悪逆/1-2
吹き飛んだリベリオンを追撃するのは、ロビンの矢だ。
「爆ぜろ、地雷矢!」
爆発を巻き起こす矢は、確かにリベリオンに当たっているが。
「ザコが……」
リベリオンに大きなダメージは見られない。
「どういうことだ……風音の一撃も日代の一撃も、確かに致命傷のはずだが……」
王城先輩が疑問を口にするが、それに答えられる余裕があるのは誰もいなかった。
「まずはザコガキからやるか……」
爪を地に擦りながらリベリオンはロビンに向かう。
「ロビン、来るぞ」
ロビンは頷き弓を引く。
「前みたくベソかかせてやるよ!」
「上等だ、やってみろ!」
放たれた矢はリベリオンに当たり爆発を起こすが、それでも相手の突進は止まらない。
「ロビン! アイスウォール!」
正詠の声と共に氷の壁が現れるが、それすらもリベリオンは突破した。
「効かねぇんだよザコガキ!」
「だろうな! 太陽、何でもいいからとびっきりの炎アビリティを使え!」
急に名前を呼ばれ戸惑うが、テラスはアビリティを準備しており、僕を見て頷いた。
「よっしゃ、ファイアトルネード!」
炎の柱がリベリオンを囲うように燃え上がる。
「透子!」
「……アクアランス!」
水の槍がその炎の柱に向けて走ると、大爆発を起こす。
「これならどうだ、リベリオン!」
しかし、その水蒸気を切り裂きリベリオンはロビンへと爪を振りかぶっていた。
「効かねぇよ!」
降り下ろされた十本の爪がロビンを切り裂いた。
「ロビン!?」
苦痛に顔を歪ませたロビンだが、彼は右手の矢を握り締め、それをリベリオンの〝左腕〟に突き刺した。
その矢はすぐに爆発を起こした。それにロビンは巻き込まれ吹き飛ばされるが、すぐに体勢を整え弓を構える。
「……よくやった、ロビン」
ロビンはにやりと正詠に笑みを返す。
「セレナ、ロビンにヒール!」
「テラス、他力本願セット、ヒール! ターゲット、ロビン!」
――スキル、他力本願。ランクEXが発動しました。アビリティヒールBがランクアップし、ヒールSになります。
――アビリティ、ヒールS。味方の体力を大回復させます。
ロビンの傷はすぐに癒え、弓を引き絞る。
「まだ終わりじゃねぇだろ、リベリオン!」
「当たり前だ、ザコガキ」
リベリオンは左腕を振りながら言った。
「風音、行くぞ」
「えぇ、行きましょう」
先輩たち二人の相棒が走ると。
「とことん邪魔なガキだな!」
「まずは一撃だ、フリードリヒ」
固く握られた拳がリベリオンの鳩尾に確かに入る。
「
すると同じ衝撃音が遅れて四度響き、リベリオンの体をくの字に曲げる。
「
アビリティを使用したフリードリヒがすぐにその場を離れると、同じアビリティをイリーナが使用する。最後にイリーナはリベリオンを蹴り飛ばした。
「これでどうだ、リベリオン」
手応えを感じたのか、王城先輩が短く息を吐きながら言う。
「効かねぇよ、ガキ共」
触手が上に複数本伸びると、その触手にいくつもの目が現れる。
「うわ、気色悪ーい……」
緊張感のない遥香の言葉。しかしそれには同意だ。
「確かに手応えはあったがな……」
再び拳を握るフリードリヒに、リベリオンは「かかっ」と嗤った。
「テメェらザコ共の攻撃なんてこれっぽっちも効かねぇんだよ……」
リベリオンの体から赤い蒸気が溢れる。
「もういい、面倒だ。喰らい尽くせ、〝ヤ=テ=ベオ〟」
リベリオンの一言と共に、いくつもの触手が地面に潜り、大地を破壊しながら僕らに向かってきた。
「全員逃げろぉぉぉぉ!」
王城先輩の叫びと共に、全員がリベリオンから距離を取った。
「何だよあれぇ! 気持ち悪い上にめっちゃ強そうなんですけどぉ!」
冗談抜きでやばすぎる!
「透子! スキルでわからないか!?」
正詠の声に透子は首を振る。
「わかんない! でもアナウンスがないからアビリティの可能性も……!」
「違う、あれは架空の植物です! 確か……えーっと!」
何か知っているような風音先輩だが、逃げることに精一杯ですぐに答えられずにいた。
ぴこん。
ヤ=テ=ベオ。中央アメリカ、南アメリカに生息していたとされる架空の植物。名前の由来はスペイン語で〝私は既にあなたを見ている〟。
テラスが冷静に情報を提示する。
「テラス、情報共有!」
全員にデータが共有されると、一本の触手が地面から姿を現した。
「植物なら燃やすだけだ! テラス、ファイアトルネード!」
一度大きく跳び、テラスは気味悪い触手にアビリティを放つ。触手は奇声を上げながら燃えていく。
「どこからそんな声出るんだよ! きっしょいわ!」
しかし燃やせたのは一本のみ。まだまだ触手は地の中を走っている。
「あんなのどうやって倒すのさ! 逃げてるだけじゃ勝てないってぇ!」
地面から次々と触手が飛び出し、その度に殴ったり斬ったり燃やしたりしているが、全然数は減らない。
「翼……」
「すまんな、風音」
「気にしなくて良いわ。これも私の役目だもの」
フィールドを駆け抜ける途中イリーナは足を止めた。
「風音先輩!?」
僕の声にテラスも足を止めようとしたが。
「止まるな、天広!」
王城先輩の声に彼を見る。
「風音の……イリーナの役目は囮もある!」
「ふざっ……!」
「あいつを舐めるな、天広! あいつはトライデントの一番槍だ!」
足を緩めたテラスに触手は襲いかかる。
「ちぃ!」
フリードリヒが引き返しテラスを抱え、再び走り出す。
「離してください、王城先輩!」
「舐めるなと言っているだろう! 近くにいるとあいつの邪魔になるんだ!」
「え……?」
イリーナは落ち着いて槍を頭上で回転させると。
「全国で使うつもりでしたが仕方ありませんね」
――スキル、本気。ランクAが発動します。全てのステータス、スキル、アビリティを解放します。解放レベル2。
「さぁ行きますよ、イリーナ!」
熱風がイリーナを中心に巻き起こる。
「あれは……?」
「バディタクティクスに限れば、風音は俺よりも強いぞ」
一際熱い風が吹く。
――スキル、気炎万丈。ランクAが発動します。全ての攻撃に炎属性が付与され、一時的に全てのステータスが最大になります。また、敵味方関係なく攻撃がヒットします。
「耐えられるものなら耐えてみなさい、反逆者!」
イリーナが槍を横に薙ぐと、前方全ての大地を割き、割れた大地からは猛々しい火柱が上がる。
それを見た僕らはようやく逃げる足を止めた。
「なんだあいつ……本当にバケモンじゃねぇか……」
目元をぴくつかせながら、蓮が率直な感想を漏らす。
「それは風音の前で言うなよ、日代」
「言わねぇよ、おっかねぇ……」
その火柱を前にしたイリーナは、決勝戦のときよりも恐ろしく見えた。
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