夏休み/6

 夏の思い出。男の体に日焼け止めを塗る、CGを取得しました。


「パワフルセクシャルハラスメントだ……」


 あんまりだ。こんな夏の思い出、あんまりだ。


「よっしゃ、これで思う存分砂の城を作れるぜ」


 晴野先輩は首の骨を鳴らしながら、パラソルのすぐ前の砂を集めだした。


「あ、僕もやります」


 砂遊びとかホント久しぶりだし。

 しばらく二人で砂をいじっていると、晴野先輩は口を開いた。


「高遠はどうだ? グチグチいってねぇか?」

「勉強に関してはグチグチ言ってきます」

「そうか。ならいい」

「晴野先輩はどうですか? 僕らに言いたいこと……あるんじゃないんすか?」


 晴野先輩は左腕をちらと見て、「ははっ」と短く笑った。


「山程あるぜ」

「聞きますよ、僕でよければ」


 砂の城の周りを掘る。


「そうだな……天広。お前は熱くなりすぎだ。高遠に指事を出させるな」


 晴野先輩は本丸を作っていく。砂の城とはいえ、僕らが作るのは日本の城だ。


「うっす」

「俯瞰的に戦況を見ろ。お前のテラスはそれでこそ本領発揮できる。前に出るのは最後だけだ」


 中々の出来映えに、思わず二人とも頷いた。


「お前はその才能がある。俺が言ったことを忘れんなよ、天広」

「うっす」

「それと堀を作るなら水がいる。水が濁ってちゃあ芸術とは程遠い。そのためには石垣がいる。石垣を貝で作るのもいい」


 ……うむ。貝で作るのはいいな。でも石垣というからにはやっぱり石で作るべきなんじゃないかなと思いますがね。


「晴野」

「んだよ、翼」

「城というからには洋風にしろ。その……お前達の謎の、その、芸術力を発揮するなら、な」


 まぁそうですよね。

 僕も僅かな時間でここまで立派なものが出来るとは思いませんでした。


「あちらでビーチバレーをやるそうだ。お前たちも来い」


 王城先輩は海の中にいるみんなを指差した。


「ビーチバレーて砂浜でやるもんじゃないんすか?」


 立ち上がって体を解しながら聞くと、王城先輩は笑みを浮かべながら肩を竦めた。


「細かいことを言うな。風音はとりあえず〝全員〟で遊びたいのだろう」


 それは晴野先輩に向けられた言葉だろう。


「あいつも大概ガキだなぁおい」

「砂の城を本気で作るお前も大概だ、晴野」

「うるせぇ」


 肩をぐるりと回しながら、晴野先輩はみんなに手を振る。


「早くやりましょー!」


 遥香はボールを頭の上に持っている。


「今行くー!」


 駆け足で海へと向かったせいか、途中で僕は盛大にスッ転んだ。


「あんたってホントにもう!」

「いやぁ、楽しすぎて足元がおぼつかなかった」


 そして僕らは夕方まで海で遊び尽くした。


――……


 別荘に戻ったときには、僕らはすっかりぐったりしていた。


「遊んだねぇ……」


 遥香は幸せそうに言いながら大きく背伸びをした。


「那須さん、平和島さん、お風呂に行きましょう?」


 風音先輩はバスタオルを既に持っており、にっこりと微笑んだ。


「修学旅行みたい!」


 そのバスタオルを受け取り、遥香は更にはしゃいでいる。


「そういや、お前らって修学旅行まだだったか」


 晴野先輩は自分のバッグから宿題を取り出していた。それを見た王城先輩と正詠も宿題を出した。


「今年の二年はどこなんだろうな」

「確か北海道と聞いたぞ。俺たちは沖縄だったが」

「最近は国内旅行も安くなったみたいだしな」


 女声陣は風呂場へと向かった。


「……宿題、やるんすか?」

「おう。お前らは好きにしてろ。三年は大変なんだよ」


 言って二人は宿題に取りかかった。


「俺達もやるぞ。太陽、蓮」


 さすがに好きにしろとは言われたが騒ぐわけにいかないし……仕方ないか。


「あぁ……やる気が、起きない……」


 ぴこん。

 頑張りましょう!


「あーはいはい」


 そんで約一時間半。僕らは宿題をこなしていたわけだが、さすがに集中力が切れた。


「そういや晴野先輩、左腕は普通に動くんですか?」


 参考書を左手で捲る見て、ふとそんなことを口にした。


「太陽」


 険しい目付きで正詠は僕を見るが。


「はは、高遠は気にしすぎだ。力を入れるのは難しいが、これぐらいは問題ない。さすがにビーチバレーのときのレシーブはしんどかったがな」


 ひらひらと晴野先輩は左腕を振ってみせた。


「そう、なんですか……良かった……」


 正詠は安堵のため息をこぼして、微笑みを浮かべた。


「んで、お前らはどうなんだ? ちゃんと作戦立ててるか?」


 晴野先輩はため息をついて参考書とノートを閉じた。僕の集中力が切れたことを悟ってくれたのだろう。


「というより作戦も何も相手がわからないんじゃあどうしようも……」

「勉強不足だな、お前らは。確実なのは、北海道が〝桜陽高校〟、神奈川は〝高天高校〟、大阪は〝朱陣高校〟だ」


 王城先輩は「うむ」と頷く。


「なんでわかんだよ?」


 蓮は足を崩し、首を回しながら彼らに問いかけた。それに答えたのは正詠だった。


「高天は三年連続で全国優勝、朱陣はベストエイト入りをここ数年逃したことはない。そして桜陽は……」


 桜陽の時に正詠はちらりと先輩達を見た。そして正詠の続きを話したのは王城先輩だった。


「去年俺達に圧勝した高校だ。あそこはほとんど二年で構成されていた。今大会も確実に地区大会など容易く勝ち上がるぞ」


 っていうかこの先輩達とやり合って圧勝って、学力とか物凄いんじゃなかろうか。全国模試とか普通に十位以内とかにいそう。


「ちなみに去年の高天は面白かったぜ。優勝した奴が面白くてな。写真あるし見るか?」


 晴野先輩はそう言うと、踊遊鬼の頭を優しく撫でる。


「二年が四人、三年が三人。高天はいつもこの構成だし、今年もそうなるに違いない。んで、大将はこいつだろうな」


 踊遊鬼は一人の少女の画像を表示した。

 それは日本人とは思えない、金髪碧眼の可愛らしい少女だった。


「女の、子?」

「おう。天王寺てんのうじ ステラ。覚えておけよ」


 晴野先輩はにやりと笑った。

 僕たちが天王寺ステラの画像を見ると、女性陣三人は浴室から出て来た。


「あら晴野。こんな可愛い子たちがいるのに」

「うるせぇ。てめぇら風呂長すぎんだよ」


 よいしょと晴野先輩は立ち上がり、バッグからバスタオルを取り出した。


「おら、二年共。風呂だ風呂」


 王城先輩も同じようにバスタオルを取って、僕らを見た。


「え、一緒に入るんすか?」

「はぁ? 一人ずつ入ってたら今日が終わっちまうぞ。これからまだやることあるっつーの。それにどうせ風呂は広いんだろ、風音?」

「私達全員で入っても余裕なくらい広いわよ」

「だとよ。ほら行くぞ」


 ……まさか夏の思い出で、〝男同士の裸の付き合い(ガチムチ×2)〟のCGまで入手することになるとは思わなかった。しかもこういうのって修学旅行ネタだよね。畜生、畜生。女湯を覗きに行こうと言おうとしても、セバスチャンさんとマリアンヌさんの目がよくわからんけど厳しく監視してたっぽかったし。何でこうも男系の思い出ばっかり増えるんだ!


「なんだ天広。お前小せぇから見られたくないのか?」

「違うし!」


 とりあえずここは流れに身を任せるしかないのか……。

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