全国初戦/2/乱戦
フルダイブから戻った太陽達は、機器を外して立ち上がり、中央のホログラムに目を向けた。
「確かここで半分ぐらいに減らすんですよね?」
太陽は王城に問いかけた。それに王城は頷きながら、「半分ではない、十七チームだ」と付け加える。
「あ、えっと、結構減らすんですね。ってか半端になるんじゃ……」
「半端になったチームというのはシードだ。このバトルロワイヤルでより多くのチームを倒した者達が、そのシード権を獲得できる」
ホログラムの中では、各々が位置取りを行い、いつでも戦えるよう準備を整えている。
「遥香、大丈夫かな……」
心配が口に出た太陽だったが、それに仲間は短く笑う。
「な、なに笑ってんだよ、みんな」
お前達は心配じゃないのか、とでも言いたげに太陽はみんなを見たが。
「遥香と風音先輩だぞ? あの二人なら大丈夫だ」
正詠の表情は柔らかい。それは蓮や透子、王城も同じだった。
「心配するな、天広。あいつらは晴野にも鍛えられている。負けることはないだろう」
しかしそれでも不安なのか、太陽の表情は晴れない。
「始まるぞ」
蓮が短く言うと、スピーカーから開始の合図が流れると同時に。
『全国バディタクティクス大会、予選! 始まりました! 千葉県代表チーム太陽の実況は、陽光高校二年三組の海藤が行います!』
海藤の実況を皮切りに、地下演習場からは歓声が巻き起こった。
「いつの間にこんなに集まってんだよ……」
気付けば観客席は埋め尽くされていた。
――……
合図と同時に、風音のイリーナは天馬に跨がり、遥香を連れて大きく飛び上がる。
「さぁ派手に行きますよ!!」
風音が楽しげに叫ぶと、イリーナは狂暴な笑みを浮かべ槍を高く掲げる。
――千葉県チーム太陽。スペシャルアビリティ、
イリーナの天馬が嘶くと、翼が光り輝き辺り一面を焼き付くした。
――千葉県チーム太陽。撃破チーム数、一チームとなりました。残り二十九チームです。
「さすがに耐えますか!」
相変わらず楽しそうな風音だが、すぐに全方位から遠距離攻撃で狙われる。
「あらあら……チーム太陽の風音桜を落としたければ、この百倍はやってごらんなさい!!」
――千葉県チーム太陽。スペシャルアビリティ、
しかしそれすらも風音の天馬は振り落とす。
――沖縄県チーム蒼海。スペシャルアビリティ、スーパータイダルウェーブ。ランクEX+が発動しました。水属性で周囲超広範囲に高威力の魔力依存攻撃を行います。
「なるほど、海洋研究で美ら海高校は金賞を取っていたわね」
天馬の手綱を引き、その攻撃から風音と遥香は逃れる。
――沖縄県チーム蒼海。撃破チーム数、一チームとなりました。残り二十八チームです。
「残り二十八チーム……」
遥香は空から残りのチームを見下ろした。まだ九十人もの相棒が、地上で激しい戦闘を行っている。
「さて、遥香さん。晴野は二つ、私達のために作戦を考えてくれましたね。覚えていますか?」
「はい」
「どちらで行きます?」
「そりゃあ……決まってるじゃないですか!」
にやりと風音は笑うと、天馬を急降下させる。
「援護は任せてね。さぁ、もっと派手に行きますよ!」
その勢いを利用しリリィは天馬から飛び降り、地面へと思い切り拳を叩きつけた。
その衝撃に周囲にいた相棒達は吹き飛び、幾人かは尻餅を付く。
その隙を遥香とリリィは見逃さない。倒れた一人をリリィが力一杯に殴り飛ばすと、遥香は叫んだ。
「千葉県陽光高校チーム太陽の、那須遥香様だぁ! かかってきなさい、
挑戦と取れるその叫びに、
『陽光は二年の
誰が叫んだかはわからない……が。弱い者から倒すは戦闘の定石。あらゆる方角から、リリィへ攻撃が仕掛けられる。
「リリィ、柔軟思考!」
――千葉県チーム太陽。スキル、柔軟思考。ランクC+が発動しました。ランクに応じて、一定時間条件を満たす未取得スキルが使用可能となります。
――千葉県チーム太陽。スキル、柔軟思考発動中です。スキル発動、
「よっしゃあラッキーチョイス! 一気にぶっ飛ばぁぁぁぁす!!」
向かってくる相手を一人ずつ殴り飛ばすと、範囲攻撃に釣られて幾人かが倒れていく。
――広島県チーム大和。スペシャルアビリティ、ロボット。ランクEX+が発動しました。アビリティ使用者はロボットに騎乗し、ロボットの騎乗解除まで一切ダメージを受けません。また、物理に分類される攻撃に対し超強力な耐性が付与されます。
地面を揺らしながら現れるは鉄巨人。それも十数メートルはあろうかというほどの巨大さだ。
「えぇ……スペシャルアビリティて何でもありすぎじゃん……」
遥香も驚きを隠しきれず、一瞬攻撃を止めてしまう。それは勿論、彼女の周りにいる相手達もだ。数瞬沈黙が場を支配したが。
「全国のシード権はわてら広島がもらっちゃるけぇ……
そのロボットが腕を大きく振り上げることで、その沈黙は破られる。動きは早くないものの、高威力だということは言わずもがなだ。
――福井県チームメテオレックス。スペシャルアビリティ、古代生物。ランクEX+が発動しました。アビリティ使用者は、存在が確認されている古代生物を指定し騎乗します。また、物理攻撃に限り全属性が付与され、攻撃時確率で恐怖のバッドステータスを付与します。
新たな地響きと共に現れたのは。
「負けを認めろたぁ、よう言いよったな広島ぁ! ひってもんに腹立ったっての! ほやけどよぉ、これならどやぁ!?」
咆哮を上げるは、最強生物と名高い〝ティラノサウルス〟。
さすがの参加者達も、もう驚きの声が出ずにいた。
「じゃけぇ勝てんて! 化石に戻しちゃるけぇ覚悟しぃや!」
「ほならはよかかっちぇこいや! 鉄屑にしたるわ!!」
互いに超重量級のぶつかり合い、巻き込まれれば大ダメージを負うのは語るまでもない。
『逃げろぉぉぉぉぉぉ!!』
蜘蛛の子を散らしたように逃げ出す各チームの相棒達。
「ここで逃げちゃあ……勝てない! リリィ!!」
しかし、遥香は逃げない。リリィも同意を表すように頷いた。それと同時に、ロボットと恐竜がぶつかり合い、とてつもない衝撃波が地を走る。
「リリィ、逃げ遅れた人達を先に倒すよ!」
そんな中、リリィはそれに逆らうように突進する。狙うは先の衝撃波に巻き込まれ逃げ遅れた相棒だ。
「ハリケェェンアッパァァァァ!」
この状況でアビリティが外れることなど有り得ないだろう。
――千葉県チーム太陽。撃破チーム数、二チームとなりました。残り二十七チームです。
確実に勝つためには、この状況こそ利用しなければならない。
逃げるな。前に立つのなら……後ろを守れ。勝利を守るのだ。
「リリィ!」
熱い気持ちに、リリィは拳を固く握り絞め、また一人を倒す。
――千葉県チーム太陽。撃破チーム数、三チームとなりました。残り二十六チームです。
「おこぼれ頂戴たぁ、えらい汚いやり方よのぅ!」
「先に潰したる!」
ロボットと恐竜。二体が遥香へとはっきり狙いを定める。
「千葉いうたか、己は?」
「おもっしぇものもない県よのぅ」
明らかに素手で戦えるようなレベルではない。だが、リリィは両の拳を叩き合わせ、不適な笑みで相手を挑発する。
「うるさいっての! ワールドワイドなネズミーランドがあるんだよ、千葉には!」
「じゃかしかぁ!」
「うるせぇやっちゃ!」
二体がリリィへと同時に攻撃を仕掛けるが、イリーナがひらりと助け空へと逃げる。
「いくらリリィでも、あれはキツいと思うの」
背後で相手は何かしら喚いたものの、イリーナはそれを無視して一気に距離を拓いた。
「てかスペシャルアビリティてあんなのばっかりなんですか!?」
「あんなのばっかりよ。今年は特に派手だけど」
「絶対に太陽と正詠はテンション上がってるわ……」
「ふふ、男の子はこういうの好きだものね?」
少し二人は雑談すると、一度大きく深呼吸する。
「このバトルロワイヤルは逃げることも作戦だったわね?」
「はい。晴野先輩は、イリーナの天馬でずーっと逃げ続ける作戦と、二人で派手に暴れる作戦を考えてくれました」
「えぇ。そして今回、私達は派手に暴れる方法を選んだわ」
遥香と風音は微笑む。
「あれらは魔力攻撃に弱いはずよ。ロボットはわざわざ物理耐久についてアナウンスがあったし、恐竜に関してはいつの世も氷が弱点と決まっているわ。特防もなさそうだし、ダメージでの回数解除ではなく蓄積解除ね、きっと」
「なら桜先輩のアビリティで倒せますよね」
「えぇ。でもそれだけじゃあ面白くないわ」
天馬は進むのをやめ、その場で羽ばたく。
「存分に利用してやりましょう?」
天馬はくるりと回り、再びロボットと恐竜に向かった。
――……
「正詠! あれ欲しい! あのアビリティめっちゃ欲しい!」
広島がロボットを、福井が恐竜に騎乗したとほぼ同時に、太陽は正詠の背中をばんばんと叩きながら騒いでいた。
「あれはロボコンで一位取った奴に付与されるアビリティみたいだな……あーくそ、恐竜のアビリティは福井限定か!」
ホログラムを観ながらも、正詠はアビリティの取得条件を調べている。
「スペシャルアビリティて取得条件は開示されないんじゃねぇのか?」
「名前の検索で引くんだよ。そうすりゃ勉強以外で一位取ったかわかるだろ?」
蓮の質問に正詠は答えつつも、何とかしてあのアビリティを取得できる方法を検索していた。
「……大阪と京都、奈良。それと山梨、岩手、愛知が組んだか」
盛り上がった空気を落ち着かせるように、王城はぽそりと呟く。
『おーっと! ここでリリィとイリーナが再びあの二体へと向かったぞぉ! それに続くは大阪、京都、奈良、山梨、岩手、愛知だ! イケイケ遥香! 勝て勝て風音! さぁ皆さんご一緒にぃ!!』
海藤の煽りで観客席から二人のコールが上がる。
――イケイケ遥香!
――勝て勝て風音!
――負けるな遥香!
――ヤレヤレ風音!
「凄い歓声だね……」
透子は目を大きく見開きながらホログラムを凝視する。
「うむ。海藤は盛り上げるのが上手いな」
しかし、その歓声は一瞬で静まった。
「あっ!」
透子が驚きの声を上げる。
「天継が動いたか」
ホログラムには、二体の前に立つチーム天継が映し出された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます