思い出/光
太陽はいち早く花畑に突っ込んで、そこで女の子と出会った。それが天草 光。俺達の大切な……もう一人の幼馴染だ。
花畑に佇む少女かぁ……なんか童話みたいだね。
そうだな。童話みたいな出会いだった。当の天草は珍しい……っていうと少し違うな。髪は黒で長かった。絹のように、という表現がよく似合っていた。でも目が青かった。今思うとハーフだったんだろう。それにしては日本語も上手かったけど。
この辺りでハーフってのも珍しいな。
確かにそうかもな。まぁ……何て言うか、その……俺も遥香もその目を見てビビっちまってな。何せ世間を知らないガキだったし。青い目なんてしてるもんだから。
でも太陽は違ってな。
太陽くんらしいね。
はは、確かにあいつらしい。開口一番なんて言ったと思う?
かっけぇとかそんなんだろ、あいつのことだし。
大体当たってる。あいつは「うぉーめっちゃ綺麗な目だなぁ! 青空みてぇ!」と言って、天草に笑いかけたんだ。天草はどうしていいかわからないのか、辺りをキョロキョロ見てな、はは……「ありがとう」って小さい声で言ったんだ。
驚いたんだろうね、天草ちゃん。
だろうな。年を聞いてみたら俺達と同じ年齢らしくてな。それから晴れた日にはその花畑で遊ぶことが多くなったんだ。天草は時々いなかったりもしたが、基本的にいつも花畑で俺達を待ってくれていた。
待て。その裏山に民家なんてあったのか?
いや、ない。
……ってことは、その天草ってのはSHTIT研究所で働く誰かの子供なのか?
……わからない。ただ、光はいつも花畑にいたし、俺達よりも遅れて来ることはなかった。既にいるか、いないかの二通りだけだ。
正詠くんたちの家の近くに住んでた、とか?
それはない。あんな美人で目が青い奴が近くにいるなんて絶対噂になる。そもそも家の近くだったら同じ幼稚園に通っているはずだ。
そっか……そうだよね。
へー美人、ねぇ……。
何だよ、遥香。
光ちゃんのこと、そんな風に見てたんだ?
美人だったろ? 俺達と同い年になってたら、絶対に人気者になってた。
ふーん……。
だから何だよ……。
べっつにー。
おいメンヘラのことは放っておいて早く話を進めろ。
ふんっ!
ぐっ……!
遥香。わき腹にそれなりに力を込めたパンチを入れるな。いくら蓮でももしものことがあるかもしれない。
とりあえず……話を……進めろ。
あーっと……どこまで話したっけか?
天草ちゃんが美人で、正詠くんたちの家の近くには住んでいなかったってとこまでだよ。
おぉ、さんきゅな。
それで……その関係は小学校に上がってからも続いたんだ。さすがに学校でも見かけないのはおかしかったから、太陽が理由を聞いたんだ。
昔からあいつは聞きにくいことを聞いちまうんだな。
それがあいつの良いところで悪いところだな。
天草が言うには病気で学校に通えないらしい。世界でも例のない病気だそうだ。あいつ自身も詳しくは知らないようだった。そこで、花畑にいたりいなかったりした理由もわかってな。具合が悪いときは花畑に来れないと言ってた。
……その話を聞いてから、光ちゃんには気を遣うようになったんだよね。
そうだったな。あんまり激しい遊びをしなくなったんだ。軽いかけっことか昆虫図鑑や恐竜図鑑を読み合ったりな。あぁ、そういやあいつは手鞠が好きでよくやってたな。
私はおままごとが楽しかったなぁ。
最終的に痴話喧嘩に発展して殺人事件が起こるままごとが楽しいと言われてもな……。
あれは五回に二回ぐらいじゃん!
まぁその話はいい。
小学二年ぐらいになってな、天草が花畑に来なくなることが多くなったんだ。
病気で……?
詳しく話してたのは太陽だけだったみたいだ。俺達には「ごめんね」としか言わなかったからな。
きっと天草ちゃん、太陽くんのこと好きだったんだね。
だろうな。俺も遥香もそれは知ってた。
それで夏の前だったな。梅雨が来る少し前。
そう……だったね。
太陽が入院した。
は?
すまん。本当に唐突なんだ。太陽が入院して、その見舞いに行ったとき太陽はもう……天草のことは覚えていなかった。
待て。大事なとこが完全に抜けてるぞ。
……病院には医者っぽくないスーツの男たちがいてな。俺達に言ったんだ。「光ちゃんは遠くに行った。君たちにはもう会えないんだ」ってな。
なんだよ、それ。
俺達は太陽が入院する前日、家の都合であの花畑には行けなかった。太陽一人で天草に会いに行ってた……はずだ。
詳しく聞こうとしても、太陽は首を傾げるだけだったの。花畑で遊んだことは覚えているのに……。
太陽は光のことだけ……いや、違うな。天草とSHTITのことを忘れてた。よく家で遊んでるときはテレビでバディゲームの試合を観て、大人になったら絶対一緒に遊ぼうって言ってたんだがな。
確かに……今と同じだね。
だから、俺達もわからないことが多いんだ。すまない……あまり役に立たないかもしれない。
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