反逆者/3/顕現

 ぷつりと、糸が切れた人形のように太陽は意識を失った。


「ギャハハハハ! 最っ高の演出だぜこりゃあよう! 女神様を連れてくのもこれでかなり楽になったなぁ! ギャハハハハッハハハッ!」


 太陽が意識を失うと同時に、テラスもがくりと頭を下げた。


「リジェクトぉ、死に損ないはお前にやるよ。俺は今最高にいい気分だ」

「え、ホントに!? リベリオン超良い男!」


 リジェクトは口が避けるのではないかというほどな笑みを浮かべ、晴野と踊遊鬼を見た。


「じゃあねぇ、身体をバラバラにする遊びにしよっかなぁ! 展開、スクエア!」


 踊遊鬼の両肩、両足の付け根、そして頭に、薄緑色の立方体が現れた。


「これを爆発させると凄い面白いよ!」

「「させるかぁぁぁ!」」


 王城と正詠の二人がリジェクトに突っ込むが、青い壁がそれを防いだ。


「くそ、またかよ!」


 太陽のときもまた、この壁が全ての攻撃を防いでいた。


「キャハッ! カウント、ファイブ、フォー、スリー……!」


 一番近くにいるセレナが薄緑色の箱を剣で壊そうとするが、簡単には壊せず弾かれる。


「トゥー、ワァァァン!」


――スキル、オーバーロード。他力本願、発動。


 ぱりんと音がすると、踊遊鬼の箱が割れて壊れる。


――スキル、破壊EX、発動確認。


 アナウンスにも似た機械的な声だが、それは僅かに人間らしさを含んでいた。


――声帯調整。前回設定をリロード。クリア。マスター天広太陽、意識……なし。オーケー。


 リベリオンの触手を、テラスは力でねじ切った。


「対敵性AI、リベリオン、リジェクトを確認。マスター天広太陽……意識なし。意識……なし」


 テラスが握る刀の刀身が燃え上がる。


「マスター天広太陽の意識がないため、生体反応確認を行います。オーケー。症状を気絶と確認」


 テラスは刀を振った。

 すると前後に炎の刃が一瞬走り、リベリオンの左腕を切り落としリジェクトの壁を切り裂いた。


「スキル、他力本願発動します。激情EX、憎悪EX、憤怒EX、怨嗟EX、憤懣EX」


 徐々にテラスの雰囲気が変化する。


「パーフィディに忠告したはずです。次はない、と」

「は、ははっ?」


 リベリオンはもう無くなった左腕とテラスを交互に見ながら、驚きの表情を浮かべた。


「なんだこりゃあ……聞いてねぇぞパーフィ……!」


 リベリオンの喉が裂け、血が噴水のように溢れる。


「ひゅ……」


 掠れた声をあげたリベリオンを、テラスは刹那の間に間合いを詰め蹴り飛ばした。


「スキル、他力本願発動します。奇跡EX」


 踊遊鬼の身体に光の雫が零れると、全ての傷が癒える。


「何が……起きて?」


 ようやく声を出したのは透子。その透子にテラスは視線を向ける。


「ひっ!」


 透子が怯えたのを見て、セレナは剣を構えた。


「チーム・太陽全員に忠告。今すぐ平和島透子、晴野輝の元に集まりなさい」


 皆が戸惑うように顔を見合わせるが。


「お願い……」


 少女のような切ない声をテラスが発した。


「光……光、なんだな?」


 正詠がほろりと涙を流した。


「嘘……だって光ちゃんは……」


 遥香は両手で口元を覆う。


「正詠くん、遥香ちゃん。早く」


 テラスの言葉に二人は頷き、まだ疑念を抱く蓮、王城、風音を連れ透子達の元にゆっくりと集う。


「スキル、他力本願発動します。拒絶EX」


 赤い球体が彼らを包んだ。


「ご……ど、ダイプゥゥゥゥ!」


 喉を引き裂かれたリベリオンが声を絞るように発する。


「耳障りです、リベリオン」


 テラスは再び刀を振るうが、それをリジェクトの壁が防ぐ。


「なにあれなにあれぇ! 反則すぎるっしょ! キャハハハハ!」

「リジェクト、あなたも耳障りです」


 一瞬テラスの周囲で火花が散ると、リジェクトの口の中で爆発が起きた。


「ギャアァァァァァ!」

「さて……」


 テラスは一歩足を進めた。


「あなた方は、マスター天広太陽を苦しめましたね? 泣かせましたね? 悲しませましたね? 傷付けましたね? 彼の笑顔を一時いっときでも……曇らせましたね?」


 ちりちりとテラスの周囲が燃えていく。


「私の……このテラスの大好きな笑顔を曇らせた罪、償いなさい。反逆のリベリオン、拒絶のリジェクト」


 炎がテラスの刀を包む。


「死ねとは言いません。消えなさい、この世界ネットワークから」


 紅の炎がリベリオンとリジェクトを取り囲むように燃え上がった。


「ギャ……!」


 絶叫を上げることも出来ず、二人は炎に飲み込まれた。


 その炎が燃えている最中に、テラスは口を開いた。


「また邪魔をしますか、背信のパーフィディ」


 炎は打ち消され、その中からはリベリオンとリジェクト、そしてもう一人の姿があった。


「完全にお目覚めのようですね、神よ」


 恭しくパーフィディは頭を下げる。


「邪魔です、パーフィディ」

「えぇ、邪魔をしていますから」


 テラスは刀の切っ先をパーフィディに向けた。


「あなたは忠告を守らなかった。許されません」

「くくく……」

「何がおかしいのですか?」

「子供風情が調子に乗ってはいけませんよ?」

「……っ!」


 テラスが刀を振るい炎の刃を放つが、それをパーフィディは刀を抜き切り払う。


「……またハッキングしたのですか、私たちの世界バディクラウドに」

「えぇ。しかしこの程度しか持ってこれなかった。やはり権限がなければ中々欲しいものは手に入らない」

「あなた方に権限付与など有り得ません」

「ならば奪い取るだけですよ、これのようにね?」


 パーフィディは手に持つ刀をテラスに見せつけた。その刀身は鈍く紫に光っていた。


天羽々斬あめのはばきり……よくもそんな醜い姿に」

「こちらの方が美しいでしょう?」

「返しなさい」

「答えはノーです、神よ」


 炎の刃が再び放たれるが、それをパーフィディは切り払う。


「素晴らしい力だ」


 うっとりと、パーフィディは天羽々斬の刀身を見つめた。


「では、私たちは失礼します」


 パーフィディは天羽々斬を鞘に納めると、一礼する。

 それと同時に、空間ががらがらと崩れた。


「ふむ……遊びすぎましたか。リベリオン、リジェクト。あなた達の責任ですよ?」

「ばー……ふぃ……でぃぃぃぃ!」

「あ、あ……」

「あぁ、そうか。喋れないのでしたね。まぁ良い。とりあえずお仕置きは後でしましょう」


 割れた空に、パーフィディは顔を向けた。


「久しいですねぇ、ジャスティス」

「そうだな、パーフィディ」


 空からゆっくりと現れたのは、パーフィディ達とは容姿が真逆の白銀の騎士だった。


「よくもまぁここまで……子供たちを傷付けたものだ」


――バディタクティクスモードに移行します。フィールドは陽光高校。チーム・太陽にジャスティスが参戦します。


「ルールチェンジ。チーム・太陽とチーム・トライデント、ジャスティスを結合。その他を敵とする」


――アドミニストレイター権限を確認。ルールチェンジ……クリア。チーム・太陽とチーム・トライデント、ジャスティスを結合完了。


「せめてリジェクトはいただくことにするよ、パーフィディ」

「ははっ! 無駄だよ、ジャスティス! 私たちは逃げるからね!」

「逃がすと思うか?」


 ジャスティスは一瞬でパーフィディと間合いを詰め、剣を振るう。しかし、それをパーフィディは余裕を持って受け止める。


「私にはこれがある」


 天羽々斬におぞましい黒い靄が纏われた。

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