第二部 相棒

第一章 想い出の中で

想い出/0

 ある喫茶店の角席で、四人の学生が暗い表情で紅茶を飲んでいた。

 四人は男女が隣り合うように座っており、片側には黒髪で精悍な顔つきの少年と、活発そうな短髪の少女。もう片側には、明るい茶髪で目付きが鋭い少年と、眼鏡をかけた長い黒髪の大人しそうな少女。


 机の上では、四人の人形のようなもの、相棒バディが彼らを見上げていた。

 相棒バディとは、国家が新たな教育として導入した特殊AI、超高性能教育情報端末――Super Highspec Teach Information Terminal――通称〝SHTITシュティット〟。一つとして同じ姿はなく、学生の友となり、教師となり、そして導き手となる。その理念からこの特殊AIは愛称を〝相棒バディ〟と呼ばれている。


「太陽の馬鹿と晴野先輩はどうなんだ、優等生」


 茶髪の少年、〝日代 蓮ひしろ れん〟が、精悍な顔の少年〝高遠 正詠たかとお まさよみ〟に話しかけた。


「晴野先輩はとりあえず山は越えたみたいで絶対安静の状態。太陽のやつは……相変わらずだ。テラスのことは思い出さないし、言ってることも滅茶苦茶。医者が言うには一時的な記憶の混乱だそうだが……」


 正詠は大きくため息をついた。


「どう滅茶苦茶なんだよ?」


 蓮の問いかけに、正詠は目頭を押さえながら答えた。


「……自分の相棒が電子遭難サイバーディストレスしたと言いつつ、俺と遥香とバディタクティクスの決勝戦で一緒に戦っていたと言っている。矛盾を指摘しても同じことを繰り返すだけだ。自分の矛盾に気付いていないんだ」


 正詠は再びため息をついた。


「しかも蓮のことも透子のことも覚えてないの。二人の相棒の名前は覚えてるのに」


 正詠の隣に座る〝那須 遥香なす はるか〟は今にも泣きそうだ。


「そっか……やっぱりそうなんだ……」


 蓮の隣に座る〝平和島 透子へいわじま とうこ〟も遥香と同じような表情を浮かべていた。


「……ねぇ、正詠……」

「わかってる、やっぱり話さないと駄目だよな」


 ぴくりと蓮の片眉が動く。


「前話してた天草 光あまくさ ひかりって奴の話か?」

「あぁ。今の状況があまりにも光の時に似すぎているし、な」


 正詠は再三ため息をつく。すると、この喫茶店〝ホトホトラビット〟の店長で、蓮の父が新しいティーポットを持ってきた。


「ほらよ」

「ありがとうございます、てんちょー」


 しょんぼりとしたまま、遥香は紅茶のおかわりを注いだ。


「今日は客もいねぇし臨時休業にする。蓮、話が終わったら教えろよ。俺はカウンターで茶しばいてる」

「……わりぃな、親父」

「お前らに気を遣ったわけじゃねぇ。今日は愛想笑いする気にならねぇだけだ」


 ひらひらと背中越しに手を振りながら、蓮の父は彼らから離れカウンター席に座った。


「さて、まずどこから話したほうがいいかな……」


 頭を掻いた正詠は、彼の相棒、ロビンに目線を向けた。

 ロビンは辛そうに俯いた。


「……初めて会ったときから話したほうがいいかもな」



・・・■□■・・・



 確かあれは、俺達が幼稚園で年長に上がったばかりだった。

 昔から太陽の奴は考えなしに動くようなやつで、俺達を色んなところに引っ張り回していた。


 そうそう、まだか弱かった私まで連れてね。


 遥香、変な茶茶を入れるな。


 むー……。


 そんで、まぁ……なんつーかな。結構公園とかの遊び場って取り合いになるんだよ。んで、光と会う前日に小学生といざこざがあってな。ぼこぼこにされて、公園の主導権を取られた。


 お前ら、あいつのせいで大分苦労してたんだな。


 まぁ今思えば楽しかったからいいんだが。その日は新しい遊び場を探すっていう名目で、家の近くの裏山に向かってたんだ。


 裏山って……?


 今は自然村とかいう名前になってたな。あの施設は昔、〝SHTIT研究所〟という名前で相棒の研究開発が行われていたんだ。


 そうなんだ。


 そこに太陽の奴が行こうって言い出してな。大人には近づくなって言われてたけど、まぁガキだったからな。怖いもの見たさで三人揃って行ったんだ。しばらく獣道が続いて、急に開けたと思ったら辺り一面に花畑が広がっていた。


 あれは綺麗だったよね。


 そうだな、今でもはっきりと思い出せる。花弁は白くて先が淡い桃色のユリだ。それが辺り一面に咲いてた。俺達は大喜びでその花畑に突っ込んだ。


 まぁガキだしな。


 まぁな。太陽はいち早く花畑に突っ込んで、そこで女の子と出会った。それが天草 光。俺達の大切な……もう一人の幼馴染だ。

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