再見/4/勇気ある仲間達

 チーム太陽の各々が転送された先は、彼らにとって不運であった。本来、チーム太陽においてはランダム転送というものは意味を成さない。

 どこに転送されようと、大将である太陽のスキルでその不利は打ち消せる。

 だが、今回はそのではない。期せずして彼らは、本物のバディタクティクスというものを、ここで体験するのだ。

 その中でも透子とセレナが転送されたのは、上海センターの近くであった。


「セレナ、みんなの位置は把握できる?」


 セレナは宙を見上げ、すぐに首を振る。

 大将フリードリヒ、イリーナ、ロビン、ノクト、いずれも近距離にはおりません。

 無音で表示されたそのメッセージに、透子は頷きで返す。


「とりあえず屋台街に移動するよ」


 それに今度はセレナが頷きで返した。

 周囲を警戒しつつ、セレナは細剣を手に持ちながら道を進む。

 広い道には誰もおらず、テレビでよく見るような光景ではないことに、透子が不気味さを感じていたその時だ。

 セレナが急に透子をからかうようにつつき始めた。


「わ、何するの、セレナ?」


 セレナは何も言わず、笑みを浮かべつつその動作を繰り返す。


「もう、やめなさいってば……」


 互いに笑い合い、セレナはまた歩を進める。


「急にどうしたの、セレナ?」


 セレナはメッセージを表示した。

 笑ってください、マスター。天広太陽やテラスがいなくとも、私達は負けません。

 それを見て、透子は自分の顔をむにむにと触りだした。

 いつの間にか表情が強張っていたのを、セレナは心配したのだ。


「うん!」


 セレナに笑みを返した透子は、「ありがとう」と付け加える。

 セレナはその笑顔を見て満足そうに頷くと、また足を動かした。

 早足で数分だろうか。道路が間もなく狭くなり始めたその先に、遠目ではあるが〝敵〟はいた。

 セレナは瞳鋭く細剣をしっかりと構え直す。


「……柳瀬雅也さんの相棒、烈火」


 道のど真ん中で、堂々と立つ忍者のような容姿の相棒。


「セレナ、注意して近付い……」


 その刹那、ぐらりとセレナは前に傾いだ。


「セレナ!?」


 遠目に見えた烈火の姿は既になく。


「よう、平和島透子」


 気付けば彼女らの背後で、苦無くないを手に斬りつけていたのだ。


「ここで負けろや」


 続けて斬りつけられるその連擊を、セレナは前に跳んで回避する。


「逃がさねぇよ! 追え!」


 柳瀬の指示で烈火はセレナを追いかける。


「セレナ、アクアランス!」


 水の槍が彼に襲いかかるが、ゆらりと姿を消す。


「セレナ、後ろ!!」


 透子の叫び声に、すぐセレナは後ろを振り向く。そこに烈火の姿があった。


「なんだ、知ってたのか?」

「知ってます……スキル、陽炎!!」


 彼女が知らないわけがない。

 このスキルは……あのの代名詞とも言えるスキル。

 ましてやそのファブリケイトに、透子もセレナも何度も相対している。


「一度の攻撃の区分は距離で判断されるということも知ってます! セレナ、詰めなさい!」


 一度退こうとした烈火をセレナは逃がさない。


「一対一なら、あなたなんかに負けません!」


――千葉県チーム太陽。スキル、信念。ランクSが発動します。敵との一対一での戦闘時、全ステータスが上昇します。このスキルはあらゆるスキル、アビリティの効果を受けず、どのような条件でも無効化されません。また、ランクA以上の場合クリティカルの発生率が上昇します。


「セレナ!」


 剣を振り上げながら、セレナは大きく踏み込んだ。


「お前は運が悪いよな」

「何が……!?」

「俺に当たるんだからよ!」


――北海道チーム桜花絢爛。スキル、徒手空拳。ランクAが発動しました。非武器攻撃時、攻撃力が上昇し相手の防御力を無視してダメージを与えます。


「烈火!」


 烈火は苦無を投げつけ、セレナがそれを躱したその僅かな時を逃さず、腹部を蹴り付ける。

 セレナは派手に吹き飛び、道路をごろりごろりと何度も転がった。


「セレナ!?」

「一対一なら負けねぇってのははったりか!?」


 すぐさま態勢を立て直したセレナへの烈火からの追撃。それを今度は確実にセレナは防いだ。


「当たらなければ、どうってことない!」

「言うねぇ……!」


 一旦距離を置いた烈火の姿が揺らめく。


「セレナ、後ろに注意して!」


 烈火の姿が消えると同時に、セレナは振り向いたが。


「今度は外れだ」


 から、烈火は拳を打ち付けた。そのせいで、再びセレナは派手に吹き飛ぶ。


「……っ!」


 青いドレスを汚したセレナは唾を吐いて、立ち上がる。


「相手の対策はしっかりと、だぜ?」


 烈火は右手をセレナに向け、かかってこいとでも言うようにそれをくいと動かす。

 その仕草に、透子は下唇を噛んで体を震わせた。


「なんだ、来ないのか? じゃあこっちから行くぞ!」


 陽炎のスキルにより、烈火は再三姿を消す。


「セレナ、アクアフォール! 自分によ、急いで!」


 セレナは一瞬戸惑ったが、すぐに頷き自らにアビリティを打つ。水浸しになったセレナは、乱暴に自分の髪を直したところで。


「残念! 自爆攻撃とかダサいぜ!」


 タイミングがずれたところで、今度は顔面を殴られた。


「踏ん張りなさい!」


 今度はしっかりとセレナは踏ん張ったが、反撃は出来ずにまた烈火に距離を取られる。


「なんだ、その面。びびってんのか?」


 相変わらず下唇を噛みながら体を震わせる透子に、柳瀬は小馬鹿にするよう口にした。


「お前が小心者だってことは、もう周知の事実だけどよ、びびりすぎだっての」


 嘲笑を織り混ぜつつ、柳瀬は続ける。


「んじゃあ、次はどこを殴ってやるかね……」


 ゆらりと姿を消す烈火。

 しかし、セレナと透子は黙ってその場に立つ。

 先程よりも長い間だ。柳瀬はわざと時間をかけ、二人の恐怖を煽った。つもりだった。


「セレナ、七時の方向!」


 あまりにも的確な指示。その指示にセレナは従い細剣を振るうと、そこに烈火はいた。


「なっ!?」


 ダメージは大してないが、烈火の態勢を崩すには十分過ぎる一撃。


「逃がさないで!」


 剣を持たぬ手でセレナは烈火の首を鷲掴みにした。


「やり返しなさい!!」


 剣を逆手に持ち、烈火の顔面を一度殴り付けた後、素早く脇腹に膝を打ち、最後に背中を蹴り飛ばす。

 ごろりと転がったのは、今度は烈火の番だった。


「……何でわかった?」

「水の音です」


 自分に対してアビリティを使用したのはこのためだ。相手に足を濡らしてもらうため。


「これは現実と類比するゲームですよ、忘れてませんか?」


 透子の表情はやはり変わらない。しかし、それを見ている相手が受ける印象は、大きく変わっていた。


「なるほどね、びびって震えてるわけじゃないってか」


 そうそれは。


「悪いな、舐めてたのを謝るぜ」


 勇気ある者のみが持つ、戦いへ赴く際に自然と起きる現象の一つ。


「お前は小心者なんかじゃない」


 自らを鼓舞する


「こっからが本番だ、千葉の情報熟練者エキスパート!!」

「迎え撃ちなさい、セレナ! 相手は北海道の情報熟練者エキスパートです!!」


 彼女は既に、情報熟練者エキスパートに成っていたのだ。

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