(2)「なんのためにファンクラブってあるんだ?」

 

「最近たるんでるぞ、おまえら!」

 その日の放課後、我らが団長、涼宮ハルヒコは文芸部部室で吠えていた。

 そう言われても、団員の私たちは「はい、そうですか」と答えるほかない。

 SOS団は涼宮ハルヒコが自分勝手に何かをやる部活であり、団員である私たちはそれについていったりいかなかったりするだけなのだ。

 普段、私たちヒラ団員は部室でボードゲームをしている気楽な部活である。たるんでいると言われてもどうしようもないではないか。

 しかし、ハルヒコがいらだっている理由は私にもわかる。

 イツキとみつる先輩が部室でイチャイチャしているからだ。

 あの映画ロケ以降、二人の仲は明らかに変わった。具体的にいうと、二人の距離が近すぎるのである。それは友達以上恋人未満という生やさしいものではなくて、もはや恋人同士としか思えないものだった。

 でも、それを二人は口にしないし、ハルヒコがにらみつけると即座に離れたりする。私相手にも「つきあってませーん」という態度をとっている。

 それで、ハルヒコは気分を害しているのだろう。彼は黒板にでっかく「SOS団」と書き、それからみつる先輩を指さした。

「おい、みつる! SOS団とは何の略称か言ってみろ!」

「ねえねえ団長団長」

 そんなハルヒコの迫力にもまったく意に介さず、イツキが挙手をする。

「古泉、おまえには聞いてない」

「それより団長、大事な話があるんだけど」

「おい古泉! ここはSOS団で、俺は団長だ。おまえは副団長なんだから、もっとその自覚を――」

「キョン子ちゃんが、みつる君のファンクラブ会長になりそうなんだけど」

「は?」「ちょ、ちょっと」「マジで?」

 いきなりのイツキちゃん発言に、とまどいの声が三つあがる。

 一番目がハルヒコで、二番目が私で、三番目がみつる先輩だ。

 …………あれ? みつる先輩、このこと知らないんですか。

「どういうことだ、キョン子!」とハルヒコ。

「キョン子さん、なんで?」とみつる先輩。

「今日の昼休みにね、キョン子ちゃんが、今の会長にスカウトされたんだよ。次期会長はあなたしかいないって」

 イツキは楽しそうに男子二人に答える。

「おい!」

 いきなりハルヒコが私に顔を近づけて、

「キョン子、おまえ、俺に無断でみつるファンクラブに入ってたのか?」

「いや、入ってないけど」

「じゃあ、なんで、こんな話になってんだよ!」

「私のほうが聞きたいわよ。ねえ、みつる先輩」

「そんな、僕にふられても……イッちゃん、説明してよ」

「説明もなにも、あのヒトがいきなりあたしたちの前にあらわれて、ファンクラブのみんなと相談して、キョン子ちゃんが次期会長にふさわしいという話にまとまったって」

「僕の知らない間にそんな話になってたなんて……」

 自分のファンクラブのことなのに、みつる先輩は何もご存じないらしい。

「イツキちゃんさ、この話、みつる先輩にしていないの?」

「なんで? こういうのは、みんなの前で話したほうが面白いじゃん」

「おまえら、団長の俺を無視して話をするな!」

 ハルヒコは声を荒げて、机をたたく。

「今は会議中だぞ!」

「だって団長、これはSOS団の今後にも関わることじゃん」

「どこがだ? だいたい、そんなの俺が絶対に許さないからな。キョン子はSOS団団員その1だ。みつるのファンクラブなんぞに入られたら困る」

「なにが困るのよ、団長?」

「そりゃ古泉、そんなことを許したら、我が団の活動に支障をきたすじゃねえか」

「だいじょうぶだって団長、キョン子ちゃんはこの部、やめるつもりないし。そうだよね?」

「まあそうだけど、私はこの話を引き受けるつもりは……」

「それにキョン子ちゃんがファンクラブ会長になればいいこと尽くめじゃん」

 当事者の私の意見を無視して、イツキはしゃべり続ける。

「団員その1のキョン子ちゃんが会長になるってことは、事実上、みつる君ファンクラブがSOS団の傘下になるってことよ!」

「そうか?」

 やばい。ふてくされていたハルヒコの声色が変わった。

「ええ、この北高を代表する二つの秘密組織、SOS団と朝比奈みつるファンクラブを、団長は我が物にできるってわけ」

「……そんなにうまくいかないと思うんだけど、イッちゃん」

 みつる先輩は冷静な声で、イツキに話しかける。

「あの会長さんの次が誰になるかは、いろいろ難航していると僕も耳にしたことがあるけど、だからといって、キョン子さんが適任かというと……」

「えー、みつる君はキョン子ちゃんが会長になるのがイヤなの?」

「僕としては悪くない話なんだけど……」

 ノリノリなイツキに、ためらうみつる先輩。この構図は意外だった。

「正直いって、僕はキョン子さんには荷が重いと思う」

「うん、私もそう思う」

 私はみつる先輩に力強く同意する。

 それでも、イツキの口は止まらない。

「でも、あたしたち、あの映画を完成させたし。今回だってキョン子ちゃんをみんなで応援したら、なんとかなると思うのよ」

「だいたい古泉、なんでこんな話になったんだ? キョン子のヤツだってぜんぜん乗り気じゃないし」とハルヒコ。

「それはね団長、文化祭の映画を見て、あのヒトったら、キョン子ちゃんのこと、ホントにラスボスだと思っちゃって」

「ほう、あの会長さんをダマせたってことか」

「だから、キョン子ちゃんのこと、映画撮影の名目でみつる君に女装までさせて、しかも作品をちゃんと完成させたスゴイ子だって誤解しちゃってね」

「それなら合点がいく。俺の編集がうまくいったってことだな。良い話じゃないか」

 やたらとうれしそうにハルヒコは言う。

 まったく、こいつらに罪悪感というものはないのだろうか。私に無断で隠し撮りした映像を編集の力で悪玉に仕立て上げたことを、私は許したつもりはないのだが。

「それに、キョン子ちゃんなら、万に一つもみつる君にホレることはないし」

「いや古泉、ファンクラブ会長ってことは、そいつのことが一番好きというアピールみたいなものだろ?」

「ちがうわよ団長。会長の特権をいかしていろいろやろうとしたら、ファンクラブの子の怒りを買うだけじゃん。だから、中立的なキョン子ちゃんが適任ってわけよ」

「むぅ、そういうものか」

 たしかに、みつる先輩と個人的に仲良くなりたいために、ファンクラブを作るなんて手間がかかりすぎるだろう。それに、会長がそのアイドルを独占したら、会員がついていくはずがないし。

「……そんなむくわれないファンクラブ会長になって、私がトクをすることってあるの?」と私。

「みんなに『会長』って呼ばれるようになるよ」とイツキ。

「そんな称号いらないし」

 もともと、私は『○長』という肩書から無縁でいたいから、地味キャラをつらぬいているのだ。

 しかも、前任者の会長さんは皆が認める美人である。私ごときが次期会長になったら、笑いものになるだけじゃないか。

「じゃあ、みつる君がひとつだけキョン子ちゃんの願いを聞いてあげる、とか?」とイツキ。

「その約束は映画でネタにされたし……」と私。

「今回はマジで。ね、みつる君?」

 そして、ウィンクをするイツキに、みつる先輩はポリポリと頬をかきながら言う。

「まあ、あの映画のこともあるし、ひとつだけなら、キョン子さんの言うことを聞いてあげるよ」

「じゃあみつる先輩、今後は18禁ゲームをプレイしないでください」

「それは無理だよ」

 私の即答を、にこやかにみつる先輩は瞬殺した。

「なんでもって言ったじゃない!」

「無理なものは無理だって」

「じゃあ、次期会長なんてやらない」

「ちょっとキョン子ちゃん、ファンクラブの会長になっても、みつる君の趣味をやめさせたりはできないんだからね。そこんとこ、かんちがいしちゃダメよ」

「なあ古泉、それじゃあ、なんのためにファンクラブってあるんだ?」

 ハルヒコが思わず口を出す。

 私もそれにうなずく。

 そもそも、ファンクラブの存在理由が、私にはよくわからないのだ。

 私は生まれてこのかた、芸能人やミュージシャンのファンクラブに入ったことはない。好きな歌手のコンサートを最前列で見られるという特権には憧れたりするけれど、そのために高い年会費を払おうと考えたことはない。

 そして、朝比奈みつる先輩は、私と同じ北高生にすぎないのだ。

 月一回のお茶会なんて、何のありがたみもない。みつる先輩のお茶なんて、毎日部室で飲んでいるし。

 いったい、朝比奈みつるファンクラブとはなんなのだ?

「とりあえず、キョン子ちゃんには、これを見てもらわないとね」

 そう言って、イツキは冊子をかばんから取りだした。

「イッちゃん、な、なんでそれ持ってるの?」

「さあ、なぜでしょう?」

 みつる先輩のとまどいに、イツキが微笑みながら、私に渡したもの。

 それは、みつるファンクラブの会報だった。

 見出しには、こう書かれている。

 

【僕、朝比奈みつるはミッチーズを応援します】

 

 その下には会長さんとみつる先輩が握手している写真がある。

 まるで政治家のポスターのようなうさんくさい表情だ。

「うわぁ、ここで見ないでよ、恥ずかしいじゃん」

「みつる君、これは次期会長のための資料だから」

「古泉、ミッチーズってなんだ?」

「みつる君のファンクラブの愛称よ、団長」

 イツキは男子二人に答えている。

 このみつるファンクラブ会報は、私も見たことはなかった。

 もちろん、学内に掲示されてはいない。ファンクラブ会員のみが読むことのできる特権なのだ。

 そのせいか、みつる先輩はSOS団にいるときは異なる営業スマイルを浮かべている。

「イッちゃん、誰からもらったの、これ」

「そんなの一人しかいないじゃん」

「もしかして、会長さんから?」

「さあ、誰でしょう?」

 イツキはイタズラっぽく笑ってみせる。

 きっと、この会報作成にはイツキも協力していたのだろう。さっきのイツキと会長さんの会話は、学年差を感じさせない親密なものだったし。

 それにしても、私どころかみつる先輩にも秘密でこんなことをやっていたとは、イツキちゃん恐るべしである。分数の割り算すらできないくせに。

「ほう、みつるのくせに、偉そうなこと言ってるな」

 会報をななめ読みして、ハルヒコは感想をもらす。

「そんなこと言わないでよハルヒコ君。僕は会長さんが望むことを言っているだけで」

 私もその冊子に目を通してみる。

 会報の記事には、休日は何をして過ごすかについてのインタビューがあった。

 

――では、みっちゃんは休日は何をして過ごしてるのですか?

「最近ハマっているゲームがあって、それをプレイすることが多いね」

――どんなゲームですか?

「それはヒミツ」

――もしかして、イヤらしいゲーム、とか?

「(笑)」

 

「かっこわらいでごまかさないでよ、みつる先輩!」

 たまらずに私は叫ぶ。

「いつものように高らかに主張してよ。僕はイヤらしいゲームだけが生きがいの変態オタク野郎ですって!」

「そ、そこまでは言ってないよ、キョン子さん」

「ねえキョン子ちゃん、みつる君はファンの願望をかなえるためにずっとがんばってきたじゃん。あたしたちもそれ知ってるよね?」

「ま、まあ、そうだけど」

 六月ごろだったか、イツキと私は『朝比奈みつるウォッチング』にハマっていたときがあった。部室ではハルヒコに強く言えないみつる先輩が、普段は女子にモテモテだというギャップを見るのは、私にも楽しいものだった。

 そのとき、私が感心したのは、みつる先輩が相手によって態度を変えないところだった。

 普通の男子は、美人に声をかけられると地味女子の相手をしなくなると思うが、みつる先輩にはそんなことがない。

 こりゃ女子にモテるのも納得だと私は舌を巻いたものだ。

 イツキはそれを「みつる君のハーレム願望」と笑っていたけど、みつる先輩が北高のアイドルなのは、ルックスが良いだけではないことを私はあらためて知った。

「でも、真実とあまりにもかけ離れてるし。この会報のみつる先輩って」

「キョン子ちゃんさ、みつる君が優等生であってくれたほうがファンクラブにとっては都合いいじゃん。真実なんてファンには二の次なんだから」

「ま、まあ、そうかも……」

「アイドルはイメージが大事なのよ。そのイメージを守るのがファンクラブの役目なの。ファンクラブっていうのは、自分の理想のアイドルのことを、キャッキャウフフと仲間で話し合って楽しむためのものだから」

「あの会長さんもそうなの?」

「だから、前の映画だって、みつる君はあくまでもキョン子ちゃんに強要されて女装したって設定になってるから」

「そ、それはあんたたちが」

「だから、キョン子ちゃんにはファンクラブ会長をやってほしいわけよ」

「う……」

 やっと出たイツキの本音に私は口をつぐむ。

 みつるファンクラブのもっとも危険な存在、それは私なのだ。

 私は北高のアイドルではないみつる先輩をいっぱい知っている。それどころか、部室でイツキとイチャイチャしているのも見ている。

 もし、何かのはずみでそれを口外したとしたら、イツキとみつる先輩の甘い関係は、たちまち周囲の目にさらされてしまう。それを二人は望んでいない。

 だから、イツキは私をファンクラブの次期会長にしようとするわけだ。アイドルとしてのみつる先輩のイメージを守る立場になってほしいと。

「……でも、どう考えても、私が損するだけなんだけど」

「それより、まず、キョン子さんが会長さんに認められないとね」

 みつる先輩はあまり楽観的でないらしい。

「それで、キョン子ちゃんが今度のお茶会に誘われてるんだよ」

「イッちゃん、もうそんな話になってるの?」

「うん」

「……それはまずいなあ」

 みつる先輩はため息をつく。

「何が問題なんだ、みつる」とハルヒコ。

「だって会長さんは、かなり礼儀にうるさい人だから」

「じゃあ、おまえのお茶会って、和服着て正座するような本格的なヤツなのか?」

「いや、制服着用だし、椅子も用意されてるけど」とみつる先輩。

「ちょっと団長、女の子が正座なんかしたら、足の形が悪くなるからダメなんだよ」とイツキ。

「そうか? 正座している女子って、育ちが良いというか、礼儀正しいイメージがあるんだが」

「団長ったらいつの時代の人よ? みんなスカートはいている今の時代に、正座するなんてバカげてるって。女の子は脚線美が命なんだから!」

 いや、私は率先してやってたぞ、正座。

 たしかに、イツキは正座をしない。その座り方をはしたないと常々思っていたが、彼女なりの理由があったのか。

「でもみつる、茶会っていうぐらいだから、あのブラシみたいなヤツでゴシゴシやったりするんだろ?」

「ハルヒコ君、僕の茶会で出すのは抹茶じゃなくて、煎茶なんだよ。玉露だけどね」

「センチャ? ギョクロ?」と私。

「キョン子さん、煎茶っていうのは、いつも部室で出しているお茶のこと。急須にいれるのは、玉露も同じなんだよ」

「それはみつる先輩がやってくれるんだよね」

「うん、そうだよ」

「なーんだ」

 みつる先輩の答えに私は安堵する。

 私は茶道のたしなみがないから、お茶会でどうふるまえばいいのかさっぱりわからない。

 でも、急須にいれて出してくれるのを飲むだけならば、作法なんてないようなものじゃないか。

「……って、すっかり、私がお茶会に参加して次期会長になるって話になってるんだけど」

「まあ、キョン子さんが次の会長になってくれたら、僕は安心できるけど」とみつる先輩。

「俺も賛成だな。みつるファンクラブを傘下に置くことは、SOS団のさらなる発展につながるだろう」とハルヒコ。

「でも、いきなり会長なんて無茶すぎるって。まだ私、ファンクラブの人たちと話したことさえないし」

「じゃあキョン子ちゃん、お茶会には出るってこと?」とイツキ。

「ま、まあ、せっかく会長さんが誘ってくれたし……」

 人見知りする私が、ほとんど知らない人たちと一緒にお茶会をするなんてハードルが高い。

 でも、制服着用で椅子着席のお茶会ならば、それほど恐れることはないと思い始めたのだ。

 あの会長さんの好意をムダにするのはもったいないし、ファンクラブの皆さんも私を次期会長にしたがっているぐらいだから手厚くもてなしてくれるだろう。

 おまけに、フォローの達人のみつる先輩だっている。

 何の憂いもないじゃないか。

「キョン子さんには、ファンクラブでの僕を見られたくないんだけどなあ」

 みつる先輩はぼやいてみせる。

 それは私の知的好奇心をかきたてた。

 はたして、みつる先輩が自分のファンクラブの集いでどんな表情をしているのか。

 うん、見てみたい。

 そう考えた私に、イツキは陽気に声をかけてくる。

「まあ、あのヒトは思いこみが激しいところがあるから、さっきみたいなヘンなこと言わなければ、キョン子ちゃんならだいじょうぶだよ」

 そういえば、昼休みの廊下で、もみじの天ぷらの話をしたとたんに、あの会長さんの様子が一変したんだっけ。

 あれは、くわしく知らずに話題にした私がまずかったと思う。紅葉をそのまま天ぷらにしても食べられるわけがないので、ちゃんとしたやり方があるはずなのだ。

 SOS団という変人集団を相手にしている私は、ついつい思いつきでしゃべるクセがついてしまったようだが、会長さん相手にそれは通用しない。

 会長さんはすごくまともな人なのだ。

 そんな会長さんに認められることは、私が普通の女子高生に戻れるチャンスではないか。

「うん、もう『ゴルフ場でピクニック』みたいなこと言わないから」

「なんだキョン子、ゴルフ場でピクニックって?」とハルヒコ。

「あんたは考えたことない? ゴルフ場って芝生がきれいだし、砂場があって池もあるから、ピクニックにはもってこいだとか」

「キョン子ちゃん、なんでそんなことを……」

 あれ? 軽い話のつもりが、イツキにすら絶句されているんだけど。

「だって、昔に父さんとゴルフ番組を見ていたときに、そのコース紹介の映像がとてもキレイでね。それから、あんなところでピクニックしたいなあ、とずっと思ってるの。私の夢のひとつだといっていい!」

「でもキョン子、ゴルフ場ってのはゴルフをするために整備してるんだからな」

「わかってるわよそんなこと。実際にやっちゃうと怒られるばかりか、いっぱい賠償のお金を請求されるってことは。でも、一度はやってみたいと思わない?」

「いや、そういうところじゃないだろ、ゴルフ場って」

「だから、世界が終わる日には、ゴルフ場でピクニックしたいんだよね。きっと、世界が終わるときは、みんなゴルフ場のことなんて忘れて逃げだしちゃうと思うんだよ。だから、私はいそいそと子供を連れて、ゴルフ場でピクニックをするの」

「子供? 誰の子供だ?」

「私の子供にきまってるじゃない。世界が終わるまでには、私だって結婚して子供がいるはずだからね。――きっと、うちの子たちは大ハシャギするだろうなあ。どれだけ奇声をあげても、どれだけ芝生を汚しても、怒る人はどこにもいないんだから。砂場で山を作ったり、池でパチャパチャ泳いだり、思いぞんぶん子供たちは遊んでる。私は芝生に寝転がって、それを幸せそうに見ながら、世界の終わりをむかえるのよ。そういうのってなかなかロマンティックと思わない?」

 そんな私の語りに、ハルヒコはため息をついて言った。

「……おまえって、見た目によらず、かなり変わってるよな」

「え? これぐらいの妄想、女の子だったら普通だって。そうよね、イツキちゃん」

 イツキは両手で頬杖をつきながら、私をニヤニヤ眺めていた。

「やっぱりキョン子ちゃんはかわいいね」

「うん、キョン子さんらしくていいよ」とみつる先輩。

「あれ? そんなに常識外れかな、これって」

「俺は安心したぞ。キョン子はあいかわらずキョン子なんだなって」とハルヒコ。

「あんたに安心されても、うれしくないんだけど」

「だからキョン子、みつるのファンクラブお茶会、SOS団代表として、がんばってこい!」

「……いや、僕も行くんだけど」

 みつる先輩のつぶやきに、私は思わず笑ってしまう。

 こうして、私はみつる先輩ファンクラブのお茶会に「あくまでも見学者」として参加することを、会長さんに伝えたのだ。

 それがどれほど身の程知らずであったかを、お茶会当日に私は思い知らされることになるのだが。

 

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