想い出/6
腹を抱え、愛華は笑い出した。
「ねぇ、思い出した!?」
太陽は顔をしかめ、ファブリケイトを見つめた。
「お前は……僕の相棒、なんだよな?」
ぴこん。
勿論ですよ、マスター。あなたは最初、私にナマコと名付けようとした。あなたと初めて出掛けたのは、母の買い物の時だ。
「あぁ、確かに……」
ファブリケイトは鬼神のような面の下で、にやりと笑う。
ぴこん。
初めてのバディタクティクスで化け物と戦った。次のバタクティクスはチェックメイト、柔よく剛を制す、一騎当千、トライデント……全て覚えています。チェックメイトの大将の紅雷は強力でした。柔よく剛を制すは意外と簡単に勝てましたね。一騎当千、時間ギリギリでした。トライデント、まだ決着はついていません。
ファブリケイトが太陽に語ることは全て正しい。しかし、それは正しいだけだ。事実をそのまま述べているだけにすぎない。
「そう、だ。僕達は……一緒に……」
それだというのに、太陽はファブリケイトを肯定しようとした。それも仕方ない。ファブリケイトは否定することを言っていないのだから。
「太陽!?」
太陽とファブリケイトの会話は他の者たちにはわからない。
「そいつの言うことを信じるな! お前の相棒は……お前の相棒は!」
正しいというのに、信じるなという言葉に、太陽は違和感と共に混乱する。
そんな太陽に駆け寄ろうとする正詠を、愛華は突き飛ばした。
「ってぇ……!」
「感動の再開を邪魔しちゃ駄目だよ、正詠くん?」
今までとは違う卑しい笑顔。
「にぃ、こっちこっち!」
愛華は太陽の手を引き、中央の盤面へと向かった。
「テメェ妹!」
「それ以上近付いたら、にぃを殺しちゃうよ?」
愛華は太陽の背に回った。そして剃刀を取り出し、太陽の首もとにその刃をあてがう。
「愛華……?」
「にぃの相棒だよね!? ファブリケイトは!」
「僕の相棒……?」
太陽が正詠を見た。
ぴこん。
正詠のポケットから、呼び出し音がする。
マスター! マスター! マスター!
テラスが太陽へと呼び掛けた。
「お前の相棒は〝テラス〟だ! そんな奴じゃない!」
「テラ……」
「あの相棒、天草ちゃんにそっくりだねぇ!?」
禁句とも言える名を、愛華は迷うことなく口にした。
「あ……まく……さ?」
太陽は愛華を見た。その時に首の薄皮が切れ、血が僅かに流れる。そんなことなど気にもせず、愛華は太陽に向け再び彼女の名を口にした。
「ほら、にぃ! ここでにぃが天草光ちゃんを殺したんだよね!? にぃが大好きだって言ってた、天草光ちゃんを! 天草光ちゃんをさぁ! その天草光ちゃんに、あの相棒ってそっくりだよね!」
「ちが……僕は……!」
「にぃが殺したんだよね!? 天草光ちゃんを!」
「ぼく……じゃ、ない……」
「にぃが殺したんだよ!」
がくりと、太陽は意識を失った。
「あはは! パーフィディの言った通りだね! これだけで忘れてくれるんでしょ、便利ぃ!」
倒れた太陽を見下ろしながら無邪気に笑う愛華。蓮が何も言わずに殴りかかろうとするが半透明の隔壁が現れ、四人と愛華達を隔てた。
「テメェ妹ぉぉぉぉぉ!」
「あはは! あなた達の相棒もここでぐっちゃぐちゃにしてあげる!」
愛華を右腕をこちらに見せびらかす。その腕にはSHTITがある。
「SHTIT!?」
「平和島さん、さっすがぁ! あははははっはははっ! おいで! 私のリジェクトぉぉぉぉぉ!」
リジェクトが隔壁の外に現れた。その姿は、バタクティクスと同じく人間に近しい頭身だった。
「ここで私のリジェクトとにぃのファブリケイトが、あんたらをズタボロにしてあげる! ばいばぁい! あはは!」
中央の盤面は重い音を立てながら沈んでいく。
「くそっ、なにがどうなってやがる!?」
頭を掻きながら蓮は叫ぶ。
「そんなの私達だってわかんないっての! 何で愛華ちゃんがSHTIT持ってて、しかも何で相棒がリジェクトなのさ!」
遥香も戸惑いから叫ぶ。
「落ち着け、理由はあとだ。まずはあいつらを……」
「正詠くん、遥香ちゃん、愛華ちゃんを追い掛けて!」
透子の言葉で、三人の思考が一瞬止まる。
「何、言ってんの……透子?」
「蓮ちゃん、大丈夫だよね!?」
「……はは。よく言ったぜ、透子!」
ぱん、と蓮は自分の頬を叩いた。
「俺とノクトの気合いは充分だ!」
「お前ら……」
正詠は二人を見て頷いた。
「ロビン……少しだけ、馬鹿を任せた」
そして自分のSHTITを蓮に渡す。
「俺のロビンを預ける。絶対に返せよ」
「けっ……」
それを見て、遥香も覚悟を決め、透子にSHTITを預けた。
「リリィは、その……生意気だけど、きっと透子を助けてくれるから……」
「……うん!」
そして正詠と遥香は互いを見た。
「行くぞ、遥香」
「うん……って、あれ、扉は大丈夫?」
「俺と蓮でガムを挟んでる。多分大丈夫だ」
そして二人はこの場から去っていった。
「ノクト、ロビン!」
「セレナ、リリィ!」
蓮と透子は自分の右腕に、預けられたSHTITを嵌め相棒の名を呼ぶ。
四体の相棒が現れ、リジェクトとファブリケイトを睨み付けた。
――バディブレイクモード、開始シマス。
アナウンスが響く。
「こんな狭い空間でバディタクティクス、か……」
蓮が呟いた言葉に、リジェクトとファブリケイトは笑う。
「残念ですな。これはバディブレイク。戦闘不能は相棒の消失を意味します」
「先週の仕返し、いっぱいしてあげる! キャハハハハハハ!」
「あなた達も逃げるべきでしたね」
二人は語りかける。
「どうせ逃げようとしてもなんかしてたろ、テメェらはよ」
「それなら、私達が残って戦います!」
ひゅう、とファブリケイトは口笛を吹いた。
「いやはや素晴らしい覚悟ですね。よろしい、木っ端微塵に壊してあげましょう」
「私は女の子がいい、ファブリケイト!」
「良いでしょう。ならば私は男二人の相手を」
紫炎と共に、リジェクトは杖を、ファブリケイトは太刀を手にした。
「どうやらここに女神はいない模様。さて、女神の加護無しで、どこまでやれますかな?」
ファブリケイトは不吉な言葉を吐き、地を蹴った。
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