悪逆/1-3
炎は勢いを弱めることなくしばらく燃え続けた。
「これなら、ダメージを……」
一瞬、ほんの一瞬僕らが気を緩めたその時だった。
「だから効かねぇって」
かなり距離が開いているはずのリベリオンの声がはっきりと聞こえた。
「捕らえろ」
イリーナの足元から焼けた触手が生え、イリーナの体を掴んだ。
「私のイリーナは今最強です、こんなもの……」
「最強だって? そらぁ良いこと聞いたな」
触手の先が口のように大きく割れた。
「喰え、ヤ=テ=ベオ」
そしてその触手はばくりとイリーナを喰った。
「え……?」
誰しもが呆然とそれを見た。
大きな膨らみの中はぐにゃぐにゃと動きつつ、徐々に地面に向かっていく。
「テラス!」
「フリードリヒ!」
「ロビン!」
「ノクト!」
「リリィ!」
「セレナ!」
全員が何とか現実を理解した。
「「「「「「助けろ!」」」」」」
地面に完全に潜る前にその付け根を集中的に攻撃するが、びくともせずに徐々にそれは〝イリーナ〟を飲み込んでいく。
「あ……イリ、ナ?」
遂に地面に飲み込まれそうになり、風音先輩は信じられないと言うように首を振りながら。
「イリーナ! 逃げなさ……!」
逃げるよう指示を出した。
「イリーナ!」
一度大きくぐにゃりとその触手は歪むが、ようやく飲み込んだとでも言うようにイリーナを地面に引きずり込んだ。
「リベリオンだ! 飲み込んだのなら、それは本体に行くはず!」
誰よりも早く王城先輩とフリードリヒがリベリオンに向かった。
「逃げずに挑むか。いいぜぇ」
リベリオンの右手の爪が生々しい音を立てながら変形し〝槍〟のように長く一つになった。
「こうだっけか?」
それを前方に振ると、先程のイリーナと同じように大地が割けて火柱が上がった。直前でフリードリヒは後退し回避し、直撃は避けたもののあまりの出来事に王城先輩と共に目を丸くした。
――スキル、気炎万丈。ランクAが発動します。全ての攻撃に炎属性が付与され、一時的に全てのステータスが最大になります。また、敵味方関係なく攻撃がヒットします。
――スキル、オーバーフロー。これ以上の使用は相棒に危害が起き得ます。
響くアナウンスに僕らは更に驚いた。
「どういう、ことだ?」
轟々と燃え盛る炎から、ゆっくりとリベリオンは現れる。頭上に大きく膨らんだ触手を見せびらかすように。
「最強なんだってなぁ? だから喰わせてもらった、それだけだ」
そしてリベリオンは槍のように変形した右の爪を地面に突き刺す。
すると地面を破壊しながらそれはフリードリヒに向かい、足下まで来ると木が生えるかのように空へと一気に伸びた。
「ちっ」
後ろに飛びフリードリヒはそれを躱すが、視線は真っ直ぐにリベリオンの頭上に向けていた。
「一時間……いや、そんなにかからねぇなぁ。消化し終わったら次の奴を喰ってやるよ」
気味悪くリベリオンは嗤った。
「助けても良いんだぜ? 俺とヤ=テ=ベオを倒せるならよぉ」
あまりにも異形な容姿で、リベリオンはつまらなそうに口にした。
「テラス……助け、られるか?」
テラスに声をかけるが、彼女の表情は今までに見たこともないものだった。緊張とはまた違う。嫌悪ともまた違う。
はっきりとした、未知への恐怖だった。
「どうしたガキ共。俺もお前らの大好きなごっこ遊びに付き合ってやるよ。痛みも、恐怖も、全てごっこ遊びの舞台でなぁ!」
そしてまた触手は地面に潜り僕らに向かって来た。
「どうするよ、クソガキ共。逃げてもメスガキの相棒は助けられないぞ」
更にリベリオンも突進してくる。
「テラス!」
びくりと体を震わせてテラスは僕を見た。
「……怖い、か?」
こくりとテラスは頷いた。
「僕も怖い」
テラスは大きく息を吸い込み、自分の胸に手を当てた。そして僕もテラスと同じように胸に手を当てた。
「逃げずに、立ち向かえるか?」
酷な質問だと自分でも思う。
テラスは向かってくる触手を見ながら僅かに考え、小さく頷いた。
「僕はイリーナを見捨てたくない」
またテラスは頷く。
「お前は、どうだ?」
手に持つ刀をぎゅっとテラスは握り直し。
――私も見捨てたくない。
そう答えるように、一歩を踏み込んだ。
「行くぞ、テラス!」
――スキル、顕現。ランクAが発動します。こちらからの攻撃時、全ステータスランクが上昇します。このスキルはあらゆるスキル、アビリティの効果を受けず、どのような条件でも無効化されません。
姿を現した触手を斬り落とすが、その触手はすぐに再生する。
「みんな! 触手の先端は柔いぞ!」
問題は根本に……リベリオンに近い触手だ。
「僕らは仲間を見捨てない!」
テラスを先頭に、全員がリベリオンに向かった。
「かかってこいよ、ゴッドタイプとザコガキ共。全員、ぶち殺してやる!」
今先陣を切るのは、ステータスの高いテラスの役目だ。
「蓮! テラスの援護を頼む!」
「任せろ!」
襲い掛かる触手を何とか斬り落とし、徐々にリベリオンとの距離を詰めていくそんな中。
テラスの肩に一人の相棒が手を置いた。
「俺とロビンが囮になる。イリーナは任せたからな」
ぐんと、前に出たのはロビンと正詠だ。
「リベリオン!」
「ザコガキがぁぁぁぁ! テメェも先輩と同じように切り刻んでやるよ!」
リベリオンの左の凶爪がロビンに振るわれロビンを切り刻む。
「ははっ! ごっこ遊びなら強気だなぁザコガキ!」
「遊びじゃない!」
正詠は大きく息を吸い込んで。
「ロビン、俺と感覚共有しろ!」
予想もしなかった言葉を、正詠は叫んだ。
自分の傷に顔を歪ませつつ、ロビンは首を降る。
「やめろ正詠!」
テラスが援護しようとするが。
「ロビン! 俺は……お前の
はっ、とロビンは瞬間で正詠を見て頷いた。
――感覚共有要請。
――ノー、権限を確認できません。
アナウンスが非情にもそれを拒否するが。
「俺たちは、俺たちは必ず助ける! 必ず勝つ!」
――スキル、柯会之盟。ランクBが発動しています。盟約設定により、ロビンの全ステータスが一時的に上昇します。
「だから……だから俺にも戦わせてくれ!」
――感覚ERROR共有ERROR要請。ERRORノーERROR、ERROR権限をERROR確認できまERRORせんERRORイエスERRORルーラー権限よりERROR要請あり。審議、開始します。
先程彼らの要請を拒否したアナウンスは、〝審議〟するとはっきりと伝えた。
「ザコガキ如きに何ができる!? テメェが見捨てた先輩みたく、テメェの相棒を滅茶苦茶に切り刻んでやる!」
リベリオンの爪が再びロビンを傷付ける。
「お前の言う通りだ、リベリオン。俺は……俺は晴野部長を見捨てた! そして今、俺は友達ですら危険に晒している!」
ロビンは痛みに苦悶の表情を浮かべながらも、また弓を引く。
「だから! だから俺が全部幕を引く! 俺が全部守る! 俺が……俺とロビンが守ってみせる!!」
正詠の叫び声に、ロビンが吠えた。
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