再見/3

『さぁ第二回戦、始まるぞぉぉぉぉ!! 実況はお馴染み、チーム太陽一番のファン海藤です!』


 海藤の声で、地下演習場は一気に沸き立った。


『しかぁぁぁし! ここで残念なお知らせが……ある! なんとネットワークトラブルにより、急遽六体六の試合となり、チーム太陽は、大将の太陽が今回不参加だぁぁぁぁ!! ふっざけんな太陽!!』


 歓声は一気にブーイングとなったものの、長く続くことはなく少しだけ安心した。


『それでは皆さん、準備をお願いしまっす!!』


 僕以外の全員は一度僕を見た。なんだろと首を傾げる。


「おいバカ太陽、何してんだよ」

「へ?」


 蓮がいきなり僕を罵倒した。


「いつもの円陣組まねぇのか?」

「あ、いやぁ……どうすっかなって」


 今回僕は参加しない訳なので、円陣組もうとか何となく言いづらいし。


「お前、変なとこで気ぃ遣いだよな」


 呆れるように肩を竦めた蓮は、正詠を横目で見やる。


「おい優等生、何とか言ってやれよ」


 そんなことを言われた正詠は、仕方ないとでも言うように頭を振った。


「早くしろ、馬鹿」


 そんな正詠は、ストレートに僕を馬鹿呼ばわりした。


「そうだよ、ばぁか」

「だとよ、バカ」

「早く円陣組もうよ、お馬鹿な太陽くん」

「うむ、馬鹿だな」

「お馬鹿ちゃんはそんなこと気にしなくていいのよ」


 全員から馬鹿呼ばわりされる。


「ひどくなぁい!?」

「いいから、ほれ」


 言いながら正詠は僕と肩を組む。それを見た全員が、一人また一人と肩を組んでいき円陣を作り上げた。

 正詠は僕にウィンクをして合図を送る。


「……っしゃあ! チーム太陽、勝ちに行くぞ!」

「あぁ!」

「うん!」

「おぅ!」

「はい!」

「えぇ!」

「うむ!」


 変わらぬバラバラな掛け声を僕らが上げると、海藤がいつものコールを始める。


『イケイケ太陽!』


――ヤレヤレ太陽!


『勝て勝て太陽!』


――負けるな太陽!


 その声援に僕ら全員が微笑みを浮かべる。

 みんながさっきのように僕をちらりと見た。今度は小さく僕が頷き、みんなそれを頷きで返してくれた。そして、それぞれの筐体に向かって準備を始めた。


『本日の相手は……北海道の〝桜花絢爛〟、フィールドは上海! チーム太陽の大将は王城翼。ランダムルールはラッシュルールとなります。桜花絢爛は、去年王城翼率いる〝トライデント〟を破った相手となり、今回はそのリターンマッチといったところでしょうか。あ、太陽、控え室に戻って良いぞー』


 ぽつねんと立ち尽くしていた僕に、海藤は雑に言った。


「あの野郎……良い感じで退場するよう促すって言ったくせに……」


 僕は地下演習場の人達にくすくすと笑われながら、この場を後にする。

 憂鬱な気持ちで重い扉を開けると、すぐそこに晴野先輩がいた。


「よっ」

「晴野先輩?」

「お前がいれば俺も控え室に行けるからよ、一緒に観戦しようぜ」

「うっすうっす」


 正直、一人で観戦するのは寂しかったので、晴野先輩の申し出はとても嬉しかった。


   ***


 フルダイブ直後。チーム太陽の六人は、世界でも十本の指に入る高層ビル、〝上海センター〟の屋上に送られていた。


『これより、全国バディタクティクス大会の二回戦、チーム太陽対チーム桜花絢爛の試合を行います。両選手、互いに握手を』


 向かい合うは十二人。


「ここで会うのは久しぶりだね、翼」

「またこの大会で会えて嬉しいぞ、楓」


 大将同士、翼と火神楓かがみかえでの二人の相棒は、不敵な笑みを浮かべつつ、がっしりと握手をすると。


「晴野がいねぇのが残念だぜ」

「彼の可愛い後輩がいるのだし、許してちょうだいな」


 風音のイリーナと握手を交わしたのは、バトルロワイヤルでも戦った三年の柳瀬雅也やなせまさやの相棒烈火。


「君が晴野の後輩だね? 良い目をしているじゃあないか」

「よろしくお願いします」


 正詠のロビンとは、去年も出場した三年の若原結城わかはらゆうきの相棒メトロ。


「はじめまして。君の相棒の守りは、僕が崩してみせるよ」

「けっ」


 蓮のノクトとは、バトルロワイヤルに出場した二年で楓の弟、いつきの相棒レイン。


「よろしくね。私、間藤まとうっていうの」

「よろしくお願いします。 私は平和島です」


 透子のセレナとは、彼女らと同じ二年の間藤茜まとうあかねの相棒イチゴ。


「お前とは拳主体の相棒同士、全力でやり合いたかったんだ! よろしくな!」

「はい!!」


 遥香のリリィとは、三年の瀬川雄大せがわゆうたの相棒オロチ。

 両チーム一人を欠いた六名。互いにその顔には笑みを浮かべていた。


『これより、ランダム位置への転送を行います。以降はアナウンスの指示に従うようにお願いします』


 チーム太陽全員が大きく息を吸い込み、頷き合う。そして彼らは各々の位置に転送された。


――フィールドは上海。ランダムルールは、ラッシュルールが適用されます。


――制限時間は三十分。三十分で勝負が決さない場合は十五分の延長、延長でも勝負が決さない場合は、大将同士時間無制限での勝負を行い、勝者を決定します。


 アナウンスはいつもよりも一拍だけ溜めて。


――一度の勝利で満足しないように。試合、開始!


 遂に、全国バディタクティクスの二回戦は幕を開けた。

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