花鳥風月/5-2/此方の神崎、彼方の風音
「ふざけんじゃないわよっ! 貴女達は自分達が可愛いだけよ! 人を傷付けてきて、あんたらはその傷の痛みを知っているくせに!! それを受け入れようともしない、乗り越えようともしない! それなら笑われるに決まってる! 貴女達は変わってない、変わりたいとほざきながら結局片手間で遊んでるだけよ!」
神崎と違い、風音は感情的ではあるがそれでも理性的な意見を述べつつ。
「誰かのせいにして逃げ出して、痛みを知ろうともしないで、何が変わりたいって言うのよ! 変わりたいのなら、変わったと認めさせたいのなら、全て貴女達自らで受け止めなさい!」
「出来へんから今も必死に変わろうとしとるんやろが!? お前程度がうちらの何を知ってんのや!? お前は目の前でダチの骨が折られるの見たことがあるんか!? ダチが泣いているときに背中を擦ることしか出来へん苦痛がわかるか!? どんなに頑張っても得られんものがあるって……貴様にわかるんかぁぁぁぁぁぁぁ!」
いなりがイリーナを払い除けると、両者は立ち上がり互いに拳をぶつけ合う。
「お前なんかに、わかるわけなかろうが!!」
そう、わかるわけないのだ。
神崎が今語ったこと全て、風音は知っている。それも彼女らが語る以上に、残酷な状況を。だから内心、彼女は反論するのだ。
目の前で骨を折られた友を見られたことがあるか? ふざけるな、折られずとも夢を折られた友ならば目の前で見た。
泣いている友の背中を擦るしかない苦痛だって? 背中すらも擦れない時の苦痛を知らないくせに、よく言う。
どんなに努力しても得られないものがあるだって? そんなのここに来てからずっと思っている。自分の周りの友も後輩も自分にはないものばかり持っていていつも……いつも劣等と戦っているのだから。
「じゃあ貴女にはわかるの!?」
いなりは武器を捨て、イリーナを殴り合う。
そんな二人の様子を見ていた両チームは、戦うことを忘れてしまっていた。
彼ら全員が、わかっているのだ。
ここで邪魔をすべきではないのだということを。いいや、それよりも……見ていたいのだと。
「うちらはなぁ!!」
めきりともべきりとも、何とも形容しがたい音がしたと思うと、イリーナは体をくの字に曲げた。イリーナの腹部に、深くいなりの拳がめり込んでいた。
「勝って変わるんや邪魔すんな!」
やはり打撃戦ではいなりが
「み……」
みんな助けろ、と大将の太陽が声を上げそうになったが。
「あっはは! イリーナ、随分優しいじゃない!? 殴らせてあげるなんて、余裕だからかしら!?」
風音はその状況を一笑した。それにイリーナもノイズを吐きながら笑っていなりを睨み付けた。
「天広くん、安心なさいな。負けるはずないわ。今は有利よ。高遠くんの指示通り動いているわ。絶対、勝つから大丈夫よ」
イリーナは反撃だとでもいうようにいなりに力強く拳を打ち込む。
「余裕、よ! 不利なわけ、ないじゃない! 私の相棒よ、私のイリーナよ! 負けるわけないわ!」
風音の声は震えている。
一瞬、彼女は弱音を吐きそうになった。しかし、それを噛み殺し彼女は強がってみせる。
「そうよね、イリーナ!」
イリーナは風音を見て、笑って頷く。それが風音にとっては最高に嬉しくそしてとても心強く、彼女の弱気を吹き飛ばす。
「ちっ……全員、伊織を助けるぞ!」
風音の変化を感じ取った横宮は全員に神崎を支援するよう声をかけたが、それぞれの相手が彼女らを止めた。
「邪魔すんなや天広太陽!」
「風音先輩が有利なら、僕らは戦うだけだ!」
横宮と太陽、大将同士。
「どけや王城!!」
「邪魔はさせんさ」
藤本と王城。
「そこをどいて」
「私の桜先輩が頑張ってんの、邪魔させないっての!!」
東城と遥香。
「……どいて」
「嫌です!」
朽木と透子。
全員二人の邪魔をさせまいと立ちふさがる。
「私は貴女達が変わりたいという願いすら退けて上に行くわ!」
「させるかぁぁぁぁぁぁぁ!」
互いの拳が互いの頬にめり込む。先に片膝をついたのはイリーナだ。
「ははっ! 所詮はお嬢の相棒よな!?」
――ヒェヒェヒェヒェヒェヒェヒェヒェヒェ!
――アビリティの使用を禁止するよ、ヒェヒェヒェ!
――チェシャ猫が毛繕いを始めました。一定時間、アビリティの使用が禁止されます。
「伊織ぃ! それ以上意地張るなや! 一旦前全員引くぞ!」
「風音桜ぁぁぁぁぁ! お前なんかに……お前なんかに負けたらうちらはぁ!!」
「朽木! 伊織を止めろや!」
横宮は撤退を指示しようとしているのだが、それに全員は動かない。しかし、そんな中で透子が声を張り上げた。
「逃がさないで! 彼女らはステータスアップ系のアビリティで固めているんです! アビリティを使用してこないことがその証拠です!」
その透子の言葉に、太陽は強くはっきりと。
「逃がすなぁぁぁぁぁ! ここで僕らは花鳥風月を倒すぞぉぉぉぉぉォぉ! 全員、相手を倒せぇぇぇぇぇぇ!」
チーム太陽の全員が必死で相手を止めた。
その状況が見えないとでも言うように、風音と神崎は打ち合いを続けるのだが。
「お前なんかに!」
「貴女なんかに!」
イリーナといなり。二人は拳を固く握り。
「「負けるかぁ!!」」
ぐらりと二人が傾く中……イリーナは、風音を見た。
イリーナの口元がゆっくりと動く。
立ちなさい、私のイリーナ。
その時、イリーナの視界の片隅に自分の武器が見えていた。それを彼女は半ば無意識に手を伸ばし、取ろうとするために一歩を踏み出していた。
けれどその手は届かず、彼女は地面に顔を付けることになったが、すぐに立ち上がり自分の槍を手にして。
「イリーナ!!」
深く、いなりへとその槍を突き刺していた。
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