想い出/2
火曜日。太陽が入院してから三日目の放課後。正詠と遥香は太陽の見舞いのため市内病院に向かっていた。
「透子たちが来れないのは残念だね」
「仕方ないだろ。二人のこと覚えてねぇんだから」
二人は自宅近くのバス停から歩いて病院に向かっていた。
「そうだけどさ……」
遥香は頬を膨らませた。
「ほら、もう病院だ。気を引き締めろ。愛華に会って何言われてもいいようにな」
「あぁ……そうだよねぇ。絶対愛華ちゃんいるよね。そんで、絶対何か言ってくると思うわぁ」
遥香の言葉を否定せず、正詠は苦笑いを浮かべた。
病院に着くと二人はすぐに太陽の病室のある三階に向かう。本来は受付をするべきなのだが、正詠と遥香の顔を見知っている者も多いせいか特に咎められなかった。
「何号室だっけ?」
「三二一号室」
正詠はつかつかと進んでいく。
「あー気が滅入るわぁ」
「俺だってめんど……う……だ」
「わっぷ」
急に正詠は立ち止まりその背中に遥香はぶつかった。
「もう急に止まんないでよ」
「面会……謝絶?」
「誰が?」
「太陽が」
「はぁ? あいつ元気だったじゃーん」
遥香は正詠を茶化しながら病室の戸を見た。取っ手の部分には〝面会謝絶〟という札がかかっている。遥香は次にネームプレートを見る。そこには間違うことなく〝天広太陽〟というプレートが付けられていた。
「あれ……え?」
「付いてこい、遥香」
正詠は踵を返しナースステーションに向かった。そこで一人の看護師を捕まえる。
「三二一号室の天広太陽、何で面会謝絶なんですか?」
「え……あ、その……」
看護師は戸惑い、誰かに助けるように周りを見た。
「天広太陽の幼馴染なんです! 教えてください!」
遥香も詰め寄るが、看護師は口籠るだけだ。
「正詠、やめなさい」
そんな二人の背後から、正詠の母、
「高遠
「ごめんなさいね、私の息子と友達が。正詠、遥香ちゃん、付いてきなさい」
そう言って美千代は階段へと向かった。
「母さん、どこに……」
「一階の喫茶店よ。階段で行くのはなんとなく」
喫茶店に到着するまで、三人は一言も話すことはなかった。
「オレンジジュースでいい?」
美千代の質問に二人は首肯する。
「正詠、奥の席取っておいて」
「わかったよ」
正詠と遥香は奥まった席に移動し、美千代を待った。
少しして美千代はアイスコーヒーとオレンジジュースを持って席に着く。
「バートン。スケジュール共有をお願い。十五分休憩でね?」
テーブルにバートンが現れ、可愛らしく頷いた。すると、ロビン、リリィも姿を見せた。
「母さん、太陽は……」
「……まずは落ち着きなさい、正詠」
ジュースを飲むように促すと、二人はそれに口を付けた。一息ついたのを見計らうと、美千代は太陽について説明を始めた。
「太陽くんね、昨日発作を起こしたの」
「え!?」
正詠が驚きから声を上げた。
「落ち着いて聞きなさい、正詠。大きい声出しちゃダメ」
「ごめん……」
美千代はコーヒーを一口飲み、細く息を吐く。
「発作と言っても、命に別状はないの。そうね……フラッシュバック、というのが正しいわね」
美千代は二人の顔を見て、一瞬戸惑いを見せたが、頷いて言葉を続ける。
「〝僕は光を殺してない〟って、叫んでたわ」
「「……っ!」」
正詠と遥香は息を飲む。
「その原因となったのが、彼の相棒のテラスちゃんみたいね。だから今太陽くんからSHTITを預かってるの」
そう言って美千代は机の上にSHTITを置いた。
「どうしてかわからないけれど、テラスちゃんには強制外部指令が適用されないの。だから私たちの呼び掛けにも応えてくれなくて。あなた達の相棒に頼んでもらえるかしら?」
ロビンとリリィがだからSHTITをコンコンと叩いた。すると、テラスがしょんぼりと肩を落とした姿で現れる。
「テラス……太陽に何があった?」
正詠が固い声で語りかける。
ぴこん。
マスターは忘れていませんマスターは覚えています。
「テラス……」
ぴこん。
マスターを……私のマスターを、助けてください。
ぽろりとテラスは涙を溢す。それを見て、ロビンとリリィはテラスの背中を擦り、力強く頷くと自分のマスターに目を向けた。
――今度は我々が。
二人の相棒は瞳で語る。
――彼女たちを助ける番です。
メッセージを出したわけではない。それでも正詠と遥香にはしっかりと伝わった。
「当たり前だ。俺達があの馬鹿を助ける」
「うん。大丈夫……大丈夫だよ。リリィ。今度は私達が助ける番だもの」
二人の相棒に語りかけた美千代は首を傾げた。
「あなた達、相棒と何か話したの?」
「話さなくてもわかるよ。こいつらは、俺達の
そう言って正詠は太陽のSHTITを掴み立ち上がった。
「ありがとう、母さん! テラスは少し借りるから!」
「ありがとうございます! おばさん! あとジュースごちそうさまです!」
「ちょっと待ちなさい二人とも! テラスちゃんは置いて……!」
美千代が言い終わるよりも早く、二人は喫茶店から出ていった。
「あぁもう、どうしましょう……」
ため息をつきながら、美千代は頭を振った。
ぴこん。
もう少しで十五分になります。延長する、
「いいえ、戻るわ。まぁ一日ぐらい何とかしてあげないとね。あの子達の大切な友達のために……」
しかし美千代は、やはり大きくため息をついた。
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