第三章 決戦――反撃せよ、その悪逆へ

悪逆/1

――バディタクティクスモード、開始します。フィールドは永遠の平原。


 聞き慣れたアナウンス。しかし、それは所々で雷鳴に邪魔をされた。


「リベリオン……」


 リベリオンの姿は前とは違っていた。特に大きく違っていたのは左手だった。以前の刃物のような爪は禍々しく変形し、より狂暴性を増していた。そして前は出刃包丁を持っていた右手にも、似たような爪が生えていた。


「あいつ右腕まで爪生えてたか?」

「いいや、前は違った。それよりも、今は……!」


 ぎり、と正詠の歯軋りが聞こえる。


「こっちが会いたかった奴に会えた それだけだ!」


 始まりの合図はなかった。正詠はすぐに矢を放つ。それをリベリオンは右の爪で弾いた。


「テメェ等のせいで俺はなぁ……」


 リベリオンの触手がもぞりと動く。


「俺はこんな姿にさせられた挙句、追放されたんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 頭の触手が周囲を滅茶苦茶に走り回る。


「あいつの左側に回れ!」


 王城先輩に全員が頷いて、攻撃を仕掛け始めた。


「さぁ前回のお返しです!」


 まず最初に仕掛けたのはイリーナだ。鋭く槍で幾度も突くが、あの黒い鎧もないのに弾かれ続ける。


「……鎧がないのに随分とまぁ硬いですね」

「あぁ!?」


 触覚の一本がイリーナの足を掴み地面に叩き付けた。追撃を行おうとリベリオンが踏み込むが、それを止めるようにフリードリヒの拳が連続して三度打ち込まれる。


「何だ……前よりも更に硬くなっているな、貴様」

「うるせぇクソガキ共だなぁ!」


 リベリオンが一歩踏み込むだけで、周囲の大地が隆起しそれ以上の攻撃を防いだ。


「一人ずつ……一人ずつ殺してやるからなぁ! バディブラッドに移行しろ!」


――権限確認できません。バトルモードの移行ができません。


「ああぁあぁあああああああぁぁああぁぁぁぁぁぁ!」


 八つ当たりするようにその岩を壊し、リベリオンは器用にも自分の頭を抱えた。


「畜生畜生畜生!」


 はっきり言って、今のリベリオンは前とは全く違う。凶暴さはそのままではあるが、全く余裕が見られず取り乱していた。


「今なら勝てるかも……」


 テラスを見ると、彼女も気持ちは同じようで頷いた。


「行くぞ、テラス!」


 リベリオンの死角から攻撃を仕掛けようとテラスが刀を振り上げたそのとき。


「お前さえ、いなければ……」


 伸びていた一本の触手から、ぎょろりとあの金と赤が入り混じった目が現れた。


「テラス、何かヤバイ! 退避!」


 その触手に炎を爆発させ、反動で後退する。


「正詠、あれなんかやば……」

「目が弱点だった……好都合だ」


 みんなが様子を見ていた中、正詠のロビンは突進した。


「あのバカ!」


 それをノクトが追いかけ、更にその後ろをフリードリヒが追いかけた。二人はロビンの援護をするつもりだろう。

「ロビン、驟雨しゅうう!」


 走りながらロビンは頭上へと矢を放った。その矢は頂点で弾けると雨のようにリベリオンを襲った。一本一本の一撃は強くはないが、それは地面に着くと小規模の爆発を起こし、リベリオンの足元をぐらつかせた。


「まずは顔についてる奴だ。よく狙えよ、ロビン」


 ロビンは弓を引き絞り、リベリオンの右目へ矢を射る。もの凄い勢いで矢を風を切ったが、リベリオンの触手がそれをいとも容易く弾いた。


「ザコガキが図に乗るなよぉ!」


 リベリオンは感情のままにロビンに突進し、両の爪を振りかぶり攻撃を行うが。


「ノクト……!」


――スキル、誓いの盾。ランクAが発動します。。自相棒の近距離にいる味方を対象、もしくは対象にされた場合のみ使用可能。ランクに応じた回数分、相手の攻撃を無効化します。


 ノクトがその攻撃を弾いた。


「助かった、蓮!」

「前に出過ぎだ優等生! テメーは狙撃手スナイパーだろうが!」

「今回だけは許せ!」


 ノクトの肩を踏み台にロビンは跳び、空中で弓を引いた。


「ブロークン!」


 定番となった僕らの主力アビリティだが、命中率が低いのは変わらない。


「これじゃあ隙だらけじゃ……」


 遥香が舌打ちして駆けようとするが。


「全く……晴野と一緒で手がかかりますね」


 一番の機動力を持つイリーナがロビンを援護すべく、走り抜けた。


「この……メスガキめ!」

「バディタクティクスなら私たちの舞台です。ここで倒れなさいリベリオン!」

「黙れ!」


 リベリオンの右の爪がイリーナに向けられる。


――スキル、疾風迅雷。ランクCが発動します。自身の攻撃が優先されます。


「遅いです、リベリオン」


 ぐさりと、全力を込めたイリーナの槍がリベリオンに突き刺さる。


「なるほど、確かに前よりは硬いですが全力で突けば何とかなりますね」


 してやったりと風音先輩が言ったことに対し、リベリオンが大きく舌打ちする。


「ノクト、イリーナに続け!」


 力一杯にノクトが大剣を振り下ろすと、それもリベリオンの肉と骨を断った。確かに、攻撃は通る!


「透子! 僕らも何か援護!」

「わかりました! セレナ、アタックアップをリリィに!」

「テラス、他力本願セット! アタックアップ! ターゲット、ロビン!」


――スキル、他力本願。ランクEXが発動しました。アビリティアタックアップCがランクアップし、アタックアップAになります。

――アビリティ、アタックアップA。味方の攻撃を一定時間上昇させます。


「リリィ、とりあえずぶっ飛ばずよ、風塵拳ふうじんけん!」


 風を纏った拳はリベリオンに打ち込まれ吹き飛ばした。

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