試練/8

 ゲームにおいてレベル差というものは絶対だ。

 それはステータスの差ということでもあり、文字通り経験値の差でもある。勿論、今までも彼女らと相手とのレベル差はあった。だが、今回の相手の経験値は今までの相手とは違う。


「はは、どうした那須遥香! そんなんじゃあ当たらないぞ!」


 校内大会準優勝。そしてその実力からの全国進出への選抜。彼女ら情報初心者ビギナーが今までのように、小手先の作戦で勝てる相手であるはずがない。


「リリィ、臥王拳!」


 リリィは拳を大きく振りかぶってアビリティを仕掛ける、が。


「だから今までと一緒にすんなって!」


 元より命中が低い攻撃。

 それを余裕を持って回避し、ツルギは的確に攻撃を重ねていく。致命傷は避けているリリィではあるが、徐々にダメージが蓄積されていく。


「ちょこまかと!」

「ちょろいなぁ!」


 言葉ではかなり挑発している進藤ではあるが、決めの一手前で平和島からの攻撃が入り、勝負をつけられずにいた。

 しかし、それすらも楽しんでいる進藤。反対に遥香は苛立ちを募らせるだけだった。


「あぁもう!」


 その苛立ちがリリィに伝わっているのか、彼女らの攻撃は徐々に粗雑になっていた。その隙を逃すような進藤とツルギではない。的確に、確実に彼らの攻撃はリリィの体力を削っていく。


「はははっ! 楽しくなってきたなぁ!」


 ツルギの周りにいる進藤が一際大きく笑った。その声に反応するように、ツルギは刀を頭上で振り回した。


「魅せてやろうぜ、ツルギ」


――スキル、剣聖の境地。ランクCが発動しました。剣を使用した攻撃が強化されます。


「お前らの全力はそんなもんか、那須、平和島。俺のツルギはまだまだやれるぜ」


 刀の切っ先をツルギはリリィへと向けて、余った手で挑発する。


「リリィ! 風塵拳ふうじんけん!」


 レベルに見合った攻撃アビリティ。

 威力は低いが命中した相手を大幅に吹き飛ばすことができる。


「ツルギ、受けろ」


 回避の姿勢を既に取っていたツルギは、進藤の命令にぐっと耐えてリリィを睨み付けた。


「しっかり当てろよ、情報初心者ビギナー


 変わらぬ余裕の笑みを浮かべる進藤。ぎりと歯軋りをする遥香。二人はやはり、対照的だ。


「リリィ!」


 頷いて、リリィは拳をツルギの腹へと叩き込んだ。


「ぶっ飛べ!」


 激しい衝突音と共に風圧が発生した。そのあまりの勢いに、平和島は吹き飛びそうになりセレナにしがみついた。


――リリィのアビリティがクリティカルヒットしました。


 確実なクリティカルヒット。そんな攻撃を受けたツルギは僅かに体を浮かせただけだった。


「で、それで終わりか?」


 今までの軽い笑みとは全く違う、狂暴な笑みを進藤とツルギは浮かべる。


――スキル、逆上。ランクAが発動しました。全ステータスが上昇し、反撃を行います。


 ツルギは刀を持たぬ手でリリィの首を鷲掴みにし、地面へと激しく叩き付けた。その威力は凄まじく、大地は彼女を中心に割れた。しかしそれでも勢いは消えず、リリィはゴムボールのように弾んだ。

 そんなリリィを、ツルギは器用にも再度鷲掴みにした。


「しっかり気張れよ、リリィ!」


 進藤はそう言ってリリィを蹴り飛ばした。


「リリィ!」


 遥香の悲痛な呼び声も虚しく、ごろりごろりと転がって、リリィは倒れた。


「やっぱり、な」


 ツルギは真っ直ぐにリリィを見ていたが、進藤は平和島とセレナに視線を向けた。


「やっぱりお前は、こいつを〝助けない〟」


 その言葉は、ツルギが持つ刀よりも……いいや、どのような〝刃物〟よりも、遥香を斬り付けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る