全国初戦/2-2/乱戦
リリィとイリーナを先頭に、彼女らに続く者達。彼らもまた、気付いているのだ。あの二体が魔力攻撃に弱いであろうということを。そしてそれを倒せるのは、現状風音なのだろうということを。
「うわ、めっちゃついてきてる」
「ふふ、大阪、京都、奈良、山梨、岩手、愛知ね。いいわ、彼らにも存分に働いてもら……」
「桜先輩、あれ!!」
遥香が指差したその先には、チーム天継の二人が立っていた。
「なんて興醒めな……ここは協力しなさい、天継!!」
「ははっ!」
叫ぶ風音を寺坂は一笑する。そして彼のティエナクラストフは、黒塗りの弓をゆっくりと引き絞る。
「悪いねぇ……こいつらにはまだ暴れて欲しいんだわ」
「寺坂。チーム太陽は三チーム取ってるんだから、それぐらい取ってよね」
「任せろ! ティエナクラストフ、剛射!」
――神奈川県チーム天継。スキル、剛射。ランクAが発動します。投擲に分類される攻撃が強化され、攻撃範囲が伸長します。
「いけおらぁ!」
放たれるは破壊の矢。アビリティコード54。全国模試でも上位の成績を修めた者のみが取得できるアビリティ。奇しくもそれは、晴野も所有するアビリティだ。
「いけないっ! 皆さん、退いて!」
投擲特防のあるイリーナには脅威となり得ないが、他の者達は勿論別だ。
だが、退けと言われてすぐに退くほど、彼らも簡単な覚悟でここにいるわけではない。ここにいる誰もが、少なからず〝誰かを負かせて〟勝ってきたのだから。
――京都府チーム花鳥風月。スキル、誓いの盾。ランクCが発動しました。自相棒の近距離にいる味方を対象、もしくは対象にされた場合のみ使用可能。ランクに応じた回数分、相手の攻撃を無効化します。
京都のチーム花鳥風月が一歩先に出て、その攻撃を完全に弾く。
「舐めんといてな、チーム太陽。うちらは都道府県代表やで。こんなもん、なぁんも問題あらへんわ」
マスターの言葉と共に、空を行くイリーナへぎろりと、睨みを利かせる女性タイプの相棒。それと風音は目が合う。
「あらあら……」
一時的に共同戦線なだけだ。それは全員がわかっている。だがあまりにも強い敵意に、風音の肌が高揚感からぞわりと粟立つ。
「あれらを屠ったら、貴方達とやり合いたいわ」
「言っとれや、お嬢」
そんな彼女らとは対面にいる攻撃を防がれた寺坂は、笑いながら頭を掻いていた。
「いやぁ、無理だったわ」
「あんた、マジでダサいよね」
「うるせぇなぁ……あー広島、福井。俺達が守ってやっから決着付けちまえよ」
再び、ロボットと恐竜が衝突すると同時に。
「次はお前じゃけぇ待っとれや、天継」
「今だけは感謝ぁしてやるわ!」
広島と福井の二人は寺坂へと啖呵を切る。それすらも楽しそうに笑って受け流した寺坂は、眼前から向かってくる相手を睨んでより口角を上げる。
「
「十六」
チーム天継の寺坂と
山成のテトラは、蛇腹の剣を一度だけ振り長剣へと形を整えつつ。
「私達は去年の覇者なの。圧勝してこその覇者よ。あんたは知らないと思うけど」
「ははは……でもまぁ、俺は今年覇者になるからよ」
「言うじゃん」
「わざわざステラがこの遊びに誘ってくれたんだ。やっぱ優勝目指さないとつまらんだろ。そんじゃあ、目立とうぜ神海!!」
「うん!」
――神奈川県チーム天継。工作技術、ランクAが発動中です。ランクに応じてトラップを設置可能です。トラップ『爆弾落とし穴』が選択されています。指定箇所に踏み入れた相棒と周囲へダメージを与えます。
そのアナウンスと共に、先頭を走っていた京都チームの足元から、地盤は爆発を伴いながら崩れた。
「
「うちのことはええから! フジ、絶対ここで負けたらあかんで、あんのお嬢に舐められたままとか気に入らんし!」
「わかった! あんたの死は無駄にしぃひんで!」
「あほか! 死ぬわけちゃうわ!」
京都チームの一人が落とし穴に落ち、そのままログアウトする。そしてその落とし穴に巻き込まれたのは、京都だけではない。
――神奈川県チーム天継。撃破チーム数、二チームとなりました。残り二十四チームです。
「桜先輩、山梨と岩手の人達が!」
「彼らは運が悪かったですね」
「そんな言い方は……!」
天馬の手綱を引いた風音は、眼下にいる者達を見る。
落とし穴に驚いてはいたものの、それでもたった二チーム。
「遥香さん、落ちたチームは仕方ありません。けれど、今は……!」
ティエナクラストフの肩を踏み台に、山成のテトラが蛇腹剣を既に振りかぶっていた。
「邪魔だよ、あんた達。高見の見物されるとか、不愉快」
猫のような姿をしたテトラ。その瞳は野生の獣だ。
「良いですよ、相手してあげます!」
槍をぎゅっと握りしめつつ、その一撃に構えるが。
「あんたさ、天継のこと舐めすぎなんじゃない?」
山成のテラスが蛇腹剣を軽く振るうだけで、天馬諸共一撃で地に落とされた。
――千葉県チーム太陽。天馬。攻撃ヒット。残り四回です。
「その方がお似合いだよ」
地に落ちたイリーナの頭を、テトラは踏みつける。
「風音。あんたさ、
「あら、
「軽口は誰かの受け売り?」
「解釈はお好きにどうそ?」
「ふん」
苛立ちを隠さず、山成はテトラへと武器を振り下ろすように指示する。
「貴女は知らないでしょう?
その切っ先がイリーナへと向けられたその瞬間。
「神海! 上だ!」
「えっ?」
彼女らよりも少し遅れて、リリィが拳を握りながら降ってきた。
「ちっ! いつの間に!?」
テトラがすぐに後退したため、リリィの攻撃は当たらなかったものの盛大に土埃を上げる。
「油断大敵だぜ、神海ちゃあん」
からかいながら自分の隣に後退した神海に寺坂は言うが、彼女の不機嫌そうな表情に「さーせん」とすぐに謝る。
「そう言えば叩き落としたときにはいなかったね」
器用にも右の指を一本ずつ鳴らすリリィを見て、神海は不機嫌な表情をより不機嫌に歪めていく。
「お前が跳んですぐにあいつは逃げてたぜ?」
「じゃあ撃ち落としなよ、何のために弓持ってんのさ
「いやよ、あいつ全部拳で防ぐんだぜ、すげぇのなんの」
「ふーん」
「それよりもよ、俺ら大分ヘイト買ってるけど、どうする?」
彼らチーム天継の前に立つのは、千葉、大阪、京都、奈良、愛知の四チーム。京都は一人だけであるが、それでも数は九人。二人で相手取るには厳しい数だ。
「寺坂、私達はチーム天継なの」
「おうよ」
ティエナクラストフが弓を構えた。
「寺坂、テトラが先行する。ちゃんと倒してよね、今度こそ」
「そいつぁ約束できないねぇ。あいつら中々強いぜ」
「やってよね」
「……出来る限り、な」
軽く地面を蹴ったテトラは、最も近くにいるチーム太陽を無視する。
自分たちに仕掛けられると思っていた遥香と風音がきょとんとテトラの背中を見ていたが、やがて残っているのが寺坂のみとわかると、すぐに彼へと武器を構えて突進した。
「おーおー、俺なら倒せると思ったのか?」
リリィ、イリーナ。
この二人はチーム太陽の中でも機動に優れ、そして前線で戦うにも優れている相棒だ。
まだリリィは粗削りであるため、
「こう見えて俺さ、逃げるの得意なんだよねぇ」
そんな二人の攻撃を弾きながら、彼は逃げる。
「追いかけてきな、チーム太陽」
彼女らに目線をくれることもなく、ティエナクラストフはテトラの背中を追う。
「桜先輩! あいつ腹立つ!!」
「私もよ……やっぱり、彼らから潰さないといけないわね。ペースが乱されるわ」
その背中を追いかけようとチーム太陽は足を踏み出した。
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