願い/6-2
僕らが対抗できる手段は一つしかなかった。
相手が電子生命体というのなら、例えバディタクティクスでもダメージは負わせられないだろう。いいや、負わせられないに決まっている。だからこその、余裕であるに違いない。
その上で遥香は言った。
――一撃必殺でいきましょう。
テラスのスキルと蓮のスキルを要に。最初はテラスで気炎万丈、必ずアルターは邪魔してくる。それならノクトの勇猛果敢で。攻撃には時間差があるから、イリーナがすぐにリジェクトの元に移動し、招集を。そしてノクトが誓いの盾でみんなを守る。相手を動かさせない。初手はそれを意識して。
それで終わりなら、それでいい。
――でも、きっと駄目だから。別れて時間を稼ぎましょう。
相手はテラスとロビンの武器に警戒するはず。しかも、テラスはゴッドタイプと呼ばれている。警戒するだろう。警戒されるのなら、動いてはいけない。
――リジェクトとアルターが何かしてくるなら、あんたは全力で逃げ切って。
逃げ切るために、イリーナと一緒に行動をして。
――みんなは、全力で戦って。
もう打つ手がないと思わせるぐらいに全力で。
――正詠は、晴野先輩が使ったようなアビリティを使って。取ってたよね、最近のネット模試で。勘違いしてくれれば良いの。天之麻迦古弓が使えるということを。
それしかないと思わせて。
――それが合図になるから。それを使ったら、わざと焦って。周囲を気にするふりをして。
合図はあくまでも、決死の一撃で。
――狙うのは、パーフィディだけ。あいつが一番わからない。だからあいつだけを狙うの。
わからないのが危険だというのなら。そいつを潰す。しかもあいつはリーダー格。潰せば少なからずコンビネーションに乱れが生じるから。
――動きを止めて、倒す。でも私達だけじゃあ数が足りない。
そう。僕ら七人じゃあ少し足りない。
――だから、セバスチャンさんとマリアンヌさんも手伝って。その時だけでいいから。それが終わったらすぐにログアウトして。
バディタクティクスとは言え、公式じゃない。乱入することだって出来るのだから。
――テラスが、全部終わらせるの。
他の誰でもない。
唯一の対抗手段、そして狙われる対象であるテラスが、決着をつける。
何かあったとき、セバスチャンさんとマリアンヌさんを守るのは蓮がやる。
――もうこんなの、終わりにしようよ。
それに僕らは頷いたんだ。
状況はどうあれ、パーフィディは油断した。わざわざ僕らを集めてくれた。
晴野先輩の言う通り、これが最高のチャンスだ。
「パーフィディ!!」
テラスは天叢雲剣を振り上げた。
「ははっ! これはやられたね!」
動けるのはたったの二人。
それをみんなが押さえているのなら、攻撃だけに集中できる!
「これで終わり……!」
「させませんよぉ!!」
ファブリケイトがテラスの前に現れる。
「パーフィディはやらせません!」
自らを盾にしたファブリケイトへ、テラスは天叢雲剣を振り下ろした。
「ぬぅっ!!」
間合いが近すぎたせいか、思った程の深手は負わせられない。
「ありがとう、ファブリケイト。やはり君は頼りになる」
力任せにノクトとエクスマキナを吹き飛ばし、パーフィディは飛んでリジェクトの下半身へと乗った。
「
――エンペラー権限、確認。ファブリケイト、アルターヲ強制ログアウトシマス。
「この傷の痛み……忘れませんよぉ……?」
「あ、あ、あ、ゴッド、タイプ!! 赤ちゃんを、助け……」
パーフィディの声で、二人がログアウトする。
「パーフィディィィィィ! 俺も、まだ……!」
「五月蠅い奴だね……ついでにリベリオンも強制ログアウトさせなさい」
――エンペラー権限、確認。リベリオンヲ強制ログアウトシマス。
リベリオンも消える。
「さて、これはやられた。ファブリケイトは深手を負わされ、アルターは君達に懐柔された……さして私一人では君達の相手は少々難しい」
――相棒フェリーツェ、エクスマキナがログアウトします。
「なるほど、本当に切り札だったのだね、彼らは」
ふむと、パーフィディは顎に手をやる。
「けっ。さっさと諦めろ、クズ野郎」
そんなパーフィディにノクトは大剣の切っ先を向けた。
「君らに忍ばせたウィルスは……あぁ除去されてしまったのだっけ。まぁそれは副次効果だし良いか、しかし、困った。ここまで追い込まれる予定ではなかったが……」
そんなようなことを言っているパーフィディからは、余裕しか感じられない。
「やはり見せるしかないね。この子を使って」
パーフィディは兜を外し、にんまりと笑みを浮かべて僕らを見た。
「何を言ってやがる、クズ野郎」
クズ野郎は固定のまま、蓮はパーフィディを挑発するがそれをこいつは気にもしない仕草で、指を鳴らした。
「産みなさない、私の
「あぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
リジェクトの下半身にある犬が破裂すると、そこからいくつもの白い人間の形をしたナニカが現れた。それは生き物らしい挙動を僅かに見せたが、すぐに機械らしい鼓動を始めた。
「なんだ、あれ……」
あまりの気色悪さに不愉快さを隠し切れない。
「何だとは酷いものだね。これらは君達が大好きな、いつか生まれる〝
相棒……だって?
「君が大好きな相棒と同じ存在だよ、彼らは。これがスキル〝母体〟の効果さ。勿論我らの仲間とは言え、ベースは相棒だ、拒絶反応も起きる。だがまぁ、彼女にはそれがお似合いだろう?」
パーフィディが言う相棒はどんどん数を増やしていく。
「拒絶の名を冠する彼女にはね」
目らしきものが、僕らに向けられる。
「君達のために言うとね、彼らは相棒の初期体、産まれたてだ。心も何もない、ただの人形。安心して〝殺す〟といい。君達の不文律に反しないのならね!」
人形と呼ばれたそれらは一斉に僕らに向かってきた。
「数が多い! 晴野、ログアウトを!」
王城先輩が晴野先輩に叫ぶが。
『あぁくそっ! 悪い、今は無理だ! このご時世に処理落ちとかふざけ……ってそうか一体一体が相棒ってことはあいつら最低でも200
ちっ、と舌打ちした先輩は僕をちらりと見た。
「お前が決めろ、天広。迷っている暇はないぞ」
迷ってる暇はないと言われても、これはいくらなんでも……。
「ノクト、潰せ!」
僕が何かを言う前に、蓮はノクトに指示を出して一体の人形に大剣を振るっていた。
「マスターがいない相棒がどんな顔するか俺達はわかってんだろうが、太陽!」
蓮の言葉に、すぐにテラスの顔が浮かんだ。
儚げで、弱々しく、切ない。子供が親の手を求めるようなその表情。胸が苦しくなるほどの、あの顔を。
「にぃ……」
そしてリジェクト。今まで知らなかったマスターを見つけ、求めるその顔。運悪く目を付けられたせいで、平穏を奪われた相棒。
拒絶の名はきっと、必然だったに違いない。
彼女はきっと、ずっと……拒み続けていたんだ。本当の自分のマスターのために。
「マ、マァ……うぇ……」
リジェクトがえずくと、その口の中からまた新しい人形がまた産まれる。
そんな様子を彼女の崩れかけている下半身の上で、楽しく眺めるパーフィディ。
「迎え撃ちましょう」
「……いいのか?」
本当ならこんなの嫌に決まっている。特に、僕らの相棒は。
「ノクトはそれでも蓮と戦いました。これ以上、リジェクトのような相棒を増やしたくないから……だから、すまないテラス」
テラスをちらと見ると、優しく微笑む。
大丈夫。彼らはバディクラウドが包み込みます。
「え?」
無音のメッセージに思わず言葉が漏れた。それでもテラスは続きを話す。
詳しくは説明できません。ですが、我々相棒にはわかります。彼らのことを、バディクラウドは見捨てません。行きましょう、マスター。私達ができることは、なるべく早く彼らをバディクラウドの元に送り届けることです。
「わかった……行くぞ、チーム太陽! リジェクトを、助けるぞぉぉぉぉぉぉぉ!」
こんな悲しいこと……ここで終わらせるために!
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