(4)「それ、たったひとつの冴えた死に方じゃん!」

  

 世の中の人間は、大きく二つのタイプに分けることができると思う。

 友達が本を読んでいるのを見て――

[1]読書の邪魔にならないように放置する

[2]何の本を読んでいるかたずねることが礼儀と考える

 この二種類である。

 私は人前で本を読むことは自分の空間に浸りたいことを意味するから、放っておくのが当然だと考える。

 それは私の母が文学少女であったせいかもしれない。

 私の家では、母が本を読んでいる間、声をかけるのは御法度だ。三者面談の日程などの重要な話であっても、ロクな返事が戻ってこないし、覚えているかどうかも怪しい。

 母が本を手にして、いつも熱心にそれを読んでいるわけではない。文字を目で追いかけながら別のことを考えている様子もよくある。しかし、母が読書を始めたということは、娘だろうが息子だろうが夫だろうが「話しかけるな」という合図なのだ。

 私はそういう家庭に育ったものだから、人前で本を読むときは「放っておいてほしい」というアピールのつもりだった。

 ところが、読書している相手に積極的に話しかける子が存在するのだ。しかも、けっこうな割合で。

 愛用のブックカバーまでしているのに「ねえねえ何の本読んでるの?」と親しげに語りかけてくる。ぶっきらぼうに答えると「それって面白いの?」とたずねてくる。そんな感想は読んだあとに聞いてほしい。四六時中読書しているわけではないのだから、読んでいる最中に訊かなくてもいいではないか。

 そもそも、「こんな本を読んでるんだよ!」とアピールするなら、ブックカバーをせずに読むはずだ。これ見よがしに、表紙をちらつかせながら読むはずだ。

 私は声を大にして言いたい。ブックカバーをつけて読書している子は放置してほしいと。

 残念ながら、私のそんな主張は少数派になっているのが現状だ。だから、私が教室で本を読むことはまずない。よほど、追いつめられた状況でないかぎりは。

「キョン子、なんの本、読んでるのよ?」

 先ほどの[2]のタイプに属することが、陽の目を見るより明らかなグッチの前で本を読んでいるのは、のっぴきならない事情によるものだった。

「SF」

 私は端的に答える。

「……え、えすえふ? なんで、そんな本」

「部活で」

 私は話を切り上げたい気持ちを露骨に示したウンザリ口調で言う。

「ああ、そうか! スズミヤの部活に入ってるもんね!」

 たちまちグッチがうれしそうな声をあげる。

「そうだね。涼宮くんはSF好きそうだし」

 クニも話を合わせてくる。

「うんうん、好きな男子の趣味の本を読んで、その感想を言い合う。それもまた、青春のかたちよ! ウチは絶対にマネしないけどね!」

「でもグッチ、涼宮くんが本を読んでるところは見たことないよね?」

「だってスズミヤは頭だけはいいから、読むのも早いんじゃないの? 平凡なキョン子が愛するスズミヤに追いつくためには、必死でSFを読むしかないのよ!」

「ははは、そうだね」

 ちょっと待て。二人とも、とんでもない思いちがいをしている。

 ハルヒコが余裕で私が必死なのは、選んだ本の分量がちがうからだ。

 私は上下二分冊で、ハルヒコは一巻完結。その差、倍である。

 だいたい、中学からの友達であるクニは知っているはずではないか? 『読書感想文の清水』と呼ばれし私の特技を。

 しかし、私は反論しない。ひとつは、私が読書中きわめて無愛想になることをグッチに知らしめなければならないし、もうひとつは、言い返しているヒマがないからである。

 『ハイペリオン』上下二巻を持ち帰った昨日の夜、私は計画を立てた。期日は一週間。五日間で読み終えて、残りの二日で感想文を書くのが妥当だろう。だから、初日に上巻の三分の一は読んでおかなければならないはずだった。

 それなのに、昨日の夜、私は十ページすら読めずに寝てしまったのだ。

 専門用語の続出、そして、まったく共感できない登場人物。SFというジャンルのせいか『ハイペリオン』という本のせいかわからないが、とにかく読みにくいのだ。このままでは期日に間に合わないことは確実だった。

 だから、グッチやクニの前でも読むしかないのである。そうすれば、本の内容に集中できなくても、寝ることはないと。

 まるで苦い薬を飲みこむように、私は『ハイペリオン』を読み進めていく。ページをめくっていけば、そのうち面白さにつながるきっかけが見えてくるはずだ。それぞれの本には、それぞれの作者の思い入れがたっぷりこもっている。その思い入れを知ることができれば、読むスピードはグンと向上するはずなのだ。

 だが、『ハイペリオン』の展開は私の期待を裏切り続ける。最初に出てくる主人公格の男性にまったく共感できないし、それから登場する人物の誰もが私と接点のない連中なのだ。

 いったい、この物語はどこに向かうのか。私はすでに知っている。それは、ハイペリオンという宇宙の辺境の惑星である。問題は、それを読んでいる私が、完全に傍観者になっていることだ。せめて、一人ぐらいは感情移入できる登場人物が出てこないと困る。読んでいても、何の感想も思いうかばない。

「うん、SF読んでるキョン子ってステキじゃん」

 グッチが意味不明なことを言ってくる。

「そうだね、涼宮くんに好かれるために読書するキョン子は健気でいいよ。会長さんとか生徒会長みたいな先輩に話しかけられて、調子に乘ってるキョン子よりも」

 クニもそれに同意する。

 私は反発しない。「ホントは私もSFなんて読みたくないんだ!」と絶叫することもない。とにかく、長門くんとハルヒコを見返すためには、この『ハイペリオン』を読み終えないことには始まらないのだから。

 球技大会、そして期末テスト。それらは高校生には大事なことだろうが、私にも譲れないものがあるのだ。

 『読書感想文の清水』の名にかけて。

 

     ◇

 

「……それで、どうして、あのベッコウメガネはキョン子を目の敵にしてたんだ?」

「そんなの、みつる君に惚れてるからにきまってるじゃん」

「ははは、なんだか照れるね」

 部室にて、『ハイペリオン』を読みつづけている私を無視して、他の団員は優雅におしゃべりをしていた。

 いつもの長門くんに加えて私がSF読書会に加わったわけだが、残り三人は読むそぶりすら見せない。

 ハルヒコはともかく、イツキとみつる先輩は読まなくていいのか不安だが、今の私に他人を心配するヒマはない。

「だって、キョン子はみつるのファンクラブ会長になるの断ってるんだろ?」

「だけど、あのヒトは、わざわざみんなの前でキョン子ちゃんに次期会長のお願いをしているからね。そうして既成事実に持っていこうとしてるのよ。ホント、あのヒト、性格悪いよね」

 あんたほどじゃないけどな、と私は心の中でイツキに毒づく。

 ミッチーズ会長さんは良くも悪くも愚直な人だ。思いこみが激しいところはあるけど、考えていることはわかりやすい。

 その会長さんと比べると、イツキは悪魔である。SOS団メンバー以外に、みつる先輩と付き合っていることを知られないように徹底している。

 まったく、この正反対な二人が仲が良いというのが信じられない。

「そもそも、あのベッコウメガネ、みつるのファンクラブに入ってないじゃねえか」

「いや……入ろうとしたんだけど、会長さんに断られたんだよね」

「そうなのか、みつる」

 ハルヒコとみつる先輩の会話に私はついつい耳を傾けてしまう。

「だって団長、みつる君のファンクラブは『みんな仲良く』が合言葉だからね。あの生徒会長、節度がなさそうだから、あのヒトが断るのも当然よ」とイツキ。

「まあね。あの子、正直言って、うっとうしいというか、うざったいというか……」

 女子の悪口を言わないことに定評があるみつる先輩に、ボロクソ言われるとは、どんなことをやったんだ、あの生徒会長。

「でも、あのベッコウメガネ、生徒会長に当選したぐらいだから、それなりに人望あるんだろ? 俺にはイマイチわからないが」

「あの子、何事にも熱心ではあるよね。目立ちたがり屋で仕切り屋ではあるけど……」とみつる先輩。

「そのくせ、頭悪そうだし。キョン子ちゃんに敵意をいだく時点で、根本的にまちがってるんだけどね」とイツキ。

「あの子、努力家ではあるんだよ。だから、先生たちの評価はそんなに悪くないのが困ったところで……」

 それ、もっともダメなパターンじゃないのか? 無能なくせに努力家な生徒会長なんて。

 私はマジメに投票すべきだったと後悔する。

 もともと、我が北高はユルい校風を売りにしている。それは、地元でも名の知られた進学校だから、あまり問題児が入ってこないからだ。先生やPTA、そして生徒会長がでしゃばらなくても、たいてい何とかなるからだ。まあ、朝倉リョウみたいな悪党がいたこともあるけれど、だからといって風紀の取り締まりが厳しくなることはなかった。

 もし、あの生徒会長が『部活動健全化運動』をマジメにやったとするとどうなるか? たちまち息がつまるような学校生活になるだろう――コンピ研の不健全図書類の没収は当然だが。

 部活動の健全化なんて、先生たちも望んでいないはずだ。公立進学校に求められるのは、高潔な人格育成よりも立派な大学に入ることにあり、勉学の息抜きに部活動を楽しむことは、大いに推奨されているのだから。

「みつる、ハッキリと言ったほうがいいんじゃねえか? あのベッコウメガネに、おまえのことが大キライだって」

「だから言ったじゃん。ただのクラスメイトだって」

「でも団長、そのせいでキョン子ちゃんがピンチになったらどうするのよ? みつる君への愛情が、キョン子ちゃんへの恨みに変わったりしたら」

「心配ないよ古泉。あのベッコウメガネ、バカだからな」

 ひどい言われようである。しかし、私は弁護する気にはならない。初対面の私に対してあんなことを言った人間を、とうてい許す気にはなれない。

「例の『部活動健全化運動』だって、実際にプランを立てたのは副会長の黄緑ってヤツだろうし」

「そうだよね。あの生徒会長、黄緑ってヤツとくっつけばいいのに。みつる君にアタックするなんて百年早いわよ」

「まあまあ、女子の恋する気持ちは、他人がとやかく言ってもどうにかなるものじゃないから」

「ったく、他人事みたいに話すんじゃねえよ、みつる。だいたいさ、おまえがこのトラブルを招いた元凶なんだぞ。おまえの誰にでも優しくする性格が、このSOS団にどれだけ不利益をもたらしたか――」

「えー? そういうのも含めて僕はハルヒコ君に勧誘されたんじゃないの?」

「そ、そうだけどさ」

「団長、みつる君はこの北高の正義なのよ。その大正義みつる君に盾つくなんて、団長でも許さないんだから」

 正義とまで言うか、イツキちゃん。

 私はすっかり『ハイペリオン』から意識を離して、三人の会話に集中してしまう。

「でもよ古泉、こういうみつるの性格、なんとかしたいと思わないのか?」

「そんなの仕方ないって。みつる君はあのヒトにみっちりと調教されたから」

「ちょ、調教って、古泉どういうことだ?」

「いやいや、ハルヒコ君。やらしい意味じゃないんだよ。でも、会長さんはいろいろなことを僕に教えてくれた恩人だから」

「あれ? もしかして、団長って、みつる君が中学のときは地味キャラだったこと、知らないの?」

「そうか、みつるって高校デビューだったのか」

「いや、自分でしたんじゃなくて、そうさせられたっていうか……」

 私も知らなかったぞ、そんなこと。

「つまり、源氏物語の『若紫計画』の逆バージョンってことか。会長さんはみつるを自分好みの男子に教育した、と」

「ちがうって団長。あのヒトは、あくまでも『みんなのアイドル』として、みつる君を調教したんだから」

「だからイッちゃん、調教って言葉やめてよ」

「……そんな会長さんを差し置いて、おまえら付き合っていいのか?」

「だってヒミツの関係なんだもん。ね、みつる君?」

「ハルヒコ君も言っちゃダメだよ、僕たちのこと」

「…………ううむ、俺にはさっぱりわからん」

 腕を組むハルヒコに私はちょっとだけ同情する。恋愛は理屈で説明できるものではない。その聖域に足を踏み入れることは第三者である私たちには無理なのだ。

 しかしまあ、イツキとみつる先輩はずいぶんとお互いのことを知るようになったと思う。イツキは私に話していない中学時代のことを、みつる先輩には教えているかもしれない。私がイツキと絶交している間に、みつる先輩はイツキのことを私以上に深く理解するようになったのかもしれない――別に悔しくないけど。

「なあ古泉は、そういうのを全部わかってて、みつると付き合ってるんだよな?」

「だから団長、それはヒミツだから」

「でも、会長さんがみつるを教育してなかったら、古泉はみつるに惚れたりしなかったんだよな?」

「まあね。中学時代のネクラなみつる君に会っても、あたしが相手をしたかどうかはわからないし」

「じゃあ、みつるは会長さんと付き合うべきじゃないのか?」

「なに言ってんのよ団長。これは化粧みたいなものよ。あのヒトはみつる君に化粧のやり方を教えた。でも、みつる君が今でも北高女子に愛されているのは、毎日その化粧を続けているからよ。だから、あのヒトは、みつる君の恩人であって、それ以上ではないってこと」

「僕にとって会長さんは特別なひとだよ。でも、イッちゃんはそういう僕を全部受け止めてくれているから――」

「それよりあんたたち、感想文はだいじょうぶなの?」

 たまらず、私は口をはさんでしまった。これ以上、ノロケ話を聞くのはたえられなかったのだ。

「おいキョン子、おまえはだまってSF読んでろ」

「あらあらキョン子ちゃん、あたしたちに嫉妬したのぉ?」

「ふんっ!」

 私はイツキにそっぽを向いたあとで、

「ハルヒコ、あんた、部室をSF読書会にするんじゃなかったの? なんで、私はコイツらの恋愛話を聞かされなくちゃいけないのよ!」

「こ、コイツらって、僕も含まれてるの?」

「キョン子ちゃん、どんどん口が悪くなってるよ。あたしはそんな不良にキョン子ちゃんを育てた覚えはないのに……」

「ふんっ!」

「キョン子だって、この話、ちゃんときいてみたかっただろ?」

「それよりハルヒコ、ここは文芸部部室なんだから、感想文を書くことに専念すべきだと思うんだけど?」

「そんなの家でやればいいだろ。こんなところで読んだところで、ろくに集中できないしな。読書感想文の清水さんはちがうかもしれないが」

「あんたのことは心配してないわよ。問題は、この二人」

「え? ぼ、僕は、ちゃんと読んでるっていうか――」

「はいはーい、キョン子ちゃんに問題! 『たったひとつの冴えたやりかた』とはなんでしょう?」

「…………なっ!」

 イツキの予想外の質問に私はあせる。

 『たったひとつの冴えたやりかた』とは、イツキが選んだ本のタイトルである。それが何がわかるということは、推理小説において真犯人がわかったのと同じではないか。

 つまり、たった一日で、イツキは読了してしまったことになる。読書が苦手なタイプと思っていたのに……。

「おい古泉、ネタバレは禁止だぞ」

「いやいや、これは本のネタバレじゃないから」

「じゃあ、なんなんだよ?」

「あたしはキョン子ちゃんに問題だしてるんだから、団長はだまっててよ」

「おまえら絶交中じゃなかったのか?」

「だから、あたしは一方的に話し続けるだけよ。いい、キョン子ちゃん?」

「ふんっ!」

 私はそう答えながらも、安心する。イツキはカッコいいタイトルを見て、自分でくだらない話を思いついただけだ。ちゃんと本を読んだわけではないのだ。

「ではキョン子ちゃん、想像してみて。あるところに、おばあちゃんとおじいちゃんがいたのよ。二人は長年の間、誰もがうらやむおしどり夫婦だったんだけど、寄る年波には勝てなかったんだよね。そのうち、おじいちゃんは寝たきりでボケ始めて、おばあちゃんも腰を痛めて介護ができなくなったの。これ、すごくヤバくない?」

「重い話だな古泉、おまえらしくない」

「でも、あたしだって、いつかはおばあちゃんになるし。ね、みつる君」

「まあ、僕もおじいちゃんになるけど、ボケるかどうかは……」

「ふんっ!」

 おいおい、コイツら、早くも老後の心配までもしているのか。まだ高校生のくせに。

 どこまでバカップルなんだ。

「で、キョン子ちゃんがそのおばあちゃんだったら、どうする?」

 いやいや、あんたとちがって、私には相手のおじいちゃんがいないから、想像しようがないではないか。

「お、なかなか面白い質問じゃねえか。なあ、キョン子はそのとき、どうするんだ?」

 ハルヒコが乗り気になったおかげで、私は答えざるをえない。

「ねえハルヒコ、あんたサナトリウムって知ってる?」

「ああ、山とか海辺にある療養所のことだろ? 『風立ちぬ』に出てくるような」

「あたし、死ぬときは、ああいう自然豊かなところで死にたいのよね。そりゃ自宅で死ぬのが一番いいかもしれないけど、それなら、自分と同じように死を迎える人たちと一緒に暮らしたいというか。でも、病院で死ぬのは辛気臭そうでイヤだとか……」

「だけどキョン子、サナトリウムみたいな療養所って、すごくお金がかかるんだろ?」

「だよね。自分の死のために、そんなお金をかけるのは迷惑なことかもしれないし」

「キョン子ちゃん、お金のことは心配しなくてもいいよ。ただね、そんなところに入ると、愛する人と二人っきりの世界じゃなくなっちゃうんだよ? そして、愛する男性がボケていくのを見守らなくちゃいけないのよ。キョン子ちゃんは、そんなことには耐えられる?」

「だって、そのころには私だっておばあちゃんになってるんだから、そういうのも運命だと受け入れるようになってると思うんだよね、イツ――じゃなくて、ハルヒコ」

 私はあわててハルヒコに話をふる。

「うーん、俺は自分がボケていくところをあんまり見せたくないよなあ。自分の世話も自分でできなくなるんだろ? それなら意識がハッキリしているうちに……」

「さすが団長! その通りよ。キョン子ちゃん、あたしは最初に『たったひとつの冴えたやりかた』と言ったよね? つまり、正解はこうよ!」

 それから、イツキは立ち上がって、人差し指をみつる先輩に向けて、

「おじいちゃんをバンッ! そして、自分のこめがみをバンッ! これだけが二人は幸せな夫婦のままでいられる方法、『たったひとつの冴えたやりかた』よ!」

「それ、たったひとつの冴えた死にかたじゃん!」

 たまらずに私は叫んでしまった。

「あれ? キョン子ちゃん、あたしと絶交してたんじゃなかったのぉ?」

「こ、これは……ひとりごとよ」

 私は見苦しい弁明をする。

「……イッちゃん、そんなことまで考えてたの?」

 いっぽう、指をつきたてられたみつる先輩は青ざめている。

 さすがのみつる先輩も、イツキの心中計画には驚いたらしい。

「いや、これ、この作者のやりかたなのよ」

「おい古泉、その本って十六歳の女の子が主人公じゃなかったのか? おばあちゃんの話じゃねえだろ?」

「だから、作者の話よ」

「おい長門、本当か?」

「…………フッ」

 指定席でいつもどおりSFを読んでいた長門くんがメガネを光らせる。

「さっきの話は、その本の作者、ジェイムス・ティプトリー・ジュニアこと、本名アリス・シェルドンの最期のことだ。彼女はみずからの手で夫を殺し、その後、自分を撃ち抜いて死んだ」

「なんて迷惑なことを……」と私。

「無計画な心中ではない。きちんと弁護士に後事を託したうえで、予定通り実行されたものだ。二人の遺体は手をつないだ状態で発見されたという」

「うわー、ロマンティック! あたしたちも、そういうふうに死にたいよね、みつる君?」

「い、いや、僕は……そこまで考えたくないっていうか、まだまだ先の話というか」

 みつる先輩は怖気づいているが、それが当然の反応だろう。

 私たちはいつかは死ぬ。でも、そんなことを高校生のうちから考えたくない。

 そりゃ、私だってテロリストに捕まって殺されそうになったとき、どんな遺言を残すべきかは想像したことはある。『板垣死すとも自由は死せず』みたいなカッコいいセリフを言ってみたいとか、実際の板垣退助はそんなこと言ってないらしいとか、たぶん私は犬養毅の『話せばわかる!』みたいことを叫んで『うるさいだまれ』と殺されるんだろうなとか、そもそも何も言えずに恐怖でひきつったまま殺されるんじゃないかとか。

「長門、SF作家ってそんなに物騒なヤツらなのか?」

「ティプトリーはSF界でも孤高の存在だ。そもそも、我が国の同人誌即売会がSFイベントの模倣から始まったように、SF業界は作家同士やファンが交流する、悪くいえば、なれ合いの世界だったのだ。だから、ティプトリーのように、作家デビューから十年近くも性別がまちがえられた例は珍しいといっていい」

「そうだよな、この作者、ペンネームが男だからな。でも、そういう例は漫画家でもよくあることだし」

「名前だけではない。ティプトリーはもっとも男性らしいマッチョなSF作家として脚光を浴びていたぐらいだ。ムダのない筋肉質の文体で書かれた優れた短編を数多く残しているからな」

「だからこそ、最期もそんな心中ができたということか。普通は男の役目だろうに。伴侶を殺して自分も死ぬなんて」

「ティプトリーはSF作家の中でも経歴がきわめて異端だ。作家の母と探検家の父に生まれ、5歳のときにアフリカ旅行をして、白人として初めてマウンテンゴリラを見た一人になったという。もちろん、ゴリラの剥製を持ち帰った最初の白人ということになるのだが」

「スポーツハンティング!」と私は叫ぶ。

「どうしたんだキョン子」

「だって白人は、趣味のためだけに動物を殺すのよ。この『ハイペリオン』だって――」

「そのとき、ティプトリーの母は、ライオンを撃ち殺したりもしたそうだ。いっぽうで、幼いティプトリーは、現地部族に女神のような扱いを受けていたという」

 私を無視して、長門くんは話をつづける。

「すごい体験だな、そりゃ」とハルヒコ。

「しかし、高名な両親のもとでぬくぬくと育つことにティプトリーは我慢ならなかったようで、第二次世界大戦がはじまると、陸軍に入隊する」

「なんで? 女性なんだよね、このティプトリーってヒト」とイツキ。

「戦地に赴く兵士ではなく、あくまでも陸軍航空隊の事務員としてだ。ただ、戦後はCIAの創設に関わったというから、有能な人材であったらしい――それから、職を辞して大学に入学。学士号と博士号を取得する。SF作家として活動したのは、40代になってからだ」

「ねえ長門くん、なんでSFなの? そんな波乱万丈な人生を送ったんだから、自伝を書いたほうが、絶対に面白いんじゃない?」と私。

「そんなのキョン子、書けないことが多すぎるからだろ? 軍隊に務めて、CIAの創設に関わるなんて、いずれも機密事項を取り扱う仕事だ。小説でそれを匂わせることなんて書けやしない。だから、SFで物語を作るしかなったわけだ。そういうことだろ、長門?」

「まあ、過去の体験談をそのままSFという形にするほど、ティプトリーの小説はなまやさしいものではない。ただ、ティプトリーは幼い頃から、死と隣り合わせの経験を送っていた。だから、彼女の作品には凄味がある。任務に忠実ゆえに最後は部下を切り捨てる軍人の非情さなど、ティプトリーの作品でなければ味わえないスリルが、彼女の小説にはある」

「でもメガネ君、この『たったひとつの冴えたやりかた』は、そういうんじゃないんだよね? 十六歳の女の子が主人公なんだから」とイツキ。

「まわりの大人たちの反応は、恐ろしく現実的ではあるけどな。そもそも、ティプトリーの最期が物語っているように、彼女は『いかに生きるか』を至上命題としている。けっして『いかに死ぬか』ではない。彼女が自死を選んだのは、生きかたにこだわったからだ」

 そして、長門くんは私を向いて言う。

「だから、君の『たったひとつの冴えた死にかた』というのはまちがっている。彼女の最期は『たったひとつの冴えた生きかた』だったのだ」

「……う、うん」

 高校生の私にはとても理解できることではなかった。

「君には前に話したと思うが、SFとは作者の想像力の極限で紡ぎだされた物語だ。誰もが恐れる未来を具現化し、そのなかで懸命に生きようとする人間を描いた物語だ。君が選んだ『ハイペリオン』はそんなSFの集大成といっていい作品といえる。君にはそのことをわかったうえで、感想文を書いてほしいものだが」

「そうだな、読書感想文の清水っていうぐらいだからな」

 長門くんに続いて、ハルヒコがプレッシャーをかけてくる。

 私はSFは軽いエンターテイメントなのかと思っていた。

 SFなんて、未来だからというご都合主義で片づけられる物語かと思っていた。

 そして、困ったことに、私は自分が選んだ『ハイペリオン』という小説の輪郭すらつかめないでいる。

「あと、言い忘れていたが、今回の感想文、ネタバレは禁止だからな」

「え?」

 ハルヒコの一言に私は大いに戸惑う。

「だってキョン子、ネタバレを書いたら、読む楽しみを奪っちゃうだろ? 俺だって、おまえらが選んだ本を読みたいし」

「でもハルヒコ、ちょっとぐらいはいいんじゃない? そもそも読書感想文にネタバレはある程度仕方ないっていうか……」

「ほう、読書感想文の清水さんともあろうものが、ネタバレなくして感想文が書けないとまで言うか。いったい、キョン子は誰のために本の感想を書くんだ? クラス代表になるなら、担任に向けて書けばいいだけの話だが、今度はそうはいかないぞ」

「…………うぅ」

 私はうなだれる。ハルヒコのほうが正論だ。

 もともと私だって、先生のために読書感想文を書いているわけではない。でも、クラスメイトが私の感想文を読むことなんてほとんどないし。

「だいたいさ、キョン子は読書感想文で十年連続クラス代表になったと言うけど、小学生のころは親が書いたりしてたんだろ?」

「ま、まあ、母さんには提出する前に見せてたけど……」

「そして、母親に添削されたりしたんだろ?」

「小学四年のときまでよ。それからは母さんに見せてはいるけど、書き直したりはしていないから」

「へえ、小四のときになにかあったのかキョン子」

「それがね、当時の担任が分からず屋で、その本を読んだことないくせに私の感想文にケチつけて、いろいろ手を加えたのよ。あたし、どうしても納得できなかったから、泣いて母さんに話したら、あの母さんが学校に怒鳴りこんじゃったのよ――そして、ついたあだ名が『読書感想文の清水』ってわけ」

「それ、おまえじゃなくておまえの母親の異名じゃねえか!」

「いや、そのうち私もそう呼ばれるようになったから」

「……なるほどな。『読書感想文のキョン子』じゃなくて『読書感想文の清水』っていうのは、そういうわけか。なんだかガッカリしたぜ」

「なに言ってんのよ。それからも私はクラス代表になり続けたのよ!」

「でも、県で入選したりはしてねえんだろ?」

「だ、だって、ああいうのは、特定の学校の子が受賞するんだよね。有名な先生がいるところとか」

「おいおい、他人のせいにしてるんじゃねえぞキョン子。おまえ、読書感想文が唯一の特技なんだろ? ならば、もっと自信持てよ。自分の感想文を選ばない県の教育委員会をバカにしろよ。それぐらいの気概があって、初めて『読書感想文のキョン子』と呼ばれるようになるんだ!」

「…………くっ」

 私はハルヒコに言い返せない。

 もし、ジャンルフリーの感想文ならば、私も意地を張るだろう。少なくとも、あんたには負けないといえるだろう。

 しかし、私の担当は、まだ十分の一も読んでいない『ハイペリオン』なのだ。売り言葉に買い言葉は危険すぎる。

「……それで涼宮、発行する部誌のタイトルや部数はどうするんだ?」

 長門くんが建設的な意見を出してきた。

「部費はほとんど残ってないから、学校の印刷機を使うしかねえだろ? パソコンはあるから、手書きで持って来たら俺が打ってやるよ。プリンターはコンピ研から借りればいいし」

「ああ、かわいそうなコンピ研!」

 みつる先輩が悲しい声をあげる。あのとき、みつる先輩が歓喜してたぐらいだから、生徒会に没収された不健全図書類はマニア垂涎のお宝があったのだろう――私は興味ないけど。

「だから長門、部誌の表紙は凝ったものはできないはずだ。俺はもともと、生徒会にのし紙をつけてお歳暮代わりに提出してやろうと思ったが、それを表紙にして、全クラスに配布するぐらいのことはしたい」

「そういやハルヒコ君、イラ研の部誌はクラスに置いてあるよね?」

「ああ、あんな中途半端な表紙よりは、のし紙のほうが面白いだろ? それだったら、ネットに落ちている画像素材を使えばいいし。これなら部費を使わなくてもすむ」

 ちなみに、DVD完売のあと、あまった部費で打ち上げをしたのだが、そのことについて私は語りたくない。カラオケに行こうとハルヒコに提案した私が、もっともオンチだったなんて。

「じゃあ涼宮、発行部数は三〇部でいいか?」

「そうだな、さすがに今から売り物を作るのは無理だ。なにしろ、調子に乗って副団長になりたいとまでほざいてた団員その1が、すっかり意気消沈している現状では、俺と長門ぐらいしかまともなものは書けそうにないし」

「ひどい団長、あたしのことは人数に入ってないってこと?」

「ま、まあ、古泉は文章は苦手っぽいし」

「なによ! さっきのメガネ君が言ってたことをまとめただけでも立派な感想文になるじゃん。ね、みつる君?」

「ええ! さっきの話なんて、もう半分以上は覚えてないよ」

「みつる君ったら使えないわねえ。キョン子ちゃんなら、きっとうまくまとめてくれるのに。ね、キョン子ちゃん?」

「ふんっ!」

 私はイツキにそっぽを向きながらあきれてしまう。人の解説をあてにして、自分で読む気が全然ないとは。

「ねえハルヒコ、あの女に質問があるんだけど?」

「古泉に? おまえが自分でやれよ」

「じゃあ、いまからひとりごとをつぶやくんだけど、いい? ――なんで読んでもいないのに作者の最期だけは知っていたのかなって」

「キョン子ちゃん、それは巻末の解説だけ読んだからよ!」

 誇らしげにイツキは語る。

 ああ、やはりそうだったのか。

「あのねえ、ああいうのは本文を読んだあとに読まないと意味ないのよね」

「なんで? あれは忙しい人のために短く内容をまとめて教えてくれるものじゃないの?」

 ふう、と私は聞こえるようにため息をつく。

「読書感想文の最大の敵――それは巻末の解説よ。それを読んでわかった気になって感想文を書いたところで、自分の文章じゃないから、ちぐはぐなものになってしまう。ああコイツはきちんと読んでない、とすぐにわかるようなレベルの低い感想文しかできないわけ」

「ほうキョン子、レベルの高い感想文ってどんなものだ?」とハルヒコ。

「自分の感性に忠実にもとづいたものよ。読書感想文には三つの柱がある。印象的な場面、気に入った登場人物、そして、物語の到達点。自力でマジメに読んだなら、必ずその三つは書けるはずよ。印象的な場面っていうのは、小説中に出てくる食事の描写でもいい。主人公が食べているパスタがとてもおいしそうだったとか、主人公が訪れた町に住みたくなったとか、そういうの。ただ、それだけじゃダメよ。きちんと小説を最後まで読んだとわかるような感想文にしないと。例えば、感情移入した登場人物について書くのもいいわね。冒頭ではこのキャラクターに共感したけど、だんだんとちがうキャラが好きになったとか……」

「でもキョン子、それはネタバレになるからなあ。ミステリーで最初はコイツが怪しいと思ったけど、そのうち別のヤツが怪しいとわかったなんて感想文で書かれたら、読む楽しみがなくなっちゃうじゃねえか」

「それは仕方ないことじゃない?」

「だって今回は、俺が編集をしないとな。まさか、手書きの文章をそのまま載せるわけにはいかないし。メールで送ってくれてもいいが、デザインを整えるために、どうしても俺はおまえらの感想文を読むことになる」

「でも、読んだことのないあんたに、ネタバレかどうか区別できないと思うけど」

「ならば、オレがチェックしようか?」

 まさかの長門くんが名のりをあげる。

「そうか! それなら助かる。じゃあ長門にネタバレチェックをしてもらって、それが通った感想文を、俺がこのパソコンで入力して編集する。その作戦でいこう」

「……まあ、仕方ないわね」

 私は渋々承知する。ネタバレなしの感想文となるとますますハードルが高くなるが、長門くんをうならせるほどのものを書かないと、私の名誉挽回はできないのだから。

 しかし、そんな取り決めなんてまるで興味ないイツキは、とんちんかんな質問を投げかけてくる。

「ねえキョン子ちゃん。あたしはラクに感想文が書ける方法が知りたいんだけど」

「そんなものは、ない!」

 私は断言する。

 もともと、私は速読なんて読書に入らないと思っている。あんなものは、年に百冊以上読んでいる人が新刊のオススメを紹介するために使う技術であって、ロクに読書をしない人が自分の理解できるスピードを超えてページをめくったところで、何ひとつ頭に入らないものだ。

 世の中には数多くの本があるではないか、という人には、世の中には数多くの人間がいるではないか、と言い返したい。私たちが知ることができる人はごくわずかだ。同じように、私たちが読むことができる本はごくわずかなのだ。

 結局、私たちは知り合いが読んだ本や、信用できる人が推薦している本を読むことしかできない。だからこそ、読むからにはじっくりと読みたい。その作者は長い年月をかけてその本を書いたのだ。そんなものをパッと目を通しただけで、下らないと切り捨てるのは好きじゃない。

 読書の魅力とは、自分のペースで進めることができることだ。本を読むときは、何度でもページを戻して読み返すことができる。だからこそ、読書は自分の空間を築くことができる趣味になりえるのだ。

「つまり、ちゃんと読まない子には、ロクな感想文が書けないってことよ」

 私の正論にイツキは感情的に反発する。

「ふん! キョン子ちゃんなんてキライ!」

「私もよ。ふんっ!」

 まあ、イツキと読書で意気投合するなんて、この先、未来永劫ないだろうけど。

「……で、ハルヒコ君。締め切りはいつにするの?」とみつる先輩。

「そうだなあ。終業式の日には完成させたいから、なるべくその朝までには持ってきてほしい」

「終業式当日って、印刷するヒマあるの?」と私。

「あんな終業式なんて、サボればいいだろ。なあ、長門も付き合ってくれるよな?」

「フッ……承知した」と長門くん。二人して、とんだ不良生徒である。

「団長、終業式って12月24日じゃん。クリスマスイブが締め切りだなんて、ロマンティック台無しなんだけど」とイツキ。

「そうはいっても、あのベッコウメガネに約束したからなあ。……じゃあ、いっそのこと、お歳暮じゃなくてクリスマスプレゼントというのもアリか」

「それは絶対にやめて」

 ハルヒコの思いつきを、私はすぐさま否定する。

 何が悲しくて、あんな生徒会長にクリスマスプレゼントを渡さなくちゃいけないのだ。まだお歳暮のほうがマシだ。

「そうだ、いいこと考えた!」

 とつぜん、イツキが陽気な声をあげた。

「どうしたんだ古泉」

「無事にそれが発行できたら、クリスマスパーティーをしようよ! メガネ君の家で」

「え? イッちゃん、どうして?」

「ほう、長門の家か。俺、一度は行ってみたかったんだよな」

「ねえねえキョン子ちゃん、これ、グッドアイディアと思わない?」

「ふんっ!」

 私はそっぽを向くが、肯定的なニュアンスを入れてみる。

「今回はメガネ君のためにみんながんばるんだから、あたしたちにそれぐらいのことはしてくれてもいいと思うし」

「おい古泉、これはSOS団が生徒会につぶされないようにだな――」

「でも主役はメガネ君だし。ね?」

「イッちゃん、なんでそんなこと……」

「みつる君、みんなで楽しめるうちは、みんなで楽しまないとね」

 どうやら、みつる先輩は恋人と二人きりのクリスマスを妄想していたみたいだが、イツキはそんな甘い子ではないということだろう。

 それは私にも好ましいことである。聖夜にこの二人が大人になったとか、そんなことは想像したくもない。

「うむ……クリスマス当日は教会に行くことになっているのだが」

「ほう、マジメなクリスチャンなんだな、長門」

「教会に行くなんて年に数度ぐらいだがな。まあ、午後には予定がないから、君たちを招いても問題ないかもしれない」

「あれ? クリスマスって終業式あるんだけど?」と私。

「ハッ、君は何を言ってるんだ? クリスマスは終業式の翌日、12月25日ではないか。まさか、そんなことも君は知らなかったのか?」

「そ、そうね」

 言われてみれば、12月24日はクリスマスイブであってクリスマスではない。しかし、キリスト教徒でない私たちにとって、大事なのは25日ではなく24日だ。聖夜が24日の夜から始まるからだろう。クリスマスプレゼントをもらうまでが、私たちにとってのクリスマスだからだ。

「フッ……12月25日のクリスマス当日に、ここにいる面子でパーティーか。わかった、手配しておこう」

「よし! そういうご褒美があったら、あたし、がんばれるよ!」

 力強くイツキは宣言する。それでも、実際に本を読むかどうかは怪しいけれど。

「ふむ、さすがは副団長。これでますます我がSOS団の士気は上がったな。偉そうに読書感想文の書き方を説教するだけの団員その1とは格がちがうぜ」

 ハルヒコが癪にさわることを口にする。

 でも、イツキの提案は悪くなかった。長門邸のクリスマス仕様の豪華料理にありつけると考えれば、読書感想文を書く励みになりそうだった。

 とはいえ、私は『ハイペリオン』をほとんど読み進めてないんだけど。

 

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