願い/偽れざる想い
偽造のファブリケイトに対するは、蓮と透子の二人。
「ふむ、余計なのがいますねぇ……」
ファブリケイトは太刀を手の中でくるりと回す。
「けっ。女子供じゃないと相手にできねぇってか?」
それに対してノクトは大剣の切っ先をファブリケイトへと向け、挑発的に笑う。
「えぇえぇそうなんですよ。私はフェミニストなんでね」
「テメェがフェミニストの意味を知らねぇことはよくわかった」
ファブリケイトの体から紫炎が舞い上がり、甲冑が一瞬で消える。
「さて……最初から本気で行かせてもらいますよ?」
太刀を構え直したファブリケイトの瞳が鋭く二人を射ぬく。
「蓮ちゃん、相手のスキルに気を付けて」
「おう。お前も油断すんなよ。あいつが何で偽造って呼ばれてるかまだわからねぇしな」
「うん」
そんな二人の掛け合いににんまりと笑みを浮かべたファブリケイトは姿を消した。
「どうせテメェは背後だろうが!」
蓮の予想は当たった。ノクトが振り向き様に大剣を振るったその先で、ファブリケイトは太刀を振りかぶっている。
「おや、流石に何度も効きませんか」
瞬時に防御の姿勢を取ったファブリケイトだったが、足の踏ん張りが利かずに後方に飛ばされる。
「セレナ、ウォーターランス!」
透子の指示でセレナが水の槍を追い討ちで放つが。
「どの程度か受けてみますかねぇ」
ファブリケイトは守りなどせずそれをそのまま受け止めた。
「馬鹿にしてっ!!」
セレナが剣を構え直し一歩踏み込もうとしたその時。
「美しいですねぇ……貴女も、貴女のマスターも」
いつの間にかファブリケイトはセレナの背後におり、彼女の右頬をべろりと舐めていた。
「発育は……おや、マスター程ではありませんねぇ、残念です」
左手でセレナの乳房を、右手で内腿を触れるその気色の悪い仕草が、蓮と透子の背筋を凍らせる。
「セレナから離れろ!」
ノクトがファブリケイトを掴もうと腕を伸ばすと、ゆらりと蜃気楼のように消え失せる。
「男に触れられるのは好きません」
そしてファブリケイトは再び二人の前に立つ。
「この、変態野郎が!」
「変態とは失礼な。私は紳士ですよ?」
ゆらゆらと揺れるファブリケイトの姿に、蓮と透子は目を凝らす。
「私に対して目を凝らすのはお勧めしませんねぇ?」
蓮と透子の目には、ファブリケイトがいくつも分かれたように見えた。その中から本物を見極めようとすればするほど、またファブリケイトはいくつも分裂していった。
「くそ……頭が……」
「私……も……」
それはノクトもセレナも同じらしく、ふらりと倒れそうになったセレナを、ノクトは眉間に皺を寄せつつ支えた。
「おや仲睦まじい……」
揺らめくファブリケイトはにんまりと卑しく笑う。その姿により激しい頭痛に二人は襲われた。
「何が……起きて?」
透子があまりの頭痛に問いかける中。
「かかっ! ウィルスが良く回っているようですねぇ」
「ウィルス……だと!?」
いくつものファブリケイトは、ノクトとセレナを取り囲む。
「えぇ。あなた方の相棒にちょっとウィルスをね。ただご安心を。その頭痛は私のウィルスのものではありませんから。車酔いのひどいものだと思えばよろしいかと」
声は煩わしく反響し、二人は吐き気まで催す。
「ノク……ト! 誓いの盾で……セレナを……」
――スキルエラー。スキル発動条件を満たしておりません。
「無駄ですよ、攻撃をしているわけではないのですから。さて、身体検査は途中でしたので再開しますね?」
ファブリケイトは、セレナを支えるノクトから乱暴に彼女を奪う。
「テメェ……セレナに、触る……な!」
ノクトは手を伸ばすが、その場で足を踏み外し倒れ込む。
その姿を見て蔑むように笑いながら、ファブリケイトはセレナの体を執拗に撫で回す。
「実にしなやかだ……さすがレアタイプ。惜しむらくは、そこの無骨な相棒と双子という属性があることですねぇ……」
唇、鎖骨、乳房、下腹部、足、そしてまた唇……ファブリケイトの手つきは卑しく彼女の体を侵していく。
「美しい。あぁしかし、ゴッドタイプはもっと美しいのでしょう。あぁ、良い……興奮しますねぇ」
ファブリケイトの体が徐々に紫炎を纏い始める。
「貴女の意義に偽りを、産まれた願いは造りましょう」
紫炎はセレナ諸とも燃え上がり。
「汝は、〝悪業〟のセレナ」
一度激しく爆ぜると、すぐに消えた。
「さてさてここからは、貴方が大好きな創作物語の始まりです」
そこにいたのは、ファブリケイトと装いの変わったセレナだった。
――スキル、偽造。ランク■が発動しました。対象、相棒セレナが選択されました。相棒セレナが偽造され、スキル悪業が付与されます。
「セレ……ナ?」
傍らで呟いた透子に、セレナは冷たい瞳を向けるとむんずと彼女を掴んだ。
「あぁセレナ。彼女は私の愛玩具として使うので、丁重にお願いしますよ」
セレナはそれを聞き、ぽいとゴミでも投げるかのようにファブリケイトへと渡した。
「セレナ!?」
「楽しいですねぇ。では、物語の冒頭はこうしましょう」
ファブリケイトは透子を掴むと指を鳴らす。すると、ノクトとセレナを囲むように紫炎が走る。
「悪業に身を沈めた王女は、ついぞ自分を守る騎士にその剣を向けた!!」
ノクトへと剣を突き刺そうとセレナは飛び上がった。
「ノクト、避けろ!」
倒れていたノクトは体を転がし、その一撃をなんとか避ける。
「騎士は攻撃を何とか躱すが、王女の猛攻は止まらない!!」
間髪入れずにセレナは水の槍をいくつもノクトへ放つ。全てを躱すことはできず、いくつかの直撃を受けてしまった。
「ノクト!」
「やめなさいセレナ!」
「あぁ何ということだ! 王女は、王女セレナーデは! 自分の従者の言葉にすら耳を貸そうとはしない!」
セレナーデという言葉に、蓮と透子は同時にファブリケイトの顔を見た。
「何でテメェが!?」
「どうしてあなたが!?」
そんな二人の視線を受けながら、ファブリケイトは口を三日月のように結んだ。
「セレナのメモリに記憶されておりますよ? 名もなき優しい国のお話がねぇ!!」
――スキル、信念。ランクSが発動しました。敵との一対一での戦闘時、全ステータスが上昇します。このスキルはあらゆるスキル、アビリティの効果を受けず、どのような条件でも無効化されません。また、ランクA以上の場合クリティカルの発生率が上昇します。
スキルが発動したセレナはより苛烈にノクトを攻め立てた。
「ははっ! どうですか、黒騎士ノクターン!? 王女セレナーデは強いでしょう!?」
ノクトに対しそう言ったファブリケイトに、蓮は吠えた。
「その名前で、ノクトを呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
彼の心に呼応するかのように、ノクトは歯を食い縛りながらセレナの剣撃を弾いた。
「テメェ如きが! 俺のノクトをノクターンなんて呼ぶんじゃねぇ!」
「あははっ! しかしそうなのでしょう!? 何を怒る必要が……」
嗤うファブリケイトの目の前で、ノクトがいつの間にか大剣を振り上げていた。
「なっ!? セレナ、何をして……!」
セレナは自分の足に剣を突き刺し、涙を浮かべながら彼を睨み付けていた。
「ノクト!」
大剣を振り下ろしたノクトは、ファブリケイトがよろけた隙に透子を取り戻す。
「蓮ちゃん、セレナが!」
「わかってる! だがあいつを助けるのは俺じゃねぇ!」
ノクトはファブリケイトを蹴り飛ばし、すぐにセレナの元に戻り剣を振り上げた。
その一撃を、セレナは剣を自分の足から抜き防いだ。
「蓮ちゃん、やめさせて!」
「透子は黙って見てろ! ノクト! 黒騎士ノクターンは絶対に王女セレナーデを助ける! 絶対にだ! 誰に言われるでもなく、誰に助けを求めるでもなく、王女の気持ちを誰よりも汲んで、だ!」
ノクトは力強く頷いた。
「お前が助けろ!」
――バディクラウドより相棒のノクト、セレナへ通達。ウィルスを検知。ウィルス除去を開始します。
そんな折、謎のアナウンスが流れるが。
「うるせぇ! バディクラウドだか何だか知らねぇが今はノクトとセレナの邪魔してんじゃねぇ! セレナは……俺のノクトが助けねぇと意味がねぇんだ!!」
――マスター日代蓮より、一時停止の命令有。確認……ルーラーからの承諾確認。
セレナとノクトの激しい攻撃の応酬が始まった。
しかしやはりノクトが不利か。セレナの素早い攻撃と、スキルでの強化はノクトを徐々に傷付けていく。
「くかかっ! やはりノクトはセレナに手は出せない!」
ファブリケイトの耳障りな声など無視して、蓮はノクトへ言葉を送る。
「ノクト! セレナを見ろ!」
敵対する相手を見ろというのは、当然の指示か?
いいや、そうではない。
蓮が言ったのは、そのようなことではないのだ。
「お前は何を守るつもりだ!?」
セレナは涙を流しながらノクトを睨み付けている。涙を拭うことはせず、それでもその剣を振るう。
瞳は常にノクトを捉えている。
常に、捉えてしまっているのだ。
「俺はお前のやり方に任せる……だから、助けてやれ」
真っ直ぐで静かな、されど強い蓮の言葉。
「はははっ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄! 悪業のセレナ! トドメを刺しなさい!」
ファブリケイトの命令に従うかのように、セレナを細剣を掴み直しノクトに突進した。
それを真っ直ぐに見つめたノクトは、口角を僅かに上げる。
――あなたのノクターンならば、きっと。
ずぶりと、セレナの剣はノクトを貫いた。
「はっ! やはり手が出せませんか、黒騎士ノクターン!」
ファブリケイトは楽しそうに声を上げた。
――あなたのノクターンならばきっと、もっと上手くあなたを助けられたでしょう。ですが、私にはこれが精いっぱいだ。
微笑みを浮かべ、ノクトはセレナを抱き締める。
――泣かないでほしい。悲しまないでほしい。私は、あなたのための剣であり、盾であるのだから。
震えるままの手で、セレナは剣から手を離しノクトを抱き返す。
――あなたの手は、決して仲間を傷付けるものではない。あなたのその信念は、このようなことのために得た力ではない。
セレナはノクトの体に回していた手をまた剣の柄に戻し、勢いよく彼から抜いた。
――私は……俺は、知っている。大丈夫だ。あなたは強い。
ノクトのその優しい言葉に、セレナは思い切り自分の舌を噛んだ。
――スキルエラー。偽造の条件を維持できません。偽造の効果が消滅します。
セレナの体から、毒が抜けるように紫炎が舞い上がる。
「あははっははははっははははっ! さすがレアタイプ! 自らの意思で私のスキルを打ち消しますか! 良いデータが取れた!」
変わらず嗤うファブリケイトは太刀を握り直し、一瞬で二人との距離を詰めた。
「ウィルスが消される前に貴方達にはご退場願いましょうかねぇ!!」
太刀を振るうそんなファブリケイトを、ノクトは裏拳で吹き飛ばした。
「なっ!?」
――ウィルス除去完了。続けてバディクラウドよりマスター日代蓮、平和島透子、相棒のノクト、セレナへ通達。エグゼクター権限付与を一時許可。執行名【電子生命体ファブリケイトとの対等戦闘】。
「随分と納得のいかないことをしてくれるものですねぇ……!」
唾を吐いたファブリケイトは、再び太刀を構え直す。
「ノクト、もういいぞ」
パリパリと、ノクトの周りで黒い閃光が爆ぜる。
「もう、ぶちギレていい」
言葉では表しきれない怒気をその瞳に宿し、ノクトはファブリケイトを睨み付けた。
「……っ!」
その怒気を肌で感じたファブリケイトは、嗤うのをやめてしっかりと太刀の柄を握る。
「次は俺のダチの妹を助ける。セレナと、俺とお前のダチの妹達に手を出したこと、後悔させてやれ」
ノクトが大きく口を開き、吠える仕草をすると、大地がビリビリと振動する。
「スキル、剣山刀樹、百花繚乱」
――スキル、剣山刀樹。ランクAが発動しました。一定時間、使用者の移動軌跡に攻撃判定が発生します。ランクA以上の場合、他スキルの効果も付与されます。
――スキル、百花繚乱。ランクAが発動しました。一定時間、攻撃判定が増加します。ランクA以上の場合、増加した攻撃判定にクリティカル威力上昇が付与されます。
「かまうな、ノクト」
ファブリケイトのスキルなど気にせず、ノクトは突進。
「所詮は猪ですねぇ!」
ノクトの一撃を陽炎のスキルで回避したファブリケイトは、背後から彼を斬りつけたが。
「殺すなよ」
ノクトはそんなことなかったかのように、振り向きファブリケイトの喉元を鷲掴みにした。
「ぐっ……!」
そして地面へと激しく叩きつける。あまりの衝撃に地はファブリケイトを中心に大きく割れた。
そしてノクトは彼を踏みつけ、未だ怒り収まらぬ瞳を彼に向けた。
「……レアタイプとは言え量産品程度が私を見下すな……」
ファブリケイトの体が再び紫炎を纏う。そして彼はまたノクトに背後へと移動していた。その折、いくつかの影からの攻撃にノクトは傷付けられたが、全く気に留めなかった。
そして互いが僅かに距離を取り、睨み合う。
「気に入りませんねぇ、その目」
「奇遇じゃねぇか、俺も気に入らねぇ」
背後では、光の矢が放たれたことを合図に。
「消えなさい、レアタイプ」
「失せろ、ファブリケイト」
両雄は再び剣を交えた。
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