといてやるよ、それで終わったら慰めてやる、災難だったなって」
「……うぅ、人ごと」
涙目で恨めしそうにエトを見る女の子。
「そりゃそうだ」
ネズミと人間では、感覚が違う。
女の子にとっては深刻な意味だとしても、エトにとっては大して意味をなさないと感じている以上、どれだけ女の子が必死になってもエトが感情的になる理由にはならない。
女の子の目を見たら断りづらくなるので、なるべく見ないように、投げやりに答えるエト。
「……なら最後に、まだ試していないことを試してもらえませんか?」
女の子が、何かを決心したようにエトに頼み込む。
「……なんだ?」
その圧に押され、思わず聞いてしまうエト。
「足を、引っ張って欲しいです」
女の子の最後のお願いは、脱出を手伝って欲しいというものだった。
だが、
「それはさっき自分で無理だって言ってただろ?その……胸が引っかかるって」
それにこちらも下半身はマズイとさっき言ったはずだ……
と心の中でつぶやくエト。
「はい、しかしそれは私がこの体制でやってのことです‼︎あなたが引っ張ってくださればあるいは……」
確かに、骨とは違い、胸はある程度形が変えられるかもしれない。
さっきまでが、単純に力不足だったとしたら、外の人間が足を引っ張れば、引っこ抜けるかもしれない。
「しかし、下へ回れば下半身のあれやこれが見えてしまうではないか?」
そんなの恥ずか死してしまうではないかと、なんとか諦めさせようとするエト。
「ならさっきと同じで、目をつぶって手を開いて歩いてきてくれたら、私が合わせますから‼︎……ね?」
だが、女の子の決意は固く、変えることはできそうにない。
「大丈夫です‼︎私、我慢できます‼︎」
(漏れないように‼︎)
「……そうか」
(……こいつ確かさっき?)
なんとなく思い当たる節があったエトだが、本人がやれと言うのだからやるしかないと、覚悟を決める。
「……よし、じゃあ行くぞ?」
目をつぶって、手を開いてゆっくり歩いて女の子に近づいて行くエト。
「はい‼︎」
近づいてくるエトの手に、自らの足を当てる女の子。
「よし‼︎掴んだ‼︎」
「んんっ……はい」
限界が近づいているのか、苦しそうな声で返事をする女の子。
「……大丈夫か?」
心配して声をかけるエト。
「……はい、大丈夫……です」
精一杯の返事をする女の子。
「……わかった。じゃあ、引っ張るぞ?」
「お願いします」
エトが全身に力を入れ、女の子を引っ張る。
ギュムムムムムムム…………
女の子の言っていた通り、最初は胸が引っかかっていたが、次第に形を変え、抜け始める。
(いける‼︎)
目は閉じていても確かに感じる手応えに、ようやく女の子を救出できると確信を持つエト。
だが、
「あっ……あん‼︎」
「おい⁉︎」
「なんだろ……尿意とはまた違う、変な感覚が……」
エトの嫌な予感は的中した。
「これは……さっき胸を触った時の感覚」
女の子は胸が弱いようだった。
「ダメ……このままじゃ……」
真っ赤な顔で、変な声を上げる女の子、
「もう少しだ‼︎頑張れ‼︎」
最後の力を振り絞って女の子を引っ張るエト。
山場を抜けるまであと数センチ。
……そして、
――――スポン‼︎
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