反逆者/2-4

 リベリオンの触手が一瞬でテラスを巻き取り捕まえていた。


「ノクト、バスター!」


 ノクトの攻撃でも触手は斬れない。


「んだ、これ。さっきよりも硬くなってやがる」


 それは王城先輩も同じようで、顔をしかめていた。


「テラ……ス!」


 テラスを見るが、触手に絡まれテラスは身動きが取れない。


「腕とか足とか二、三本折っておいたほうがいいかもな」


 みしりと音がすると、右腕と左足に違和感。


「耐えられますか、ゴッドファーザー?」

「こ……のぉ……!」


 徐々に違和感は痛みを伴い、骨が軋み出す。


 あと少しで、絶対折れる!


「骨折は痛いらしいから覚悟しろよ?」


 一際強く骨が軋む。


「いっ……!」

「させねぇ!」


 正詠が叫ぶと同時にロビンが矢を放つ。しかしそれをリジェクトが防いだ。


「あんたは殺してもいいんだけど、どうする?」

「この……!」

「ねぇリベリオン早くぅ」


 全員が僕とテラスを助けてくれようとしているのだが、それら全てをリジェクトが防いでいた。


「あぁもう少し待っ……んぁ?」


 最初の時と同じようにリベリオンは首を伸ばして僕の顔を見た。


「あれぇ……太陽太陽、天広太陽。あぁなるほどねぇ!? ギャーハハッハハハッ思い出したわぁ! ギャハハハハハハ!」


 リベリオンは腹を抱えて笑いだした。その瞬間触手が緩み、テラスがそこから抜け出した。


「久しぶりだねぇ天広太陽くぅん!」

「僕はお前のことなんか知らねぇ!」


 どんなに記憶を辿っても、こんな気味悪い奴と出会った記憶はない。


「そらそうだお前は知らねぇ! いいや、覚えているわけがねぇ! 覚えていたら、よなぁ! ギャハハハハ!」

「うるせぇ……!」


 心がざわつく。こんな奴知らないはずなのに、〝思い出せ〟と心が命じてくるようだ。


「あぁ確かに、確かに女神様もそっくりだ! 思い出した、思い出したぁぁぁぁ!」


 煩い……。


「そっくりじゃんねぇ! にさぁ!」


 煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い!


「太陽、耳を貸すな!」


 正詠の声が割り込むように耳に入るが、身体全てが、心全てがリベリオンに釘付けになっていた。


「今度はあの子以外にも、もーっとたくさんの奴らを殺すのかい!?」

「うるさぁぁぁぁい!」

「ギャハハハハ!」

「太陽、そんな奴に……! あぁくそ、そこをどけ!」

「リベリオンが面白いことしてるんだもん、邪魔させるわけないじゃーん! キャハハハハハハ!」


 リベリオンは再び触手を伸ばしてテラスを捕まえる。今度は僕を見るのではなく、テラスを興味津々に見つめた。


「でかくなったらこれぐらい美人になる逸材だった!」

「テラスから離れろ!」


 そしてまたリベリオンは僕を見た。


「これも運命ってやつかねぇ! 人間ってのはホント面白いなぁおい!」


 卑しい笑み。悪意を含んだ瞳。耳障りな笑い声。


「テラス! 他力本願セット……!」


 きん、とまた冷たい音がする。


「だから無駄だって!」

「テラス!」


 テラスは今までに見せたことのない憎悪に満ちた表情をリベリオンに向けていた。


「テラス……?」

「太陽くぅん? ホントに覚えてないのかいぃ?」


 リベリオンはゲラゲラと下品に笑う。


「あんなに仲良かったじゃん?」

「うるさい黙れぇぇぇぇぇ!」

「思い出させてやるよ! ギャハハハッ!」


 リベリオンは息を大きく吸い込んだ。


天草あまくさ ひかりちゃんていう、お前が女のことをさぁぁぁ!」


 リベリオンの耳障りな声と共に、何かが自分の中で壊れた気がした。


「うるさぁぁぁぁぁぁぁい!」


 そして僕の世界は、黒く反転した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る