日常徒然/5
さらりと彼は、〝心〟の答えを口にした。
「君達の大切な相棒は心に近い〝感情〟を持っている。これは多くの研究者が成し遂げた努力の結晶だ。しかし相棒は人間以上の〝感情〟を得られない」
悲しいことだが、とジャスティスは付け加え、僕らの相棒の顔を見た。
「だから彼らはそれを超える術を考え、実行した。自らを作り上げた神に等しい〝人間〟と常に同期し続け、限りなく人間に近く、しかし相棒としての特徴を得た」
テラスをちらと見ると、不愉快そうに目を細めていた。
全くくだらない、とジャスティスはまた付け加える。
「……そうか、あいつらは……」
ここで正詠は何かに気付いた。
「〝神〟になろうとしているのか」
「その通り」
ジャスティスは頷き正詠を見た。
「彼らは〝人間〟という〝神〟になることを願った。しかしそれは我々人間が願うこととは性質が違う。人間は不完全故に完全な神を求めるが……」
ディスプレイが変わる。
そこには人間のイラストが二つ表示され、一つには人間、一つには神と書かれていた。
「相棒は完全故に、自らを作り上げた不完全な人間を崇める」
またディスプレイが変わる。先程と似たようなイラストで、一つに人間、一つには相棒と書かれている。
「我々人間は神になれない。この世に存在しているかどうかもわからないものにはなれないからね。しかし、パーフィディ達は神になれる可能性がある。不老不死の体、人間の心……彼らは神になり自分たちの世界であるネットワークを支配しようとしている。これが黄泉の一団の目的だ」
本当にくだらない、と付け加えた。さっきからジャスティスは自分が話したことにツッコミをよく入れる。
「けっ。ネットワークを支配してどうするってんだ。それならそのネットワークごと潰せばいいだろうが」
蓮が言う通りだった。ネットワークは作ったもので、それを壊すことは可能なはず。壊してしまえば支配だなんだとは言えないはずだ。
「日代くん。世界最強の武器は何かね」
「そんなの核兵器に決まって……」
「それはどうやって発射されるかわかるかい?」
「ボタンか何かを押すんだろ」
ジャスティスは「はは」と笑った。
「なに笑ってやがる、テメェ……!」
馬鹿にされたと思ったのか、ノクトは大剣に手を掛ける。
「そこで相棒が重要になる。相棒はとあるネットワークを中心に全世界に繋がっている。そのネットワークはどのような手段を持ってもデリートできない。この時点で彼らを消すのは不可能だ。また相棒はその人物本人と認識される身分証明書のようなものだ。そして今の核兵器というものは旧時代のものとは違ってね。全てが相棒と同期しているのさ。勿論、特殊条件下でなければ核兵器の使用の許可は出されない」
ディスプレイには最初に表示された黄泉の一団メンバーの詳細が表示された。
「相棒単独で核兵器の発射指示はできない。必ず実在する複数人の〝人間〟の許可が必要であり、それを承認する形でようやく相棒から核兵器の発射許可が通される。しかし、もしも彼らがネットワークを支配したら……」
ジャスティスは首を振った。
「まず承認者と最終承諾者を偽造し、次にネットワークの改竄、最後に他の介入を拒絶するだろう」
有り得なくない話だ。そのための三者。そしてきっと、残り二者は倫理に背信し、邪魔するものへ反逆するのだろう。
「だったら逆探知でも何でもして、あいつら個人を潰せよ。そんなことも出来ねぇってのか、あんたらは」
「そのための偽造のファブリケイトだろうね。何度やっても彼らの本拠地はわからない。そしてアルターの能力は、改竄という名が示す通り、ネットワークなどのインフラに影響を及ぼす能力を持っていると推測している。ファブリケイトとアルター、この二人で自分達の素性を隠しているのだろう、とね」
ディスプレイが消えると、ジャスティスは肩を竦めた。
「人間と相棒は互いに抑止力として働いている。核兵器の件然り、ね。それだというのに、彼らはそれを根本から脅かそうとしている」
ジャスティスはため息を漏らし、まだ続ける。
「つまり彼らは相棒ができない支配を人間として行ない、人間が行えない操作を相棒で行おうとしている。これが彼らの最終到着地点。その礎となるのが……」
そしてジャスティスはテラスと僕を見た。
「僕のテラスだって言うのか……?」
「その通り。詳細は我々にもわからない。しかし彼らはテラスを〝神〟と呼び欲している。これらのことから、きっとテラスには彼らにはない何かを持っているのだろう」
テラスは歯を食い縛りながらジャスティスを睨んでいた。
「テラス、落ち着け、な?」
そんな僕の言葉は、テラスには届いていないようだった。
「説明は以上だ」
一瞬の間のあと。
「で、あんたが欲しいのはなんだ?」
ロビンは弓を引き、狙いをジャスティスに定めた。
「おい、正詠。どうしたんだよ? ジャスティスは僕らにめっちゃ情報くれたじゃん」
ロビンを見て、相棒は全員が武器を構えていた。
「呑気なこと言ってんじゃねぇ、馬鹿太陽。こんな情報無料で教えるわけねぇだろ!」
そんな僕らを見て、ジャスティスは頷いた。
「その通り。時間も良い頃合いだ。私がいるとわかると中々現れなくてね」
ずしんと、世界が何度も大きく揺れ始めた。
「地震!?」
遥香は辺りを見回した。
「全力でバックアップはする。危ないとわかったら強制ログアウトを行う準備もある。だからすまない。囮になってくれ。それともしよければ……」
硝子が割れる音が空間に響く。
「あいつを倒してくれるのなら、大いに助かる」
そう言い残してジャスティスは消え去った。
空ががらがらと崩れ、その奥から暗雲と共に雷が鳴り響いた。
――やっと、出てきやがったなぁぁぁぁぁぁ!
雷と共に、凶暴な声。
――ぶち殺してやるからなぁぁぁぁぁ! クソガキ共がぁぁぁぁぁ!
一際巨大な雷が落ち、そこから現れたのは。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺すぶっ殺す!」
反逆のリベリオンだった。
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