全国初戦/2-4/乱戦
場が二面に割れたその時、王城は満足そうに微笑んで頷いた。
「うむ、良く見ている。良く考えている。那須は良く育ったな」
しかしそんな王城の態度とは真逆の様子を太陽は見せていた。
「ってか不利じゃないっすか!? 天継に付いた奴等が多すぎですよ!」
確かに、現在彼女らは不利だろう。三十八のチームの内、実に二十三ものチームが天継に付いている。
「けっ。長いものには巻かれろってか、だせぇ奴等だ」
「そう言うな、蓮。勝つためにはああいう強かさも必要だ」
蓮は二十三のチームを揶揄し、それを正詠が窘めるように言う。
「広島と福井は味方でもないから、遥香ちゃん達の味方は十三チーム……いくらなんでも、少なすぎます……」
不安から透子の表情は暗くなるが。
「平和島、十三チームの中には北海道や沖縄、東京がいる。天継に負けず劣らずの強豪だ。それに……」
王城は一度言葉を切って。
「それに、北海道の桜陽には火神の弟がいる」
期待を込めて、再度言葉にした。
――……
乱戦は続く。
しかし空気は思ったよりも緊迫しておらず、誰もがそれを楽しんでいるように思えた。
「愛知は後方支援を頼む!」
「わかった!」
「東京! 味方に付くつもりなら協力しろよ!」
「わーってる!」
チーム太陽と並び立つは、北海道のチーム桜花絢爛。指示を出すのは
「ほら、指示を出しなよ。チーム太陽」
「動かないなら俺達が勝手に動くぞ?」
二人とも信頼できる笑顔を浮かべ、それに遥香は頷いた。
「いっくよぉ! チーム太陽連合、突撃ぃ!!」
遥香の号令と共に、天馬を先頭に太陽連合は突撃を開始する。
「へぇ、良いネーミングセンスじゃん」
「寺坂。ここは任せてもいいよね?」
「おうよ」
ティエナクラストフは弓を背負い、寺坂を見て肩を竦めた。
「合図出すからそれまでよろしくね」
「おう」
山成とテトラは突撃してくる太陽連合に背を向けて走り出した。それを見届けた寺坂は、土煙を上げながら向かってくる太陽連合を見やる。
「行くぞぉぉぉぉぉチーム天継連合!! 圧倒的な力を見せてやれぇぇぇぇ!!」
寺坂の合図と共に天継連合もまた、突撃を開始した。
「おい、チーム太陽」
「うわ、あ、えっと、何ですか柳瀬……さん?」
天馬の速度に、彼の相棒は軽く追い付いていた。それに驚いたものの、遥香はなるだけ平静を装いつつ応える。
「天継は俺達にやらせろ」
「えっ、でも……」
「遥香さん、やらせてあげなさいな。彼ら去年準決勝で天継にやられたのよ」
「マジっすか?」
「おう」
「じゃあ、お願いしまっす!」
「おう、そんじゃあ先に行くわ」
柳瀬の相棒はより速度を上げ、天馬を追い抜いた。
「……速すぎでは?」
「彼の相棒は〝
「だから忍者みたいな恰好だったんだ……」
烈火の背中はいつの間にか見えなくなっていた。
そして、わかりきったことではあるが二連合最初のぶつかり合いは、先頭を行く寺坂と柳瀬であった。
「桜花絢爛の柳瀬だな?」
「おう」
先に仕掛けたのは烈火だ。
ティエナクラストフとは容姿の色合いは似ているものの、対照的な黒一色の衣装。ティエナクラストフが洋ならば、烈火は和。ティエナクラストフの黒い長髪に対して、烈火は白い短髪。
「無謀て言葉、知ってるか!?」
ティエナクラストフが拳を地面へと振り下ろすと、それは地を割り隆起させた。僅かに体勢を崩した烈火に向けて、ティエナクラストフは弓をすぐに引き絞り狙いを定める。
「まずは一人だ!」
――神奈川県チーム天継。スキル、剛射。ランクAが発動します。投擲に分類される攻撃が強化され、攻撃範囲が伸長します。
強化された矢は狂わず烈火に向かうが。
――北海道チーム桜花爛漫。スキル、ブラストノイズ。ランクAが発動しました。自身を対象にされたスキルの効果を低下させます。
その矢を、スキル発動と同時に軽々しく受け止めた烈火は、ぱきりとそれを折った。
「天継ってこの程度かよ。お前さ、〝無謀〟って言葉知ってるか?」
烈火はにやりと笑って、腰に提げていたいくつもある苦無を一本抜いた。
「ぶっ潰せ、ティエナクラストフ」
「こいつなら楽勝だ、烈火。さくっと倒して山成を潰すぞ」
まるで一本に繋がっているように矢を射るティエナクラストフの技巧を、アビリティと苦無のみで弾く烈火の気勢。
「なぁおい天継」
「ちぃ! 後退しろ、ティエナクラストフ!」
「後ろに、気を付けた方がいいぞ」
――神奈川県チーム天継。ティエナクラストフに攻撃がクリティカルヒットしました。
――北海道チーム桜花絢爛。スキル、気配遮断。ランクBが発動しました。スキル発動後攻撃をするまでの間、一定時間全探知を無視し行動可能となります。このスキルは攻撃を行う、もしくは効果消滅後、アナウンスされます。
「ティエナクラストフ!?」
ぐらりと傾きかけた体を何とか踏ん張り、ティエナクラストフは背後へと目線を向けた。
「あぁ柳瀬先輩の言葉に付け加えるなら、今日は背後からの不意討ち、時々……」
背後で怪しく笑うのは、桜花絢爛の火神樹とその相棒レイン。
「女の子が空から降ってくるでしょう」
ぎりと奥歯を噛みしめ、寺坂とティエナクラストフが睨むは上空。
「リリィ、柔軟思考!」
――千葉県チーム太陽。スキル、柔軟思考。ランクC+が発動しました。ランクに応じて、一定時間条件を満たす未取得スキルが使用可能となります。
――千葉県チーム太陽。スキル、柔軟思考発動中です。スキル発動、ダブルスタンダードC。スキル使用者の攻撃がスキル発動後一定時間、物理と魔力を伴うことで威力が上昇します。
「ティエナクラストフ、何が何でも避けろ!」
「させないよ。レイン、影踏み」
――北海道チーム桜花絢爛。スキル、影踏み。ランクCが発動しました。対象者の影にスキル使用者の影が重なっている場合のみ、対象者の行動をランクに応じて制限します。
「テメェ……!」
「悪いけど、
動きが鈍くなったティエナクラストフ。
「おらぁ!」
それに向け、リリィは拳を振り下ろした。
リリィの風属性の魔力が爆発するように周囲に広がる。桜花絢爛の二人はギリギリで逃げ切りダメージは受けなかったものの、それでも風圧で尻餅を付いていた。
「風属性は誰彼巻き込むのが難点だな……」
顔をしかめながら、柳瀬はそう口にした。
「確かにそうかも知れないけど、これで天継を一人倒せ……」
苦笑を浮かべた樹の表情は、一瞬で固まった。
「いやぁびびった」
ティエナクラストフは立っていた。しかもダメージを負った様子もなく、だ。
「神海の言った通りなんとかなったな」
リリィの拳を、ティエナクラストフは拳で受け止めていた。
それに最も驚いているのは、遥香とリリィの二人だった。
「ま、
ティエナクラストフはリリィの腕を掴み、思い切り地面へと叩き付けた。
――千葉県チーム太陽。リリィに攻撃がクリティカルヒットしました。
「リリィ!?」
――京都府チーム花鳥風月。撃破チーム数、一チームとなりました。残り二十チームです。
――大阪府チームたこ焼き焼きまっせ。撃破チーム数、一チームとなりました。残り十九チームです。
――島根県チーム銀之助。撃破チーム数、二チームとなりました。残り十七チームです。
リリィが叩きつけられた中、無情にも太陽連合は九チームにまで数が減らされる。
「ここで諦めとけよ。何も守れないときだってあるんだ」
今までの寺坂らしくもない、誰にも聞こえない程に静かで真摯な声色。
しかしそれがより、遥香の怒りを燃え上がらせた。
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