全国初戦/2-3/乱戦
一人先行したテトラ。狙われるのは至極当然なのだが、果たして本当に狙われているのかというほどに、テトラは無傷であった。
「テトラ、調合用意」
山成の言葉にテトラがこくりと頷くと、蛇腹剣が炎に包まれる。
「愛知! あんたらの方に行ったで!」
山成が狙いを着けたのは愛知県チーム
「調合、開始!」
――神奈川県チーム天継。スキル、調合知識。ランクAが発動しました。属性付与がされているアビリティを同時に発動させます。アビリティ〝炎攻撃(物理)〟と〝氷攻撃(魔術)〟が選択されました。
テトラの蛇腹剣が鞭のようにしなりながら愛知の二人へと向かう。
「つまらねぇアビリティ名だな!」
あまりにもシンプルなアビリティ名に、愛知の一人が突っ込むが。
「ハンディキャップって知ってる?」
山成は変わらぬ態度で答えるだけだった。
「わざとわかりやすくしてあげてるんだよね」
蛇腹剣は炎と氷の力を瞬間に爆発させ、その軌道全てに攻撃を行った。
「なっ!?」
油断したのだろう。
愛知の一人はその爆発を避けることも出来ずにログアウトしてしまう。
「一人だけ……か」
――神奈川県チーム天継。撃破チーム数、三チームとなりました。残り二十三チームです。
「あの馬鹿。やる気になるの遅すぎ」
後方からチーム太陽を率いるように進んできたのは、チーム天継の寺坂だ。彼の相棒ティエナクラストフは走りながらも弓を引き、奈良の二人を下した。
「ナイス囮!」
「囮じゃないっての」
互いに背中を預け合う中、二人は取り囲まれる。
「おっと……囲まれちゃいましたよ、山成神海さん」
「しかも増えてる。弱い奴ほどよく群れるって本当みたいね」
気付けば今まで身を潜めていたチームも姿を現し、攻撃体勢を取り始めている。
その理由は一つ、ここで優勝候補を潰しておきたい、これに尽きるだろう。
「逃げるのが得意なんですよね、寺坂さんは?」
遥香が一歩前に出ながら言う。
「逃げてみてくださいよ、逃げられるなら!」
そして攻撃を仕掛けた。
しかし山成の蛇腹剣がティエナクラストフを守るように巻き付いたことで、リリィの攻撃は弾かれる。
そんなリリィに向け、ティエナクラストフはすぐに弓を引く。
「もう逃げる必要はねぇんだわ」
放たれた一射をリリィは躱すと、拳を固く握りティエナクラストフを強く睨んだ。
「ならここで倒れてもらいます、リリィ!」
「テメェらみてぇな弱い奴等じゃあ俺は倒せねぇって」
「弱くなんか……ない!!」
リリィが山成の剣を強引に弾き飛ばし、ティエナクラストフに拳を叩き込もうとした、その刹那。
「テトラ、アビリティ瞬間防御!」
ティエナクラストフの体は一瞬鋼鉄のように硬くなる。
それに拳を痛めたのか、リリィは顔を歪めた。
「おら利かねぇぞ!」
ティエナクラストフはリリィを殴り飛ばした。そのリリィをイリーナが受け止め、また空へと逃げる。
「ははっ! 俺よりもお前のほうが逃げるの上手いんじゃねぇか、
すぐに寺坂は狙いを変え、弓を射る。
――神奈川県チーム天継。撃破チーム数、四チームとなりました。残り二十二チームです。
一瞬で相手を倒していくその姿には、全く隙がない。
「あぁもう!」
「少し落ち着きましょう、遥香さん」
空で天馬は旋回しつつ、風音は天継の二人を見た。
「何故広島と福井を守るのかしら。彼らにとっても邪魔なはずなのに……」
あの二チームのスペシャルアビリティが強力であることなど、考えるまでもない。
それなのに何故、彼らは守るのか。
それが風音にとっては疑問でしかない。
「そんなの、あの人達が得するからに決まってるじゃないですか!」
天馬にリリィが座り直すと、苛立ちを隠さずに遥香はそう言った。
「どういうこと? 彼らにとっても脅威のはずよ、あのアビリティは」
「風音先輩、あれを倒すのなら魔力攻撃って言ってましたよね?」
「えぇ、確かに言ったわ」
逆に何故わからないのかとでも言いたげに、遥香は続ける。
「あいつらは本戦で当たっても勝てる自信があるから守ってるんです!」
遥香の言葉に目を何度かぱちくりさせた風音は、やられたとでも言うように天継の二人を見た。
「……なるほど、ね。落ち着いていないのは私の方だったみたいね」
遥香が言う通りだろう。
ここで脅威となるのは間違いない。そう、あくまでもこの予選では、だ。
「つまり天継のメンバーで、あの二人以外なら勝てる可能性はあるってことかしら」
「それもあります。でもきっと、この予選でも勝てるとあの人達は確信してると思います。そうじゃないと、わざわざ私達と敵対しません。わからないのなら調べるのが定石だって、晴野先輩も言ってました!」
そこまで語る遥香に、風音は微笑んで彼女の頭を撫でる。
「え、え?」
「晴野に言えば、きっと喜ぶわ」
遥香の成長を目の当たりにし、風音の心は踊る。
「遥香さん、私は暴れるほうが得意なの。ブレインは任せるわ」
「いや、でも、その……私には正詠とか透子みたくは無理っていうか……」
「ふふ、いいのよ。今の私なら、貴女の指示があれば十二分に暴れられる気がする。好き勝手に、でも冷静に暴れましょう?」
「はい!」
――神奈川県チーム天継。撃破チーム数、五チームとなりました。残り二十一チームです。
主に相手を倒すのが寺坂。それを援護するのが山成。その布陣は出来上がっている。
当たり前のようにそれは、美しかった。
「まずは……天継の思惑を崩します」
「私はどうすれば?」
「私と一緒に叫んでください。桜先輩の声、よく通るし!」
「任せなさい!」
風音がイリーナを見ると、彼女は少し不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。
「ねぇイリーナ、文句があるなら言いなさい?」
――私は、貴女の指示以外で動きたくありません。
風音のみが見ることのできるメッセージで、イリーナは本心を語る。
それに風音は笑みを溢してしまう。
「さ、桜先輩……イリーナ、なんて?」
「イリーナ……私達の可愛い後輩に花を持たせる。どう?」
イリーナは逡巡したものの、風音の笑顔に負けたのかやれやれと頭を振る。
「遥香さん、私は貴女の言葉に続くわ。お願いね」
「……はい!!」
天馬の
「良いですか、遥香さん。バトルロワイヤルのプリンシパルは私達です!」
「ぷり……? えっと、はい!!」
急降下した天馬が寺坂の矢を弾き、それに同乗するリリィが山成の剣を弾く。それに驚く者は多くなかった。誰もが彼女らが天継に付くと思っていたのだ。普通ならばそうだろう。勝つためならば、天継に付くべきだ。状況は不利であれ、それでもやはり、彼らは強かったのだから。
「これ以上天継の手の上で踊りたいんですか!? 天継は広島と福井に勝てる方法を既に持っています!! 私達は今こそ! 覇者を! 落とすべきでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「今こそ私達〝が〟天継を落としましょう!!」
拳を振り上げるリリィとイリーナ、その声とも言える遥香と風音の声。それに全員が黙る。
「いいね、僕はあの
一人の、静かな声がはっきりと場に響く。
「僕達、
その声に、何人かがまた遥香達の味方に付くことを宣言する中。
「うちは天継に付く!
野望も隠さずに語る、京都の花鳥風月。やはり多くが天継に付くことを宣言したことで、はっきりと局面は別れた。
しかし、その心の内は誰にもわからない。誰もが誰かを出し抜く算段をしているに違いない。その疑念だけは決して晴れないが、それはどこか、それは……心地良い波乱の幕開けなのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます