反逆者/恐怖を勇気に変えて

――お、なんだ新入生。中々良い射型しゃけいだな。ちょっと射場に立ってみろよ。


 偉そうな先輩。それが第一印象だった。


――んだよ、全然あたらなねぇじゃねぇか。いいか? 物見ものみのときにしっかり的を見ろ。お前は雑すぎる。


 そのくせ弓道での的中率は平均的だった。


――ばっか高遠! なんでテメェは大前おおまえのくせに最初の矢をてねぇんだ、馬鹿!


 口は悪いし、教え方も下手で、好きにはなれなかった。


――良し良し。射も綺麗だし、的にもあたってる。帰りに飯奢ってやるよ。


 それなのに、誉められると嬉しかった。


――よし、四本でどっちが多くてられるか勝負するか。


 勝負好きで、よく的中率で勝負した。


――観てたぜ、お前らの試合。さすが俺の後輩だな、高遠。だが決勝じゃあ先輩も後輩もないぜ。負けねぇからな。


 だから、あの人が俺を対等な対戦相手として見てくれたことが、堪らなく嬉しかった。

 そんな、先輩だった。

 強くて、口が悪くて、偉そうで、でも努力は怠らないし、憧れていた。


「ロビン、あいつを殺せぇぇぇぇ!」


 心のままに叫ぶ。


「雑魚が吠えてもなんにも変わらねぇよ!!」

「殺せ殺せ殺せ殺せぇぇぇぇ!」


 矢はいくつも射たれるが、全てがリベリオンの鎧に弾かれた。


「ギャハハハハ! 効かねぇ効かねぇ!」

「ロビン、もっとだ!」

「だから効かねぇって!」


 フリードリヒ、イリーナの合間を縫って触手が飛んでくる。


「避けろロビン!」


 こちらは気付いたがロビンの反応が遅れ直撃してしまった。


「がっ……!」


 喉元に一直線に飛んできたその一撃は、一瞬で呼吸を奪い世界を明滅させた。


「高遠!」

「高遠君!?」


 先輩方二人の声が螺旋を描くように聞こえる。


「おらもう一発だ、ザコガキ!」


 リベリオンの言葉に散らばりかけた意識を必死にかき集めるが、間に合わずに再び強烈な痛みに襲われた。


「っ……!」

「もう声も出ないかぁ? あぁおい!?」


 痛い……苦しい、息が、できない。


「ギャハハハ! あのザコガキで遊んだ方が楽しそうだなぁ!」


 真っ白な視界に徐々に色が戻るが、相変わらずちかちかと明滅している。


「逃げろ、高遠!」


 王城先輩の声がはっきりと聞こえるものの、体は全く言うことを利かない。


「どけ! そいつも無様な先輩と同じように壊してやるよ!」

「晴野の後輩までやらせると思ったか!」


 激しい金属音が頭の中で煩わしく響く。


「ギャハハハハ!」


 何かが弾かれる音がすると、自分の喉を何かに捕まれた。


「ギャハハハハハハハハ! 無様だなぁ、お前の先輩と同じでよぅ!」


 あぁ、晴野部長はもっと痛かったのかもしれない。


「おらぁ!」


 体が叩きつけられ、再び呼吸を忘れる。


「先にお前からだ、ザコガキ」


 なんで、俺を守ってくれたんだ、晴野部長。


「泣いてるのか、ギャハハハハ!」


 微かに見える視界の中で、リベリオンがまた自分の首を掴んでいるのが見えた。


「そうそう。クソガキってのはそんな風にベソかいてくれなきゃ嬲り甲斐がないよねぇ」


 ちくしょう……俺なんかより、あなたの方が強かったのに、何で俺なんかを守ったんだよ。


「その手を離せ、クズ!」

「生意気なテメーみたいなのは後回しだ。まずはこのザコガキから!」


 力が欲しい。


「さようならぁザコガキくぅん! 先輩の次に倒されるなら本望ですかぁ? ギャハハハハ!」


 こいつを、黙らせる力が欲しい。

 晴野部長が、俺を誇れる力が欲しい。

 何でもいい、力が……欲しい。


――正詠マスター。あなたは既に持っている。


 声……?


――正詠マスター。あなたには既にあるじゃないか。晴野輝に誇れるものを。


 違う、言葉だ。


――正詠マスター。あなたは彼の背中に憧れているはずだ。仲間のために、友のために戦う彼の背中に。


 はは……背中、か。

 友達のために戦う背中なんて、あの馬鹿の背中しか思い付かないな。


――正詠マスター。きっと彼も……。


 情けないけど、すまない。

 俺はお前みたくなれない。だから、だから頼む。遥香のときや、蓮、透子のときみたく。


「助けて、くれ……太陽。俺に勇気を、くれ……」


 お前みたく、立ち向かう勇気を。それを叶える力を。


「正詠を助けろぉぉぉぉ!」


 徐々に世界が鮮明になっていく。


「透子! 狂気の詳細!」

「攻撃時に相手の防御を無視します! ランクに応じて防御を無視する量が上昇、リ

ベリオンの狂気はEX! EXはダメージ貫通率100%です!」

「他力本願セット、狂気!」


 斬裂音と共に、息苦しくなくなった。


「正詠、無事だな!?」

「無事に、見えるか?」

「見えない!」

「ったくお前って奴は本当に……俺は大丈夫だ」


 お前のおかげで、なんて絶対に言わないけどな。

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