幕間

 最人が寮で爆睡している頃…


 学生寮から東へ10キロのラステリカ、そこから北へ約1500キロ国境を3つ越えたとある国の洞窟に18人の人間がいた。


「大変です‼︎ハアハア…、シーフNo.98が国に捕らえられました‼︎」


 駆け込んで来たばかりの男が跪き頭を垂れて報告する。


 その先には16人の男が3つの円卓に座っており、その奥には階段。階段の上は生地の厚いカーテンが掛けられ奥の様子は全くわからない。そして奥にいる人物から声が発せられる。


「エルム。詳細を…」


 エルムと呼ばれた青年は、伝令から紙を受け取り驚愕した。


「エルム。どうした早くしろ」


 仲間からの催促で落ち着きを取り戻したエルムは、資料から情報を纏めて読み上げる。


「今回98番は国に捕まりましたが、実行犯は国ではなく個人の様です」


「ほう、経緯とその人物の特徴を」


 エルムは命令通りに経緯と特徴を語る。


「ふむ、では全部隊をラステリカ西へ招集、その後に部隊を編成・展開しマレフィエールを攻め落とす…」


 エルムはその先の発言を遮って言う。


「待って下さい‼︎今回のターゲットは一個人です。全部隊を招集はやり過ぎかと…」


「何を言う…。今までこそ国が相手だっただけで、一個人であろうとも全力をもって叩き潰す。こうして我らは恐れられ誰も手が出せなくなっているのだぞ?」


「別に殺すなとは言っておりません。ただ全部隊を率いる必要がないと言っているのです」


 そう、1人を殺すために全部隊を出撃させるのは可笑しいし無駄なのだ。


「………駄目だな」


「何故ですか⁉︎」


 意味がわからないエルムは、その理由を問う。


「そう言えば 、まだお前は幹部になりたてだったな…。良し教えてやろう。いいか?お前は一個人の場合は戦力を減らすべきだと言った。だが、もしもそれが冒険者だったらお前はどうする?」


「‼︎」


 冒険者というのはギルドに登録されている強者達である。とるにたらない奴もいるが、国3つ相手取ってやっと互角というふざけた奴もいた。


「今、我の元にも資料が届いた。この資料を見る限り奴はラステリカの城から1人で逃げだしたらしい。まあ、あの国は外側からの物理・魔法攻撃以外には強くないが、とにかく此奴が一国を相手に勝ったのに違いはない」


 エルムはこの時点でもう納得していた。


「話しを戻すが、お前の理屈であれば国が冒険者を、我々にけしかける可能性がある。流石に緊急クエストのレイド指定にされたら、負けか、良くても戦力が激減するだろう。理解出来たかな?」


「はっ」


「それでは全部隊を招集‼︎今回は、我も出よう」


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