反逆者/2ー2

 弱々しく返事をする正詠だが、瞳にはまだ諦めの色は見えない。


「あぁ? ゴッドタイプが自らお出ましですかぁ?」

「そうだよ、お前達お望みのテラスたんが相手してやるよ!」

「ぷっ……ギャハハハハハハハッハハハ! おいおいマスターの体が震えてますよ女神様! あなたのご加護はマスターにまで及ばないんですかぁ!?」


 ギリっと、テラスが奥歯を噛んだ。


「う、うるせぇ! 怖くて何が悪い! 死ぬかもしれないんだぞ! 怖いのなんて当たり前だろうが!」

「ギャハハハハ! 今度は開き直りですかぁ!?」


 フリードリヒとイリーナが背後から攻撃を仕掛けようとしたが、それをリベリオンは振り向きもせずに触手で防いだ。


「そんなビビりのくせによく前に出たなぁおい。お前も死にたがりか?」

「死にたくねぇっての!! ただ、正詠が助けてって言ったら何がなんでも助けるだろうが! テラス、他力本願セット、狂気!」

「ちっ……EXスキルは面倒だな」


 赤黒い靄がテラスを包む。


「遥香! 正詠のことは任せたぞ!」


 遥香に声をかけるが。


「……蓮! 正詠のことは任せたからね!」


 遥香は更に蓮にそれを任せた。


「て、おい遥香……」

「あんただけの幼馴染じゃないんだからね……私だってぶちギレそうなのをまだ我慢してるの!」


 リリィが拳を鳴らしながら、テラスの右に立つ。


「お前ら三人はホント馬鹿だな」


 遥香に任された蓮のノクトも、いつの間にかテラスの左に立っていた。


「蓮、お前……」

「おい優等生、ダサく座ってんな。さっさと立て。セレナの回復を晴野先輩以外に使わせんな」


 蓮の一言に、ゆっくりとロビンが立ち上がった。


「うるせぇ素行不良。勉強のせいで寝不足なだけだ」

「ははっ! テメーはそうでなくちゃな!」


 頭を振り、ロビンは弓を構えた。


「太陽! テラスの狂気はあいつの防御を貫通できる! まずはあいつの鎧をぶち壊してくれ! 援護は俺たち全員がする!」

「よっしゃ! 正詠参謀長官の復活だ!」


 テラスが刀を構え直すのを見て、なるべく小さい声で呟いた。


「言っとくが僕は今めっちゃビビってる。そんな僕だけど、一緒に戦ってくれるか?」

 テラスは目を丸くし、ぱちくりと瞬きをしながら僕を見た。


「正直めっちゃ怖い。正詠でもあんなになったんだ、僕なんてきっと泣き叫ぶ。もう嫌だとか叫ぶかもしれない。それでも、僕と戦ってくれるか?」


 テラスは微笑みを浮かべた。


――勿論です。


 頷いたのを見て、僕も頷きを帰す。


「なら行こうぜ、テラス!」


 テラスは地を蹴り突進した。

 さすがのリベリオンも狂気のスキルを警戒してか後退する。


「当たらなけりゃあそんなもん……!」


 しかし、後方からフリードリヒとイリーナが攻撃を仕掛け、その後退を妨害。


「当てさせるさ」

「私達先輩にも意地がありますからね」


 直撃とまではいかないが、テラスの一撃は鎧の一部を剥ぎ取った。


「まだまだぁ!」


「カカッ! これぐらい……!」


 鎧の剥げたところに、矢が立て続けに刺さる。


「あ?」

「俺は……俺はチーム・太陽の狙撃手スナイパー高遠正詠だ! 舐めるなぁぁぁぁぁ!」


 正詠の怒号がだった。リリィとノクトが同時に突っ込む。


「臥王拳!」

「バスター!」


 特攻隊二人の攻撃は防がれることなく直撃した。


「こ、のぉぉぉぉ!」

「テラス、回り込んで背中の鎧を剥げ!」


 テラスは後ろに回り込み、リベリオンの鎧を剥ぎ取った。するとリベリオンの胴を覆う鎧ががしゃりと音を立てて落ちる。


「王城先輩、風音先輩!」

「任せろ」

「お任せを」


 テラスがすぐに身を引いて、先輩方二人の攻撃がまた直撃する。


「ちっ……」

「一気に畳み掛けろぉぉぉぉ!」


 僕の一声で全員が武器を握り直して、一気にリベリオンへと向かう。

 リリィの拳でまず体勢を崩し、ロビンの矢が追撃。そして、テラス、ノクト、フリードリヒ、イリーナの武器がリベリオンを切り裂いた。


「クソ……ガキ……がぁ……」


 呻きながらもリベリオンの声は小さくなった。しかしそれでも、リベリオンの瞳はまだ生きている。僕ら全員は距離を取りつつ、リベリオンの様子を伺う。


「俺がトドメをさす」


 正詠の一言でロビンが矢を番えた。


「駄目だ、正詠。今は感覚共有中だ。トドメはささない」

「……くそっ」


 僕らの相棒は、少しとはいえ加減していた。それは僕らの意思とは無関係だが、きっと彼らが気を遣ったのだろう。

 命を奪うという重責を、背負わせないために。


「あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあ!! 調子に乗るなよクソガキ共ぉぉぉぉぉ!」


 雄叫びと共に、リベリオンを包む蒸気が消えた。それと同時に、リベリオンの兜も消えた。


「あぁ……」


 リベリオンの素顔は異様だった。

 一見真っ赤な長髪のようなものは、好き勝手に蠢く触手。今は片方しかない目は、赤と金が入り交じり境界は曖昧で、生物らしくなく不気味だった。それだというのに、死人のような真っ白な肌には、血管が脈打つ様子がはっきりと見てとれ、〝生物らしさ〟を強調する。


「すっきりしたぜ……リジェクトの奴、窮屈なもん用意しやがって」


 首の骨を鳴らしながら、リベリオンはこちらを見た。


「さぁて、ここからが本番だぞ、クソガキ共」


 リベリオンは強暴な笑みを浮かべた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る