願い/2-2
「すぐ取り戻します。支援を」
「……私は拒絶する。ファブリケイトの制限を!」
――スキル、拒絶。ランクEX+が発動しました。ランクに応じ対象を拒絶します。対象、特定相棒の制限が選択されました。制限を拒絶します。
ファブリケイトを包む炎はより高く燃え上がる。
「偽造のファブリケイト……全力で行きますよぉ?」
漆黒の甲冑は所々が焼け落ちていき、ファブリケイトの素顔が明らかになった。
「はははっ! まずは小手調べと行きましょう!」
――スキル、
ゆらりと、ファブリケイトの影が揺らぐ。
「もう一つ!」
――スキル、百花繚乱。ランクAが発動しました。一定時間、攻撃判定が増加します。ランクA以上の場合、増加した攻撃判定にクリティカル威力上昇が付与されます。
「さて……まずは平和島透子から行きますか!!」
紫炎を舞い上げつつ、ファブリケイトはセレナに突進する。させまいとノクトが追いかけたが、影から現れる刀に防がれる。
「ちっ、やっぱ面倒なスキルだな」
悪態を付いた蓮は遠回りしながら援護へと向かう。
「セレナ、相手の攻撃判定が増えているから気を付けて!」
セレナは頷きつつ、ファブリケイトの攻撃に備えるべく武器を構えたが。
「猪突猛進はリベリオンの十八番でしてねぇ……私はそんなことしません。もうお忘れですか?」
セレナの目の前で武器を振り上げたファブリケイトは、紫炎を残し姿を消し、直後彼女の背後からその太刀を振るう。
「セレナ!?」
――セレナに攻撃がクリティカルヒットしました。
不意討ちに対処しきれず、セレナは前のめりに倒れる。
「セレナ、情報伝達! 急いで!」
――スキル、情報伝達。ランクBが発動します。得た情報を味方に伝達します。
「太陽くん!」
「任せろ! テラス、他力本願、セット! 剣山刀樹と百花繚乱、あとセレナの信念!」
――スキル、他力本願。ランク……。
いつものテラスのスキルが発動しようとしたその時に。
――ひひひひひひひひ! 見ちゃった見ぃちゃった! 改竄改竄改竄改竄改竄改竄改竄改竄改竄改竄! 他力本願はぁ……『無力』!』
――スキル、改竄。ランク■ガ発動シマシタ。スキル、他力本願ハ、無力ニ改竄サレマス。スキル、無力。ランク■ガ発動シマシタ。一定時間、行動ガ停止シマス。
不気味な声と共に、テラスはその場にしゃがみ込み両耳を塞ぎながら体を震わせる。
「な! どうしたテラス!? セレナを助けろって!」
――スキル、無力ガ発動中デス。アナタハ、何モデキマセン。アナタハ無力。何モデキマセン。
がたがたと身を震わせるテラスは、やがてその瞳に涙を浮かべる。
その時、急に怒りが爆発する。
「うるせぇ黙れ喋んな!! オレのテラスを馬鹿にしてんじゃねぇ! ぶっ殺すぞこの屑野郎!!」
――無力無力無力無力無力無力。アナタハ、無力。何モデキマセン。
「うるせぇっつってんだろうが! テラス、大丈夫だ! こんなの聞くな!」
テラスは変わらず震えていた。顔を真っ青にして、口を大きく広げながら泣き叫ぶ仕草までして。
「良い改竄ですね、アルター! あれなら捕まえられますが先に天広愛華を回収します!」
――ひひひ! 赤ちゃん、私の赤ちゃん。赤ちゃんの、おもちゃぁぁぁぁぁぁ!!
「アルターだと……? テメェがテラスに何かしやがったのか! 出てこいこの野郎! ぶっ殺す!!」
――ひぃーひひひっひひひひひ! ゴッドタイプに、無力は、お似合い! ひひひひひ!! 一人じゃあ、何も、できない!
『落ち着け天広。翼、那須。お前らはフリードリヒとリリィをテラスの近くに置いとけ。それと日代、お前はセレナから離れてイリーナの援護。高遠、お前はイリーナの援護を重点的に行いつつ、状況を見てすぐにセレナを支援しろ』
落ち着いた晴野先輩の声に、僕は反論しそうになったがすぐにその口を噤む。
『今までの練習の甲斐があるな、天広。よく耐えた』
全員が晴野先輩に従い、指示通りに配置に付く。
『平和島、セレナ。舞台は整ったぞ』
「セレナ、あなたの全力で相手しなさい!!」
それと同時に透子は叫ぶ。
――信念Sが発動します。敵との一対一での戦闘時、全ステータスが上昇します。このスキルはあらゆるスキル、アビリティの効果を受けず、どのような条件でも無効化されません。また、ランクA以上の場合クリティカルの発生率が上昇します。
スキルが発動すると同時に、セレナはファブリケイトの攻撃など気にせずに細剣を全力で振り切る。
それを完全ではないとは言え躱したファブリケイトもさすがだ。しかし、その程度今のセレナにはどうでもいい。
「セレナ! まだ……まだです!」
更に大きく一歩を踏み出し、セレナはファブリケイトへ渾身の一太刀を浴びせる。
――ファブリケイトに攻撃がクリティカルヒットしました。
「やりますねぇ!」
「ファブリケイトはセレナで抑えます!」
『おうよ。リジェクトはお前ら二人で充分だよな?』
王城先輩と遥香はリジェクトの攻撃を躱しつつ、的確に反撃を繰り出していた。
「この程度なら、な」
「問題、なしです!」
連携は問題ない、が。
「テラス……」
攻撃の要のテラスは未だに戦闘に参加できずにいる。
「アルター、平和島嬢が面倒です。すぐに改竄を」
――いや。赤ちゃんのほうが、大事。
「やれやれ……あなたの赤ちゃんのおもちゃ、いらないのですか? 赤ちゃん、悲しみますよ?」
――それは、もっと、いや。
「ではやりなさい、改竄のアルター。ここはジャスティスのホーム、時間が惜しい」
――……改竄……改竄改竄改竄改竄改竄改竄! 信念は……『無謀』!
――スキル、改竄。ランク■ガ発動シマシタ。スキル、信念ハ、無謀ニ改竄サレマス。スキル、無謀。ランク■ガ発動シマシタ。一対一デノ戦闘時、攻撃ガ上昇シマスガ、他ステータス全テガ低下シ味方ノステータスモ低下シマス。
「ははっ! 汝が信念は無謀なり! 周りを省みぬ愚行よ! 今日は随分と洒落ているじゃあないですか、アルター!」
セレナの攻撃が粗雑になった瞬間、ファブリケイトの幾つもの剣撃が彼女を切り刻む。
「セレナ!?」
「次!」
体勢の崩れたセレナを蹴り飛ばし、ファブリケイトはリジェクトの元に向かう。
「くそっ……このままじゃあ」
何も出来ずに終わってしまう。
「テラ……」
テラスを呼ぼうとすると、テラスは既に立ち上がっており、自らの頬を叩いた。
「……やれるか?」
テラスは涙を拭って頷いた。
「他力本願、セッ……」
『待て、天広。スキルは使わないで攻撃をしてみろ』
「……はい! テラス、そのままリジェクトへ攻撃しろ!」
テラスはリジェクトへと一足で間合を詰め、刀を振り下ろした。
「ゴッド……タイプ!!」
リジェクトは障壁を作り出しその一撃を防いだが、相棒の攻撃を防ぐはずの壁はそれだけで罅が入る。
「テラス、もいっちょ!」
刃を返し、その壁を斬り砕く。
「邪魔……するなぁぁぁぁぁ!」
リジェクトは小さな箱を幾つも作り出し爆発させた。それを後退しテラスは回避する。
アルターのスキルは面倒だが、使われなければこちらのダメージは最小限に抑えられる。
「愛華……愛華ぁぁぁぁぁ! あんたが言ってた約束なんて、ぶっ壊して、ぶっ潰して、滅茶苦茶にしてやる! 私は拒絶する! 何もかも、私を拒むもの全てを!」
狂ったように叫ぶリジェクトは、風音先輩に抱かれている愛華をぎろりと睨み付けた。
「壊してやるからなぁぁぁぁ! 何もかも拒み尽くせ……〝スキュラ〟!」
――スキル、拒絶。ランクEX+が発動しました。ランクに応じ対象を拒絶します。対象、拒絶が選択されました。拒絶を拒絶します。
べきり、と一度リジェクトの体から異音がすると同時に。
「あぁぁぁあぁぁぁぁ! 全部、いらなぁぁぁぁぁい! お前ら全部、大っ嫌い!!」
リジェクトの下半身が破裂し、そこから巨大な六つの犬の上半身が現れた。
「なんなの……これ?」
遥香の言葉は全員を代弁している。
「ねぇ正詠! これって何なの!?」
「俺がわかるはずないだろう! とにかくリベリオンの時と同じだ! 距離を取って……」
『距離を取るなら、高遠は日代、桜は翼を、天広は那須と一緒に平和島を支えつつ距離を取れ! 絶対に単独になるな!』
遥香と目が合い、互いに頷く。
「太陽! テラスのスキル使えるかわかんないし、セレナはリリィが何とかする!」
「おう! フォローは任せろ!」
リジェクトの下半身からは更に魚のような体が現れ、蒸気を上げる体液まで流れ出す。
「……ふむ。随分と連携が取れている」
ファブリケイトは、リジェクトの下半身にある犬の頭の一つに乗りつつそう口にした。
「高遠正詠以外のブレインがいるようですね」
「あぁぁぁぁぁぁあ!!! 愛華ぁぁぁぁぁ!」
――ひひひ!! 赤ちゃん、赤、ちゃん! 楽しい? 楽しいねぇ!!
「リジェクト。スキュラまで見せたのです。無様な敗北は許されませんよ?」
「うる……さぁぁぁぁい! わかって……る!!! でも……愛華が、先!」
下半身の犬が一度大きく吠えると、それは立ちはだかるもの全てを壊しつつ突進を始めた。
「狙いは愛華か!?」
リリィとセレナを背に様子を伺っていると。
『その通りだ、リジェクトはお前の妹にやたらと執着している。高遠、ノクトと一緒に迂回しながら天広と合流しろ。桜、翼。とりあえずあいつから距離を取って逃げろ。天広達の近くには行くなよ?』
指示の意図は汲みかねるが、二組は晴野先輩の指示通りに動く。
『よし。日代、お前のノクトでセレナを支えろ。天広、俺が指示を出したら召集を使え。いいな?』
「はい!」
『良い返事だ。それと高遠。いつでも地雷矢を射てる準備をしとけ』
「わかりました」
僕達が準備を整える中、リジェクトは王城先輩と風音先輩を……いいや、愛華を執拗に追いかける。
「逃げるなぁぁぁぁ愛華ぁぁぁぁぁ!」
大分距離が離れた頃を見計らい。
『天広、使え』
「テラス、召集!」
――スキル、招集。ランクEXが発動し……
――させ、ない! 改竄改竄改竄改竄改竄改竄改竄改竄改竄改竄! 召集はぁ……『離反』!
――スキル、改竄。ランク■ガ発動シマシタ。スキル、召集ハ、離反ニ改竄サレマス。スキル、離反。ランク■ガ発動シマシタ。ロビン、リリィ、ノクト、セレナ、フリードリヒ、イリーナガ、リーダー・テラスト一定距離ヲ取リマス。
「また……!!」
『おーけーおーけー。予想通りだ』
「何言ってるんですか! これじゃあ王城先輩と風音先輩が!」
『一回お前のスキルを改竄してほしくてよ。それに翼と桜はお前から距離があるからスキルの影響はない。ほれ、翼と桜以外はまた天広の元に急げって』
あまりにも飄々と晴野先輩は言い放つ。今がどれだけ緊迫した状況か、まるで理解していないようにも思える。
「くそっ……このままじゃ助けられない」
援護に向かうべきだと心は急くが……。
『ここで先走ったらお前は何も変わってないことになる。焦るなよ、大将』
それでも晴野先輩の声色に変化は見られない。
『桜、本気と気炎万丈、使えるな?』
「勿論よ! イリーナ、やりなさい!」
――スキル、本気。ランクAが発動します。全てのステータス、スキル、アビリティを解放します。解放レベル2。
――スキル、気炎万丈。ランクAが発動します。全ての攻撃に炎属性が付与され、一時的に全てのステータスが最大になり……
「アルター。気炎万丈は消しなさい」
――あ、あ、あ、面倒、くさい! 改竄! 気炎万丈は……『弱気』!
――スキル、改竄。ランク■ガ発動シマシタ。スキル、気炎万丈ハ、弱気ニ改竄サレマス。スキル、弱気。ランク■ガ発動シマシタ。高レベルノ相手ヲ対象トシタ、スキルノ使用ガ不可能ニナリマス。
槍をくるりと一度回し、イリーナはそれを前方へ力強く振り払おうとしたものの、途中で動くのを止めて風音先輩に目を向けた。
「厄介な……」
『天広、召集を使え!』
突然の指示に戸惑うが、テラスへと指示を出す。
――スキル、召集。ランク……
――ああぁぁぁぁあぁぁぁ! 面倒面倒面倒面倒面倒! 改竄、召集は……!
『桜! 本気、気炎万丈!』
「なるほど、ね!」
――あ、あ、あ、あ、ど、どっち!?
「ちぃ!」
ファブリケイトがイリーナを止めようとしたが、もう遅い。
――スキル、本気。ランクAが発動します。全てのステータス、スキル、アビリティを解放します。解放レベル2。
――スキル、気炎万丈。ランクAが発動します。全ての攻撃に炎属性が付与され、一時的に全てのステータスが最大になります。また、敵味方関係なく攻撃がヒットします。
イリーナは槍を振り払う。
イリーナの紅い炎は一瞬で燃え上がり、紫炎を纏うファブリケイトすらも燃やし尽くす。
「この程度ぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 愛華を、寄越せぇぇえ!!」
化け物と変貌し体全体が燃やされても尚、リジェクトは前進を止めない。
「あなた達に私達の攻撃が効かないのなんて百も承知です」
ふふん、と風音先輩は得意気に言う中、リジェクトの下半身の犬がイリーナへとその大きな口を開く。
「捕まえ……!!」
――スキル、招集。ランクEXが発動しました。ロビン、リリィ、ノクト、セレナ、フリードリヒ、イリーナをリーダー・テラスの近くに呼び出します。
「逃げの一手も勝利の布石だ。かかってこい、
王城先輩の言葉に、僕ら全員はまた武器を構え直す。
「言いますねぇ……愚かで惨めで脆い人間如きが。こちらに一切ダメージすら与えられないくせに」
「だからどうしたってのさ! そっちこそ悠長にしてていいの? ここはジャスティスのホームだよ!」
「思い上がるのも大概にしろよ……人間」
ファブリケイトが初めてこちらの挑発に乗り、はっきりと怒りを露にする。
「リジェクト、一気にケリを……」
「なん、でぇ……!? なんで、逃げる、のぉ!?」
燃えながら、リジェクトは言葉を繋げる。
「愛華ぁ……ま、なか……ま、ま、愛華……置いて、いかないでぇ……ま、ま……愛華、私を拒絶、しない、で……ママぁ……ママ……私を……拒絶、しない、で……」
急にしおらしくなったリジェクトは、ずるりずるりと、ゆっくりと進む。
「ごめんな、さい、ママ……置いて、いかな、いでぇ……私を、愛し、てぇ……」
場はしんと静まり返る。
「ママ……愛華ぁ……私を、拒絶、しないでよぉ……」
よくよく見ると、リジェクトは涙を流しながら、必死に両手を伸ばした。
「……精神退行? スキュラに侵されたか、出来損ないめ。アルター、リジェクトのモニタリングは?」
――ダメ。だめ駄目ダメdameだめ駄目ダメdameだめ駄目ダメdameだめ駄目ダメdameだめ! あなたは私の、あ、あ、あああああ赤ちゃん!
「これだから不安定な半端品は……」
「ママ……ママ……わ、わたし、あなたのこと、ずっと、待ってたの。抱き、しめて。だか、ら……置いて、いか……」
リジェクトがまた叫び出しそうになったその時、リジェクトのマスターは……手を伸ばして声を張り上げた。
「こっちに来なさい、私のリジェクト!」
そうそれは、僕の妹の愛華だった。
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